円堂ハルの出涸らし   作:モリブデン42

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なんか、思ったより一試合が長い


西ノ宮中の猛攻!

 円堂家はいつだって、明るく照らされていた。

 一家の長、円堂守は言わずと知れたサッカープレイヤー。その快活さは家でも発揮される。

 そばにいると、思わず笑顔がこぼれる。大きな背中を見るだけで勇気が湧いてくる。

 円堂夏未は、雷門中学理事長を務める仕事人だ。いつも忙しなく、眉をしかめ、気を張っている。しかし、守の前でだけは外では見られない朗らかな表情を見せる。

 一家のヒエラルキーは母が頂点だ。

 基本的に、守が夏未に逆らうことはない。

 しかし、その関係性は守と夏未の長年の付き合いありきのもの。守に口うるさく言う夏未の姿も、むしろその仲の睦まじさを表しているようだった。

 そんな2人の姿を見て、ハルは世の家族とはこういうものなのだと学ぶ。

 そんなひと時に、笑みがこぼれる。

 守が笑い、夏未が微笑み、ハルが苦笑する。

 

 そこにいるだけでぽかぽかとした何かが胸の内に湧き上がってくる。

 

 まるで陽だまりにいるような心地よさだった。

 本当に非の打ち所がない家庭だ。

 

 誰もに尊敬され好かれる父。優秀で冷静沈着、しかし父の無茶に笑って付き合う母。その才能を遺憾なく継いだ長男。

 

 ああ、これがいい。これでいい。これ以上は蛇足だ。間違っても才能のない凡夫など入り込む余地がない。

 

 それならそれでいい、冬希はそう思っていた。

 しかし実際自分はそこにいるわけで、自分がいるだけでその日向に影を差しているような気分だった。

 家を離れたのは、そんな申し訳なさからくるものもあったかもしれない。

 家族の中の誰も評判など気にしていない。彼らがそんなことを思っている訳がないと、冬希自身思っている。

 

 ただ、なんの価値もない人間ではあの家に入り込めない。

 

 贅沢かもしれない。無謀な人間の身の程知らず、そう言われても仕方がない。

 

「それでも、俺はあの陽だまりの中にいたい」

 

 ハルと肩を並べ、戦える存在だと証明する。

 その時、初めて自分はあの家にいていいんだと思える。

 

 そのためなら、何でもする。

 例えこの身が滅びようとも。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 ピィィィィーーーーー!

 

 ホイッスルの音と共に後半戦が始まった。

 ボールは南雲原のキックオフで始まる。トンとセンターサークルでボールを弾く。

 そして桜咲が柳生にボールを下げて、試合を組み立てようとしたとき、違和感を覚える。

 

(なんか、スペースがなくねぇか?)

 

 何はともあれ、まず警戒しなくてはならないのがハルだ。

 死角を突き、ボールを奪いに来る技術。

 その対策はずっと練っている。

 

(やることは単純、互いに声をかけあって円堂ハルの立ち位置を把握すること!)

 

 円堂ハルは死角からボールを奪いに来る。だからこそ、自力でのハルの位置把握を諦め、仲間からの伝達に依存する。

 死角から来ると分かっているなら、タイミングさえつかめば逃げることが出来る。

 柳生をフォローするように、桜咲が第三の目となるのだ。

 

(柳生がボールを持ってるなら、俺が円堂ハルの位置を把握して警戒する)

 

 ボールを受けられるスペースを探しながら柳生の周辺を確認する。

 ハルの位置から、逆に逃げられる方向への位置取りを取れば有利にゲームを進められるのだ。

 

「なんか、おかしくねえか」

 

 違和感、中央の閉塞感もそうだが、それ以上に何か大事なことを見落としている気がする。

 ハルの位置、相手のフォーメーション、密閉したフィールド。

 

(円堂ハルの立ち位置!)

 

 その瞬間、桜咲の全身から血の気が引くような感覚と共に、警鐘が鳴った。

 

「柳生、ボールを回せ!保持するのはあぶねぇ!」

「はあ!?」

 

 ボールを持ち上がろうとしていた柳生に桜咲が警告する。

 

「円堂ハルは死角にいない!真正面から取りに来る!」

「ふん!むしろ来ると分かってるのらいいじゃねえか!」

「そうじゃねえ!奴は……」

「遅いよ」

 

 桜咲の横をハルが通り抜けると、それに追従するように蓮、金星、糸居が駆け上がっていく。

 

「行くよ!」

「サイド切った!」

「コース限定!」

「カバー入る、パスコースチェック」

「糸居、正面だ。横抜けは無視していい」

 

 ハルのプレスに連動して、ハルがプレーしやすいように声をかけあいながら距離感を縮める。

 元来のハルのディフェンススタイルは相手の虚を突き一瞬でボールを奪い去る点の対応、しかし現在のプレーは統率されたディフェンスによる面での制圧。

 ハルを中心に1つの生き物のように連動して、気づけば柳生を追い詰めていた。

 

(クソッ、パスコースねぇ)

 

 それならば突破するしかない、目の前のハルを押しのけて。

 

「甘いよ」

 

 柳生の仕掛ける突破に対してハルは小突くように体を当てた。取る気など感じられない軽いプレス。それが柳生にとっては逆に気持ち悪くて仕方が無かった。

 

「ここ!」

 

 金星が合図を出すと、パスコースを切っていた3人がコースを切りながら接敵してくる。

 3方向からの同時攻撃に、柳生はなすすべなくボールを奪われる。

 

「何が起きてんだ!」

 

 異常事態、その原因は勿論ハルにある。

 

「なんで円堂ハルが連携で取りに来るんだ!?」

 

 元来のプレースタイルとは異なる、連携によるボールの奪取。必殺技を使う間もなくボールを奪われた。

 

「行くよ」

 

 その言葉と共に、ハルはボールを金星へと渡す。

 そのボールを受けて金星が瞠目する。進む足は止めないが、所在なさげにボールを転がしていた。

 

「え?」

「教えてよ、西ノ宮のサッカーって奴を」

 

 ハルがニッと笑う。

 無邪気に、サッカーをしようと。その純真さが伝わってくるようだった。

 それを見ると、意地を張っていた自身が恥ずかしくなってくる。彼はこんなにも向き合ってくれているのに自分は何をやっていたのだろうと。

 金星は呆気にとられながらも、頷くと同時に()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 今度はハルが驚く番だった。しかし、不思議とそれを拒絶だとは思わなかった。

 ボールを通して、金星の意思が伝わってくる。

 

「ここまでお膳立てされた意地を張るほど俺も馬鹿じゃない」

 

 ハルは自分たちに歩み寄ってくれた。すべては勝つためだ。しかし、本来ならばそれは自分の役目。

 勝つために、本来なら自分がまとめないといけなかった。

 チームの司令塔として、勝つために最善を尽くす。そのために必要なのは、ハルに西ノ宮中のサッカーをさせることではない。

 

「ボールホルダーはお前で良い。俺たちがサポートする。お前が自由にプレーできるように」

 

 今度は自分たちが歩み寄る番だ。

 実際、先ほどのディフェンスもハルは自分を抑えてプレーしていた。それは西ノ宮中のサッカーに合わせるが故の弊害。

 勝つためだというのなら、その選択は論外だろう。ハルの力を最大限引き出すことが勝利への近道。

 

(そのために、俺がチームをまとめる)

 

 ハルに合わせてサッカーすることを納得できないメンバーもいるだろう。その気持ちは痛いほどわかる。

 金星もついさっきまでそうだった。どの口で言うのかと、そう思われても仕方ない。しかし、そんな司令塔たる金星だからこそ、チームに指示を出せばきっとついてきてくれる。一番納得していなかった金星が飲み下すところを見れば、一緒にそれを分かち合ってくれるはずだ。

 

 ならば、あとはハルの意思をくみ取ることが重要課題になる。

 

「月影さん、俺たちでハルとチームを繋ぎましょう」

 

 金星の言葉に、蓮が頷く。

 

「ああ、任せろ」

「それじゃあ、行きましょう。名付けて、タクティクス『オフェンスボックス』!」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「なんだそれは」

 

 冬希は思わず言葉を溢した。それほどの衝撃が冬希にはあった。

 まるで嵐のように鮮烈なサッカー。

 

「金星、厚みが欲しい」

「直子、二列目から来てくれ。オーバーラップだ。俺も並行します」

「はは、ナイス!ディフェンスが散った!」

 

 ハルを囲むように蓮と、金星と、糸居がフォーメーションを組む。

 その距離感は無秩序のようで整然としている。ハルをサポートするように、ボールを受けながら相手を引く付けスペースを作り、ハルに返す。

 ハルのしたいことを理解して、能力を引き出せるように道を整える。

 

 しかし、そのためにはハルのしたいことを正確に共有する必要がある。

 

(出来るわけがない!ハルのプレーを共有するなんて!)

 

 天才型のハルは、常人では思いつかないようなプレーをする。

 それを支えるということは、そのプレーを予測しなければ不可能だ。だが、出来るわけがないのだ。

 急造のチーム、信頼関係もない。そんなチームでハルのプレーを支えるなど。

 

「金星、ポストプレイヤーが欲しい」

「糸居さん、お願いします」

「任せろ」

 

 蓮が、金星に、金星がチームに。

 伝言ゲームのように指示を伝えていく。

 

(そういう、ことか!)

 

 そこで冬希はこの連携のカラクリに気づいた。

 

(月影蓮、キーマンはあいつだ!)

 

 現状、西ノ宮中は連携が取れるほどの信頼関係を持ち合わせていない。仮に出来たとしても個人間、チーム全体で意識の共有など不可能だろう。

 だが、唯一ハルと連携が取れている蓮がその間を繋ぐことを出来れば、ハルとの連携の取っ掛かりを掴むことが出来る。

 しかし、当然ながら蓮と西ノ宮中の間にも壁はある。だから、その間には金星が入るのだ。

 

「ディフェンス躱すぞ!パスコース増やせ!」

「学舎!その位置で良い。パスを受ける準備しとけ!」

 

 ハルの周囲で、蓮がハルのプレーを察知し、その要求を金星に伝え、それを叶える適切な采配を金星がチームに伝達する。

 この伝言ゲームのような仕組みで、ハルとの連携を実現させていた。

 

「なんだよ、それ……」

 

 当てつけのつもりか。

 冬希にできることなど、ハルはもっと簡単に出来る。チームとの連携も出来ないのではなく、やらなかっただけ。

 個人技のハルに対抗するための連携など、ハルの気持ち一つで容易く覆る。

 そう言われている気がしてならなかった。

 

「違うだろ、それはハルの使い方じゃない」

 

 ハルとの連携を始めた西ノ宮中の新境地。

 だが、冬希にはそれが脅威には映らなかった。

 

 

――――――

 

 

 

 ボールを繋ぎながら、ハルを中心にボックスを作っている。

 そのボックスの頂点にいる選手たちがハルの手足となって、南雲原を蹂躙していた。

 

「タクティクス、『オフェンスボックス』。円堂ハルを中心に、西ノ宮中を再構成する。情けないが、これが連携するために最善の方法だ」

 

 ハルに頼り切った戦法。しかし、それは金星たちが自我を捨てたという訳じゃない。

 むしろ、今までのプレーを捨ててでも勝ちたいという意思の結晶だった。

 円堂ハルに頼り切るわけじゃない。だが、意地を張っているだけでは勝てない。

 妥協ではなく、決断。

 助っ人だけに勝利を依存するなどあってはならない。そのために自身の役割を見つけ、戦う。

 ハルと蓮を含む西ノ宮中の新しいサッカー。

 

「これが、俺たちのサッカー!」

「いや、甘いって」

 

 そんな連携の合間を縫うように、繋ぐボールを冬希がカットした。

 

「そんなの、ハルのサッカーじゃない。そんなのじゃハルの力は発揮されない」

 

 ボックスの中に単身切込み、ボールを奪っていた。そんな冬希の目には苛立ちが混ざっている。

 

「どんなにくみ取ろうとしても、限界がある。所詮凡人には天才の意図を組むことなんて出来ないんだから。結果的に、連携の分だけハルの思考のスケールを狭めているんだよ」

 

 お前らは黙って、ハルにボールを集めればいい。

 まるでそう言っているようだった。

 

「結局のところ、凡人の思考スケールに落ちてるんだよ。それなら、簡単に隙を突ける」

 

 安心したような表情。しかし、同時に諦観が混じっていた。

 

「ハルについて行くことなんて、誰も出来ないんだからさ」

「そうでもないよ」

 

 ボールを奪取した直後、一息の間もなくハルが冬希に体をぶつける。

 一瞬、動きが硬直した冬希の体に沿うように正面に回る。

 

「冬希はさ、俺の事買いかぶり過ぎじゃないかな」

「ハルこそ、ちゃんと自分の強さを自覚した方が良い」

 

 冬希はハルの連携を度外視した戦術を立てていた。勿論、新参者のハルが西ノ宮中で連携を取れないという理屈ではあったが、それ以前にハルが連携し始めたのなら、戦術など考えずとも対応できるという思いがあったからだ。

 

「ハルが一番強いのは一人でプレーしてる時だ。変に連携に固執すると隙が出来る」

「冬希らしくないね、そりゃ今はそうかもしれないけど。この試合の内に俺たちが成長しないなんてなぜ言えるんだ」

 

 今はまだ、ハルが自分を抑えることで連携を可能としている。しかし、まだこれは一合の出来事。初めての試みに失敗はつきものだ。

 繰り返せば、この試合の内にでもより高度な連携が出来るかもしれない。

 

「俺一人じゃ、可能性は限られてる。けど、チームで戦えばメンバーの数だけ可能性が生まれる」

「言ってろ、そういう天才特有の謙虚さが周囲を殺すんだぞ」

 

 腕を前にかざしながら、強制的に距離感を取る。

 それでも無理やり踏み込もうとしてくるハルを見て、軸足越しにボールを後ろ手に回す。

 それを見た糸居がサイドからボールを奪いに来る。それに対応して、ハルが自身のポジションを移動させた。

 

「ほら、ほころんだぞ」

 

『モグラフェイント』

 

 ボールを地面に押しつぶし、下から通す。技の対象はハルではなく、糸居。

 糸居を抜くことで空いた後ろのスペースに入り込んだ。

 

「スペース発見」

 

 戦術とは強者に勝つための、策だ。

 強者には策を練る必要すらない。相手の戦術など関係なく、能力の高さを押し付けてくるのがハルだった。

 しかし、今ハルは戦術のために自分をセーブしている。

 それでは本末転倒だ。

 

「木曽路、前に運んでくれ!」

 

 空いたスペースに入り込めば、また別の角度からスペースが生まれる。

 それが連鎖すれば、フォーメーションは瓦解していく。

 

「まだだよ!」

 

 木曽路にボールが渡ると同時に、ハルが後方まで途轍もない勢いで下がっていく。

 周囲にボックスを伴ったまま、フィールド中央に人員をぶつけてきた。

 

「『オフェンスボックス』は俺を中心に、フォーメーションを決定する!俺が動いているかぎり、どれだけパスを回そうが関係ない!」

 

 最初のタクティクスは失敗に終わった。しかし、ハルも蓮も西ノ宮中メンバーも誰一人として方針を変えようとは言わなかった。

 

「失敗したっていい!何度でも挑戦して、成功をつかみ取る!取られたなら、取り返す!それが俺たちのサッカーさ!」

 

 ハルを中心に周囲の立ち位置が決まる。蓮が想いを汲み取り、金星が伝えて、各々が判断する。

 

「波状攻撃だ!俺とマッチアップしてるということは、周囲は囲まれてるということ!」

 

 パスの出しどころもない。かと言ってドリブルで突破できるかと言われると自信がない。

 ならば

 

「フォロー!」

 

 後方から冬希がボールを受けに来る。

 今このフィールド上で正確に戦略を理解している冬希だからこそ、フォーメーションのまずさを理解し切り崩しに来る。

 そんなある種の信頼が、ハルにとってのねらい目だった。

 

「そこだよ」

 

 誰が受けに来るのか分かっていれば対応は容易い。

 元来なら、ハルがいたであろう冬希の死角。

 そこからぬるりと現れた金星が木曽路から冬希へのパスをカットした。

 

「な、死角から!それにこれはハルの技術」

「いいね、金星。最高のタイミングだ!」

「行くぞ、円堂ハル」

 

 カットした勢いのまま、ハルにボールを下げる。

 依然として、その周囲には囲うように選手が位置している。

 

「ポスト」

「糸居さん、俺が受けます」

「パス細かくな」

「2列目上げましょう」

 

 ボールを進めるたび、パスを交わすたび、彼らの思考がすり合わされていく。

 

(精度が上がっている!)

 

 言葉数も減っていき、遂には指示がなくとも、各々が役割を見出してくる。

 ハルを活かすため、その能力を殺さないため、各々が必死になってプレーの解像度を上げているのだ。

 

「いいね、行けそうだ。じゃあもっとギア上げるよ!」

 

 自分についてくるメンバーを見て、ハルが嬉しそうに笑みを浮かべる。

 同時に、プレーのレベルを引き上げた。

 

「行かせない!」

 

 ボックスの中に古道飼が侵入した。

 ハルとのマッチアップにはなるが、出来る限り時間を稼ぐしかない。

 サイドハーフが中を締め、冬希が戻ってくる。その段階まで持っていけば、まだ止めようがある。

 

 その様子を見て、金星がハルと並行するようにポジションを上げた。

 パスを受けてワンツー。そんな単純な選択肢が浮かぶ。

 

 チラリと、ハルが金星の方を見た。

 その目を見た瞬間、ゾクリと金星に緊張が走る。

 今までの自身の思考を破棄して、新しくアップデートする。ハルの視線を受けたことが、何よりの刺激となる。

 未だかつないほど、脳が稼働し、自身を新たな境地へと持っていく。

 ハルのプレーはそんなものではない。発想のスケールを上げなければすぐに置いて行かれる。

 ほんの一瞬の間、即座に金星は動き出した。

 

 ハルと、古道飼のマッチアップ。勝敗はどこか見えている。問題はどれほど時間を稼げるか。

 ハルの姿勢が僅かに揺らぐ。

 パスをする、と見せかけて。

 ボールを踏みつけて、僅かに空中に上げる。何かを警戒した古道飼の体の重心が後ろに寄った。

 その瞬間を逃さずに、空中エラシコ。

 アウトサイドで持ち上げながら外に流し、インサイドで折り返す。

 その瞬間、その空中のボールを勢いよく地面に叩きつけた。

 

「え?」

 

 地面をはねたボールは古道飼の頭上を越えて、後方に。ボールはルーズボールになる。

 それを一瞥もせずに、ハルは最終ラインに向かって走り出す。

 

「貰ったよ!」

「ここぉぉぉぉぉ!」

 

 弁天が保持者のいない無防備なボールを回収しようとした瞬間、金星が死角から現れ、体をねじ込ませる同時に反転、ボールを前に送った。

 

「な!」

 

 トリックプレーに続く。それを読んだ連携。

 とても急造チームでできていい連携ではない。それは金星の思考が少しずつハルに追いつきつつあることの証明だった。

 

「ね、言ったでしょ」

 

 ディフェンスを抜けて、ハルは一人でボールを受ける。

 キーパーと一対一。外す道理などなかった。

 

「人はいつだって成長できるんだって」

 

 必殺技すら用いない、単純なシュート。

 しかし、そのシュートは完全に四川堂の虚を突き、ゴールに突き刺さった。

 

 南雲原中2ー3西ノ宮中




月影蓮
(雷門にいる時より楽しそう……)
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