無人島試験が終わってから数日。サンズは一人でぶらぶらと船内の中を散歩していた。誰かと話す気にもなれなかったが、こちらをチラチラと見てくる視線がとても鬱陶しかった。
静かな場所に行こう。そうケツイしてサンズは歩き出した。
―――
「……こんなとこに書店があったとは……」
サンズは静かな場所……すなわち、人気のない書店に移動していた。カフェのような形をしている本屋で、少し狭めなのがサンズにとっては好みの場所だった。
……まるでちらかっている自分の部屋のようだと思ったのは秘密である。
適当に近くの席に腰を下ろし、大きくため息をつく。ここにはほとんど人がいないため、多少リラックスできる場所となっていた。
……さて、何を読もうか。
本棚を眺めていると、ふと一冊の本が目に入った。表紙には一人の少年に何人かが腕を伸ばしている絵が描かれていた。
「……へぇ」
適当に手に取って、ぱらぱらとページをめくる。
……つまらない。だが、今は特にやることもない……仕方ない、これを読むことにしようか。
そう思いながら、再び椅子に深く腰掛けた。
―――
「……あれ?」
不意に、入り口の方から声が聞こえた。
……誰か来たのか。
気にせず本を読み続けていると、足音がゆっくりと近づいてくる。
「……サンズ君ですか?」
……ああ、聞き覚えのある声だ。
「……ん? おお、椎名か」
顔を上げると、そこには椎名ひよりが立っていた。
彼女は少し驚いたように目を丸くして、それから柔らかく微笑んだ。
「こんなところで会うなんて、偶然ですね」
「そうだな。オイラもこんなとこでアンタと会うとは思わなかったぜ」
「ふふっ。私、船の中を歩いていたら見つけたんです。ここ、静かで落ち着きますよね」
「ああ。人が少ないってのはいいもんだぜ」
そう言って、サンズは再び本へと視線を戻した。
……これで会話は終わり。そう思っていたのだが……
「……隣、座ってもいいですか?」
「……ああ、構わないぜ」
ウィンクしながら短く答える。椎名は小さく頷き、サンズの隣の席に腰を下ろした。手に持っていた本をテーブルに置くと、彼女も静かにページを開く。
……しばらくの間、二人の間に会話はなかった。聞こえるのは、ページをめくる音だけ。
……悪くない時間だ。
……一人ならばなおさら良かっただろうが……
―――
「……サンズくんは、どんな本を読んでいるんですか?」
しばらくして、椎名がこちらを覗き込むようにして尋ねてきた。
「ん? これかい?」
サンズは本の表紙を軽く持ち上げて見せた。
「……適当に選んだだけだぜ。面白そうだったからな」
嘘だ。サンズにとっては面白そうな本とは量子力学など、常人が理解できない本である。だが、特にやることもなかったため、適当に選んだだけだった。
そのため、とてもつまらない小説を読んでいる。
「そうなんですね。私も表紙が気になって選ぶことがあります」
「ハハハ。それがハズレだったりする時もあるけどな」
「ふふっ、そうですね。でも、思いがけず面白い本に出会えることもありますから」
「ハハ。ま、そうかもな」
サンズは本を閉じ、表紙をもう一度眺めた。
……思いがけず、か。この世界に来たことも、ある意味じゃそんなもんかもしれない。
……いや、そんな軽い話でもないが。
「……サンズくん?」
「……ん、何だ?」
「その、少し疲れているように見えたので」
椎名の声は、いつも通り穏やかだった。
「……そうかい?」
「はい。何かあったんですか?」
……さて、どう答えたものか。
「……人が多いところはどうにも苦手でな。注目を浴びるってのは嫌なもんだぜ」
「そうなんですね」
椎名はそれ以上、深く尋ねることはしなかった。ただ、少しだけ微笑んで。
「……ここなら、ゆっくりできますね」
そう言っただけだった。椎名はサンズに深く詮索しようとしてこない。その距離感がありがたかった。
「ああ。そうだな」
サンズは再び本を開いた。
……今は、これくらいがちょうどいい。
静かな本屋で、二人はまた読書を始めた。
―――
1時間後。少し喉が渇き始めたということで、サンズと椎名は飲み物を注文した。
温かいコーヒーが届く。それをサンズは飲んだ。この苦味がとても心地良い。椎名もコーヒーを頼んで飲んでいたが、顔を少しだけしかめて直ぐに砂糖とミルクを入れていた。
「ハハハ、苦かったのか?」
「……うぅ……」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、椎名は照れたように微笑んだ。
「……そうですね。苦いのは少し苦手です。サンズ君の真似をして飲んでみようと思ったのですが……」
「いつもはコーヒー飲まないのか?慣れたら美味いぜ?良い効果もあるしな」
サンズがそう言うと椎名が少し興味深そうに尋ねてきた。
「えっ、どんな効果があるんですか?」
そう尋ねられたサンズはまたニヤリと笑ってこう言った。
「大人になった気分になれるぜ?」
椎名はきょとんとした顔を作り、すぐに小さく笑った。
「サンズ君らしい理由ですね」
「褒め言葉として受け取っとくぜ」
椎名はカップを両手で包むように持ち、湯気をぼんやりと見つめていた。
「……サンズ君は、いつも眠そうにしていますよね」
「怠けるのは得意だぜ?『骨』の髄まで怠け者ってことさ。ハハハ」
「でも、今日は少し違う気がします」
サンズは本のページをめくる手を止めた。
「……何がだ?」
「いつもの眠そうな感じとは、少し違う気がして。うまく言えないんですけど」
椎名はそう言いながら、少し困ったように微笑んで、少し俯いた。
「気のせいだったらすみません。けど、ここで何も言わなかったら、これ以上関係が発展しない気がして……」
サンズは一瞬椎名の顔を見た。俯いていた椎名には見えない、冷たい瞳で。それから、いつも通りの軽い調子で肩をすくめる。
「……気のせいだろ。オイラはいつも通りだぜ」
「そうですか」
椎名はそれ以上追及してこなかった。ただ、コーヒーに口をつけて、今度は顔をしかめずに飲み込んだ。
「……あ、少し飲みやすくなってきました」
「ほら見ろ。慣れるって言っただろ」
「ふふっ、本当ですね」
「砂糖とミルク入れたからってのもあるだろうけどな」
窓の外では、海がゆっくりと後ろへ流れていく。船はもう戻る道を辿っているようだ。
(……速く帰りたい……)
サンズはそんなことを思いながら、再び本のページに目を落とした。しかし、現実は無常であり、帰るのにまだ後二週間はかかりそうだった。
―――
二人で本を読んでいると、唐突に携帯が鳴った。内容を確認してみると、白石達からのお誘いのようだ。お疲れ会をしようとのことらしい。
(……パス……)
をメールで送ろうとすると、すかさずあちら側からメールが飛んできた。
『皆待っていますので。サンズ君が来なかったら、今日はお開きになりますよ。せっかく準備をしたのですが、来ないのなら仕方ありませんよね。ああ、ケチャップも何本か買ったのですが、仕方ありませんね』
……逃げ道を潰してきた。
もう少し本を読んでいたかった……否、もっとダラダラしていたかった。が、仕方ない。コーヒーを飲み干し、本を棚にしまって立ち上がる。
「サンズ君、もう戻るのですか?」
「ああ。んじゃ、またな。次は試験で、な?」
「……えっ?」
未練など微塵も感じる様子もなく、サンズは椎名に手をひらひらと向けて店外へと出た。その時椎名が少し悲しそうな顔をしていたのは言うまでもない。
……それと、少し驚いた顔もしていたのだが、サンズにはどちらも知る由もなかった。まあ、本人が知ったところで「だから何だ」と言うだけだとは思うが。
―――
のんびりと目的地へと向かっていくと、なにやら視線を感じた。まあ、この船で生活しているならばいつも通りの視線なのだが、今回に限っては少し違いそうだ。……観察……いや、監視されている。
(……あそこか)
サンズは後ろ側を振り向いて、気配を消しながら目的地へと歩いていく。場所は右にある自動販売機……の裏側だ。
足音を立てずに、ゆっくりと進んでいく。
「……よう」
「…………えっ?」
そこには、同じクラスの山村美紀が座っていた。
「………………」
「………………」
互いに無言の時間が続く。しかし、様子は変化していった。サンズはいつも通りのニヤニヤとした笑顔を浮かべている。一方山村はだんだんと顔を赤くし涙目になりつつあった。
「……あ、あの……! サンズ、君……!?」
「なんだい?」
山村はこちらを見るが、顔をすぐさまそむけた。そして自販機の更に奥に隠れてしまった。
(……なんだこれ)
尾行にしてはあまりにもお粗末だった。確かに、他のニンゲンよりはマシだったかもしれない。
だが、サンズにとってはそんなものは誤差である。気配が少しでもあるニンゲンの姿を捉えることなど造作もない。パピルスと一緒にやった子供向けのパズルよりも簡単だ。
例え、相手がどれだけ気配の薄いニンゲンだったとしても、だ。
(……もう良いか……)
「……あー……んじゃな」
サンズは山村から興味を失ったようで、自販機から視線を外して目的地へと向かおうとした。
「……あ、あの……き、聞かないんですか?」
意外にも、山村から話しかけてきた。めんどくさいが、少しは相手をしてやろう。
「ん?何がだ?」
「い、いえ。その……」
「アンタがオイラを尾行してきたことか?」
「!?」
山村は見ているこちらが驚くほどにびっくりした顔をしていた。その反応こそが尾行をしていた証拠になり得るものだろう。
……尾行をしてきた理由は大体想像がつくが……大方、坂柳がナニカ命令をしたのだろう。そう、例えば……
「オイラが坂柳に何かしら影響を及ぼさないか調べてた。それか、オイラの弱みを握るために尾行してたってとこか?」
「もっと言うなら、そうだな。弱みを握って脅すために、この船にオイラがいる間は尾行しろ、そういう命令……いや、『お願い』か?」
……山村は口をパクパクさせていた。何か言おうとしている。だが、言葉がでない。結果的にはそれは正解だった。言えば言うほどボロを出し、サンズに更に情報を握らせることを可能にしてしまうからだ。
……まあ、既に推測できる証拠はたんまりとあるのだが。例えば、日常生活での監視。学校でも山村はサンズを尾行していた。今までは気にするようなものでもないと思って無視していたのだが、それは今日繋がった。
ちなみに、山村は意図的に声を出さなかった訳ではない。ただ驚いて声が出なかっただけである。サンズの推測が全て当たっていたからだ。それも、恐ろしいほどの精度で。
そんな山村の様子を見て、サンズは良いことを思いついたかのようにニヤリと笑った。
「なあ、アンタも来いよ」
「……へ?」
─────────
それからしばらくして。サンズは指定された場所―――カラオケのような個室―――で白石、西川、吉田、そして何故か森下の4人と共に遊んでいた。
……訂正。山村を入れると5人となる。
サンズが山村を連れてきた時は、特に誰も拒否する様子もなく、ただ不思議そうに見つめていた。だが、サンズが連れてきたのだから大丈夫だ、と特に疑問もなく全員山村を受け入れてくれていた。
……この時点でサンズへの信頼度がとても高い事が山村には伺えた。
「……オイラはアンタが居ることの方が違和感強いんだけどな」
「はい?」
思わずサンズは森下に話しかけた。何故こいつが居るのか。『コレ』がいるだけで疲れが更に上がるというのに。
「ふっふっふ。良くぞ聞いてくれましたね、県骨サンズ」
……わざわざフルネームで呼ぶあたり、面倒くささが容易に想像できた。
「それは───」
「ああ、言わんでいい」
自分から防ぎに行ったが、もう遅かった。コレは聞いてなくても勝手に喋ってくるような、例えるならば『縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑』のような奴だからだ。
「私が勝手についていっただけですよ。私は悪くありません。むしろ、私と遊ぶことを許可した白石飛鳥にこそ責任があると思われます」
「責任転嫁がすごいな」
白石を見る。ニコニコと微笑んでいた……どんな心境なのだろうか。愉快だと思っているのかもしれない。
「それに、随分とシンプルな理由だな。アンタらしくない。アンタはもっとおかしな理由でここにいるはずだ」
「失礼な言い方ですね。まるで私が変人であるかのような物言いです」
「実際そうだろ」
「わー。ぐさっと来ました。これは慰謝料を払ってもらう必要がありそうですね。サンズの命で勘弁してあげましょう」
「アンタこの一連の流れ全部真顔で言えんの尊敬するぜ」
「当然のことです。ですが、私の心はとても傷つきました。完治は不可能ですね。悲しいです。よよよ」
「ハハハ。全部棒読みだぞ。まるで力が入ってないな。カルシウムでも取って、『骨』のある声にしな」
「『ハリ』のある声では?」
しばらく森下と話したが、生産性をまったく感じられなかったため途中で中断した。ケチャップを飲む。
……素晴らしい味わいだった……らしい。
そのまま楽しく(?)遊んでいると、唐突に全員の携帯から音が鳴り響いた。学校からのメールだ。
……どうやら、楽しい時間はもう終わるようだ。
──────
……その後、名前も知らぬAクラスの誰かと共に指定された部屋に行き、今回の特別試験のルールを聞いた……
優待者に選ばれる法則を理解すること。それが、今回の特別試験の内容だった。……少なくともサンズにはそう解釈できた。
……まあ、法則を解明しようとも思わないが。
……今回は、動かないことにした……
────
side ??????
……彼の手が、ない。
いつも振り向いたら差し伸べてくれた、彼の腕が、ない
……彼の、存在が、消えた。
……この世界からサンズが……
いなくなった。
……もう、私は……
頑張れないかもしれない
心がすり減っていくのを感じる……
ああ、もう……
この破壊衝動に身を任せてしまおうか……
……?
見たことない場所にドアがある……
……もう、どうでもいい。
ドアを開けた瞬間……
私の意識が闇に落ちて行くのを感じた……
……彼に……会いたい……自由になりたいなどと……
そんな、甘えた考えを脳裏に巡らせながら……
……私は──────
意識を失った。
勘違いしそうな人がいるかもしれないのですが、この物語のサンズは綾小路のように感情がないわけではありません。今の所感情を表に出すのに値する人物が一人もいないだけです。
皆さんの好きな曲教えてください
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Megalovania
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夢と希望
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undertale
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save the world
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アズゴア
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本物のヒーローとの戦い
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華麗なる死闘
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その他(感想欄にお願いします)