サキュバスになったけど、エロ系の魔法でどう戦えと 作:nyasu
背中に激痛が走る。
「ぐぁぁぁ……な、なんだ!?」
「キャァァァ!?」
のたうち回る俺の横で、同伴していたキャバ嬢が悲鳴を上げた。
荒い息のまま、背後であった場所を身体を捻って見てみれば、尻餅をついたオッサンが震えていた。
「えっ、えっ、だ、誰!」
「お前が誰やねん……」
いつの間にか背中の痛みがなくなってた俺は思わずツッコむ。
いや、ほんとオッサン誰……あっ、てか、痛くないんじゃなくて分かんなくなってんだ。
さっきまで熱いくらい、炙られてるのかってくらい背中が痛かったのに、今は何か気持ち悪いし、寒い。
「ど、どうしよう……血が、血が止まんない」
「う、うわぁぁぁあ!」
逃げるオッサン、背中を押さえて慌てるキャバ嬢。
もう遅いけど、救急車呼んでくれないかな。
野次馬も電話してくれよ、撮影してんのか?
あっ、やばい、瞼が重い。
これあれ、眠い時みたいな、クソ……来世は、来世こそはエッチな事したい。
童貞卒業して死にたかった……この女にいくら使ったと――
目の前に、緑色の猿の顔面があった。
「……ハッ!?」
「グギギギ」
生ゴミの腐ったような匂い、両足の激痛、緑の猿……いや、ゴブリン!
そうだ、俺は襲撃されて……背中、いや足に矢を受けたんだ。
姉妹達と同伴で……同伴?いや、なんか違うな。
あれ、俺は男……いや、女なのか?
「グギャ!」
「ぐえっ!?」
目の前が急に発光する。
頭が死ぬほど痛い、あっ、これ、殴られた。
鼻も痛いし、頭の後ろが痛い。
そうだ、ゴブリンみたいなクソ雑魚の精子絞り取ろうぜとかいう甘言にホイホイ付いて来て返り討ちにあったんだ。
いや、何言ってんだ気持ち悪いな。
姉妹達は、死んだか犯されてそう、あっ、なんか喘ぎ声とかする。
いやいや、俺の初めてはゴブリンとか嫌なんだが。
俺、いや、私、私の初めてだろ。
「ぐぞが、どけやぁ!」
「ゴブッ!?」
馬乗りになっていたゴブリンの顎に左の拳が綺麗に入る。
もう全身が痛い、訳も分からない。
分かっていることは、戦わなければ犯されるということだ。
このゴブリンとかいうモンスターに、格下のモンスターにサキュバスの私がだ……サキュバス?
私って、サキュバスなのか?
「グキィ!」
「あっ、うわぁぁぁ!」
飛び込んできたゴブリンに無我夢中で蹴りを放つ。
運よく当たった蹴りは、ゴブリンの腹に当たった。
痛い、太ももに矢が刺さってんじゃん。
どうにか……どうにか出来るな。
こんなの回復魔法を使えばいいじゃん。
回復魔法?魔法って言った?いやそんなの、あるわ。
あれ、なんだこの違和感、当たり前なのに、本当かって不安になってくる。
「ひ、ヒール!痛い!?」
取り敢えず掛けてみたら傷口に激痛が走る。
いや、そうだ、矢とか抜かなきゃいけないんだ。
勢いで矢を抜く、痛い!あっ、でも今度は痛くなくなってきてる。
足の傷がゆっくり小さくなってる、治ってる。
「マジで魔法使えた」
「グギャ!」
「チッ、復活したか!」
慌てて倒れた状態から立ち上がる。
目の前には、刃の欠けたナイフを持ったゴブリン。
なんてものを、破傷風になりそうだぞ……破傷風ってなんだ、いや、あれか。
ええい、なんか頭の中ゴチャゴチャする。
とにかく、魔法が使えるんだから、それで何とかするんだ。
「ね、眠れ!」
「グギッ……グァ……ァ……」
手から、なんか光の玉が出てゴブリンに当たる。
当たったゴブリンは、フラっと前のめりに顔から倒れた。
し、死んで……いや、寝てる!あっ、ナイフ取り上げなきゃ。
「し、死ね!」
奪ったナイフを首に向かって突き刺す。
グニュと皮を貫通して、ブチブチした肉とカツンとした骨の感触がナイフ越しに伝わる。
体重を乗せたら、ズリュっと首に入ってくナイフ。
ヨシ、致命傷だな……いやいや、怖い!?自分が、怖すぎる。
「えっ、あっ、俺、殺した?私が殺した……」
ちが、やらなきゃと思ったけど、初めてなのに、躊躇がなかった。
なんだコレ、いや、それより逃げなきゃ。
周りはゴブリン達の生息する森、茂みの向こうで精液の匂いと姉妹達の喘ぎ声がする。
姉妹達って何!?あと、冷静に精液の匂いって、それゴブリンのだよね、気持ち悪いよ。
「おかしい、私の頭がおかしい、ダメだ。ここから早く離れないと」
とにかく離れよう、行き先も分からないけど、ここから逃げるんだ。
ゴブリンの首からナイフを抜き取り、当てもなく走り出す。
走って、疲れたら休んで、走って走って、休んで、気付けばどこかの岩の近くで横になっていた。
いや、そうだ、休憩のために背中を預けて座ってたんだ。
「いや、なんだコレ、悪夢か?」
寝たら頭がスッキリした。
いや、すっきりというか、記憶の整理というか、合体というか。
自分がサキュバスであることや、魔法が使えること、ソフィアとか言う可愛らしい名前であることなどを覚えている。
あと、童貞卒業を夢見てバカみたいにキャバ嬢に金を使っていた高卒3年目の男の記憶もある。
あれだ、転生って奴だと気付いた。
ゴブリンに頭を棍棒で殴られてから思い出したけど、嫌なタイミングだな。
自分がゴブリンなんぞで、早く大人になりたいと処女卒業ツアーに参加したことを思い出す。
頭悪い名前過ぎる、サキュバスって種族は基本ビッチのアホしかいないのか、いないわ。
いやね、エッチなことしたいと言ったけど男としてよ、女になりたいとか思ってないのよ。
「ハァハァ……つか、腹減った」
群れからは逸れるし、よく分かんねぇ森で遭難するし、このまま餓死するんじゃないんだろうか。
空とか飛べないかと思ったら、別に羽とか生えてないし、角とか尻尾もない。
立ってみたら、つるーんとした絶壁。
というか、この身体、ちょっと発育のいい小学生みたいな、つまりはガキだ。
サキュバスだからか知らんが、布切れ一枚という痴女スタイル。
バカにしてたけどゴブリンと服に関しては大差ない、気づいてなかったけど。
思い出した前世の記憶のせいで、頭が良くなって分かってしまった。
いや、俺には魔法があるじゃないか。
だって俺の父親は魔法に長けた種族のエルフで……エルフなの?
あっ、思い出した!
母親というか、サキュバスクイーンの話。
私が生まれた時期はエルフと交わって出来た子が多いって、同時に6人出産したって言ってた。
六つ子だった、そうだった。
だから美形で魔法がお前ら得意だと思う、みたいなこと言ってた。
ちなみにクイーンの得意魔法はエロ系らしい、エロ系ってなんやねん。
どうして過去の俺、いや、私は魔法を勉強してないんだよ。
何が女の子はチンポさえあれば魔法はいらないだよ、そうだそうだって周りもおかしいだろ、アホでビッチの馬鹿しかいない。
「なんだこの種族、スケベなことしか考えてないぞ」
思春期通り越して性犯罪者予備軍みたいな奴らしかいない、っていうか会話が下品すぎる記憶がある。
終わってるだろ、この種族。
「いや、だが、オスの気配を感じる魔法があるのを思い出した」
交尾する相手が見つからないなんてナンセンスとか言って勉強した記憶がある。
そういうのは勉強するんだな、バカがよぉ。
男しか分からんかわりに範囲が広い探知魔法だ。
感覚だが、種族とかを絞って気配を探れる魔法だ。
思い出せ、そうだ、捕まった冒険者とかいう人間を仲間が襲ってるの見たことあったな。
いや、冒険者っているのか、下半身丸出しのアレ、冒険者か。
最後はミイラみたいになってたけど、アソコは立ったままシワシワだったな。
「いやでも、なんとなく気配を覚えてる……気配を覚えるってなんだよ、達人かよ」
意味わかんないけど、分かるもんは分かるのだ。
あっ、なんか右の方にいっぱいいそう。
謎の自信がある、勘なのに!勘なのに!非科学的な、いや魔法だからこういうもんか。
直感というか、気配というか、何となく森を駆け抜けていく。
これ逆に森の奥深くとかで遭難してないかな?
腹減ってんだけど、なんか食いたい。
「あっ、川……」
そう言えば、喉も渇いていた。
菌が怖いし、腹とか壊しそうだけど、よく思い出したら水溜まりとか飲んだことあったわ。
生まれた頃の俺って、なんか地下的なとこで生活してたし……あれ、いけるか?
「う、美味い!」
冷たい、ちゃんと水だ。
後のことは知らんが、水が飲めたことに感謝しよう。