円堂ハルの出涸らし   作:モリブデン42

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激突!因縁の兄弟!

 広い会場に反して、見物客は少ない。当然だ、今日の試合は単なる無名の地方高校同士の戦い。

 ダービーだ、と騒ぐ地元民もいるがわざわざ見ようと思う者は少ない。

 そんな閑散とした会場の観客席から、南雲原中学生徒会長、千乃妃花はフィールドを眺めていた。

 自校のサッカー部と、対戦相手は何かと競い合ってきた西ノ宮中。

 プライドを賭けた闘い、負けるわけにはいかないのだ。

 

(そう、負けるわけには)

 

 千乃はそっと、西ノ宮中のベンチを見た。そこには、せっせと荷物を運ぶ妹がいる。

 自分より才能に溢れ、努力せずとも何でもこなしてしまう妹。

 仲が悪いわけでは無い。勝手に劣等感を覚えているは自分の方だ。

 しかし、そんな自分を彼女は素直に慕って来る。それが、自分の器の小ささを表しているようで惨めになる。

 

 視線を移すと、南雲原中サッカー部がいる。そこには生徒会でもなじみ深い、四川堂や百道、そして円堂冬希がいた。

 無意識に手すりを掴む手に力が籠る。

 

(そう、あなたはここまで来たのね)

 

 生徒会室での何気ない会話を思い出す。正確には四川堂と冬希の会話だが。

 

『冬希君はなんで生徒会に入ったんだ?』

『サッカー部を作りたかったんです。ただ人も集まらないし、イメージも改善できないしで、色々失敗して。じゃあもう学校を変えるしかないかなって』

『だが……』

『取りあえず生徒会長になろうかなと思って。そしたらイメージ戦略が打てるでしょう?』

『どうだかな、サッカー部が事件を起こしたという前例がある以上、この学校でサッカー部は認められないぞ。無論私も、会長もだ。』

『まあ……そこは色々調べてるからその辺はどうとでもなりそうですけど、やっぱイメージが悪すぎるってのが俺じゃどうにもならなくて。形だけでもサッカー部を作れちゃえば話は別なんですけど』

『そもそもサッカーがしたいならなんでわざわざ南雲原に来たんだ』

『……まあ、家から出たかったってのは大きいです。あと、やってみたかったんです。父様がやったみたいに1からサッカー部を作って、全国にって。そしたら父様も……いえ、なんかそういうこだわりがあって。ここだと、サッカー部がなくて、親戚に預かってもらえるって、なんか運命みたいに感じちゃいました。それでサッカー出来なきゃ意味がないんですけどね』

 

 彼はそう言って、自信なさげに笑っていた。

 その乾いた笑みを見ると、なぜか胸が痛かった。

 

「それじゃ、まるで私が邪魔してるみたいじゃない」

 

 実際、邪魔だったのかもしれない。少なくとも、自分が認可を出せばもっとスムーズにサッカー部は作れていたのだろう。

 しかし、それは私情だ。学校を運営する立場としてその判断は出来なかった。

 だが、今回出した条件はどうだろう。西ノ宮中への勝利、それは確かに南雲原中にとって重要な問題だと言える。同時に、妹への確執を持ち込んではいないか。もし、そう問われると否定できる自信はなかった。

 

 本音を言うと、冬希にサッカー部を作って欲しかった。それは優秀な兄弟を持つものとして、シンパシーを感じたからか。彼に自分を重ねたからか。

 

「私が言うべきことではないかもしれないけど」

 

 どの立場でその言葉を吐くというのか、それでも。

 

「頑張って」

 

 千乃は、ただ一人客席で祈っていた。

 

 

――――――

 

 

 

「3バックだ」

 

 ポジションを決める際、冬希がそう言い放った。その言葉に桜咲が反応する。

 

「3バック……か、だが行けるのか?3バックはサッカー経験者でも困惑することが多いフォーメーションだ」

「初心者だからこそ、ですよ。みんなたいてい4バックから始めるから、それに慣れた選手が困惑する。まだ経験の浅いみんななら、スムーズに陣形を作れるはずです」

 

 その言葉に雲明が考え込み、頷く。

 

「そうだね、3バックでいこう。みんなには難しいことを要求することになるけど」

「でも、ディフェンス3枚で足りるんですか?相手は円堂ハルなんでしょ?」

 

 3バックで行こうと決意はしたが、後ろの手薄さに古道飼が不安の声を挙げる。

 

「だからこそ、3バックなんだよ」

 

 そう言いながら、冬希がホワイトボードを準備する。

 

「一見、後ろが手薄に見えるこの3バック。でも本当は実に守備的なフォーメーションなんだ」

 

 3-6-1で、組まれた陣形。

 

「3バックはこの両ウィングバックが、上下することで4バックにも5バックにもなり得る可変型フォーメーションさ」

「でもさすがに、これをいきなりやってもらうのは難しいからね。冬希がディフェンスの統率をとってもらうことになるよ」

「ああ、基本の動きは俺の指示通りで問題ない。あとはこれから説明する注意事項を守ってくれればいい」

 

 ほんの少し、間をおいて。

 冬希は言い切った。

 

「では、円堂ハルを攻略しようか」

 

 

 

――――――

 

 

      桜咲

     柳生 忍原 

妖士乃 木曽路 古道飼 伊勢谷

    弁天 冬希 雨道

      四川堂

 

 フィールドに入ると、不思議と心が落ち着いてくる。

 先ほどまではハルしか見えていなかった冬希だが、今では会場中を見渡す余裕すらある。

 ふと、観客席に目が着いた。

 

「千乃会長?」

 

 見に来ていたのか、と思うと同時に納得もした。自分が出した条件の行く末を見届けない人ではない。

 

(千乃会長には、かなりお世話になった)

 

 明らかに私欲だとうのに、生徒会への加入を認めてくれた。口では認めないと色々言いながらも、部活を作る上での注意点を教えてくれたのも彼女だった。結局、自分では部の創設には至れなかったが、その恩が消えたわけでは無い。

 

「勝たなきゃな」

 

 勝つ、その気持ちが一層湧いてきた。

 

 

 

 

 舞台は整った。部の創設がかかった試合、南雲原と西ノ宮の因縁。そして、円堂ハルと円堂冬希。

 甲高い笛の音と共に、戦いの火蓋が落とされた。

 

 キックオフは西ノ宮中からだった。

 フォワードは当然、円堂ハル。ボールを持ったまま、攻め上がってくる。

 

『円堂ハルの攻略の基本は、円堂ハルにボールを渡さないこと。しかし、どうしてもハルにボールが渡る場面はある』

 

 例えばキックオフ。どうあがいても円堂ハルにボールが渡ってしまう。

 そうなると、ハルの独壇場が始まる。戦術も何も関係なく、正面を突破してゴールに向かって来る。

 

『俺がセンターバックに入って、守備を統率するので古道飼はボランチをやってほしい。そして、ハルと一番にマッチアップするのはお前だ。古道飼』

『ええ、僕?止められないよ』

『止めようとしなくていいんだ、古道飼の役割はその俊足を活かしてとにかくハルの正面に立ち続けること』

 

 攻め上がってきたハルの前に古道飼が立つ。しかし、取りに向かうわけでは無く一歩引いた状態でシュートコースを塞ぐだけだ。

 

「古道飼!」

「行かせないよっ!」

「へえ」

 

『出来るだけ、ゴールエリアから離れて当たってくれ。そして、ボールを取りに行く必要はない。自分が想像するディフェンスの間合い、それのさらに一歩後ろで立ち続けるんだ』

『そしたらそのまま攻め込まれちゃうんじゃない?』

『攻めさせるのさ、だが古道飼がいる以上自由にとはいかない』

 

 ハルが一歩前に出ると、それに合わせて古道飼が下がる。これを突破しようとすると、無理に前に出る必要がある。突破自体は難しくはない。しかし、その後ろには。

 

「お前がいるってわけだな冬希。この古道飼(2番)に隠れて」

 

 ハルの予想は当たっていた。

 

『ボール奪取は俺が担当する。基本的にボールを持ったハルの攻略は俺が五分で勝てる状態を作ることだな』

『どうやったら五分になるの?』

『読み合いで勝つ。これに尽きるな』

 

 古道飼がマッチアップし、とにかくハルの進路を妨害する。それを躱しに来るか、無理やり突破するか、パスで逃げるか。その選択を正確に見極めることが出来れば、冬希でも行動後の隙を狙うことができる。

 

(そこまでやって五分。あとは俺が神経尖らせて何とかするしかない)

 

 ハルがボールを細かく触りながら、古道飼を横に振ろうとする。

 しかし、古道飼は冬希の言いつけ通り、正面でコースを塞ぐことに専念する。

 ハルもそこで、冬希の狙いに気づく。

 

(ここで俺が無理やり突破したら、この古道飼(2番)後ろから、冬希が取りに来る。俺から見えないってことは冬希からも見えないってことだけど、そこは冬希の得意技が活きるのかな)

 

 桜咲、木曾路との2対2で見せたプレーで意思を伝達する能力。冬希は、その相手に伝える能力だけでなく、読み取る能力も長けている。

 つまり、ハルの行動が見えずとも、冬希には古道飼の体重移動からハルの行動を読み取ることができるのだ。勿論、ハルの思考パターンを分析したが故に出来ることだが。

 

(でも、それは俺がパスを出さない前提での話。冬希はディフェンス陣を指揮することで、俺の突破コースを上手く塞いでいる。俺にパスはないと思っているから)

 

 事実、パスという選択肢はほとんど潰えていた。

 西ノ宮中に急に入った新参者の助っ人。そして監督からは、普段のサッカーではなく、円堂ハルにボールを集めろと指示される。

 不満に思う者も少なくなかった。そのため、ハルに対する積極的なフォローはなく、同時に連携できるかといわれると自信はない。

 

「でも、ちょっとそれは舐めすぎなんじゃない?」

「え?」

 

 ハルが古道飼に呟く。勿論、古道飼に伝える意思はなく、彼を隔てた冬希への言葉だ。

 それと同時に、ボールをワンタッチで前に出し攻勢へと入る。それ合わせて下がる古道飼だが既にボールはハルの足元になかった。

 

「蓮さんをさ」

 

 パスだった。

 

 西ノ宮中のメンバーではなく、唯一ハルの意をくむことができる人員。

 ディフェンス陣を率いて、ハル一人を対応することで五分に持っていく。その計画はパスという選択肢を度外視したものだった。

 これが、西ノ宮中のメンバーであれば、むしろ喜ばしいことだ。そのまま、コースを塞ぎながらプレスをかければボールを取れるのだから。

 だが、パスの先にいるのは月影蓮。雷門中のキャプテンという看板を背負う彼は、ハルほどではないがこの場の強者だ。

 冬希がハルの対応をしている現状、未経験者のみで勝てる相手ではない。

 

「このフィールドは淀んでいるんだよ。俺に対応するためだけに、用意されたフォーメーション。俺の進路を塞ぎ、俺のコースを消す。そんなことすれば、フォーメーションはぐちゃぐちゃになるし、消しきれないスペースが生まれる。そこを突けないほど雷門中のキャプテンっていう看板は軽くない」

 

 ハルは少し呆れたようにため息を吐いた。

 

「俺は油断しないよ冬希。俺のプレーに固執しない。冬希相手ならなおさらな」

 

 ハルは、まだ自分を過小評価しているのかと言いたげだった。

 

(これは冬希の悪癖だ。相手が自分を特別に警戒するだなんてまるで思っちゃいない。お前が凄い奴だって、俺は良く知ってる。だから、確実に点を決める手段を取らせてもらうよ)

 

 このまま、ボールが蓮に渡れば止められない。必殺技で確実にゴールを決めに来る。

 即座にフォローへ入る必要があった。

 

 だというのに。

 

「上がれ!」

 

 冬希は笑って、前線を上げた。

 ハルと蓮を無視して。

 

「何を……!」

 

 それに連動して、他のディフェンスメンバーも上がりラインを押し上げる。

 ハルの横をすり抜けて、まるで最初から示し合わせていたかのように。

 

 そして、蓮に渡るはずだったボールは。

 

「はっ!」

 

 ペナルティエリアを大きく越えて上がってきた()()()がカットした。

 

「何!」

「まじ!キーパー!?」

 

『多分、相手の月影蓮って奴がボールを受けに来ると思います。そしたら四川堂先輩が上がってカットしてください』

『だが、いいのか。ゴールは』

『ハルにしろ、月影蓮にしろ。フリーで打たれたら、その時点で四川堂先輩じゃ止めようがないと思います。それならもう、思い切ってディフェンスに参加しちゃってください』

 

『通じるのは1回きりでしょうが、確実に奇襲がはまります』

 

(さすが、四川堂先輩。こればっかりは先輩じゃなきゃ成り立たなかった!)

 

 キーパーは基本的に、ゴールを空けることに忌避感がある。

 それは当然の話だ。いかに、シュートを打たれた時点で止めようがないとはいえ、ゴールを完全に空けるのはまた別の話だ。

 そして少しでもためらえば、ボールに追いつかないかもしれない。迷いなく、ゴールを飛び出せる人材でしかこの奇襲は成り立たない。

 四川堂は責任感が強く、ルールに厳格。自分の感情を抑えてでも、必要とあれば迷わずゴールを飛び出す胆力を持っている。

 

「何を驚くことがある。父様はゴール前でシュート打ってたんだぞ!」

 

 そんなギリギリの作戦ではあったが、冬希は当然だといわんばかりに笑っていた。

 四川堂からのパスを受け取り、そのまますぐにパスを出す。

 

 メンバー全員が攻め上がり、人数を中央にかける。

 

「ショートパスで確実に繋いでいくんだ!人数は完全にこっちが勝っている」

 

 そして、この作戦の何より良いポイントがハルと蓮を完全に置き去りに出来るという点。主戦力を欠いた相手に、数的優位をとって、カウンターを仕掛ける。理想的な戦況だった。

 

 ディフェンスの基本はスペースを潰すこと。

 しかし、攻めてくるボールホルダーには誰かがプレスをかけなければならない。

 結果として、スペースが空く。そこに、敵選手が入るとそこにパスが生まれる。それに対応すると、別のスペースが空く。

 人数が足りない以上必ず、どこかに穴が開く。

 そこを起点に相手の陣営を崩していく簡単な作業だった。

 

「木曽路!突破だ!」

「はいよ!」

 

 そして、最も効果的に効く場面で必殺技を出す。

 

『分身フェイント』

 

 ディフェンスが反応する間もなかった。

 ディフェンスを抜いた木曽路の視界には、崩れ切った相手の陣形とサイドに開きながらボールを待つ忍原と桜咲がいた。

 

(パス、出し放題じゃん!)

 

 桜咲が相手ディフェンスの後ろを取ったタイミングを見計らって、中央を切り裂くスルーパスを出す。

 止められるものは誰もおらず、抜け出した桜咲にパスが渡る。

 

「決めちゃってください!桜咲先輩!」

「おう!」

 

 ボールに気を集め、空中に浮かばせる。

 ボールは赤く光り、幻想的な桜が降り注ぐ。

 そのボールに全体重をのせて蹴る。

 気がさく裂したかのように、ボールは推進力を伴ってゴールへと向かって行った。

 

『剛の一閃』

 

 「おおぉぉぉぉぉーーーー!『スウェットスティルネス』!」

 

 キーパーが対抗すべく、必殺技で受ける。

 しかし、それでは桜咲のシュートを受け止めるには足りなかった。

 滴る汗に滑るようにボールの勢いに弾き飛ばされる。

 ボールが、ゴールに突き刺さった。

 

「っしゃあっ!」

 

『ゴォォォォォォぉ―――――――ル!なんとなんと!先制点は南雲原中!桜咲の必殺技がゴールに突き刺さったぁ!』

 

南雲原中1ー0西ノ宮中

 

 下馬評を覆し、先制点を取った事実に歓喜を露わにする南雲原中。それに対して、西ノ宮中の表情は暗かった。

 その中で、ただ円堂ハルだけが笑っていた。

 




冬希からメンバーへの印象
笹波雲明
 自分には出来なかったサッカー部創設を成し遂げた凄い奴。

桜咲丈二
 筋肉凄い。やけに自分に優しい。

木曾路兵太
 話しかけてチームの和に入れてくれる良い奴。やけに自分に優しい

忍原来夏
 可愛い。やけに自分に優しい。

柳生駿河
 すかしてるようでいて、結構ノリがいい。やけに自分に優しい。

古道飼亀雄
 サッカーに興味を持ってくれて嬉しい。かなりポテンシャルを感じている。

四川堂我流
 尊敬している。生徒会でお世話になった。

百道唯奈
 謎テクノロジー。普通に仲は良い。

千乃妃花
 何かと面倒を見てもらい感謝している。母親に似ていて実は少し苦手だった。
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