仮面ライダージェム   作:黒井福

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第32石:魔女と悪女の戦い

「ん…………ぅ」

 

 微睡から目覚め、カーテンの隙間から差してくる朝日に女性が僅かに顔を顰めながら瞼を開いた。血の様に紅い瞳が世界を映し、情報を脳に送り込んで女性の意識をさらに覚醒させる。

 

「んん……ふぅ」

 

 女性が上半身を起き上がらせ、全身の筋肉を思いっ切り伸ばし血流を加速させる。血とリンパ液が全身を一気に駆け巡る感覚に得も言われぬ快楽の様な物を感じ、束の間悩ましい声を上げ吐息を吐き出す。その美貌は目覚めであると言うのに微塵も損なわれておらず、寧ろまだ茫洋とした様子は不思議な魅力を感じさせた。

 

 誰も彼女の美貌を目に収めることが無い中、その女性はベッドから降りると最後の起床のスイッチを押す様に思いっきり背筋を伸ばした。体を仰け反らせた為、女性の胸元に着いた双丘を越えた山脈が強調され、脱力するとその瞬間プルンと揺れる。

 

「ふぅ……よし」

 

 体も頭も完全に目覚めた女性……ジェーンは、カーテンを開け全身に朝日を浴びると一路浴室に向かい朝のシャワーを浴びて寝汗を流し、スッキリとした気持ちになると下着を身に着けただけの姿で首にタオルを引っ掛けながら台どころに向かい手頃な朝食を手早く用意し済ませる。

 朝食を済ませたジェーンはスーツに着替え身支度を整えると、荷物を手に自宅を出て電車に乗り自身の職場へと向かっていった。

 

 道中何人もの人々が彼女の美貌に目を奪われ、視線が自分に集まるのを感じながら彼女はそれを欠片も気にすることなく目的地である自身の職場へと足を運ぶ。

 そのまま彼女が向かっていったのは、都内でも特に目立つ大きなビル。そのビルの入り口にはこう書かれていた。

 

”株式会社 傘木”…………と。

 

「おはよう」

「お早うございます!」

 

 挨拶の際、ジェーンは警備員に軽くウィンクをする。これを見られるのは、毎朝彼女を迎え入れる事になる警備員の特権だ。毎度の事ではあるが、彼女の美貌の前に警備員は赤面しつつも彼女の笑みとウィンクを個人に向けられる事に喜びを隠せない。

 そんな警備員の様子に小さく微笑みながらジェーンが自動ドアを抜けて警備員に軽く挨拶してエレベーターに乗り最上階へと向かう。上等な絨毯の床を静かに踏みしめながら彼女が向かった先はこの会社の主である男の部屋である社長室。秘書である彼女は社長が来るよりも早くにこの部屋に入り、部屋に乱れが無い事を確認しつついつ社長が来ても良いようにこの日の準備を整える。

 

 社長が入って来たのは彼女が資料を纏め終えた丁度その時であった。他の部屋に比べて明らかに重厚な造りの扉のノブが回り、扉が開かれるとそこから壮年の男性が入って来た。ジェーンはその音に顔を上げると見知った顔を前に笑みを浮かべて頭を下げた。

 

「お早うございます、社長」

「あぁ、お早うジェーン君。何時も早いね君は」

「これが仕事ですから」

「頼もしいよ」

 

 彼女の仕事が始まるのはここからだ。社長である傘木 雄成の秘書として的確に彼をサポートし、来客があれば適温に保った飲み物でもてなし、必要とあれば各所との情報交換も行った。世界各地に支社を持つ傘木社のトップともなればその仕事量も膨大で、本来であれば彼女1人ではとても手が回るものではない筈だが、彼女はその細腕だけで回ってくる仕事の全てを捌いてしまう。

 その手際に雄成も毎度舌を巻いた。

 

「相変わらず、君の仕事っぷりには感心するよ」

「ありがとうございます、社長」

「お世辞じゃないよ? 君を見ていると、私の秘書にしておくには勿体ないんじゃないかと思ってしまう程さ」

「ふふっ、ご冗談を」

 

 時に雑談を交えながら仕事を進め、昼食を挟んで午後の業務も的確にこなしていく。そして午後の業務も大分終わらせた頃、雄成は徐に社長室の椅子から立ち上がった。

 

「さて、たまには下の様子も見に行くとするかな」

 

 この日は大分仕事が順調に片付いたからか、余裕を感じた雄成は気まぐれに社内の様子見に向かう事にしたようだ。査察や監査と言う程の息苦しいものではなく、純粋に自分の会社で働いている社員や研究員の様子を見に行くだけの散歩の様な物。それでも普通の社員達にとっては堪ったものではないだろうが。

 

 ジェーンは秘書として彼の後に続き、社内のあちこちを見て回った。重役が控えるフロアから始まり、多くの社員が慌ただしく行き交うフロアを見て回った後、雄成は彼の中で本命としている研究区画へと入って行った。

 

 研究区画に足を踏み入れた雄成が一目散にに向かったのは、1人の若い研究員の元であった。まだ大学を卒業して数年も経っていない思われる若い研究員は、傍から見ると髪もボサボサであまり優秀には見えない。だが彼の視線は真剣そのものであり、胸元に掛けられたプレートには若くして副主任の文字がか輝いている。

 

 雄成は自分の接近にも気付かない程研究に没頭した様子のその研究員に近付くと、手元に集中している若い研究員の背に声を掛けた。

 

「やぁ、今日も精が出るね」

「……ん? あ、社長。お疲れさまです」

「うん、お疲れさま。君の勤勉さには感心するよ、”門守”君」

 

 声を掛けられて振り返った研究員の名は門守 仁。2年ほど前に明星大学の大学院を出て傘木社に就職を果たした若手の研究員である。振り返る直前まで研究に夢中になっていたと思しき彼の姿に、雄成は特に気分を害した様子も無いどころか頼もしいと言わんばかりに笑みを浮かべていた。

 

「どうかね進捗は?」

「ぼちぼちってところです。新薬開発にはもう少しってところですか」

「頼もしいね。流石、白上の奴からの推薦だ。御父上との縁もあって迎え入れたが、間違いではなかったようだな」

「恐縮です」

 

 普段から他人に対してどちらかと言うと不愛想な仁ではあるが、流石に社長に父親の事も絡めて称賛されると気恥ずかしいのか無意識に鼻の頭を掻いた。そんな彼に1人の女性が声を掛けた。

 

「門守~、この間お願いした資料まだ貰ってないんだけど……って、社長!? お疲れさまですッ!」

「うん、お疲れさま、志村君」

 

 仁に声を掛け、雄成の存在に気付き姿勢を正した女性研究員の名は志村 希美。仁の先輩であり、確か最近2人の少年少女を養子に向かえたと言う話をジェーンは思い出していた。

 慌てて雄成に挨拶する希美の姿に、仁は近くの資料の山に手を突っ込み目的の物を引っ張り出し差し出した。

 

「どうぞ、これです」

「あ、あぁ、ありがと。ってか、出来てるなら早く持って来なさいよ」

「すみません」

「もう……アンタももうすぐ父親でしょ? しっかりしなさいよ」

 

 希美からの軽い説教に、仁は申し訳なさと同時に隠しきれない喜びを露にしていた。大学卒業と同時に結婚した妻との間に出来た子供の出産がもうすぐらしいのだ。研究以外には基本何事に対しても興味が無さそうな仁が、子供が出来た事を嬉しそうに話していた事は記憶に新しい。彼みたいな男でも、愛する女性との間に子供が出来ることは嬉しいのだ。

 

 仁と希美のやり取りにジェーンが思わず笑みを浮かべていると、不意に雄成が振り返って口を開いた。

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうか? ――――?」

「…………え?」

 

 今確かに雄成は自分の名前を呼んだはずなのに、その名前が頭に入ってこない。まるで雄成の声が何かに包まれたかのように不鮮明で何と言ったのか分からないのだ。思わずジェーンが唖然としていると、心に虚無感が襲い掛かり猛烈な不安が全身を駆け巡った。それが何かを意識する前に、今度は足元が崩れ見えていた世界の全てがあっという間に離れて見えなくなる。一寸先も見えない闇の中、何処までも落ちていく浮遊感にジェーンは恐怖を感じてパニックを起こす事も無く、寧ろ何かを納得していた。

 

(あぁ、そうか……私は……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………う、ぅ?」

「あ、起きた?」

 

 次に目を開いた時、ジェーンの視界に映ったのは見知った天井であった。ぼんやりとした頭で視線を動かし、ベッドの横を見ればそこには晶の姿がある。状況から察するに彼女が看病してくれたのだろう。その事を理解したジェーンは、体を起き上がらせようとして逆に晶に押さえ付ける様にベッドに寝かされた。

 

「あぁあぁ、起きない方がいいわよ。そのまま安静にしときなさいって」

「うっ……」

 

 晶の手を振り払う事も出来ず難なくベッドの上に戻された。相当弱っている事を自覚したジェーンは、抵抗する事を止め言われるままに大人しくした。

 

「ごめんなさいね~。苦労を掛けちゃって~」

「別にいいわよ、何時も世話になってるんだし……って、アンタそれ……」

「えっ?」

 

 何かに気付いた晶が驚いた様子でジェーンの顔を指差す。どうしたのかとジェーンが自身の顔に触れると、指先に液体の存在を感じて濡れた手を顔の前に持って行った。指先には透明な液体が付着しており、改めて顔に触れるとその液体は目から流れ落ちた涙である事が分かった。

 

「あ……」

「どうしたの? アンタが泣くなんて珍しい。何か怖い夢でも見た?」

 

 基本何時も笑みを浮かべているジェーンの目から涙が零れている様子に、晶は珍獣を見たような目を向けていた。無論心配もしているのだが、ジェーンの涙にはそれだけのインパクトがあったのだ。

 

 一方のジェーンは暫し自身の涙を眺め、フッと笑みを浮かべると指で残りの涙を拭った。

 

「さぁね? 夢の内容なんて忘れちゃったわ」

「ん? ん~……あ、そう?」

 

 ジェーンの返答に違和感を感じた晶であったが、それ以上追及する事は止めた。何やら触れない方がいい雰囲気を感じたのだ。晶の気遣いにジェーンは内心で感謝しつつ、ベッドサイドの冷蔵庫から血液パックを引っ張り出しストローを刺して吸い上げた。

 

 エネルギーを補給して回復に努めようとしているジェーンの姿に、晶は改めて彼女が何をされたのか気になり問い詰めた。

 

「ねぇ、アンタあの女に何されたの? アンタがそんな風になったのって最近こっちに来たあの女の所為よね?」

 

 ジェーンが血液パックの中身を半分ほど飲み干した辺りで晶が問い掛けると、彼女はパックを握る様にして残りの中身を一気に飲み干した。中身が空になってしおしおになった血液パックをベッドサイドのゴミ箱に放り込んで、口の周りに僅かに残った血を舐め取ると、流石にこの情報は共有すべきとジェーンが一息ついてから口を開いた。

 

「それね~。あの女結構厄介よ~」

「アンタが厄介って言うとかなり怖いわね。それで?」

「あの女はね~……」

 

 ジェーンがチャーロットから受けた攻撃について話そうとしたその時、出し抜けに居住スペースの中にインターホンの音が鳴り響いた。突然耳に入ったその音に、晶は怪訝な顔をして玄関の方に視線を向けジェーンは目をパチクリとさせる。

 

「え、客? こんな時に?」

「変ね~? 今来られると困るから、表には休診の札を掛けてあるのに~?」

「宅配とかじゃないの?」

「私に贈り物をしてくれるような物好きは居ないわよ~。ネットで買い物をした覚えも無いしね~」

 

 後考えられるとすれば急患か。しかし本当に急患の類であればまず救急に連絡するだろうし、いきなりこんな診療所に駆け込む者が居るとも考え辛かった。晶はもしやまた唯が来たのではないかとちょっぴり警戒しながら、ジェーンに代わり来訪者を拝もうと立ち上がった。すると今度は玄関の扉が直接ノックされた。どうやら表のインターホンを押しても反応が無かったからか、無遠慮にも勝手に中に入って下に誰も居なかったからここまで来たらしい。不躾にも程がある来訪者にいよいよ晶が警戒していると、その相手はノックするだけでは飽き足らず寝室まで響くほどの声を上げ始めた。

 

『もしも~し! 居ますか~? 居るなら返事してくださ~い!』

 

 声の様子からして唯ではない事は確実だが、聞き覚えの無い男の声に晶の警戒心は最高レベルに近付いていった。真っ先に頭に浮かんだのは変質者の類だ。この診療所に居るのがジェーン1人だと知った変質者が、ここに居るのがどれ程の化け物かも知らずに突撃してきた可能性である。

 普段であれば放っておくが、今のジェーンの状態だと一般人相手にも容易く組み伏せられてしまう危険がある。ジェーンに恩義を感じている晶としてはそれを放置する事は出来なかった。

 

 だが警戒している晶の耳に、来訪者の男の聞き捨てならない言葉が入った事で状況は変わった。

 

『ねぇ~、居るんでしょ~? 久し振りに会いに来たんだから入れてくださいよ~、ジェーンさ~ん!』

「ッ!? ジェーンの事を知ってる? 何、知り合い?」

「この声は…………晶ちゃ~ん、入れてあげてくれる~?」

 

 どうやら心当たりがあるらしい様子に、晶は尚も訝しげな顔をしつつ玄関に向かい鍵を開けた。鍵の開く音が響いた瞬間、来訪者は晶が扉を開くのも待たず自分で扉を開けて中に入って来た。

 

「ジェーンさん! って、おや? どちら様で?」

 

 扉を開けてすぐに目にした晶の姿に、来訪者……幹夫はキョトンとした顔で首を傾げる。初対面の晶に目をパチクリとさせる幹夫であったが、お前は誰だと言うのは晶の言葉でもありジェーンに対して妙に馴れ馴れしい彼の様子に晶はフードの下で険しい表情を浮かべながら逆に問い掛けた。

 

「それはこっちのセリフよ。誰アンタ?」

「あ、失礼しました。僕、渡辺 幹夫って言います。ジェーンさんとは古い知り合いの様なものでして……それで、ジェーンさんは?」

 

 ジェーンの知り合いで、ここ迄不躾と言う事はまず間違いなく一般人の類ではない。ジェーンは色々な意味で狙われる事もあると知っている晶は、この時点で幹夫を要注意人物に設定し彼が迂闊な事をしないようにファントムシューターを構えながら片手の親指で寝室の方を指差した。

 

「ジェーンなら今体調崩してるわ。それでも会いに行く気?」

 

 これ見よがしに銃口を見せ付け、言外に出ていけと警告する晶だったが、幹夫はその程度で怯む程常識のある男ではなかった。晶がジェーンの居場所を教えると、幹夫は銃口を向けて立ち塞がる晶を押し退けて廊下に上がり寝室へと向かっていった。

 

「親切にどうも! それじゃ、失礼しま~す!」

「え、ちょっ!?」

 

 まさかこれでもかと見せ付けられた銃口を無視して上がり込むとは思っていなかった為、晶も思わず呆気に取られてしまった。そんな彼女を放置して幹夫が寝室に入り込むと、彼の顔を見たジェーンは彼女にしては珍しく明らかな苦笑を浮かべて彼の来訪を一応の形で歓迎した。

 

「はいは~い、いらっしゃ~い。幹夫君大きくなったわね~」

「あれから十何年も経ってるんですから当然ですよ。懐かしいですね~」

 

 旧知の仲であるのは間違いなかったようで、顔を合わせるなり2人は過去を懐かしむ様に笑い合った。一気に蚊帳の外に置かれる形になった晶は、何だか面白くなくて2人の間に割って入る様にジェーンに事情を尋ねた。

 

「ちょっとジェーン、コイツ誰よ?」

「あぁ~、ゴメンね~。晶ちゃんは知らなくて当然よね~。彼~、元々雄成先生の教え子の1人だったの~」

「雄成先生って……傘木 雄成?」

 

 ジェーンの答えに晶が怪訝な顔をして幹夫の事を見れば、彼は白衣の襟元を正して背筋を伸ばして自己紹介をした。

 

「お初お目に掛かります。今後ともよろしく、仮面ライダージェム」

「ッ!? な、んで……」

「ジェーンさんと関わっているので、今話題の仮面ライダーかな、と」

 

 要はカマを掛けられたと言う事か。己の迂闊さに忌々しさを感じる晶を他所に、幹夫は話を続けた。

 

「今ジェーンさんからご紹介があった様に、僕、昔は雄成先生に師事していました。と言っても、僕自身は所謂寝返り組と言う訳ではなく、会社の方には微塵も関わっていませんでしたけどね。僕は先生に色々と学ばせてもらっていただけです」

「あの頃の坊やがこんなに大きくなってね~。お姉さん嬉しいわ~」

 

 束の間ジェーンは昔を懐かしんだ。珍しく穏やかな雰囲気を纏う姿に晶が注目する中、幹夫はベッドに腰を下ろしジェーンの容態を診始める。

 

「それはそうとして、ジェーンさん随分と弱ってるみたいですね?」

「不覚だったわ~。パワージュエルに関しては知識不足だったとは言え、()()()()()()()()()()()()()

「あ、そうだ。アンタ何されたのよ?」

 

 あのジェーンをここまで衰弱させるほどの攻撃、晶はジェムとしてチャーロットに対峙した時に見た覚えが無かった。つまり彼女にはまだ何か隠し玉があると言う事だ。それが何なのか分からなければ、今後の戦いにも支障を来す。

 

 晶がせっつくと、ジェーンは目を細めて逆に問い掛けた。

 

「晶ちゃ~ん。あの女、変なパワージュエル持ってなかった~?」

 

 普通であれば質問に質問を返すなと言うところだが、ジェーンは大事な所で無駄な事をしないと言う事は晶も理解している。なので一瞬喉元まで出掛かった文句を飲み込み、晶は先の戦いでチャーロットが使ったパワージュエルを正直に話した。

 

「変……かどうかは別として、普通のパワージュエルじゃない奴は使ってたわね。あの女、よりにもよってアダマントのパワージュエルで人をヤジュエルに変えたのよ。一応すぐに元には戻したけど、もう少し対処が遅れてたらその人中毒で死んでたかも」

 

 思い出しても反吐が出そうになる話だ。一般人の命を何とも思っていない。悪事に手を出しておきながら何をと言うかもしれないが、無関係な人を害する事に対しては晶も敏感であった。事実、晶はこれまでの怪盗ジェムとしての活動で一般人に対して被害を出した事はただの一度も無い。

 

「アダマント……ヒ素の結晶と言っても過言ではない宝石ですね」

「そう~、あの女はどうやら毒性のある鉱物からできた宝石を主に使うみたいなの~」

「でもあの女自身が変身に使ってるのは毒性のある奴じゃないっぽいけど?」

「自身の安全は確実に守るんでしょうね~」

 

 晶の見立てだと、チャーロットが使っているパワージュエルの宝石はチャロアイト。特別硬いと言う訳では無いが、名称は魅惑すると言う意味のcharoをモチーフにしていると言われる程度で特別危険な鉱石と言う訳ではない。

 

(ん? 魅惑?)

 

 チャーロットが使っていると思しきパワージュエルについて考えた時、晶は脳裏に何か引っかかるものを感じた。その事に彼女が首を傾げる前に、ジェーンは端的に今自分の体に起こっている事を告げた。

 

「今私の体は~、細胞が崩壊と再生を繰り返してる状態だわ~。この体じゃなかったら~、私はとっくにこの場に居なかったかもね~」

「そ、そんなに?」

「診た感じ、放射線障害に近い症状ですね。細胞が崩壊した傍から回復しているので、そちらにエネルギーのリソースを大分取られているみたいです。回復まで時間は掛かるでしょうけれど、適度にエネルギーを補充してれば大丈夫でしょう」

 

 幹夫の診察は科学者の視点からの物であったが、ジェーンの判断とも概ね合致している。晶は取り合えず今すぐジェーンがどうにかなるような事は無いようだと分かり安堵に胸を撫で下ろすが、直ぐにそれどころではない事に気付き愕然となった。

 

「あ、そう……ふぅ。…………ん? ちょっと待って? って事はあの女つまりッ!?」

「そうね~。あの女~、放射性物質の鉱物からなるパワージュエルを持ってるわね~」

 

 放射性物質の代表格と言っても過言ではないのはウラン鉱石だが、これは見た目的にはただの岩石とあまり変わらない。だが放射性物質を含む鉱石は何も鉱石としてのウランばかりではない。中には燐 灰ウラン石などの様に、美しい見た目でありながらしっかりと放射線を放つものも存在する。

 そしてこうした放射性物質は時に甚大な被害を巻き起こす。発展途上の国で不法に投棄されたレントゲン器具から取り出された青い砂を、それと知らずにただ綺麗な砂と扱って大量の被爆者を生み出した話もある位だ。

 

 それに毒性のある鉱石は晶にとっても決して無関係ではない。晶がシナバーカットのジェムになる時に使う辰砂、これは水銀の原料である。水銀は言うまでも無く猛毒であり、その原料である辰砂も粉末にして吸引したり高温で熱して発生した蒸気を吸引すれば中毒を起こしてしまう。

 無論、タダの宝石として扱うだけであれば問題ない。辰砂そのものは安定した物質であり、タダのアクセサリーや観賞用に市場では普通に取引されている。

 

 だがチャーロットが扱うアダマイトや放射線を放つ鉱石は違う。あれらは取り扱いを間違えれば容易く人の健康を害し、最悪の場合死に至らせる。これまで晶が取り扱ってきたパワージュエルにそれらが存在しなかった為、実は少し安心していたのだがそれもここまでの様だ。

 

「そいつは……厄介ね」

「放射線を防ぐ事自体は、言葉でなら簡単ではあるんですけどね」

「それ自体が攻撃したりして来ない事が条件よ~。あの女の場合は~、積極的に攻撃してくるから普通の対策じゃ意味が無いわ~」

「って言うか、ジェーンはよくそんな攻撃喰らって追い払う事まで出来たわね?」

 

 何気ない晶の言葉に、ジェーンは不意にその時の戦いの様子を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 石動家をこっそり覗き見ていたジェーンに、ソフィアが変身したチャーロットが襲い掛かってきた。下手に戦えば周辺を巻き込んでしまう事が分かっていた為、ジェーンは急ぎその場から離れチャーロットを引き付けると十分に人気が少ない場所に辿り着いた辺りで対峙する。

 

「ここまで来ればいいかしらね~」

「随分余裕ね? 周りの事なんか気にせず派手にやり合えば私くらい簡単に退けられたんじゃないの?」

 

 休工中なのか人のいない工事現場にやってきたジェーンが変身したフブキが拳を構えると、チャーロットは片手に曲刀、片手にバニッシャーを構えて少し意外そうな声を上げる。確かに、ジェーンがその気になればチャーロット程度容易く打ち負かす事も出来る。だがそれは周囲の被害を考えなかった場合の話である。無意味な被害を避けたいジェーンは、敢えて場所を選んでここまで移動したのである。

 

 その物言いにフブキは首を傾げた。

 

「ん~? あなた~、私の事知ってるの~?」

 

 フブキの方は少なくともソフィアもチャーロットも今まで遭遇した覚えは無かった。それに基本表舞台は勿論、裏の社会でも存在をひけらかすような事は控えていた為、自分の事を知る者は限られていると思っていたのだ。

 

 フブキが口にした疑問を聞いたチャーロットは、片手の曲刀を曲芸の様に手の中でクルクルと回しながらフブキの周りをゆっくりと円を描く様に歩きながら答えた。

 

「キャハハッ! 暢気な女ね。アンタ、自分がどれだけ有名になってるか分かってないの?」

「忙しくてね~。……と言うか、あなたが私の事を聞いた相手ってもしかしなくても…………」

 

 ジェーンの存在は公では無いが、最高機密と言う程でもない。傘木社関係者であれば彼女の事を知っていてもおかしくは無い。特に雄成の秘書であり、同時に試験評価体であったと言う事実は主に傘木社の研究員の間ではそれなりに有名だっただろう。

 と言う事はつまり、チャーロット達の背後に居るのは傘木社の関係者、それも研究員だった者が潜んでいる可能性が非常に高い。会社が存在していた頃はパワージュエルになど全く触れてこなかった為、今の残党が手を出している可能性を失念していた。フブキは自身が平和ボケしているのを感じて、仮面の下で思わず舌打ちをした。

 

「……迂闊だった。ここ迄騒ぎになってるなら連中が関わってる可能性をもっと真剣に考えるべきだったわ」

「ねぇアンタさ……一体何がしたいの? 聞く限りじゃアンタ、仮面ライダーの味方してるって話じゃない? 古巣の連中と敵対してまで、何がしたいの?」

 

 本来であれば自分達側の存在である筈のジェーンが、よりにもよって自分達に敵対している。それが気に食わなくて、チャーロットはバニッシャーの砲口を向けながら忌々し気に問い掛けた。その声色からはスタンスが不明瞭なジェーンに対する苛立ちと、よもや今更表の世界に居場所を求めているのではと言う懸念が感じられた。

 

「言っとくけど、アンタに居場所なんて何処にもないわよ? アンタみたいな奴、誰も傍に置きたがらない。それが分かって――――」

 

 次の瞬間チャーロットの視界をフブキの手が覆った。一瞬で距離を詰めてきたフブキは、チャーロットの顔を掴んでその勢いのまま地面に叩き付けたのである。その力は相当強かったようで、チャーロットの頭は半分ほどが地面に埋まり彼女は脳を激しく揺らされた。

 

「あああああああぁぁぁっ!?」

「……知ってるわよそんな事。今更言われるまでも無いわ。…………でもそれでいいの~。だって私はジェーン・ドゥ~、何処の誰かも分からない女よ~」

 

 チャーロットの頭を地面に叩き付けたフブキは、そのまま拳を握り彼女の頭を叩き潰そうとするように拳を振り下ろした。忍術も何もあったものではない、純粋なフィジカルでの一撃だ。テクニックも何もない攻撃だがそれだけに強力であり、そのまま喰らっていたらチャーロットの頭がスイカのように弾けていた可能性もあるだろう。

 

 勿論それを大人しく喰らうようなチャーロットではなく、拳が振り下ろされる直前彼女は全身の鎧を発光させた。するとその瞬間、ジェーンは視界が乱れるのを感じ気付けば拳は何もない所に振り下ろされ無意味なクレーターを作るだけに留まっていた。

 

「うっ!? えっ、これは……」

「バーカッ!」

「あぐっ!?」

 

 何が起きたのかが分からずフブキが唖然としていると、背中をチャーロットの曲刀に切り裂かれてその勢いに転がりひっくり返る。仰向けになったフブキが立ち上がろうとするが、それよりも先にチャーロットが彼女の胸を踏みつけ地面に押し付け身動きを封じた。

 

「ぐふぁっ!? ぐ……!?」

「キャハハッ! 何よ、大した事無いじゃない。結構警戒してたんだけど、杞憂だったかな?」

 

 身動きを封じられたフブキを前に、チャーロットは既に勝利を確信していた。事前情報として、ジェーンがどの様な存在であるかは聞いてそれ相応に警戒し色々と備えもしては居た。だが蓋を開けて見れば何て事は無く、こうして容易く押さえ付けるまで出来てしまっている。

 

 そう思っていると不意にフブキの口から小さく笑い声が漏れ出初めて、水を差された気分になったチャーロットは仮面の下で顔を訝し気に歪めながら踏み込む足の力を強くした。

 

「ふ、くく……」

「何? 何笑ってんの?」

「ぐっ!?……ふふっ、お子ちゃまだと思ってね~」

「はぁ?」

 

 一体何の事を言っているのかとチャーロットが首を傾げた次の瞬間、出し抜けに背中を鋭い蹴りが襲い不意を突かれたチャーロットは大きく蹴り飛ばされてしまった。

 

「ぐぁぁっ!? くっ、何ッ!?」

 

 振り返ればそこに居るのはもう1人のフブキ。では今し方踏み付けていたフブキはなんなのかと視線を向ければ、先程まで彼女が踏み付けて押さえ付けていたフブキが氷が割れるように罅割れて砕け散ったではないか。それを見て彼女は即座にそれが変わり身の術による囮である事に気付いた。

 

「偽物っ!?」

「そういう事よ~。あなた~、口で言う程経験豊かじゃないみたいね~」

 

 フブキは口ではそう言うが、やられた方からすれば堪ったものではない。一体何時、本物と偽物が入れ替わったのか全く分からなかったのだ。少なくともフブキから目を離した覚えは無いし、何かの遮蔽物の影に一瞬でも隠れた様子も無い。にも拘らずフブキは一瞬で偽物と入れ替わり、チャーロットが隙を晒す瞬間を待っていたのだ。その隠形は下手をすれば現役の万閃衆の忍びすら超える部分があるかもしれない。

 

「どうやらお互い相手を惑わす術に長けているみたいね~」

 

 思考を巡らせるチャーロットの前でフブキがそう呟いた。先程の攻防の最中で、フブキはチャーロットの力の秘密に気付いたのである。

 

「あなたは相手を魅了・誘惑する事で一時的に意識を支配できる。でもそれは永続的じゃなく、飽く迄も一瞬の事。でもその一瞬で相手の狙いを逸らしたり、意識を途切れさせて隙を作らせたり同士討ちをさせる。それがあなたの特技な訳ね」

 

 これが以前ジェム達がチャーロットと初めて対峙した時に起こった同士討ちの絡繰りだ。彼女は誘惑の能力でジェム達3人の意識を一時的に乗っ取り、互いの攻撃が互いに向かい合う様に誘導したのである。対人戦においてある意味これ以上ないほど厄介な能力かもしれない。

 

 しかし、それもフブキ相手には効果が薄かった。

 

「でも残念ね~。あなたの能力は~、私にはそんなに通用しないわよ~」

 

 上級ノスフェクトでもあるジェーンに対し、魅了は著しく効果が薄い。一瞬意識を途絶えさせることはできるかもしれないが、それもチャーロットの能力を知らなかった場合の話である。既にタネが割れている以上、フブキ……ジェーンは対策を取っており、誘惑が通用する事はまずない。

 

 その事実を突き付けられたチャーロットは…………

 

「上等じゃない。私相手に舐めた態度を取って、後悔させてやるわッ!」

 

 激昂した様子でバニッシャーを乱射しながら突撃してくるチャーロット。炸裂する砲弾の攻撃範囲は見た目以上に広く、爆風でフブキの体が煽られる。だがその中をフブキは果敢に前進し、突撃してきたチャーロットが振り下ろしてきた曲刀を逆に蹴りで弾き飛ばした。

 

「フッ!」

「甘いッ!」

 

 蹴り飛ばされた事でチャーロットの曲刀が宙を舞うが、それだけでは彼女から武器を奪った事にはならない。チャーロットの直刀は彼女自身の意思で浮遊させる事が出来るのだ。加えて曲刀はもう一本ある。フブキは事実上2人の剣士から同時に攻撃されるに等しい状況に陥ってしまった。

 

 が、その程度で窮地に陥るほどフブキも甘くは無い。彼女は時に忍術により氷柱を飛ばすなどしつつ、チャーロットに蹴りや掌底を放ち着実にダメージを積み上げていった。

 

「ハッ!」

「ぐ、はぁっ!? ちぃ、この……!」

 

 二本の剣による斬撃を巧みに回避して懐に潜り込んだフブキが、何度目になるか分からない掌底を叩き込んだ。掌底は忍術により超低温になっており、チャーロットは打撃の衝撃と共に鋭い冷気を流し込まれ体の中と外に同時にダメージを喰らわされていた。積み重なったダメージが、遂にチャーロットから機動力を奪いその場に力無く膝をつく。

 

「ぐ、ぐぅ……」

「勝負あり、かしらね~」

 

 膝をついたチャーロットに、フブキは手にエネルギーを込めながらゆっくりと近付いていった。本来であれば彼女にもジェム……晶が成長する為の〝教材〟となってもらいたかったのだが、コイツの性格を戦っている最中に推し量ったジェーンはそれを危険と判断してこの場で戦闘不能に追い込む事を選択した。

 

(どうもこの女からは危なすぎる何かを感じるわ。この場で倒した方が良さそう)

 

 この時、ジェーンは珍しく油断していた。油断と言うよりは、先の事を考えて目先の事が僅かに疎かになっていたと言った方がいいか。それでも普段の彼女、普通の相手であればそれは油断足り得ないものでしかなかったかもしれない。

 だが今回はそれとは勝手が違った。チャーロットは彼女が思う以上に姑息であり、そして狡猾で執念深かった。

 

「舐めんじゃ……」

「ん?」

「ないわよッ!」

 

 フブキの死角から飛び出してくる曲刀。それを見もせずに叩き落したフブキであったが、視線はチャーロットに向いていても意識は僅かにそちらに逸れた。その瞬間集中力がほんの少し緩んだ瞬間を狙い、チャーロットは魅了の能力を発動してフブキの意識を一瞬だが途切れさせた。

 

「ッ!」

 

 時間にして一秒にも満たない僅かな時間。しかしそれだけの時間があればチャーロットにとっては十分すぎた。

 

「貰ったッ!」

《Reload jewel》

 

 チャーロットがバニッシャーに装填したのは青い燐光を放つ宝石。一般にブルー・アパタイトと呼ばれる宝石だ。宝石としてネックレスなどに加工されているこの宝石の中には、僅かにだが放射線を発するものが存在した。微量のトリウムを含んでいる場合があるからだ。勿論市場に流通する物である以上、健康被害の事も考慮されている為一個一個は問題になるほどの放射線を発する事は無い。だがこれがネックレスとして加工され複数個同時に身に着ける事になると注意が必要であった。無論全てのブルー・アパタイトが危険と言う訳では無いが。

 

 しかしチャーロットが使用したのは言うまでも無くパワージュエルとしてのブルー・アパタイト。パワージュエルとなった事でその効果は爆発的に上昇し、発する放射線も元の宝石であったブルー・アパタイトとは比べ物にならない。それをバニッシャーに装填して至近距離からぶち込まれたらどうなるか?

 

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 フブキが気付いた時には全てが手遅れであった。至近距離から放たれた砲弾が帯びる強力な放射線が、彼女の細胞を破壊していく。無論この距離だとチャーロットも被曝の危険はあったが、周到な事にチャーロット自身は放射能の影響を受けない様対策を練っていた為何の問題も無かったのである。

 

 苦痛に叫び声を上げながら倒れ込み、そのまま変身も解除されてしまったジェーン。全身から脂汗を流し、口からは涎と血が混ざった物を垂れ流しながら悶え苦しんでいる。チャーロットはそんな彼女の姿に蔑むような笑みを浮かべていた。

 

「キャハハハハッ! 言い様ね? どう、見下された気持ちは?」

「はぁ、はぁ……ぐっ!? うぐぅぅっ、がはぁっ、あ、が、うぅぅ……!?」

 

 実験体時代、ジェーンも放射能への耐性を調べる為に放射線を照射された事はある。だがその時の放射線はこれほど強くは無かった。世界に1人しか居ない貴重な実験体を、簡単に失う訳にはいかないからだ。故に何かが起こっても直ぐに対処できるよう万全の備えをした上で、更に放射線への反応を見れる程度に威力を弱めたものしか照射された事は無かった。

 だが今回のは違う。確実にジェーンの命を奪おうとする放射線の威力は、当時のそれを遥かに超えており今も尚彼女は体内を破壊される苦痛に苦しんでいた。

 

 明確に迫る死の気配。それ自体は別に構わないのだが、今はまだ死ぬわけにはいかないと彼女は追い詰められたこの状況で自身の生存本能を爆発させた。

 

「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ッ!? な、何……!」

 

 突如ジェーンから噴き出た赤黒い血の様なエネルギー。それがジェーンの姿をノーバディノスフェクトに変異させ、一時的に活力を取り戻した彼女はそのままチャーロットに肉薄し渾身の力で殴りつけた。

 

「ああああっ!」

「がはぁっ!?」

 

 それまでの力はなんだったのかと言う程の強烈な一撃。一発でチャーロットの体は木っ端の様に吹き飛ばされ、壁を粉砕して倒れ込む。だがノーバディノスフェクトの攻撃は止まらず、チャーロットが粉砕した壁の瓦礫に突っ込むとその中からチャーロットの体を掴んで柱に叩き付けた。

 

「があぁぁぁぁぁっ!」

「あがぁぁっ!? こ、の……調子に……ッ!」

 

 柱に叩き付けられながらもチャーロットはまだバニッシャーを持っていた。一瞬の隙を見てそれを持ち上げた彼女は、咄嗟に至近距離からの砲撃でノーバディノスフェクトを引き剥がそうとする。

 

 しかし今のノーバディノスフェクトはその程度で止まることは無かった。何度もチャーロットを柱に叩き付け、遂には柱を砕きその勢いのまま彼女を投げ捨てた。ゴミの様に放り投げられ、ズタボロになったチャーロットが四肢を投げ出し地面に転がる。

 

「フンッ!」

「うぐぁぁ……がはっ!?」

 

 辛うじてチャーロットはまだ変身を保っているが、最早指一本動かす事も難しい程追い詰められていた。少し休めば回復するだろうが、生憎とノーバディノスフェクトがそれを許してくれるとは思えない。

 

 だがここで突然ノーバディノスフェクトの動きが止まった。どうしたのかと思っていると、今度は体を震わせて俯き口の所から大量の血を吐き戻した。

 

「んぐぇぇぇぇぇぇぇっ!? げほっ、がは……はぁ、はぁ……」

 

 どうやら流石に限界が来たらしい。これ以上の戦闘は無理と判断したのか、ノーバディノスフェクトはチャーロットにトドメを刺す事無く踵を返してその場から姿を消した。1人残されたチャーロットは、自身が九死に一生を得たと理解すると安堵しその場に四肢を投げ出したまま変身を解除。直後襲い掛かって来る猛烈な倦怠感に、彼女はジェーンに対する苛立ちを募らせた。

 

「くそ……あのアマ、次は絶対この手でぶち殺してやる……!」

 

 ジェーンに対する恨みと怒りを口にしつつ、ソフィアは自身の回復の為必死に立ち上がるとその場を後にするのであった。




と言う訳で第32話でした。

冒頭の部分は所謂もしもの世界線を夢と言う形でジェーンが垣間見た感じです。もし雄成が悪の道に堕ちていなかったら、仁は白上教授の推薦で傘木社に入社して研究員になっていたかもしれません。
今回は書けませんでしたが、他のキャラのIFを妄想するとセラは生きてネイトと再会した挙句島を出て世界を共に旅したでしょうし、千里は普通の高校生として書道でも嗜んでいたかもしれません。揚羽は実里と共に違う形で出会ったアルフと京也を仲良く取り合っていたかもしれませんね。椿は普通に忍者マニアをやって、傍から見るとござる言葉のイタイ女子になっていたかも(-_-;)

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。
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