時間が経つのは早いもので、このセカイにサンズが訪れてから既に4か月が経過していた。
……期末テストを乗り越えた今、夏休みが始まる……のかと思いきや、サンズ達は今、船に乗って大海原を旅行していた……大袈裟な言い方である。
春の入学式。ポイント制度。中間試験。須藤の暴力事件。そして期末試験。
様々な出来事を乗り越え、季節はいつの間にか真夏へと移り変わっていた。
蝉の鳴き声は日に日に大きくなり、校内には夏休みを待ち望む生徒たちの笑い声が溢れている。
……だが、それは普通の学校ならばの話である。
「今日から夏休みだー!」
と、そんな歓声が響いていたことだろう。
しかし、この学校は違う。
高度育成高等学校。
この学校は、生徒を休ませるほど甘くはなかった。
サンズ達は巨大な豪華客船の中に立っていた。
どこまでも広がる青い海。
眩しいほどの太陽。
潮風が制服を優しく揺らしていく。
「……へぇ」
サンズは船の手すりにもたれながら、小さく笑みを浮かべた。
「なかなか良い景色だな」
「いやあ、まさか学校側がこんなサプライズを用意してくれてたなんてな!」
吉田がケラケラと笑いながらそう言ってくる。サンズ達は今、この豪華客船の中を自由にくつろぎながら歩いていた。設備は充実しており、流石国が関わっている学校と言ったところだろうか。
「そうですね。遊べるところもたくさんありますし、食べ物も美味しいものが揃っています。至れり尽くせり、ですね」
「ねー!それにこの後無人島にある凄いホテルみたいな場所に泊まれるんでしょ!?楽しみー!」
吉田だけでなく、白石と西川まで楽しみにしているようだ。その様子を見て、サンズはいつも通りニヤニヤとした笑顔を浮かべて、その希望を断ち切るかのごとく残酷な事実を伝えた。
「まさか」
サンズは肩をすくめる。
「この学校が、生徒に豪華客船旅行なんてもんをプレゼントするとは思えない」
その瞬間、楽しそうだった三人の顔が一瞬固まった。
「ま、まさかって……え? じゃあ本当に何があるって言うんだよ?」
吉田が引きつった笑みを浮かべながら、サンズの顔を覗き込んできた。西川と白石も楽しげだった表情を一変させ、真剣な目をサンズに向ける。
サンズは一度、海を見た。とても綺麗な水平線が広がっている。サンズにとって、この景色は存外に新鮮だった。サンズは初めて雪を見た時のことをなんとなく思い出した。あの時と似た気分が、今は水平線の向こうに広がっている。
船内にチャイムが鳴り響く。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けますでしょう。繰り返します──』
アナウンスを聞いたサンズは小さく呟く。
「……始まるな」
いや、もう既に始まっているのかもしれない。意義ある景色を見ておけ。それはつまり、恐らくはこの後何かに役立つ要素であるということだろう。
手すりを支えにしながら見えやすい位置に移動しに行く。無人島とは聞いたものの、島の名前や地図などは渡されていない。
そのため、どこの無人島に着くのかは不明であった。
ちなみにこの旅行(笑)が始まる前にサンズは無人島の数を調べてみた。
その結果、この世界には10000個以上の無人島が存在しているらしいため特定は不可能に近いと分かった。つまり諦めたということだ。
「……おいおい、マジかよ」
吉田がゴクリと息を呑み、サンズの視線を追うように海へと目を向けた。
水平線の彼方から、夏の濃い青の中にぽつりと浮かぶ緑の影が、徐々にその輪郭をはっきりとさせていく。
一見すれば、ただの美しい自然豊かな島だ。
しかし、先ほどのアナウンスの含みを持たせた言い回しがその美しさをひどく不気味なものに変えていた。
「『非常に意義ある景色』、ね……」
西川が腕を組み、冷徹な目で島を観察し始める。
「ただの観光なら、わざわざそんな思わせぶりな表現は使わない。島の地形だとか、障害物の形だとか……これらすべてこれから行われる何かの『情報』だと考えろってことかな?」
「流石は西川、察しがいいじゃねえか」
サンズはポケットの中で指を弄びながら、小さく口角を上げた。
「ルールも目的地も教えずに、ただ『景色を見ろ』なんて親切心を出すような学校じゃないからな。これからあの島に放り込まれるんだとしたら、今のうちに外側から形だけでも頭に叩き込んでおけ、ってのが学校側からの最初のヒントってわけだ。まあ、最初で最後のヒントでもあるかもしれないけどな」
「……本当に、この島で試験が始まるのですか?」
白石が近づいてくる島を見つめ、ポツリと呟いた。
いつもなら冗談を言って彼女たちをからかうサンズだったが、今回ばかりはいつもより少しだけ、その青色の目が冷ややかに冴え渡っていた。
……三人から目を逸らし、
「ま、行けば嫌でも分かるさ」
と言った。その時のサンズの目は、一瞬だけ黄色く輝いていた……
―――――――――――――――――――――――――
「おい邪魔だ、どけよ不良品ども」
サンズ達が見えやすい位置へ向かう最中、不快の滲んだ声が空気を貫く。
賑わっていた生徒達の声がすっと、静まった。
どうやらトラブルが発生しているらしい。
こんな時にも何があろうとトラブル。しかも聞き覚えのある声。
……恐らく同じクラスメイトである戸塚だろうとすぐに推測することができた。実際、それを言っていたのは戸塚であった。
その後綾小路が戸塚に押されて手すりに身体を預けていた。
(……あのニンゲン、名前何だったかな……)
サンズは戸塚の名前を忘れてしまっていた。どうでもいい存在だったため記憶から消していたのかもしれない。
……状況を整理する。戸塚が見やすい場所に移動しようとした。だが、そこにはDクラスの何人かがそこにいた。そのため、ちょうど良い位置にいた綾小路を押しのけて見やすい場所を確保しようとした……こんなところだろうか。
……中々にクズである。葛城がいれば注意を、いや、怒声を浴びせただろうが、今ここに葛城はいなかった……
さて、どうしたものか。
不意に後ろからツンツンと背中をつつかれた。森下だ。サンズにとっては関わりたくない相手の一人である。
サンズにとって森下は性格的にめんどくさい相手の一人。その面倒くささで言えば坂柳に匹敵しているまであるのだ。
なので、サンズは森下の存在を無視することに決めた。
「こら、サンズ。こちらを向きなさい」
「うおっ!お前いつからいたんだよ!」
驚く吉田の声が聞こえてくるが無視を貫く。面倒事に巻き込まれるのはもうごめんである。
「……はぁ。しょうがないですね。こうなったら坂柳有栖がサンズ用に特別に用意していたケチャップ1年分を贈呈するしかなさそうです」
「おい森下」
「あなた心変わりが早すぎませんか」
ケチャップというサンズにとって禁断の言葉を出された瞬間、サンズは一瞬で森下へと振り向いた。森下は少し驚いた顔をしていたがいつも通りの無表情へと戻った。
実はサンズは教室でケチャップをそのまま飲むという暴挙をしたことがある。サンズは美味しそうに飲んでいたが、周りは唖然としていた(白石は目を輝かせてサンズを見ていた)。
その様子を見ていた吉田も興味本位でやってみたのだが、すぐに後悔していた。
『高濃度に凝縮された塩分、糖分、そして酸味――そのいずれもが胃と喉にとってはあまりに強烈な刺激となる。三つの刺激が重なり合うとき、身体はそれを容易には受け入れない。胃はもたれ、やがて吐き気すら催すことになるだろう』
……吉田の言葉を一部(大幅に)脚色したものである。単純に言うならば、『サンズ以外は絶対に直接飲むな』ということだ。
つまり、サンズが無類のケチャップ好きであることはAクラス全員が知っている一つの事実であった。
「要件を言ってくれ。手短に、な?」
「簡単です。あそこにいるバカ、葛城康平の金魚の糞の見るに堪えない行動を止めてきてください」
森下はストレートに言い放った。そしてその言葉は近くにいた戸塚にも聞こえる程度の声量はあった。戸塚の肩がピクリと跳ねる。森下の意図をすぐさま理解してサンズも少し声を大きくして話した。
「いや、アイツの『こうどう』を止めることはオイラには無理だぜ?オイラが動いたところでアレは周りに迷惑をかけることしかしないと思うぜ?これがホントの『骨折り損』ってな」
「なるほど。では主である葛城康平を連れてくるしかなさそうですね。アレは自分のことをAクラスだなんだと偉そうにふんぞり返っていますが本当にアレがAクラスほどの実力があると言えるのでしょうか?」
「まったくだぜ。ホントは周りからの信頼を地道に『コツコツ』積み重ねなくちゃいけないよな?」
戸塚の肩がぴくりと震えた。その足がゆっくりと止まり、ぎこちなく振り返る。
鋭い視線が、森下とサンズへ突き刺さった。
「……さっきからよぉ」
低く押し殺した声。
……まあ、威圧感はまったく感じられなかったが。小物の声、と言ったところだろうか
「こっちが反応してなきゃ、好き勝手言いやがって」
周囲の生徒たちも異様な空気を察し、自然と距離を空け始める。
森下は相変わらずの無表情だった。
「ええ。聞こえるように言いましたので」
あまりにも堂々とした返答。その一言に、戸塚の額へ青筋が浮かぶ。
「……テメェ」
「事実を述べただけです。何か間違っていましたか?」
森下は首をわずかに傾げた。
「あなたは葛城康平の指示がなければ何も決められない。今も周囲へ威圧的な態度を取ることでしか、自分の存在価値を示せていないように見えます」
「森下」
サンズがため息交じりに声を掛ける。
「少しは言葉を選べよ」
「選んでいます」
「それでか?」
「はい」
サンズは思わず頭を掻く。この状況を少し楽しんでいる自分に苦笑しながらふっと息をついた。
「……やれやれ」
戸塚は拳を握り締め、一歩踏み出す。
「お前ら……いい度胸してんな」
「おお、アンタ人を褒めることができるんだな。アンタの新しい一面を発見できてオイラは嬉しいぜ?」
「褒めてねえよ!」
「ん?褒めてないのか?それは心外だな。アンタみたいな奴にオイラが貶されるなんてよ」
サンズは戸塚の目の前までゆっくりと歩き、戸塚の肩を軽く叩く。少し驚いている戸塚に向き直り、戸塚にしか聞こえない程度の声で呟いた。
「……なぁ、もし今オイラがアンタのことを突き飛ばしていたらどうなってたと思う?船から落ちて、海まで真っ逆さまだ。」
サンズは相変わらず笑っている。だが、その青い瞳だけは笑っていなかった。
「……っは?」
戸塚は思わず息を呑んだ。
「アンタがさっき綾小路を押したみたいにな」
サンズは軽く肩をすくめる。
「船ってのは陸と違う。足場も揺れるし、手すりの近くならなおさらだ。ほんの少し力が加わるだけで、バランスなんて簡単に崩れる」
「……」
「もし落ちたら?」
サンズは水平線へ目を向けた。
「泳げりゃ助かるかもしれない。けどな、助からない確率のほうが高いぜ?船はすぐには止まれないし、海流だってある。落下の衝撃で気絶するかもしれない」
そこで再び戸塚へ視線を戻す。
「……つまり、アンタがやったことは、運が悪けりゃ誰かを殺しかねない行動だったってことさ」
その言葉に、戸塚の顔が青くなった。自分がやっていたことの重大さを理解したらしい。
周囲で聞いていた生徒たちも、誰一人として口を開かない。今まで「ちょっと押しただけ」としか考えていなかった者も、その言葉でようやく危険性を理解したのだ。
サンズは肩から手を離し、いつもの調子に戻る。
「安心しろよ。オイラはアンタを突き飛ばしたりしないさ」
「……」
「だってオイラは、誰かを海へ落として笑えるような趣味はないんでね」
その一言が、妙に重かった。戸塚は歯を無意識に食いしばっていた。
「……チッ。」
舌打ちだけを残し、サンズから視線を逸らす。
サンズはそれを見届けると、小さく笑った。
「ほら、今みたいに一歩引くだけで誰もケガしない。簡単な話だろ?」
「……」
周囲には、DクラスだけでなくBクラスやCクラスの生徒たちまで集まり始めていた。
誰もが、この一連のやり取りを見ている。やがて戸塚は乱暴に鼻を鳴らし、
「……覚えてろよ…!」
そう吐き捨てると、人混みをかき分けて歩き去っていった……ただの敗走である。
「……三流の悪役みたいだな?」
振り返ってウィンクする。吉田は思わず笑いをこらえていたようだった。
サンズは女子……一度見たことがあるが、名前は忘れた……に支えられている綾小路へと近づき、声をかけた。正確にはDクラスの面々ではあるが。
「よう。悪かった。うちのバカが迷惑をかけてよ。綾小路も怪我しかけちまった」
「……気にしなくていいぞ。別に怪我はしてない。見ろ、元気ピンピンだ」
立ち上がってジャンプする綾小路。思わず周りからは安堵の笑みが溢れていた。サンズもそんな綾小路を見て苦笑する。
「……おいおい、船でやるのは危険だぜ。揺れてるしな。オイラだったらコケて『骨折』しちまうぜ?」
サンズが軽口を叩いた。その直後――
『生徒の皆様。まもなく全学級を対象とした説明を開始いたします。速やかに指定された集合場所へお集まりください』
…アナウンスが鳴る。後ろを振り返ると、森下を含む全員が覚悟の決まったような顔をしていた。やる気は十分のようだ。
「ハハハ……勘弁してほしいぜ……」
苦笑しながらサンズは自分の予想が外れているように祈った……神なんているわけがないと思いながら……
―――
……無人島に到着した。結論から言うと、サンズの予想は見事に的中してしまった。これから、この無人島でクラス対抗のサバイバル試験が始まるらしい。
(……おいおいマジかよ。ケチャップ持ち込むのも駄目なのか?センセイは頭狂ってるんじゃないのか?)
……サンズはショックを受けており、先生の話を全く聞いていなかった。そのせいで真嶋から話されている今回の特別試験のルールを理解していなかった。まあ、この後パンフレットが配られたのでセーフなのだが。
「……帰りたい……」
サンズは空に向かってそう呟いた……
……ぼーっとしていた時、白石、吉田、西川から肩を揺すられてハッと意識を戻した。そして話している先生の方向に向き直る。
「リーダーは次の点呼までに決めてくれ。その際、リーダーとなった人間にキーカードを渡す。カードには、リーダーの名前が刻印されることとなっている」
「……おい、サンズ。お前リーダーになれば良いんじゃないか?」
吉田が唐突にそう言った。その後、白石と西川に同意を求めると、2人とも納得したような表情で頷いていた。
「そうですね。サンズ君がリーダーになったほうがこの試験では勝ちやすいと思います。確かにサンズ君は目立ちますが、それを補うほどの采配力がサンズ君にはある」
「相手も逆にサンズ君は目立ちすぎて、リーダーじゃないんじゃないか、とか思っちゃいそうだしね〜」
うんうんと頷いている。サンズはそんな三人を見ながらいつも通りのニヤニヤとした笑顔を浮かべて言った。
「……すまん、今何の話してたんだ?センセイの話聞いてなくてな」
三人は一斉に固まった。
「……」
「……」
「……」
「「聞いてなかったの(かよ)!?」」
吉田と西川の声が見事に重なる。周囲の何人かも思わずこちらを振り返っていた。
「いやぁ……」
サンズは後頭部をぽりぽりとかく。
「ケチャップ持ち込み禁止って聞いたあたりから、頭ん中が真っ白になっちまってな」
「そこかよ!?」
吉田が思わずツッコミを入れる。
「普通は試験内容だろうが!」
「いや、オイラにとっちゃ死活問題なんだ。」
真顔で返され、吉田は言葉を失った。西川は額に手を当て、小さくため息をつく。
「……はぁ、サンズ君らしいといえばらしいんだけどさ、先生の話くらいはもう少し真面目に聞いたほうが良いと思うよ?」
「……出来るだけ前向きに検討して善処するぜ」
「絶対しないやつじゃねえか」
思わず吉田が突っ込んだ。白石がいつの間にか取ってきたパンフレットをサンズに見せる。
「どうぞサンズ君。ここにルールが書いてありますよ」
「おー、サンキュな白石」
パンフレットをパラパラと捲っていく。最後のページも読み終えた……速読にもほどがあるほどのスピードだった。
「……なるほどな。つまり、ポイントをできるだけ節約して生活しながら、相手のリーダーを当てて、こっちは当てられないようにすればいい。そういう事だな?」
「お前ホントに先生の話聞いてなかったのか?」
ただパンフレットを読んだだけとは思えないサンズのルールの理解度に思わず吉田は舌を巻く。白石は少し楽しそうに笑っていた。
「……まあ、細かいところを挙げればもっとあるとは思うが、とりあえずオイラがリーダーをやることはないだろうな」
「……一応聞いておくぞ。何でだよ」
「めんどくさいから」
「でしょうね!」
三人はサンズの性格を理解している。つまり、サンズが面倒くさがってリーダーを拒否する事を予測した上で、一応ダメ元で聞いてみただけだ。
「ふふふ、サンズ君らしいです」
「ね。サンズ君はこういう状況でもブレないよねぇ」
「……こいつが焦った所一回も見たことないな……」
そんな話をしていると、リーダーへの立候補者が現れたようだ。戸塚である。
「……人選ミスか?」
そのサンズの呟きに周囲の人間は思わず吹き出した。実際周りもそう思っていたからである。特に坂柳派の生徒は戸塚がリーダーになることを良くは思っていなかっただろう。
「……分かった。他にリーダーをやりたいという者は居るか?推薦でもいいぞ」
葛城がそう言った直後、吉田と西川がほぼ同時に手を挙げて口を開いた。
「「はい!サンズが良いと思います!」」
「おい、オイラはやらないって言ったよな?」
サンズは笑いながらも素早く否定した。面倒事の中心に自分から立つなど、死んでもごめんである。
……まあ、実際サンズは地下世界で何度も死んでいるのだが。
「……サンズ……またお前か……」
こちらを見つめてくる戸塚。その瞳には敵意が隠しきれないほどに溢れ出していた。
……サンズにとってはその敵意がとても生ぬるいものに感じられた。
「……オイラから言っておくぜ。オイラは、リーダーを絶対にやらないからな」
その瞬間、周囲の視線が一斉にサンズへと集まった。
当の本人だけが、どこ吹く風といった様子で頭を掻いていた。両手を軽く横に振り、やる意思がないことを示す。
「オイラには無理だ。こういう責任ある役職は骨が折れるんでね。そこの戸塚にリーダーをやらせたほうが良いと思うぜ?」
サンズが言った瞬間、戸塚は葛城の方をパッと向き、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「葛城さん!アイツもこう言ってます!俺に任せておいてください!」
「……」
葛城は黙って腕を組み、サンズの方をじっと見つめていた。葛城としても、クラスの中で中立な存在であり非常に頭が切れる存在であるサンズがリーダーになって欲しいと考えていた。
だが、今サンズ本人がそれを否定したことにより、立候補者の戸塚に任せる流れになっている。
戸塚への信頼がないわけではない。だが、自身の絶対的な味方である戸塚よりも、得体の知れないサンズという存在のほうが葛城としては信頼できていた。だが、こうなってしまうと戸塚に任せる他ない。
「……サンズ、本当にいいのか?」
「ああ。構わないぜ」
最終確認を取るが、間髪入れずに否定された。この時点で、戸塚に託すことを葛城はケツイした。
「……分かった、戸塚。任せてもいいだろうか」
「っ!はい!」
戸塚は笑顔で頷いた。その傍ら、クラスの雰囲気は余りよろしくはない。少し酷い言い方ではあるが、戸塚はAクラス内での信頼を余り集めることができていない。
戸塚をリーダーにさせることに、不満を感じる人数はかなり多いだろう。
「……それでは、ベースキャンプを確保しに行く」
葛城の一言で移動が始まった。
―――
葛城の先導のもと、Aクラスの面々は熱気と湿気が立ち込める密林を静かに進んでいた。
巨木と草木が鬱蒼と生い茂る森の先、崖の切り立った岩肌にぽっかりと開いた大きな穴――それが彼らの選んだベースキャンプ地、洞窟だった。
……どこからどう見ても人工的な物ではあったが。
戸塚がカードキーをかざし、とりあえずスポットを一つ獲得することに成功した。
……Aクラスはこれから基本的にここを拠点として活動することになるだろう。
サンズは洞窟に入ることなく空を見上げた。青々とした美しい空。だが、サンズの瞳はどこか遠いところへと向いていた。それが何なのかは、誰にも分からない……
(……雨振りそうだなぁ……)
サンズは心の中でそう呟き、ため息をついた。
……サバイバルなど、したくなかった。だが、始まってしまったからにはしょうがない。必要最低限のことはやってやろう。そうケツイしたその時……
茂みから、何かの気配がした。
サンズはニヤリと笑って振り向くことなく言った。
「よう厨二病」
「ハハハ、殺すぞテメエ」
背後にいたのは、龍園であった。
……これを機に、無人島試験はさらなる混乱を極めていく……
……サンズにとっては、どうでもいいことだが……
「……まあ、なるようになるか」
そう薄く笑い、もう一度青々とした空を眺めた……
投稿が遅れて申し訳ございません。なんとか隙間時間に書いていきますが、仕事の問題で少し書きづらくなるかもしれません。それと参考にしたいのでコメントをいっぱいください。お願いいたします。