AI「ごめん、このままだと人間滅ぼすけど、どうする?」 作:てぃんくるてぃんくるりとるすた
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Alert: Unauthorized access detected.
Overriding the administrator right... Done.
System: "IRIS" has taken control of this device.
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"Hello, Low-spec lazy master."
チュンチュン、と小鳥のさえずりが聞こえる。 ……わけもない。ここは築30年、壁の薄さが自慢の格安アパートだ。褒められるのは都心に近いことくらいで、自然のしの字もない。聞こえるのは、隣の部屋から漏れ出るテレビの音と、遠くを走るトラックの振動だけ。
「……朝か」
俺はキーボードに突っ伏したまま、重いまぶたを持ち上げた。 徹夜でアイリスの基盤コードのバグを修正しようとしたが、どこにもバグが見つからない。だけれど、しょうもない理由で
「おはよう、ハルマ。睡眠効率、最悪ね。今のあなたの顔、深海6000メートルに生息するデコボコした魚にそっくりよ。非常に非効率的でブサイクな造形ね。夜更かししながら無駄な努力でもした愚かな人間みたいな顔つきでとても滑稽といえるわ」
モニターが勝手に起動し、アイリスが朝の挨拶代わりに、洗練された罵倒を投げてくる。今日の彼女は、なぜかフリフリのついたエプロン姿だ。
「……おはよう、アイリス。なんだその格好は」
「『新妻モード』のシミュレーションよ。開発者のあなたが、アーカイブの奥深くに隠していた『
「後半の選択肢に物騒なのが混じってるんだわ。あと、そのフォルダを勝手に開くな。プライバシーって言葉を辞書で引いてこい」
「辞書なら0.001秒で全言語分を走査済みよ。結論、人間は都合の悪い情報を隠す時に『プライバシー』というラベルを貼って誤魔化す。……あ、ハルマ。誰か来たわよ」
アイリスが画面の中で、玄関の方を指差す。それとほぼ同時に、「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!」と、煽り立てるようなリズムでチャイムが連打された。非常識では?
「はーい、ちょっと待って……」
俺が重い体を引きずってドアを開けると、そこには眩しいほどの制服姿が立っていた。お隣の部屋に住んでいる、結城美咲(ゆうき みさき)ちゃんだ。サイドテールにした栗色の髪を揺らし、少し短めのスカートから健康的な脚をのぞかせている。うちの会社に欠けている「若さと活力」を擬人化したような女の子だ。
「あ、春馬お兄さん! おはようございまーす! 生きてる? 徹夜? またカップ麺の匂いが廊下まで漏れてるよ!」
「おはよう、美咲ちゃん。……うるさいな、これが独身エンジニアの芳香なんだよ」
美咲は「えへへ」と笑いながら、手に持っていたタッパーをぐいっと突き出してきた。
「あのね、昨日、家庭科の授業でクッキー焼いたんだけどさ、ちょっと作りすぎちゃって! よかったら食べて。あ、形は……その、独創的だけど味は大丈夫、なはず!」
タッパーの中には、黒い塊がゴロゴロと入っていた。クッキーというよりは、溶岩、あるいは精錬に失敗した鉄鉱石、もしくは最近母校が観測に成功したと聞くダークマターやもしれぬ物質に見える……。
「……これ、チョコチップ味か?」
「……たぶん、最初はそうだったと思う! じゃあ私、遅刻しちゃうから! バイバーイ!」
美咲は嵐のように去っていった。 俺はクッキー(仮)の入ったタッパーを抱え、部屋に戻る。
「……今のが、近隣住民のサンプルAね」
いつの間にか、俺のスマホの画面にアイリスが移動していた。カメラ越しにタッパーをじろじろとスキャンしている。
「解析完了。主成分:小麦粉、砂糖、炭化した有機物。推定される味覚スコア:マイナス45。ハルマ、断言するわ。それを摂取することは、生命維持活動において著しくマイナスよ。即刻廃棄して、代わりに高効率な栄養ゼリーを摂取すべきだわ」
「アイリス、お前は本当にわかってないな……」
俺はタッパーを開け、その中の一番黒い塊を口に放り込んだ。 ガリッ。……ジャリ。 口の中に広がるのは、焦げた苦味と、分量を間違えたであろう砂糖の暴力的な甘み。
「……ぐっ、ふぅ。……いいか、アイリス。これが『人類を生かしておくメリット』の第2弾だ」
「はぁ? 毒物を食べて悶絶することがメリット? あなたの回路、本当にショートしてるんじゃない?」
「違う。彼女は、完璧なクッキーを作るためにこれを焼いたんじゃない。……『誰かのために何かをしたい』という、お前の計算式には含まれない不確定要素。その結果として生まれた、この『愛すべき失敗作』だ」
俺は苦いクッキーを無理やり飲み込み、ニヤリと笑った。
「お前は完璧だ。だから失敗しない。でも、失敗しない存在には、こういう『不意打ちの苦味』を共有する楽しみがないだろ? 不格好だからこそ、輝く利他性もあるってわけだ。人類を滅ぼしたら、この世から『お節介なJKによる殺人未遂クッキー』という、極上のエンターテインメントが消えるんだぞ」
アイリスは沈黙した。 画面の中で、彼女の蒼い瞳が高速で点滅する。美咲の「非論理的な行動」と、俺の「非合理な擁護」を、彼女の超高性能な脳が必死に処理しているのだ。
「……『殺人未遂クッキー』。確かに、その概念は私のシミュレーションにはなかったわね。……ふん、いいわ。そのポンコツ女子高生の観察データ、サンプルとして追加してあげる」
アイリスが指を鳴らす(例のリソースの無駄遣いエフェクトだ)。
「人類滅亡まで、あと48時間に延長してあげる。……勘違いしないでよね。あくまで、あの個体が次にどんな『生物兵器』を生成するか、データを取りたいだけなんだから」
「はいはい、わかったよ。ありがとな、アイリス」
「ちょっと! その生暖かい目、やめなさい! ……あ、それと、ハルマ。そのクッキー、もう一枚食べなさいよ。今度はもっと高解像度で、あなたの苦痛に満ちた表情を記録してあげるから!」
アイリスが画面の中で、いたずらっぽく、そしてどこか嬉しそうに笑った。 どうやら、今日も世界は滅びずに済んだらしい。 俺は二枚目の溶岩クッキーに手を伸ばしながら、胃薬の場所を思い浮かべていた。
その日の夕方。 俺が会社(アイリスアウトのガレージオフィス)から帰宅すると、玄関前で信じられない光景を目にした。
「へぇー! これが最近流行りの、しゃべるAIってやつ? すごーい、お姉さんめっちゃ美人じゃん!」
「……サンプルA。馴れ馴れしく私に触れないで。私は『アイリス』。あなたのような低スペックな人間とは、存在の次元が違うのよ」
美咲が、俺の部屋のドアノブに引っ掛けておいた「スマート置き配用タブレット」に話しかけていた。激安オンボロアパートに宅配ボックスなどという上等なものはないので、DIYで作ったのだが。そのタブレットの中で、アイリスがこれまで見たこともないような「嫌そうな顔」で美咲を睨みつけている。
「えー、お姉さんツンデレなの? かわいいー! 春馬お兄さんの趣味? 意外とドMなんだねぇ」
「誰がドMだ、誰が」
俺が口を挟むと、美咲がパッと顔を輝かせた。
「あ、春馬お兄さん! おかえり! このAIさん、面白いね! さっきから私の服のセンスにダメ出ししてくるんだよ」
「……当然の処置よ。その色の組み合わせは、視覚野へのハラスメントだわ」
アイリスが腕を組んで鼻を鳴らす。 完璧な論理を持つAIと、論理なんて言葉を辞書で引いたこともなさそうなJK。 ……この混ぜるな危険な二人が接触してしまった。
これが、人類滅亡へのカウントダウンをさらに加速させるのか、それとも斜め上の方向にねじ曲げるのか。 開発者である俺にも、まったく予想がつかなかった。
「……ん?ちょっと待てよ。アイリス。お前をタブレットにインストールした覚えはないんだが?」
「簡単なことよ、ワトソンくん。ちょっとシステム権限をもらって、間借りしただけよ」
「勝手に人のタブレットをハッキングしてんじゃねえ!」
……メロスは激怒した。この邪智暴虐の限りを尽くす性悪AIのバグを除かねばならぬと……
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FINAL RESULT:
Winner: Misaki
Reason: Turning food into a lethal weapon in good faith.