その報道は晶にとっても本当に寝耳に水であった。
情報収集を兼ねた配信が遅くまで続いてしまい、寝るのが遅くなりそれに引き摺られる形で遅くに起きた朝。瞼に残る眠気に家の中と言う事もあり人目を憚らず大きな欠伸をしながらリビングに入り、室内を見渡して真也の姿が見えない事に小さく溜め息をつきながらテレビを点ける。流れてくるニュースを聞き流しながらテーブルの上に作り置きされている朝食のラップを剥がしコーヒーを淹れようとキッチンに向かったその時、ニュースのアナウンサーの口から思わぬ言葉が飛び出し思わず晶の手が止まった。
『え~、ここで臨時ニュースです。たった今は言った情報ですと、先程怪盗ジェムから犯行予告が出されたとの事です』
「…………は?」
何の事か分からず一瞬頭の中が真っ白になり思考も停止してしまった晶であるが、何とか再起動するとコーヒーを淹れようとしていた手を戻して急ぎテレビの前に移動する。自分の危機間違いかとテレビに映るニュースを凝視するが、テロップなどにも確かに『ジェム、新たな犯行予告!』と書かれている為間違いではない事は確かであった。晶がそのテロップに愕然となっていると、アナウンサーは彼女の混乱を加速させたいのか更なる情報を叩きつけてきた。
『予告状によると、ジェムの次なるターゲットは鉱石収集家の御堂筋 康太氏の自宅だそうです。調べによりますと御堂筋氏は自営業を営む傍ら、様々な鉱石を収集しているらしく、ジェムは今回それを狙ったのだろうとの事です』
ご丁寧に地図で御堂筋なる者の住所まで教えてくれてありがたいと言えばありがたいのだが、それ以上に衝撃だったのは晶は今回まだ予告状を出していないという事であった。今日にもジェーンの下に向かい、そこで新たな情報を得るつもりではあったのだが、こんな所でこんな形で情報を得る事になるとは思っても見なかった。様々な疑問が脳裏を過り、思考の海に入った晶は彫像のように動かなくなってしまう。
何よりも気になるのは身に覚えのない予告状である。テレビにも件の予告状が映し出されたが、見た目はこれまでに晶が出してきた予告状と全く同じであった。徹底して模倣された予告状に、晶は即座にこれが罠の類である事を察した。
問題はこれが誰の策かと言う事である。真っ先に思い浮かぶのはジェットグリムであった。カルネプラエドはともかく、チャーロットは先日の戦いでかなりの痛手を負わせて動けるようになるまで時間が掛かる筈。その間に晶に好きにさせないように、反撃の痛手を負わせて動きを鈍らせようとしているのではと予想した。晶も流石に警察がこんな手を打ってくるとは思っていなかったようだ。
「どうするか……なんて、考える迄も無いんだけどさ」
晶が怪盗ジェムとして活動し、大きな相手に対し予告状を出してきたのは悪事を為す上での義理を通す為でもあった。行うのは悪事、だが予告する事で防ぐ側にも備えをさせる事で、お互いにフェアな状況を作り出す。これにより無関係な人々から一定の注目と僅かにでも支持を得られれば心理的にも動き易くなる。
だが今回、下手人は怪盗ジェムになりすまして予告状を出してしまった。もしこれで晶がこの御堂筋なる者の元へと向かわず別の人物をターゲットにしたりすれば、ジェムに集まっていた好意的な意見は一気に反転し世論の全てが晶の敵となる。そうなれば動き辛くなってしまう事は想像に難くない。
結論としては非常に……本当に非常に癪ではあるのだが、晶にはこの予告状を無視するという選択肢は存在しないのであった。テレビを睨みつけていた晶は思わず舌打ちをすると、苛立ちを振り払うようにテレビの電源を切った。
「いいわ、上等じゃない。何処の誰かは知らないけれど、行ってあげるわよ」
静かに呟き手早く朝食を済ませた晶は、そのまま勢いに乗せて準備し件の予告状が出された御堂筋氏の住所に下見がてら向かう……事はしなかった。
「とは言え、こっちも備えはしなくちゃね」
晶がまず真っ先に向かったのはジェーンの元であった。今回の件で彼女に相談する為だ。
診療所に着くと時間が早い事もあり入り口には休診中の札が掛けられている。晶は構わずドアノブに手を掛け、鍵が掛けられているのを確認すると改めてインターホンを押してジェーンを呼び出した。
「ジェーン、居る?」
果たして返答はなかなか来ない。寝坊しているとは思えない為、相変わらずチャーロットからのダメージが後を引いているのかと晶はピッキングで扉を開けて中に入ろうかと懐に手を突っ込んだ。
次の瞬間、扉から鍵が開く音が響くとジェーンが顔を出してきた。
「あら~、晶ちゃんおはよ~」
「おはよ、ジェーン。気分はどう?」
「ぼちぼちってところね~。診療所はもう少しで再開出来そ~」
「そいつは良かった。で、入っても良い?」
ジェーンは元から色白な為、顔色が正直分かり辛い。それでも以前で見た時は土気色になり掛けていたので、それに比べると今は確かに幾分かマシに見える。快復に向かっているというのは確かなようだ。
中に通された晶は診察用のベッドの上に腰掛けようとして、少し考えこむとコーヒーを淹れようとしているジェーンを引き留め彼女をベッドの上に座らせた。
「コーヒーはいいわ。家でも飲んだばかりだし。それよりアンタはこっち」
「あ、え? 晶ちゃん?」
「アンタまだ治り切ってないんでしょ? 怪我人……病人? まぁどっちでもいいけど、兎に角アンタはここに座ってなさい」
晶は半ば無理矢理ジェーンを診察用のベッドの上に座らせた。これでもしいきなりジェーンの体調が崩れたとしても、すぐに横にさせて休ませることが出来る。
ジェーンも晶の気遣いが理解できるのか、無駄に抵抗する事はせず大人しく彼女の気遣いを受け入れた。
「それじゃ~、お言葉に甘えようかしら~」
「そうしなさいそうしなさい」
「それで~? 晶ちゃん今日はどうしたの~?」
診察用だが意外と寝心地の悪くないベッドの上に腰掛けたジェーンが一息つきながらこんな朝っぱらから訪れた目的を晶に問い掛けた。すると晶は何から話すべきかと少し考え、取り合えず偽の予告状が出された事を真っ先に伝える事にした。
「今朝のニュース見てない?」
「さっき起きたばかりだから~」
「じゃあしょうがないか。端的に言うと、何処かの誰かが私になりすまして予告状を出してくれやがったわ」
端的に何が起きたかを晶が告げると、その瞬間ジェーンの表情が険しくなる。ジェーンからしてもそれは容易に看過出来る事ではないのか、珍しく真剣な雰囲気を纏い口元に手を当てた。
「……まさかこんな行動に出るとはね」
「何か言った?」
「ん? ん~ん、何でもないわ~。それより~、予告状が出されたのは何処の何方~?」
念の為ジェーンが予告状を出されたという人物について晶に問えば、彼女の口から出てきた御堂筋と言う人物の名前に更に神妙な顔になる。その御堂筋とはジェーンが事前に調べ上げ、幹夫に対策室に情報を流すよう言いつけてあったからだ。ジェーンとしては対策室、特にS.B.C.T.や唯に事前に準備してもらい晶の障害となってもらう事を目的に情報を意図して流したつもりだった。だがこの展開は少し予想外である。
(唯ちゃんがこんな事をするとは思えない。ωチーム? でも何か……)
唯の性格を知っているジェーンはこれが彼女の策ではない事をすぐに見抜いた。彼女はこういう曲がった事を何よりも嫌悪する。その彼女がジェムを装って予告状を出し、晶を誘き出すという行動に出る筈がない。他に考えられるとすればωチームの隊長かそこらだろうか? しかしそれもどうにも釈然としない。
若しくはジェットグリムが裏から手を回して偽の予告状を出すかしたのだろうか? 可能性としてはこちらの方が高いが、しかし…………
「……晶ちゃんは~、どうするの~?」
「行くしかないでしょ。私が出した訳じゃなくても、予告状が出ちゃったんだし」
「律儀ね~。いっその事~、この予告状は偽物だ~って暴露しちゃったら~?」
「別にいいわよ。この御堂筋って奴がパワージュエルを持ってるのは確かなんでしょ?」
以前ジェーンに渡されたメモ帳の中に、疑惑レベルで留まる相手として記されていた。あの時はまだ確証がないレベルだったので勧めるような事はしなかったが、あれから調査を進めて御堂筋がパワージュエルを持っている事はほぼ確定。その情報をジェーンは幹夫経由で対策室に流したのだが、この展開になるのは予想外だった。
対策室がジェムに対抗しようとする事自体は構わない。寧ろ晶の中に宿ったヤジュエルを羽化させる為には彼女を追い詰めなければならない為、相応の備えはしてもらいたい。問題なのは、晶の行動があちらのペースに乗せられてしまっている事であった。何かを仕掛けてくる危険がある。
「本当に行くの~? 今回はかな~り危ないわよ~?」
「それでも、よ。私はやらなきゃいけないの。パワージュエルを集めて、この火傷を…………!」
顔の右半分を覆う長い前髪の下にある火傷痕。晶はそこを掴むと、火傷痕ごと顔の皮を剥がそうとするかのように爪を立てる。爪が顔の皮膚に食い込み血が滲みそうになるのをジェーンの手が押さえた。
「落ち着いて~。分かったわ~、そこまで言うなら~、もう止めはしないわ~。頑張ってね~」
ジェーンからの激励に対し、晶は無言で頷くだけで答えるのだった。
そして、遂に予告の当日がやってきた。
御堂筋宅の周辺にはジェムの活躍をカメラに収めようと多数のマスコミが押し寄せており、それを警察が押し留めている。これからこの邸宅で戦闘が行われるのだ。銃弾も飛び交う事になるので、万が一にも巻き込まれる危険がある。
ざわつくマスコミの姿を傍目に見ながら、誠は既にバリアに変身した状態で油断なく周囲を見渡していた。何時ジェムがやってきても直ぐに対応できるように。
「ふぅ~……」
「少し肩の力を抜いても良いんじゃないですか?」
気張って周囲を警戒していたバリアに、同じく既に変身したセツナが優しく声を掛ける。少し彼の肩に力が入り過ぎていると思ったのだ。さっきから頻繁に大きく息を吐いて心を落ち着けようとしている。まだジェムが来たわけでもないのに、こんなに肩に力を入れていてはいざと言う時に力を発揮できない。
セツナの心配する声に、彼は軽く頭を振って答えた。
「いえ、今回の作戦は絶対に失敗できません。ここまでお膳立てしたんです。今度という今度はジェムを捕らえなければ」
「それはそうですけど……」
今回はこちら側がジェムを呼び寄せた形になる。それに合わせて、ωチームは周到に備えていた。
邸宅の敷地内にはあちらこちらにトラップを仕掛けているし、邸宅を一望できる場所には既にω5が狙撃装備で待機している。万が一見つかったりしないようにと光学迷彩を使用し潜んでいるので、万が一にもこちらへ来るジェムに見つかる事はないだろう。
何とはなしにバリアはそのω5が待機している場所に目を向けた。辺りを見渡して少し離れた建物の屋上、広告用の看板の下にω5は待機している。
そのω5は、光学迷彩を使用した上で更に看板の影に隠れるようにしながらこちらも邸宅の様子を伺っていた。
御堂筋宅は決して大きな家と言う訳ではない。自営業をしているという彼は鉱石収集の趣味が出来る程度の広さの自宅を持っているが、庭の広さもそれほどではなくいざ戦闘が起これば敷地から出る必要がある。きっとその時には、周囲に集まっているマスコミが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う事になるだろう。連中だって戦闘に巻き込まれて怪我したり死んだりするような事になるのは御免な筈だ。
等と考えながら様子を伺っていたω5はふと自分のすぐ近くに人の気配を感じた。何時からそこに居たのか分からないが、確かに近くで動く者の気配がする。ω5がそっと振り返り気配の主に目を向けると、そこに居たのは怪盗姿の晶……怪盗ジェムであった。
「うわ、分っちゃ居たけどこれまた凄い数」
晶はω5の存在には気付いていないらしく、眼下の御堂筋宅の様子に仮面で覆われていない部分の顔を顰めている。彼女は彼女でマスコミが戦闘に巻き込まれる事を懸念しているのだ。一応戦闘が始まれば、近接戦闘をメインにして戦うつもりではあったが、それでもあれだけの数が居れば巻き込まれる危険は高いし銃を使用する必要に駆られる場合もある。
悩む晶の姿に、ω5は一瞬魔が差しそうになった。今なら晶は油断している。ここで背後から襲い掛かれば苦労せず彼女を捕らえる事が出来るのではと考えたのだ。
しかし彼はプロフェッショナルだ。作戦外の行動は自分のみならず、他の仲間を危険にさらす事にもなりかねない。彼は自制すると晶が移動するのをジッと息を潜めて待ち続けた。
程無くして晶は、辺りの観察を終えたのかレオタードに包まれた豊かな胸元を強調するように背筋を伸ばして自信を感じさせる声色で誰にともなく呟いた。
「ま、何とかなるでしょ。見た感じ居るのはあの2人だけに見えるけど……」
警察以外の警備がセツナとバリアである事に違和感を感じている様子だったが、目的がハッキリしている彼女にはあまり関係のない話であった。警備を掻い潜り、妨害をすり抜け、目的のパワージュエルを手に入れる。そしてその後は逃げに徹すれば彼女の勝ちだ。
「と言う訳で、早速行くとしますか♪」
晶は直ぐ傍にいるω5の存在に気付く事無く右手にパワークオーツを付けてベルトのバックルを高速回転させ指輪の宝石を研磨し、仮面ライダージェムに変身する。
「変身」
《Change of Cut, Cloth Quartz! Commit the Phantom Thief!》
クオーツカットの仮面ライダージェムに変身した晶は、背中のマントを大きく靡かせながら飛び降り目的の家の敷地へと向かっていく。それを見届けたω5は即座にセツナを含めた全員に報告する。
「こちらω5、こちらω5。たった今ジェムがそちらに向かった。繰り返す、ジェムがそちらに向かった」
「「ジェムッ!」」
ω5の報告にセツナとバリアは素早く身構える。セツナは迅雷を構え、バリアは盾と拳銃を握り油断なく周囲に目を向ける。ここからは見えないが、待機しているωチームの他の隊員達もジェムの来訪を警戒している筈だ。
果たしてω5の報告から数分と経つ事無く、ジェムは御堂筋宅のすぐ近くの電柱の上に降り立った。
「御機嫌よう皆さん。今夜も良い夜ね?」
「あっ!」
「来たか、ジェム……!」
電柱の上に降り立ち高らかと声を上げるジェムに、下から無数のライトとカメラが向けられる。夜空をバックにライトアップされたジェムの姿はとても絵になり、マスコミはその瞬間を確実に捉えようと幾つものカメラがシャッターを切る音が周囲に響く。自分が注目されている事にジェムは得も言われぬ高揚感を感じ、絶好調のまま電柱からセツナ達の前に降り立つ。
「よっと!」
「ジェム……この間はありがとう」
「何よこんな時に? もう終わった事でしょ」
目の前に降り立ったジェムに対し、セツナがまずかけた言葉は先日の件に関する感謝であった。その言葉にこそばゆい物を感じて居心地悪そうにするジェムは、話題を変えようと辺りを見渡しωチームの姿が見えない事に首を傾げた。
「それより、今日はあなた達2人だけ? 他のお仲間はどうしたのかしら?」
「お前に話す義理はない。今日こそはお前に手錠を掛けてやる」
「やれるものならどうぞご自由に。ま、出来ないだろうけどね♪」
バリアの宣言を鼻で笑いながらジェムはファントムエッジを抜き素早くセツナに接近し斬りかかる。バリアはセツナの前に立ち塞がると、振り下ろされた刃を受け止め反撃にとバリアリボルバーを向け引き金を引こうとする。だがジェムは自分に向けられそうになる銃口を上から押さえつける事で止めさせた。
「待ちなさいよ。ここで下手に撃つと、周りのマスコミに流れ弾が飛ぶかもしれないわよ?」
「くっ!?」
「神宮寺さん、離れてッ!」
一瞬動けなくなったバリアを援護すべくセツナが迅雷を振り下ろす。咄嗟にジェムはバリアから離れると、狙いをセツナに変え飛び掛かり体を空中で回転させながらしなやかにしなる足で蹴りを放ち迅雷の刃を横から蹴り飛ばした。
「セヤッ!」
「くっ、ハァッ!」
斬撃の軌道を変えられ何もない地面を切り裂いたセツナは、視線だけはジェムから外す事無く振り下ろした方とは逆側の刃で切り上げる。下から掬い上げるように迫る刃をジェムがバク転で回避すると、その間に武器を変えたバリアが電磁ロッドで殴り掛かってきた。
「フッ!」
「っと!」
バチバチと電気を纏いながら振り下ろされたロッドを横に転がって回避するジェムは咄嗟にその勢いで反撃しようとした。だが以前ならともかく、今のジェムはバリアの正体が誠である事を知っている。この仮面の下にあるのが彼の顔であると思うと流石に躊躇いが生じてしまう。
「ぁ……」
「ん?」
不意にジェムから放たれると思っていた反撃が中途半端な所で止まった事に、盾を構えて受け止めようとしていたバリアが首を傾げる。何かの作戦かと警戒もしたが、ジェムは迷うように視線を彷徨わせたかと思うと彼に背を向け逃げるように邸宅の中へと飛び込んでいこうとした。
「あ、おいっ!?」
「どうしたの?」
ジェムの様子がおかしかった事はセツナも気付いた。バリアに対して明らかに攻撃を躊躇するような動き、それも咄嗟の行動から演技とは思えない。これまで特に気にした様子も無くバリアにも反撃出来ていたジェムらしくない動きに、セツナは束の間今のジェムは別人ではないかと訝しんだほどだ。
その間にもジェムは邸宅の中へと飛び込もうと足を動かす。彼女の精神は何時になく乱れていた。電柱の上で注目されていた時に感じていた高揚感など、先程バリアへの攻撃を躊躇った際に何処かへと行ってしまった。まるで自分が別人になったような感情の変化に、彼女の内心はグチャグチャである。
(でも、無理ッ!? マコちゃんに攻撃なんて、出来るわけない。今日はもうさっさと目当てのモノを手に入れて、早くここから離れよう)
手早く仕事を終わらせるべく邸宅に飛び込もうとするジェム。外ならともかく、家屋の中に入ってしまえばバリア達も満足な攻撃は出来なくなるはずであった。
だが彼女がそう言う動きに出る事はωチームも予想していた。バリアが見ている光景を少し離れた所の指揮車から見ていたアイリスは、予定通りの動きをジェムが取った事で作戦の開始を告げる。
『来ました! 隊長、作戦開始ですッ!』
『了解した。ω5ッ!』
アイリスの報告から円のナイトスコープが声を上げると、それを受けて待機していたω5がジェムの足元に向け発砲した。通常の銃弾とは違う高威力の銃弾が地面を穿った事にジェムが思わず足を止める。
「ッ!? 何、狙撃?」
通常のスコープの装備とは明らかに違う威力で地面が弾けた事に狙撃に気付き足を止めた。次の瞬間、何もないはずの場所から無数の銃弾が飛んできてジェムの全身を蜂の巣にする勢いで弾けた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? くっ!?」
突然の銃弾の雨霰に晒されるジェムは、咄嗟にマントで体を隠す様に包み銃弾を防いだ。マントはただの飾りではなく、ある程度であれば防弾・防刃に効果を発揮してくれる。その効果は確かなもので、特異生物に対しても効果を発揮するガンマライフルの銃弾をも防いでくれた。
が、しかし…………
「脇ががら空きだッ!」
「あっ!? ああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
如何に防御力が優れていようと、全方位をカバーできるわけではない。一方からの攻撃を防ごうとすれば別の方向に穴が開く。そこを突かれればどれだけ防御力が優れていようとも意味は無かった。ωチームの攻撃に対処しようとしている間に回り込んだバリアの銃撃がジェムの脇腹に突き刺さり、激痛に悲鳴を上げひっくり返る。
倒れる際にマントを構える手が緩み防御が消えれば、そこを狙って更に別の方に潜んでいた隊員がすかさず発砲し、ジェムの体は無数の銃弾にズタズタにされていった。
「あ、ぐ、あぁぁぁっ!? ま、マコ、ちゃ、あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
思わずジェムの口から誠を呼ぶ声が上がるが、無数の銃声に紛れてバリアの耳には届かない。銃撃に晒されながらも何とか転がって逃れると、ωチームに反撃しようとなりふり構わずファントムシューターを抜いた。
「くっ!」
だが彼女の動きは遠くからω5が常に見張っていた。彼女が何かをしようとすれば即座に動き、銃を抜けばその手元を撃ち抜き持ち上げた銃を弾き飛ばす。
「あっ!?」
またしても狙撃により動きを止めさせられたジェムは大きな隙を晒した。バリアはそれを逃す事無く、バックルから認証カードを抜き裏返して装填して必殺技のガバメントライダーキックを発動し放った。
〈License permission, Government Rider kick〉
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
バリアがエネルギーを充填した右足で飛び蹴りを放ってくる。無数の銃撃でボロボロになったジェムにこれを防ぐ事は出来ず、迫るバリアの飛び蹴りをただ見ているしか出来なかった。
「ぁ――――」
その光景に彼女が何を思ったのか、口から小さな声が上がる。その声に気付いているのかいないのか、バリアは容赦ない必殺技をお見舞いし強烈な一撃に彼女は悲鳴を上げる事も出来ず蹴り飛ばされ地面に叩き付けられた。
「あ゛っ――――!?」
地面に叩き付けられ、転がっていった先でジェムの変身が遂に解けた。ωチームとバリア、セツナの目の前で鎧が弾ける様に消え去り、後にはボロボロのレオタードの上にジャケットを羽織った痛々しい姿の怪盗ジェム……晶が残される。
ジェムの変身が解除されると、ωチームの隊員は即座に銃の弾頭をスイッチして対人用の装備に切り替える。目的はジェムの逮捕であって討伐ではないのだから。
無数の銃口が自分に向けられている中、晶はなけなしの力を振り絞って体を持ち上げた。こうなったら何とかして逃げなければ…………そう思った時、上げた顔から仮面が剥がれ落ち素顔を晒してしまう。
「あっ!?」
慌てて顔を隠そうとするがもう遅い。怪盗に扮している時は伸ばした前髪を耳の後ろに避けている為、仮面以外に顔を隠しているものは無いのだ。そして、仮面が落ちた瞬間をセツナとバリアはしっかりと目撃していた。
「な、あっ!?!?」
「えっ!? い、石動さんッ!?」
ジェムの正体が自分達の知る人物であった事にセツナとバリアは言葉を失う。特にバリアが感じた衝撃はあまりにも大きく、彼は盾と銃をその場に落とすとフラフラと覚束ない足取りで彼女に近付き膝をついて震える手を伸ばした。
「あ、晶…………晶なのか?」
バリアからの問い掛けに晶は堪えず、だが激しく動揺したように視線を彷徨わせた。何かを口にしようとするのだが、喉は震えず呼吸も儘ならなくなる。その沈黙は何よりの肯定を意味しており、衝撃のあまりバリアはその場で変身を解除してしまった。
「あ、晶……晶が、ジェム? 俺は……俺が、俺が晶を……晶を傷付け…………あ、あぁ…………!?」
誠がS.B.C.T.に入り、仮面ライダーとして戦っているのは全ての悪党を捕らえ、晶を傷付ける者がいない世界を作る為であった。だがその晶こそが悪事を為し、更にはその晶を他ならぬ自分が傷付けてしまった。様々な情報が脳内を駆け回り、誠の精神は限界を超えてしまっていた。
「あ、あぁ…………あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
愛する晶を傷付けてしまった受け入れがたい事実。それを受け入れられない誠は、頭を抱えて喉が張り裂けんばかりに叫び声を上げた。痛々しい慟哭が響き、ωチームの隊員達も彼の異変に動揺を隠せない。
そんな中で特に動揺を露わにしているのは、他ならぬ隊長であるナイトスコープこと円であった。
「晶……!? 晶が、ジェムにッ!? あの男……!」
動揺しつつも激しい怒りを滲ませる円の呟き。しかしそれすらも、誠の慟哭に隠されてしまった。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
響く慟哭を耳にしているのはセツナ達だけではなかった。必要な時が来た時に晶を回収する為、無理をしてこの場にやってきたジェーンも隠れ潜みながら彼の叫びを聞いていた。物陰に隠れ潜んだ彼女の表情は、まるで罪に苛まれているかのように険しく歪んでいたのだった。
という訳で第39話でした。
遂に晶の秘密が誠にバレてしまいました。ジェムの正体が晶であると知らなかった誠にとって、知らなかった事とは言え晶を傷付けてしまった事はとんでもない衝撃でした。彼にとって優先順位が高いのは悪党よりも晶の安全ですので、その彼女を傷付けてしまった事の方が彼にとっては重要なので今回彼は慟哭した訳です。誠にとっては晶が悪事を働いた事は、どうでもいい事ではありませんが二の次になっている訳です。今の誠は激しい自己嫌悪に苛まれている事でしょう。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。