夏未の命令によって、西ノ宮中に貸し出されることとなった円堂ハルと月影蓮。
船を降り、西ノ宮中のアップに加わる手はずとなっていた。
歓迎されているのか分からない選手の挨拶を受け、監督のごますりを受け流す。
控室で着替えながら、ふと足首のミサンガに目がついた。赤と白が螺旋のように織り交ざった綺麗な意匠だ。ところどころ、よれているのが年季を感じさせる。
「ミサンガなんてつけたのか」
「蓮さん」
少し眺めていると、蓮が話しかけてきた。
「はい、冬希……弟が誕生日にくれたんです」
「そうなのか」
それを聞いた蓮は少し意外そうに反応した。詳しくは知らないが、どうにも仲が拗れていると噂で聞いたことがあったからだ。
「ウチって誕生日プレゼントを渡す習慣がないんです。家族全員揃うのがプレゼントみたいなものだって。そしたら弟が」
『ハル。これあげるよ』
『何これ?ミサンガ?』
『そ、自然に切れるまでつけてると願いが叶うってやつ』
『俺なんも準備してないんだけど。それにウチってプレゼントは……』
『俺らが従う必要ないでしょ。貰えないのは知らないけど、あげるのは自由だって』
『でもせっかくのプレゼント、なんか切れたら勿体ない気がするな』
『そしたら、また来年。違うのあげるよ』
『……!俺も、ミサンガ買って来る!』
「毎年、互いに何かプレゼントを交換しようって。ほんとはミサンガを交換するつもりでしたけど、ミサンガって意外と切れなかったので」
そう言いながら、ハルは嬉しそうな顔でミサンガを撫でていた。
「へえ、どんな願いを込めたんだ?」
「え?」
「ミサンガって、願掛けするだろ?何を願ったのかなって」
蓮の純粋な疑問だった。切れたら願いが叶うというミサンガ。かのサッカーモンスター円堂ハルは、一体ミサンガに何を願うのか。普段の姿からはハルがどんな願いを持っているかなど想像も出来なかった。
「ええと……」
ハルは少し照れくさそうに笑っていた。
「その時俺が願ったのは、ずっと冬希と一緒にサッカーできたらいいなって」
「ハル……」
当時はそこまで家族仲も拗れていなかった気がする。勿論、自身と冬希の間には実力差があり、それを揶揄する声も少なくなかった。それでも、『あの一件』までは歪ながらも切磋琢磨し合う仲ではあったのだ。
あるいは、自分が気づかなかっただけだろうか。
もしかしたら、冬希の方は違ったのかもしれない。そばにいるほど比較され、己自身でその差を理解してしまう。
楽しくサッカーがしたいハルに対して、冬希がどこか無理してサッカーをしているように見えたのは事実だった。
プレゼントを渡してくれたその裏で、一緒にサッカーをしていたその瞬間にも、腹の底に呪いをため続けていたのだとしたら。
本当にそうであったのなら、それに気づけなかったのは冬希とのサッカーが楽しかったからであろう。楽しかったから、冬希が楽しんでいないことを気づきたくなかった。
『ミサンガ切れちゃったな。次の誕生日でプレゼントするよ』
『いや、もういいよ』
『冬希?』
『願掛けなんて、自分で叶える力がありませんって言ってるようなものだろ?だから、そういうのはもういいや。これからは自分の力に向き合わなくちゃ』
『あの一件』で、切れた冬希のミサンガと共に何かが断絶した気がした。彼の願いは叶ったのだろうか。
今まで、敢えて聞いてこなかった。
冬希は一体何を願っていたのか。
自分のミサンガだけは随分と丈夫だった。
――――――
「地区予選だってのに、随分でかいところでやるんだな」
「フットボールフロンティアがそれだけ注目されているということだよ」
西ノ宮中との対戦当日、スタジアムについた南雲原中サッカー部はその大きさに圧倒されていた。
「西ノ宮中は楽な相手じゃない。初心者ばかりの南雲原に比べて、西ノ宮はずっとサッカー部を受け継いできた。それでも、皆さんのポテンシャルがあれば勝てると思ってます」
スタジアム前で雲明が鼓舞する。それに応えるように桜咲と柳生が笑う。四川堂が微笑み、忍原が「うん!」と答えた。古道飼は拳を握って奮起し、冬希は深く頷く。
南雲原と西ノ宮はあらゆることで競い合ってきた間柄。西ノ宮に負ける様な部活を認めるわけにはいかないという千乃の言葉の元、勝利がサッカー部設立の条件となっている。
今日勝たなければ、サッカー部は認められない。
「それじゃあ行きましょうか、勝ちに」
そう宣言し、会場に入った。
そして、控室で準備をした直後のことだった。
「は?」
「え?」
控室からグラウンドへ続く通路。本来なら、
「ハル……」
「え、冬希?」
フードを被っていようと見間違えるはずがない。
後ろ姿だけでも、すぐにわかる円堂ハル。倒すべき、人生の宿敵。
「なんで……」
「まさか、西ノ宮中が帰属校助っ人システムを使ったとは聞いていたが」
「それが雷門中という訳か」
心当たりがあったようで、四川堂が驚きを溢す。
大会規定は冬希も勿論確認している。その上で、助っ人システムはあまり重要視していなかった。人数不足以外で使われることなどないと思ったからだ。いかに名門校から助っ人を連れてこようと、急にチームに入って上手くいくとは思えない。
しかし、円堂ハルレベルになれば話は別だ。チームワークを差し置いても、単独でおくだけで盤面がひっくり返る。
「そっか、対戦相手って南雲原だったのか!じゃあサッカー部作れたんだね!」
「作ったのは俺じゃないけどな」
明るいハルの言葉に、毒づくように返す。
「でもなんか嬉しいな。また冬希とサッカーできるんだ」
鼻を擦りながら、ハルはなんでもなさそうに言った。
「随分余裕そうだな」
「え?」
「俺は今テンション上がって仕方ないけどな。こんなすぐにハルとやれるなんてな」
予想だにしなかった宿敵の登場。冬希はまだ、自分の感情を処理しきれていなかった。だから、笑った。それは自分を鼓舞するためか、相手を挑発するためか。
腹の底から、燃えるように、ドロリとした感情が湧いてくる。
「勝つ、勝つぞ。ハル。俺はお前に」
「へえ、いいじゃん」
――――――
「まさか、円堂ハルが参戦してくるとは……」
嬉し気な冬希とは裏腹に雲明は頭を悩ませていた。
今、試合前に突如全員を控室に集めてミーティングを行っている。言うまでもなく、ハルが原因だ。
円堂ハル、サッカーモンスター。とてもじゃないが今の未経験者だらけの南雲原で太刀打ちできる相手ではない。と、本来なら思う。
「冬希」
「どうした?」
「君はハルを抑えられるか?」
その問いに冬希は居住まいを正した。
「状況次第……かな、単独じゃ無理。チームを動かして連動すれば、ハル一人なら何とかなると思う。つーかなんとかする」
「現状取れる手立ては2つ。1つは前半、ほぼ無抵抗でやられて、後半で円堂ハルを下げることだ」
「なるほどな」
冬希は努めて冷静にその話を聞いていた。
監督が勝つために呼んだとはいえ、出来ることなら自チームの選手に活躍してほしいと思うのは当然の話だ。前半でほぼ勝ちが確定したとなれば下げる可能性は大いにある。
「でもこの作戦は希望的観測をかなり含んでいる。西ノ宮中に追いつけるか分からないし、そもそも円堂ハルが下げられなければ僕たちは終わりだ」
「そうだな」
「だから、もし君が円堂ハルを抑えられるなら、前半から全開で行きたい」
冬希は目を瞑り、思案した。自分があのモンスターを抑え得るのか。
自分の能力と、チームメイトの姿を勘案し、冷静に答えを出した。
「やる。まずはマッチアップを1回見てくれ。俺がハルを止められたら、全開で行こう」
「分かった」
冬希は戦うという結論を出した。
冷静に考えたつもりだ。しかし、それは果たして本当に正しいのか。自分がハルと戦いたいというエゴを含んでいないのか。彼自身分からなかった。
「あれ?」
手が震えている。これは武者震いか、はたまた臆しているのか。
待ち望んだ戦いのはずだ。正式な雷門との対戦ではない、しかしハルと戦える場であることは間違いない。
待ち望んでいた戦いだからこそ、自分の判断に自信が持てない。
自分はただ、ハルと戦いたいだけではないのか。チームの勝利を度外視してでも、ハルとの個人的な感傷を優先してしまうのではないのか。マッチアップを見て欲しいと言ったのは自分の判断への自信の無さの表れだった。
今日負ければ、サッカー部はなくなると言うのに。
「大丈夫だよ」
そんな冬希を見て、雲明が声をかける。
「どっちにしろ博打にはなるんだ」
ハルを下げる作戦ならば、相手の監督に勝敗が左右される。ハルを抑える作戦であれば、冬希の力が勝敗に直結する。前者なら、相手の監督に。後者なら、冬希に賭けることになる。
「それなら、僕は君に賭けたい。仲間である君に、勝利を賭けたい」
それは期待だった。雲明が冬希に作戦を託し、任せた。責任重大、自分が判断を誤ればチームは負ける。
「俺もだ。ただ相手に委ねるより、お前に任せられるんならそっちの方が断然いい」
「よろしく頼むぜ!今日の主役!」
桜咲や木曾路が鼓舞してくれる。
重圧がさらに大きくなるのを感じた。
「任せろ、必ず俺がチームを勝たせる」
それでも悪い気はしなかった。
今日はハルに勝つことよりも、チームを勝たせることを優先してもいい。そう思えるくらいには。
「行くぞ」
迷いは晴れた。
――――――
「蓮さん、今日は一筋縄じゃいかないと思います」
「そうなのか?」
ハルの後ろ向きな言葉に蓮は素直に驚きを示した。
普段、簡単そうに強豪校を下しているハル。そんな彼の自信の無さともとれる発言は、初めての事に思える。
「南雲原はサッカー部を新設したばかりで、それも初心者だらけだ。こっちが負ける理由はないと思うが」
「それでも、あっちには冬希がいた」
円堂冬希、先ほどハルの話に出た彼の双子の弟。
蓮がそれなりに強豪と戦ってきた中で、一目見るだけで強い選手がわかるようになってきた。経験則というものだ。強い選手というのは、サッカーを通さなくてもオーラや雰囲気がまるで違うのだ。ハルはまさしくその兆候がある。
先ほど、通路で円堂冬希と邂逅した。しかし、脅威に感じるほどの雰囲気はなかった。
「そんなに強いのか?」
「シンプルな強さってわけじゃないんですけど。ほんとにあらゆる手を尽くして、勝ちにくるって感じで」
「ああ、そういうタイプか」
所謂、頭脳タイプ。それなら、蓮にも覚えがあった。単独の能力よりも、誰かと組むことで相乗効果を発揮してくる。その手合いの厄介さは蓮も知るところだ。
「サッカーを深く知っている、ってだけじゃなくて。なんていうんでしょう、相手の癖を把握して徹底的にメタを張ってくる慧眼?とにかくやりづらいんですよ」
「よく知っているハルのことなら、なおさら。という訳か」
コクリ、とハルが頷いた。その真剣そうなハルの姿に蓮も冬希に対する認識を改める。
「なんか、俺と比較して冬希のこと『出涸らし』だのなんだの言ってる奴らがいましたけど」
思い返すように目を瞑りながら、ハルは刻々と語る。
「そいつら、冬希の足元にも及ばない奴らでしたよ」
祝意のミサンガ FW MF
キック +9 コントロール +7
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BASARAシードは真・帝国の佐久間に使いました。
なんで1号自然に習得しないんだよって思ったけど、敢えて覚えさせた方が使わせてる感あっていいのかもしれない。技構成はめっちゃ優秀。