勉強会をする約束をした放課後、サンズは図書館で椎名と共に黙って本を読んでいた。勉強会の約束と言っても、今日はまだ準備もしていないということで、結局明日勉強会をすることになったのだ。そうすると、何もせずただぐーたらしているサンズはやることがなくなり、図書館で暇をつぶしている、というわけだ。なお、勉強会の予定がなくなり、サンズが内心喜んでいたのは秘密である。
「サンズ君、次はこちらの本をどうぞ。」
「おう、ありがとな」
「いえいえ」
今は椎名に本をお勧めされている。口を開くや否や、飛び出してくる本への愛情が籠った言葉の数々。とにかく長い。椎名の本への情熱をとても感じることができる。
「…ですから、ここで主人公が高校生の頃の記憶を引っ張り出して問題を解決した、という流れの作り方が素晴らしいと思うんです!」
「…ああ、そうだな。オイラもそのシーンは結構好きだぜ。伏線が散りばめられているのは分かってたが、それがあのラストシーンに繋がるとは思わなかった。」
「そうですよね!だからこそ、このシーンの彼の言葉が―――」
「よう、邪魔するぜ」
サンズが椎名と楽しく(諸説あり、ってヤツだな)話していると、見知らぬ男がサンズの隣の席にどっかと腰を下ろした。
その男の鋭く吊り上がった瞳は、まるで獲物を値踏みする猛獣のように冷たく光り、相手の内側まで見透かすかのような圧を放っている。
髪は無造作に整えられているが、その乱雑さすら計算されたかのようで、彼の粗暴な気質を象徴している。
制服の着こなしもどこかだらしなく、襟元は少し崩れ、規律という枠に収まる気など微塵も感じさせない。それでもなお、不思議と様になってしまうのは、彼自身が持つ強烈な個性ゆえだ。
口元には、薄く歪んだ笑みが浮かんでいる。それは親しみやすさとは程遠く、むしろ相手を嘲るような、あるいは次の一手を楽しむ捕食者の余裕を感じさせるものだった。
長身で引き締まった体つきは、ただ立っているだけでも威圧感を生み出している。
そして、その男は口を開いた。
「お前が最近ひよりと仲良くしてる県骨って奴か…ククク、思ったよりもボンクラな顔つきだな、おい」
…サンズはここまでの男の発言を聞いて、動揺した素振りもなくニヤニヤしたまま口を開いた。
「あ〜、はじめまして、だな?オイラはサンズ。見ての通りただの…読書家だ。アンタは?」
ある程度推測は出来ていたが、一応名前を聞いておく。
「ククク、俺は龍園翔、Cクラスの…いや、この学校の王になる男だ。覚えておけ。」
…サンズは、心の中でこう思った。
(めちゃくちゃ中二病じゃねえか…)
「めちゃくちゃ中二病じゃねえか…」(まあ、仲良くしようぜ?)
「…あ、やべ」
「……あ?」
空気が一瞬で凍った。龍園の目が細くなる。
周囲の空気がピリつき、龍園が威圧感をサンズに向けている。
椎名が俯いて肩を小さく震わせているのが分かった。恐らく笑っているのだろう。
サンズは――
「……へへ」
悪びれる様子もなく、相変わらずニヤニヤしていた。
「悪い悪い、口が滑った」
まったく悪びれた様子はない。
龍園は数秒、無言でサンズを見つめる。まるで値踏みするように。
「クク……」
やがて、小さく笑った。
「いい度胸してんじゃねえか」
椅子に深く腰掛け、足を組む。
「普通の奴なら、俺の姿を見た上で、今の一言でビビって黙る」
「へー。オイラは普通じゃねえってことか?」
「そういうことだ」
龍園は口元を歪めて笑う。
「それとも――ただのバカか」
「アンタはどっちだと思う?」
サンズは軽く首を傾ける。その態度に、龍園の笑みが深くなる。
「……気に入ったぜ」
椎名が思わずという感じで、「えっ」と小さく声を漏らす。そのあと直ぐに口元を押さえていた。
「俺はな、退屈が嫌いなんだよ」
龍園は机に肘をつき、サンズに顔を近づける。
「ククク…お前は俺の事を少しは楽しませてくれそうだ。」
「そりゃどうも」
サンズは全く動じない。
「で?用件があって来たんだろ?」
あっさり核心を突く。龍園の目がわずかに細くなる。
「クク……話が早えな」
「まあな。手早く済ませてくれよ。暇じゃない…んでな…暇じゃない…よな?本を読むって暇とは言わない…はずだよな…?」
「本を読むことを暇とは言わないと思いますよ。」
「だよな。」
いつもと変わらないおちゃらけているような口調と態度。
龍園は一瞬だけ黙り――再度口を開く。
「単刀直入に言う」
低い声で告げた。
「ひよりに近づくな」
椎名が思わず、不安そうな顔つきになりながらサンズを見る。が、すぐに顔を俯かせた。サンズは一瞬だけ視線を椎名に向け、すぐに戻す。
「……理由は?」
「これからクラス間の争いが始まる。情報が漏洩する可能性もある。お前の存在は、Cクラスにとって、デメリットでしかないんだよ。」
「それが理由か?」
「ああ」
サンズは数秒沈黙する。そして――
「ハハハ」
笑った。
「お断りだ。」
間髪入れない拒否。空気がさらに凍りつく。椎名が驚いたような表情でサンズを見た。
「……あ?」
龍園の声が低くなる。
「オイラはな」
サンズは頬杖をつきながら言う。
「めんどくさいことは嫌いなんだ」
「でもな」
「理由もなく人付き合い制限されるのは、もっと嫌いでな」
言い終えた直後、龍園の目が、明確に『敵』を見る目に変わる。獲物を捕らえる目だ。今からでも、サンズに躊躇いなく襲いかかってきそうな、そんな雰囲気が龍園から溢れ出していた。
「それに、オイラクラスの争いなんて興味ないしな。勝手にやっててくれって感じだぜ。まったく…」
サンズの言葉を聞いた龍園は獰猛な笑みを浮かべた。
「ハッ、それなら俺たちのクラスに来るか?お前だったら歓迎するぜ?」
「ハハハ、お断りだ。アンタ、オイラがそっちのクラスに行ったら、めちゃくちゃ働かせるつもりだろ?面倒くさいのはキライだね。」
この話は終わりだ、と言うかのように、サンズは席を立ち、出口まで歩いていく。その後、龍園に振り向いた。
「アンタ、少しは休んだほうがいいぜ?殴り合ったのか知らないが、結構怪我してるしな。オイラはいつも休んでるぜ。これがホントの『ホネやすめ』…なんつって。」
それを言い終えた瞬間、サンズは図書館を出た。龍園は一瞬面食らったような表情をしていたが、次の瞬間には少し怒りを堪えているような表情をしていた。
「…ひより、これ持っとけ…」
鞄を椎名に無理やり渡す龍園。椎名は慌てて鞄を受け取る。
「えっと…何をするつもりですか?」
「ハッ…決まってんだろ…一発ぶん殴る。」
言い終えると脱兎のごとく図書館を出て、サンズを追いかけていった。なお、ポイントを減らさないように走らずに追いかけているため、その姿は少しシュールなものとなっていた。
取り残された椎名は少しポカンとしていたが、その後満面の笑みを浮かべて、サンズを追いかけていくのだった。
(…私は、もっとサンズ君と本を読める…)
―――その日の夜、サンズはメールで綾小路とやり取りをしていた。
「よう。勉強の調子はどうだ?」
『ぼちぼちってところだな。正直苦労してる。俺は前回のテスト、平均点ギリギリだったからな。次は高得点を目指したいところだ。』
「そうかい。そういや、アンタに渡しておきたいもんがあるんだ。」
『え?それは何だ?』
「へへ、それは明日になってからのお楽しみだ。明日の放課後、Dクラスに向かうから、堀北と一緒に待っててくれ。」
『分かった。楽しみにしてる。』
「あいよ、んじゃな。勉強頑張れよ」
『ああ、頑張る。』
――翌日――
「学センパイから貰った過去問やるよ。あ、多分テストの問題これから全部出題されるぜ。」
「はぁ!?」
…全クラスのテストの点数が大幅にAクラスへと迫ることは、この時はまだ誰も理解していなかった…
――おまけ
Bクラスに過去問を渡しに行った場合――
「よう、一之瀬と愉快な仲間達」
「にゃっ、何かな、サンズ君?」
「「「「誰が愉快な仲間達(ですか)だ!」」」」
「学センパイ…生徒会長から貰った過去問やるよ。あ、多分テストの問題これから全部出題されるぜ。」
「えええええ!?」
「「「「はぁぁぁ!?」」」」
Cクラスの場合―――
「よう、椎名に龍園。」
「こんにちは、サンズ君。」
「要件は何だ?手短に済ませろ。」
「まあまあ、落ち着けよ中二病。」
「ぶっ殺すぞ」
「まあ、待て待て。お前らに学センパイ…生徒会長から貰った過去問やるよ。多分テストの問題ここから全部出題されると思うぜ。なんなら全部一緒かもな。」
「ククク、残念ながらそいつはもう持ってる…と、言いたいところだが、無料でくれるのか?」
「ああ、そうだぜ。」
「クク、丁度いい、手間が省けた。おい、そいつを寄越せ。」
「ほらよ。」
「椎名、確認しろ。」
「は、はい…あれ?」
「「「「「「「「先生に言われたところとテスト範囲が違(います)う!?」」」」」」」」
サンズは誰も退学させないために、こんなことをやってます。これはオマケなので、本編とは関係ないと思ってもらって構いません。皆さんはこの流れ、ほんへに追加したいですか?
特殊能力にペナルティ付ける?
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