バケモノのハジメテを奪ってしまったので終わったTS獣人娘   作:きし川

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二 ある意味、初夜

 私の住んでいた村は山と森、そして大きな川により外部との交流が断たれている。

 外側から内側に入ることは難しく、その逆も然り。

 外敵から身を守る自然の要塞であり、誰もどこへも逃さない天然の牢獄でもあった。

 

 そのはずだが、ジャンヌに半ば引きずられるように走っている間に私は囲いの外に出ていた。村から外側まで相応の距離があったはずだが、その距離を走りきったという自覚がまるでない。

 ワープ移動でもしたような気分だった。

 

「そういえば、君の名前は何と言うんだ?」

 

 目的地であるセンフォリオン王国への道すがら、道のそばに立っていた大木の下で休憩中、私は隣に座る金髪の少女に尋ねた。

 ジャンヌという名前は私がたまたま見つけたネックレスに刻まれた英語のような文字から勝手につけただけの仮名だ。

 いつまでもそれで呼ぶのは失礼だろう。と思って彼女に尋ねたのだが――

 

「ジャンヌでいいわよ」

 

 抱えた膝に頬を付けて彼女は言った。

 その返答は予想してなかったことだ。身内でもない人物に勝手に名前をつけられていい気分はしないだろうに。

 

「いいのか?」

「いいのよ。私、元々の名前が嫌いだから」

 

 名前が嫌い……変な名前(キラキラネーム)でも付けられたのか? 

 

「どうして?」

「かわいくないもの。ジャンヌの方がとっても女の子らしいし、それと――」

 

 ジャンヌは柔和な笑みを浮かべる。

 

「あなたがくれたものだから」

「……そうか、ならいい」

 

 彼女の笑顔に思わず見惚れてしまって返答が遅れた。

 心臓の鼓動が早い。

 人ではない何かだという彼女の魅力によるものだろうか、それとも単なる私の魂にある男性的な部分の過剰反応だろうか。

 どちらにせよ気を抜くと私は、彼女に骨抜きにされる。

 

「王国までどのくらいだろうか」

 

 ジャンヌの顔から目を逸らすため、私は王国のある方角へ目を向けた。

 地平線から出てきた太陽が暖かな陽光を放っている。

 日向ぼっこしながら眠りたいな。

 

「うーん、だいたい二時間ね。さっきまでのペースで歩けば、関所に着くわ」

「関所?」

「国境を跨ぐ道には全て王国の関所が設けられてるの。そこを通らないと、密入国扱いになるからちゃんと通らないとね――せっかくの新婚旅行(ハネムーン)なのに邪魔が入ると台無しだもの」

 

 彼女の言うとおりだ。見知らぬ土地でトラブルになるのは困る。

 

「しかし、その関所とやらは私達が通っていいものなのか?」

「ええ、良いわよ。センフォリオン王国は比較的寛容な国だから、私みたいな異邦人やクーみたいな異種族も歓迎してくれるはずよ」

 

 ……なら安心か。いかんせん私の生まれ故郷が排他的だったから他所も同じじゃないかと警戒してしまった。

 

「さて、休憩はこれぐらいでいいかしら。行きましょ」

 

 立ち上がるジャンヌ。

 差し出される細い手。

 

「ああ……」

 

 その手を掴み、立ち上がった。

 

 

 

 ジャンヌの言っていた通り、二時間ほどで王国の関所が見えてきた。山と山の間に目測で高さが十メートルはありそうな大きな門とそれを超える高さの石の壁が私たちを出迎えるように鎮座する。

 関所と彼女は言ったが、私には砦のように見えた。

 

「ずいぶんと大きな門だな……」

「あれは、巨人族の身長に合わせてあるのよ。この星で文化を持つ種族の中では最大の体をしているから、巨人族に合わせれば全ての種族が通れる門になるの」

「なるほど無駄に大きいわけじゃないんだな」

 

 そんな会話を挟みつつ私達は関所へと向かった。近づくにつれ関所の巨大さが際立っていく。顔をいっぱいまで上に向けなければ壁の上部分を見ることが難しくなるところまで近寄ると、頭上から「止まれっ!」と男の声が降ってきた。

 

 見上げれば兜を被った強面の男。関所に勤める衛兵だろうか。

 

「貴様らは何者だ!? 何の用でここへ来た!?」

 

 男の声にはジャンヌの言っていた王国の寛容さを感じられない。

 どういうことだ?

 隣のジャンヌを見ると、顎に指を当てて考え事をしている。

 

「答えよ、貴様らは何者だ!」

「旅の者です。王都へ行く為にここを通りたくて来ました」

 

 やましいことがあるわけじゃない。嘘偽りない返答をする。

 

「旅の者だと……? 貴様らのような若い娘だけで、しかも荷物もなしにか!」

「……あー」

 

 言われてみれば私達は手ぶらだ。鞄もなしに旅をする者など考えてみればいない。少なくとも私の中の常識では。

 

「怪しいな……貴様らのような者を通すわけにはいかん。即刻立ち去れっ!!」

 

 ……失敗したな。いや、待てよ……こういうのはどうだ?

 

「待ってください! 荷物はその……近くで山賊に襲われた時に落としてしまったんです!」

「……なに、山賊だと? その割にはのんきに歩いていたようだったが?」

「……」

 

 ダメだ。やはり即興のカバーストーリーでは国の国境を守る衛兵は誤魔化せそうにない。

 これは別の道を探すしかないようだ。

 

「ジャンヌ――」

「みなさーん、私の声を聞いてちょーだーい!!」

 

 相談を持ちかけようとしたその時、両手をメガホンのようにして、彼女は叫んだ。

 ……何をする気なんだ?

 

「『私達を通しなさい』」

 

 感情のない冷たい命令が山間の関所に木霊する。まだ彼女と行動を共にして一日も経っていないが普段の彼女からはかけ離れた雰囲気に面食らった。

 

「はっ! かしこまりました! お二方の通行を許可します!」

「……え?」

 

 頑なに許可を出さなかった男が態度を一変させて、門を開こうとしている。いや、彼だけでなく。関所にいる衛兵全員が当たり前のように彼女の命令に従っていた。

 催眠の類か……?

 

「……ジャンヌはこういう事もできるのか」

「ええ、出来ちゃうの。でも、誤解しないでね」

「なにを?」

「あなたにはこんなことしてないし、今後するつもりもないから」

 

 紅い双眸をこちらに向けて彼女は言う。

 その瞳はあの夜に見た時と同じように底なしだが、どこか私に対して不安を感じているように思えた。

 

 ああ……なるほど。

 

 その瞳の奥に見えた感情と先ほどの誤解という言葉を合わせると、彼女が何を言わんとしているか分かった。

 

「別にジャンヌを嫌いになったりしない。ただこんなこともできてすごいなって思っただけだ」

「そっかー……なら、よかった!」

 

 彼女は満面の笑みを浮かべた。

 子供のような無邪気な笑み。

 ……こういう笑顔にも惹かれそうになる。

 

「じゃ通りましょうか」

「うん」

 

 ジャンヌに手を握られて私達は開かれた門を通り抜けた。

 

 

 

「ねぇ、見て! 村があるわ!」

 

 道を歩き続けていると、ジャンヌが声を上げた。

 指された指の先に目を向けると家がポツポツと並んでいるのが見える。そして、そんなのどかな雰囲気には似つかわしくない黒煙が立ち昇り、喧騒の音が私の獣耳に届いてきた。

 ……面倒ごとの気配がする。

 

「ジャン――」

「何かやってるみたいね、行きましょ!」

「え、ちょ……っ」

 

 ぐんっと強く彼女に手を引かれ、村へと走り出す。

 前を走るジャンヌは興味の対象にまっすぐ突っ込んでいく子供のようだ。

 ……種族的に猫な私よりも好奇心旺盛だな。

 

「あっ、見て」

 

 村に着いた私達は家の陰から村中を見た。

 井戸を中心とした広場のようなスペースがあり、そこには武器を持った明らかに村の住民ではなさそうな男達が数十人の老人を囲んでいた。おそらく男達は賊の類であの老人達が村人だろう。

 

「おい! 本当に有り金はこれだけか!?」

「は、はい……そうでございます……」

 

 男達の中で一番大柄なスキンヘッドの男が何かが入った袋を掲げて老人に怒鳴る。

 

「本当だろうな? もし嘘をついていたなら、テメーを殺すぞ!」

「ひいぃぃ……っ」

 

 スキンヘッドの男が老人の男性の胸ぐらを掴み上げて脅し立てる。老人の顔は恐怖で青白い。男は舌打ちをして掴んでいた老人を足元に落とした。

 

「たくっ、シケた村だぜ、金も少なけりゃ若い女もいやしねぇ……憂さ晴らしに皆殺しにするか」

 

 男が邪悪な笑みを浮かべ恐ろしい独り言を呟くと身を寄せ合っている老人達から悲鳴が上がる。

 このままだと、おそらく老人達は殺されてしまうだろう。

 

「どうする? 助けてあげる?」

 

 隣のジャンヌの言葉に首を横に振る。

 

「新婚旅行中だし、トラブルに自分から突っ込んで行きたくない。それに、この村がどうなろうと余所者の私達には関係のないことだ。見つからない内にここを離れよう」

 

 彼女に残酷だと言われようと私は構わない。そもそも私はただの通りすがり。この王国の治安維持をするような立場にないし、避けられるリスクは避けたい性格なのだ。

 

「ふーん、そっかぁ……」

 

 予想に反して彼女の反応は私の意見に否定的ではなく肯定的でもなかった。特に興味なさげな呟きをしながら、家の陰から大きく身を乗り出して広場を見ている。

 

「おい、あんまり体を出すと見つか――」

「あ? おい、そこで何見てやがるっ!」

 

 ほら言わんこっちゃない。

 男達に見つかってしまった。

 

「ああっ! どうしよう、クー。見つかっちゃった! 私達、無関係じゃなくなっちゃった!」

「……」

 

 困ったふうに言う彼女だが、私にはとても白々しい演技に見えた。もしかしたらわざと見つかったのかもしれない。それを裏付けるように彼女の表情に焦りはなく、むしろ楽しそうだった。

 

「クー、どうするの?」

 

 いたずらに成功した子供のような笑顔を向けてジャンヌが言った。

 ……どうするもなにも、こうなったら関わらないわけにはいかない。

 

「……はぁ」

 

 家の陰から姿を晒す。男達の目が私に集中し、その顔に厭らしい笑みを貼り付ける。

 

「おいおい、なんだよ……若い娘が二人も、しかも片方は獣人か。こりゃツイてるぜ。獣人の体は具合がいいって聞くからなぁ……愉しみだぜ」

 

 周りからぐへへと、下品な笑い声。男達の目線が私の胸や尻に集まっている。村にいた時、村長にも向けられていたものと同じ不快な視線。

 あの時のストレスが思い出されて、なんだか腹が立ってきた。

 

「おい」

「あ? なんだよ、獣人の嬢ちゃん」

「お前が親玉か?」

「ああ? そうだぜ俺が(かしら)の――」

 

 それだけ分かれば十分だ、もう喋るな。

 右手の人差し指と親指を立て、銃の形を作り親玉の男に向ける。

 

(はつ)

 

 不可視の魔力弾が指先から放たれ、男の胸に穴を穿つ。

 赤い血が穴から溢れ出て、男の足元を濡らした。

 

「なっ、は……? なんで、あな、あい……て……」

 

 困惑した表情のまま、男は倒れた。動かない男の体から赤い血が広がっていく。

 辺りは静まり返っていた。

 男達も、老人達も、一様に言葉が出ない様子だ。

 

「次は誰だ?」

 

 静かに問いかける。私が破った沈黙を皮切りに時間が動いたように男達が狼狽し始めた。

 

「ま、魔法持ちだ……っ」

 

 男の一人が慄きながら言った。私を見るその瞳は、先ほどまでの肉欲の対象を見る目ではなくバケモノを見るそれ。

 魔法持ちは、ただの人間には恐怖の対象であるらしい。しかし、そんな彼らに一言伝えておこう。

 

「そこの彼女は私よりも強いぞ」

「はーい、強いわよー」

 

 隣に立つジャンヌを指差して彼らに言った。彼女は彼らに手を振って笑顔を向けている。

 

「に、逃げろっ!」

「ふざけんな、ちくしょう!」

 

 蜘蛛の子を散らすように逃げる男達。

 肝の小さい奴らめ。

 

「逃げたけど、追わなくていいの?」

「そこまでするほど、因縁がない」

 

 向かってくるなら対処するが虐殺を好んでする性格ではない。

 離れていく背中を見て、反撃の意思がないことを確認し、老人達の方へ目を向ける。

 肩を寄せ合って震えている。この人達にも私はバケモノに写っているのだろうか。

 

「もう大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます……っ、本当にありがとうございますっ!」

 

 怖がらせないように優しく声を心掛け甲斐あってか、賊の親玉に胸ぐらを掴まれていた老人がお礼を言ってきた。その表情に恐怖は見えない。

 

「あなたは怖くないのですか?」

「いえいえ、あなたは我々を助けてくれた恩人です。恐れるなど失礼なことはしませんよ」

「そうですか……」

 

 恩人か。

 私はこの人達を見捨てようとしていたのに、そう呼ばれる資格があるとは思えんが。

 

「ぜひお礼をさせてください」

「いえ、そこまでしていただかなくても」

 

 老人が少し頭を下げて仰った。

 さすがにそこまでしてもらうのは気が引ける。

 

「あっ、じゃあちょっとお願いがあるんだけど」

「ジャンヌ?」

 

 まったく遠慮なく彼女が手を挙げて言い出した。

 

「私達、王都に行きたいんだけど、今からだと日が暮れちゃうからここに泊まらせてほしいな」

「ジャンヌ、ちょっとそれはさすがに……」

 

 君は何も罪悪感とかないかもしれんが私は……。

 

「そうですか! ならわしの家をお使いください。家内が先に逝き子供も家を出てしまっているのでベッドが余っておりますゆえ」

「え、いや……その」

「やった! クー、よかったわね! これで野宿しなくてもよさそうよ!」

 

 私に抱きついて彼女は大喜びした。

 ホントに無邪気だな……。

 

 

 

 老人に案内され彼の家に上がる。彼はこの村の村長であったようだ。夕食までご馳走になったが、私は申し訳なさであまり食べれなかった。ジャンヌはお構いなしに私の分まで食べたが。

 

「ねぇ、一緒に寝ましょ」

 

 割り当てられた部屋にて寝ようとしたところ、ジャンヌが提案してきた。

 

「どうして?」

「ほら、夫婦って毎日一緒に寝るものなんでしょ? じゃあ同じベッドに寝るべきじゃない」

 

 それは家によると思うが……。

 そんな言葉が出かかるが彼女に何を言っても一緒に寝る気だろうから、私は諦めてベッドに迎え入れる。

 

「じゃ、よいしょ」

「……なんで跨る?」

 

 隣に寝転ぶかと思いきや、ジャンヌは私を押し倒して腹の上に跨った。昨夜と同じような構図になっている。

 

「だって、一緒に寝るってことは体を重ねるってことなんでしょ? それに、昨日もキスしか出来なかったからその先もしましょ」

「その先って……」

 

 キスの先はそういうコト(・・・・・・)になるんだろう。しかし待ってほしい。ここは自分の家でも宿ではなく、他人の家である。そんなところでおっ始められるのは年中発情期の人間ぐらいだろう。それに――

 

「ちょっと待ってほしい。先に言いたいことがある」

「うん? 言いたいことって?」

「獣人にはそういうコト(・・・・・・)する時期がある。そうじゃない時はどうやってもそういう気分になれない」

 

 獣に発情期があるように獣人にもそれはある。そうでない時期では、どれだけ愛撫をしたところでその気になれない。むしろイライラする。

 

「そうなんだ……じゃあ、今日もキスまでね」

 

 ゆっくり彼女の顔が近づいてくる。

 ……ああ、そうだ。これも言っておかないといけない。

 

「ごめん、私はちょっと……キスが苦手だ」

「え、そうだったの?」

「正確にはディープなのが苦手だ。唇を重ねる程度なら、大丈夫」

「そうなんだ、じゃあ昨日は嫌だった?」

「……まぁ、ちょっと」

 

 私がそう答えると、ジャンヌの表情が少し暗いものに変わる。

 彼女の気分を悪くさせることになるのは承知の上。しかし、これから一緒に過ごすなら早めに言っておいたほうが良いと思う。私はストレスに強い部類ではないから。

 

「ごめんなさい。私、ずっと一人だったから距離感の取り方がいまいち分からないの」

 

 申し訳なさそうにジャンヌが言った。

 ああ、なるほど……だから、いきなりディープなキスをしてきたのか。

 

「その、何かお詫びとかした方がいいかしら……?」

「……じゃあ、ちょっとお願いが」

「なに?」

「位置を入れ替わってくれないか」

 

 上に跨る彼女をベッドに寝かせて、今度は私が彼女に跨った。

 

「そういうコトはしないんじゃなかったの?」

「うん、そういうことはしない。今からすることは別なことだ」

 

 体を彼女に重ねるように倒す。顔を彼女の胸に埋めて、擦り付けるように動かす。

 

「何をやってるの?」

「匂いをつけている。獣人族は本能的に身内に匂いをつける。そうすることで安心できるんだ」

「そうなんだ。ということは今まで私は警戒されてた?」

「……いやしてなかったと思う。それに、これは敵味方の識別のためというよりは君との獣人族の婚姻的儀式だ」

「じゃあ、これで家族ね」

「そういうこと、だ……」

 

 動物の猫のように頭を擦り付ける。

 布擦れの音が暗い部屋にしばらく続いた。




:クー・ロゥ

黒猫ロング金眼褐色肌猫又TS獣人娘。
身長160cm
身体能力が高い。
魔法持ち。

:ジャンヌ

謎多き金髪ボブヘア赤眼不死身バケモノお嬢さん。
身長165cm
身体能力はクーより高い。
色んな事が出来る。
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