大富豪やポーカーで遊びまくった翌日。吉田は猛烈に後悔していた。
「あああああああああ」
「ヨッシー壊れたロボットみたいになってる」
「自業自得ってやつだな。ま、これから取り戻していくしかないんじゃないか?…骨身を削ってな」
「ふふっ。この吉田君も新鮮味があって面白いですね。」
「…あ。」
「飛鳥の一声で止まった!」
声を上げるのはやめたが机に突っ伏している吉田。静かにしたのは正解だっただろう。このクラス全体が勉強に取り組んでいたのだから。吉田の存在は今のAクラスにとって邪魔でしかなかったはずである。
「……なぁ、そんなアンタに良いことを教えてやろう。」
「……え?」
顔を上げ、希望を込めた瞳でサンズを見る吉田。サンズは何かのプリントを親指と人差し指で掴み、ひらひらと吉田の目の前で揺らしていた。
「……あの、サンズ君。それは何ですか?」
気力がない吉田に変わって白石が質問すると、サンズはウィンクしながら説明する。
「これはな、過去問ってやつだ。」
「過去問、ですか」
「けど、それって別にテストまで後1週間くらいで何とかなるものじゃないんじゃない?」
「ハハハ、これはただの過去問じゃないぜ?」
「ただの過去問じゃない……?」
机に突っ伏したままの吉田が、怪訝そうに、けれど縋るような目をサンズに向ける。西川も手元に持っていたシャーペンを指先で弄びながら、サンズがひらひらと揺らすプリントを覗き込んできた。
白石もいつも通りの笑みを称えながらプリントを覗き込む。
「もしかして、今回の試験範囲の問題がたくさん載っているもの……ですか?」
「半分正解で、半分間違いだ。そんなレベルじゃねえよ。」
サンズはニヤニヤとした笑みを崩さないまま、そのプリ
ントを吉田の机の上にぽんと置いた。
「これは次の中間テストの問題の内容と完全に一致してるぜ。まあ、カンニングペーパーってやつだな」
「「「「「「……えええええええ!?」」」」」」
その瞬間、吉田達だけでなく、周囲で聞き耳を立てていたAクラス一同の叫びが教室中に響き渡った。
「……うるせぇ……」
「わ、悪い……け、けどよ!これさえあれば!」
「おっと。そうとは限らないぜ?」
「え?」
「これ、オイラが預かってる分はこれだけだけど……実は、他のクラスの『知り合い』にも同じものを配おっといたからさ。横一線だ。Aクラスがこのまま逃げ切れるかどうかは、アンタらの頑張り次第ってところだぜ?」
「え……他のクラスにも、ですか?」
白石が驚きに目を見開く。サンズがAクラスという枠にこだわっていないことは知っていたが、まさか全クラスに救いの手を差し伸べ、学校側の計画を完全にひっくり返すような真似をするとは思っていなかったのだろう。
(…退学した結果、あのクソニンゲンみたいな性格の奴が出てきても困るだけだしな…)
「…あー…まぁ、そっちのほうがAクラスの実力を示すいい機会になるんじゃないかと思ってな」
「……嘘つけ。今までクラス争いに全く興味がなかった奴が、急にそんな考えになるわけねえだろ……」
「…へへへ」
パチン、とウィンクして誤魔化そうとするサンズ。四人全員がジト目でサンズを見てため息をついた。
「す、すまない!少しいいだろうか!」
「……ん?」
話しかけてきたのは葛城であった。後ろには何人かの葛城派の生徒がいる。
「俺達にも、その問題集を分けてもらえないだろうか!?」
「……理由を聞いてもいいか?」
「サンズ、君が他クラスにプリントを渡したのならば、Bクラスが追いついてきてもおかしくはない。俺は、絶対に差を埋められたくないんだ!Aクラスのために」
「…あ〜…」
「なんだ?まだ渋る理由でもあるのか?」
何故か少し躊躇っているサンズに業を煮やしたのか、葛城が焦り気味に理由を聞く。が、それは聞いてはいけない言葉であった。
サンズは一人の葛城派の生徒に指をさして口を開く。
「……戸塚…だっけか?そいつが、『おい!お前も葛城さんに協力しろよ!従わないんだったら、後から痛い目見るからな!』って言ってきたんだよな。」
「……なっ!?」
葛城が驚愕に目を見開き、勢いよく振り返った。その視線の先にいる戸塚は、一瞬にして顔面を蒼白に染め、目に見えてガタガタと震え始めている。
「と、戸塚……! お前、本当にそんなことを言ったのか!?」
「ち、違います葛城さん! 俺は、俺はただ、葛城さんのために少しでもクラスをまとめようと……っ」
必死に弁明しようとする戸塚だったが、言葉が全く形にならない。それもそのはずだ。サンズの視線が、いつもの眠たげなものから、ほんの一瞬だけ『冷たいナニカ』へと変わったのを、戸塚は正面から浴びてしまったのだから。
サンズは両手をパーカーのポケットに突っ込んだまま、呆れたようにため息をついた。
「へへ、言い訳はよしてくれよ。オイラ、ちゃーんと録音してるんだぜ?ほらな。」
サンズはポケットからボイスレコーダーを取り出し、それを再生する。
『…おい、サンズ!聞いてるのか!?』
『…ん、もっかい言ってくれよ。』
『チッ…葛城さんについてこなかったら、お前は後悔するからな。覚悟しておけよ!まずはお前を退学にさせてやるからな!』
『ほいほい。』
そこで録音は切れた。
「……な?アンタの暴言の記録は、ここに残ってるってわけだ。」
図書室での坂柳との対局、そして先日の不良たちとの一件。サンズにとって、誰かが誰かを脅したり、強制したりする光景は、あの『クソニンゲン』の理不尽な暴挙を思い出させる最も不愉快なノイズだった。
「サンズ君、すまない……! 俺の不徳の致すところだ。まさか俺のあずかり知らぬところで、君に対してそんな不届きな脅迫が行われていたとは……!」
葛城は深く頭を下げた。実直で規律を重んじる彼だからこそ、身内の不正や横暴が許せなかったのだろう。拳を握りしめ、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「……まぁ、アンタが謝ることじゃねえよ、葛城。アンタがそういう理不尽な命令を下すような奴じゃないことくらい、オイラも分かってるさ」
サンズは首を横に振ると、指先でトントンと机を叩いた。
「たださぁ……オイラは何度も言ってる通り、めんどくさいのが大嫌いなんだ。誰かに命令されたり、脅されたりして動くなんてのは、骨が折れるどころか、ソウルが……いや、何でも無い。ともかく、わかるだろ?」
「あ、ああ……本当に申し訳ない……」
「だから、条件だ」
サンズはニヤリと、いつもの不敵な笑みを浮かべた。
「このプリントは、葛城、アンタのグループにもちゃんと分けてやる。」
「っ! 本当か!?」
「ああ。だけど……そこの戸塚サンには、ちょっとした『ペナルティ』を受けてもらうぜ」
サンズの言葉に、戸塚がビクッと肩を跳ね上げる。
「ペ、ペナルティって……何をさせる気だ……!?」
怯える戸塚に向かって、サンズはポケットから一冊の分厚いノートを取り出し、机の上にドサリと置いた。それは昨日、吉田たちが戦慄した、あの『量子力学』の数式がびっしりと書き殴られたサンズ特製の研究ノートだった。
「次のテストまでの2週間、毎日放課後、オイラの研究の手伝い(数式の書き写し)をしてもらう。……もちろん、一文字でも間違えたら最初からやり直しだぜ?」
「ひっ……!?」
ノートの中身をチラリと覗き込んだ戸塚は、人間業とは思えない難解な数式の羅列に、完全に心を折られたような顔をしてへなへなと床に崩れ落ちた。それはある意味、肉体的な暴力よりも凄惨な、精神的虐殺の宣告だった。
「……ふむ。自業自得、というやつですね」
白石がクスッと上品に笑う。吉田も「あいつ、完全に逝ったな……」と憐れみの目を向けつつ、自分がトランプで負けたとき、罰ゲームを受けなかったことに感謝した。
「ありがたい、サンズ。君の寛大な処置に感謝する。戸塚の教育に関しては、俺からも厳しく言っておこう」
葛城は生真面目に一礼すると、サンズから手渡された過去問のプリントを恭しく受け取り、戸塚を引きずるようにして自分の席へと戻っていった。
「はぁ……全く、朝から骨が折れるぜ」
クラス中の視線が集まる中、サンズは大きく欠伸をしながら自分の席に深く腰掛けた。
全クラスに過去問が渡り、Aクラス内でも情報が共有された。学校側が仕掛けた不平等な罠は、これで完全に無意味なものへと形を変えた。
(さて……全員が同じスタートラインに立ったわけだ。あのクソ高いプライドを持ったガキンチョたちが、ここからどう足掻くのか……後ろで見物させてもらうとするかね。へへへ……)
サンズは再び量子力学の本で顔を覆うと、騒がしくなり始めた教室の音をBGM代わりに、心地よい二度寝へと落ちていくのだった。
休み時間。今日は弁当(ホットドッグ)を作っていなかったので、食堂に向かう事にした。
(…数が多い…やっぱ、オイラはニンゲンが多い所は好きじゃないな…てか、このニンゲン達は自炊とかしないのか?せめてDクラスくらいは自炊すれば良いのにな…)
少し心の中で愚痴を言いながら空いている席を見つけてそこに座る。
ラーメンを注文し、器を眺めながら割り箸をパチンと割った。周囲を見渡せば、どこもかしこも生徒たちの熱気と喧騒で満ちている。
(……ま、自炊なんて面倒くさいことを進んでやるのは、オイラみたいに忘れてきた奴か、あるいはよっぽどポイントをケチりたい奴くらいなもんか)
ズズッとスープを口に運んだその時、不意に、すぐ隣の席の椅子が引かれた。
「ここに座ってもいいかな、サンズ君」
「……ん?」
スープを飲み込んで視線を向けると、そこには穏やかな笑みを浮かべたBクラスのリーダー、一之瀬帆波が立っていた。その後ろには、彼女をガードするように柴田や神崎といったBクラスの中心人物たちが、少し硬い表情で控えている。
「よぉ、一之瀬。愉快な仲間たちも一緒か」
「もう、愉快な仲間たちじゃないよって、前も言った気がするんだけどな」
一之瀬は苦笑しながら、トレイを机に置いた。神崎たちが周囲をそれとなく警戒する中、彼女は声を少し潜めて、サンズの目を真っ直ぐに見つめてきた。
「ねえ、サンズ君。……昨日貰ったあのプリントのこと、本当にお礼を言いたくて」
「あー、あれな。ちゃんと役に立ちそうかい?」
「役に立つなんてレベルじゃないよ!星之宮先生に『プリントについて知る権利』を買って確認したら、詳しいことは教えてくれなかったけど、すっごく驚いてた。クラスのみんなも、あれのおかげで完全に自信がついたんだよ!」
一之瀬は本当に嬉しそうに微笑む。しかし、その隣に座った神崎が、鋭い視線をサンズに投げかけた。
「……だが、腑に落ちない。なぜ他クラスの俺たちにまで、あれほどの価値がある情報を無償で渡したんだ? Aクラスの利益だけを考えるなら、秘匿しておくのが当然のはずだ。お前の狙いは何だ?」
(やれやれ、これだから真面目なニンゲンってのは……)
サンズは麺をすすり終え箸を置くと、いつもの締まりのないニヤニヤ顔を浮かべた。
「正直…オイラ、クラス間の争いなんて、どーでもいいんだよ…けど、まあ」
そう言って、サンズはフッと微笑んだ。
「…アンタ達はクソニンゲンじゃない。この学校にいる奴らは違う。オイラはそう思ったんだ。だから、アンタ達の事を信用した。そんだけだ」
…そのサンズの笑顔は、見た者の心を自然と惹きつけてしまうような、どこまでも優しいものだった。
「……信用、か」
神崎はその言葉を噛みしめるように呟き、目を瞑った。
一之瀬の瞳も一瞬だけ大きく揺れ、少し顔を赤くしていたが、すぐにそれまで以上に温かく、輝くような笑顔がその表情に咲いた。
「……うん! ありがとう、サンズ君。そんな風に言ってもらえて、すっごく嬉しいよ」
本当に心の底から感激した様子で、一之瀬はぎゅっと自分の胸元に手を当てる。
「期待を裏切らないためにも、私たちBクラス、全力でこの試験に挑むからね!」
「へへ、そいつは頼もしいねぇ」
サンズが平らげた器を持って立ち上がると、神崎がフッと小さく息を吐き、その表情をわずかに和らげて口を開いた。
「……先ほどは警戒しすぎた。非礼を詫びる。君が俺達を信じてくれたように、俺達も君というニンゲンを信じよう」
「ハハ、堅苦しいのはナシだぜ。じゃ、オイラは一足お先に失礼するよ」
ひらひらと手を振りながら、サンズは食堂の返却口へと歩いて皿を戻す。
一之瀬たちの真っ直ぐな視線を背中に感じながら、サンズは少し考えていた。
(…ニンゲン…か…)
もう、この世界においてサンズはスケルトン…モンスターではない。ニンゲンだ。それを実感させてくれた神崎であった。
(…クソニンゲンみたいにならないようにしないとな…)
まあ、絶対にそうなるわけないが、と考えサンズは苦笑した。
放課後、今日は自習にしようということで、吉田メインの勉強会は開催されなかった。そのため、サンズは何も考えずにただただ校舎を回っていた。
ふと、サンズが一つの教室の前で足を止めた。
(音楽室…か…)
地底世界で生活していたとはいえ、ピアノなど基本的な楽器はサンズでも知っていた。主にガスターが――
『サンズ君!これ、面白い楽器なんだけど―――』
と、定期的にニンゲンの世界で作られた楽器をどこからともなく持ってきて、それをサンズにマスターさせていたからだ。
サンズは自分の音楽へのポテンシャルを知らないが、既にこの世界でトップクラスの実力を持っている。
…合計で2ヶ月ほどしか練習していないのだが。
(…弾いてみるか…)
誰もいない音楽室に入る。鍵は掛かっていなかった。部屋に入ると綺麗なピアノが置いてあった。椅子に座り、蓋を開ける。鍵盤は白く綺麗で、それでいてどこか年季を感じさせた。
そっと指を添え、目を瞑り、何を弾こうか考える。
(…ガスターとの記憶…)
ガスターは趣味で音楽すらも作っていた…最も印象に残った曲、それはガスターが夜遅く、ラボの片隅でパイプオルガンや古い鍵盤楽器に向かって、どこか寂しげに爪弾いていたあの旋律だった。
それは、世界の理やこの地底世界で起こったことをそのまま音に紡いだような、美しくも酷く切ない曲。
その曲のタイトルは―――
『Undertale』
ガスターが作成し、サンズに自慢しまくってきた。曲の一つ。それでいて静かで、美しい旋律。
それが、『Undertale』だった。
サンズは息をそっと吐き出すと、鍵盤の上で指を滑らせた。トーン、と静かに響いた最初の単音が、無人の音楽室の空気を微かに震わせる。
そこからは、驚くほど自然に指が動いた。
2ヶ月しか触っていないというブランクなど、彼の天才的なポテンシャルと、魂に刻まれた記憶の前には何の意味もなさなかった。
重々しく、それでいてガラス細工のように繊細な旋律が、ピアノの箱体を通じて部屋全体に広がっていく。
その光景と音は、芸術でしかなかった。
「…ふぅ…」
どのくらい時間が経ったのだろうか。サンズにはよく分からなかったが、ともかく弾き終わった。
背後で、パチパチパチ、と拍手の音が聞こえた。
「ブラボーだよ、骨ボーイ。」
「…アンタは誰だ?」
「失礼、自己紹介がまだだったね。私は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知りおきを。」
悠然と、彼はそこにいた。
長身の体を椅子へ深く預ける姿には、一切の隙がない。鍛え上げられた身体は制服越しですら分かるほどで、まるで猛獣が人の姿を借りているかのような圧迫感を放っていた。
…サンズにとっては、蚊が飛んでいるほどのものではあったが。
「あ〜…オイラはサンズ。見ての通り…」
「君のことは知っているさ、骨ボーイ」
少し訝しげな顔をしたサンズだったが、すぐに思い当たった。
「オイラがDクラスに綾小路呼びに行った時か?」
「その通りだよ、骨ボーイ」
「覚えてくれてたんだな。光栄だぜ」
高円寺は髪をかき上げると、もう一度サンズへの賛美の言葉を口にした。
「改めて、素晴らしい演奏だったよ。骨ボーイ」
「へへへ、ありがとな」
そう言ってサンズは高円寺にウィンクした。それを気に留める様子もなく、高円寺はサンズに手を差し伸べながら目を瞑る。
「将来が決まっていないのなら、私の会社に来てみるというのは、いかがかな?」
「候補に入れておくことにするぜ」
そんなどうでもいいことを話しながら、二人は帰路についた。
「また演奏を聴かせてくれ。骨ボーイ」
「ハハ。別にいいけど、そんなに良いもんかね?」
サンズの言葉に高円寺は思わず苦笑する。
「…君は、自分の実力について知っておいたほうがいいだろうねぇ。」
「そうかい。考えてみるぜ」
「適当だねぇ」
そんなやりとりをした後、連絡先を交換した高円寺とサンズであった。
なお、音楽室の扉が閉まっていなかったせいでサンズがピアノを弾いた時の美しい音色が校内に響き渡っていたことを、サンズはまだ知らなかった…
曲を何にするのか悩みすぎて1週間経ちました。申し訳ございませんでした。『Undertale』聞いたことがないという方は、是非聞いてみてください。高円寺のキャラ崩壊許してください…
アドバイスお願いします!
他のundertaleキャラを追加するなら?
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パピルス
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フリスク(性格はPルートでGの記憶持ち)
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キャラ(ニンゲンに操られていた善人)
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キャラ(悪人)
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他のキャラ(感想にお願いします!)