「ただいま〜」
「お邪魔します〜」
連草君の明るく、少し緊張感の抜けた声について行くように中に入って見れば、そこには外から見たものから想像できるとおりの、年季を感じる内装が私たちを出迎えてくれました。
あまり訪れることのない他の人の家の中に、ちょっと失礼かもと思いながらもついつい周りを見てしまいます。すると、玄関で少し止まっていた私を、複数の軽い足音が出迎えてきました。
「お兄ちゃんおかえり!!」
「……おかえりなさい」
「おかえりなさい!!」
その足音の方に視線を向ければやってきたのは3人の小さな子供たち。
それぞれ上から元気な男の子、物静かそうな男の子、そして可愛らしい女の子の順で挨拶をしてきており、テンションの差はあれど、みんな連草君の帰りを心から歓迎しているのが見て取れます。
「うん、みんないい子にしていた?」
「うん!!今日は学校のテストでいい点数取って先生に褒められたんだ!!」
「わたしも!!算数で褒められた〜!!」
「そっかそっか〜。良かったね〜」
そんな彼らを受け入れる連草君もまた、優しそうな笑みを浮かべながらみんなの頭を撫でていき、今日あったことを元気な男の子と可愛らしい女の子から聞いています。
見ているだけでついつい微笑みが零れてしまう、そんなとても微笑ましい光景を前に、私はそっと家を後にしようとします。ここまで来れば、もう心配する必要が無さそうですからね。
「……お姉ちゃん、だれ?」
しかし、そんな私の動きを引き止めるように声をかけてきたのは、大人しそうな男の子の声。
3人の子供の中で唯一連草君じゃなくて私を見ていたこの子は、少しだけ怯えたような表情を見せ、体の半分を連草君の影に隠しながらこちらを見てきます。
この子の視点からすれば、いきなり誰かわからない人が来たんだ。こうなってしまうのも仕方がない。そう思った私は、できる限り怖がらせないようにしゃがみ、目線を合わせて、自然な笑顔を浮かべながら答えます。
「お姉ちゃんはね、鈴音蘭っていうの。お兄ちゃんと同じクラスの友達だよ」
「え!?お兄ちゃんのお友達!?」
「ほんと!?わぁ、お兄ちゃんが初めて友達を連れてきたぁ!!わたし
「あ、理央だけずるい!!おれも!!おれは
「……り、
「うん、みんなよろしくね?」
私が言葉を返したのをきっかけに、連草君の弟くん、妹さんたちと自己紹介。このおかげで私が怖くない人とわかってくれたみたいで、人懐っこく見える理久くんと理央ちゃんはともかくとして、人見知り気味な理斗くんも、言葉こそたどたどしいものの、隠れるのはやめてこちらを見るようになってくれました。
(か、可愛い〜!!)
元気いっぱいな姿も、恥ずかしがってモジモジしている姿も、どこか愛らしくて見ているだけで癒されていくのが分かります。
「……鈴音さん、子供の相手が上手なんだね?」
なんて、心の中で1人悶えていると、頭上から少し驚いたような声が聞こえてきます。そちらに目を向ければ、私の姿勢状、見下ろす形で見ることとなっている連草君と目が合いました。その表情は声色と同じく驚いているもので、その表情が少しおかしくてついつい笑いながら言葉を返します。
「これでもとっつきやすい見た目をしている自負はあるんだけどなぁ。そんなに子供と親しげに話すのが意外?」
「ああいや、逆だよ。そういう訳じゃなくてさ。理久と理央はともかくとして、理斗はなかなか自分から話さないから、自分から動いているのが結構びっくり。鈴音さんの言う通り、子供からしたら親しみやすいのかもね」
連草君から帰ってきたのは素直な賞賛。その言葉が嬉しかった私は、素直にお礼を伝えます。
「あはは、ありがとうね、連草君」
「いえいえ」
「ねぇお姉ちゃん!!せっかくだから遊ぼ!!」
「家上がってよ!!」
「え!?」
連草君と話しているところに割り込んできたのは理央ちゃんと理久君で、それぞれ右手と左手を掴んできた2人は、私を家にあげるように引っ張ってきました。
連草君を送り届けた時点で帰ろうと思っていた私にとっては想定外の提案で、どうすればいいのかわからず、ついつい連草君の方に視線を向けます。
私の視線を受けた連草君は、そのあと理久君と理央ちゃんのキラキラとした視線を受け、苦笑いとため息をこぼした後に言葉をこぼしました。
「……鈴音さん、上がっていく?あんまりおもてなしはできないけど」
「……そうだね。ちょっとお邪魔しようかな」
こんなにも期待されている状態で、それを断って帰るだなんて度胸は持ち合わせていない私と、同じくこの状況で帰れだなんて言えない連草君の意見が一致し、仕方なく連草君の家におじゃますることに。
「やった〜!!お姉ちゃん!!こっちこっち!!遊ぼ!!」
「理央ずるい!!おれも遊びたい!!」
「……ふ、2人とも……まって」
「あはは、そんなに焦らなくてもお姉ちゃんは逃げないよ」
私が部屋に上がると聞いた瞬間、人見知りの理斗君までもが笑顔を浮かべ、みんなで私の手を取って家の中を案内してくれます。その光景が本当に微笑ましくて、一緒に歩いているだけでとても心が癒されるのを感じます。
「お姉ちゃん!!お絵かきしよ!!」
「そのあとは積み木!!」
「……絵本も……読みたい」
「うんうん、順番に遊ぼうね」
リビングにたどり着いたところで、理央ちゃん、理久君、理斗君の順番で遊びたいものを持ってきて楽しそうに騒ぎます。
あまり綺麗じゃなくて、言葉を悪くしてしまえばボロい家だけど、この子達はそんなことなど一切気にせず、満面の笑みを浮かべています。その姿がとても眩しく映った私は、自然と笑顔になりながら子供たちと一緒に遊びます。
「ふふ、ありがとね鈴音さん。そのまましばらく相手をしてもらってていい?これから晩御飯の準備をするからさ」
そんな私たちを見て、優しい笑顔を浮かべた連草君は、自分の荷物を自室と思われる場所に置いた後に、私に子供たちを託してキッチンの方に歩いていきました。
「うん、任せて。連草君も、病み上がりなんだからあまり無茶せずにね」
私の言葉に対して後ろ手に手を上げるだけで返事をした連草君は、そのまま手際よく料理を初めて行きます。
エプロン姿といい包丁さばきといい、見た目的にも音的にもかなりどうに入ったその姿に、ひとまず安心感を覚えた私は、連草君から視線を外して3人の子供たちと遊ぶことに集中します。あまり放っておくと拗ねちゃいますからね。
そうやって、手際のいい料理音をBGMに遊ぶこと数十分。沢山遊んで沢山笑った楽しい時間があっという間に進んだところで、キッチンの方から声がかかります。
「みんな〜。ご飯できたから運ぶの手伝って〜」
「……「「は〜い!!」」」
連草君の言葉を合図に、ピタッと遊ぶのをやめた子供たちは、一斉に連草君のところに行って食器類を受け取り、テーブルの上に並べていきます。
今日の料理は和風の料理らしく、机に並んでいくのは炊き込みご飯に肉じゃがや味噌汁、きんぴらごぼうに卵焼きと、派手な料理こそないものの、そこには家庭の温かさを感じる暖かいものが並んでいました。
(うわ〜……すごく美味しそう〜……)
「良かったら鈴音さんもどうぞ?」
「……え?」
並んだ料理があまりにも美味しそうすぎて、思わず料理たちに目移りをしていた時にかけられたのは、まさかの一緒にご飯を食べようというお誘い。
予想だにしなかったその誘いを受けた私は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまいましたが、その言葉を気にすることなく理久君たちも私に言葉を投げてきます。
「お姉ちゃんもおれたちと食べよ!!」
「みんなで食べた方が美味しいよ!!」
「……お兄ちゃんの料理……凄く美味しいから」
「あはは……弟たちもこう言ってるし、味も保証するからさ。どうぞ」
「……じゃあ、頂こうかな」
ここまで誘われて断るなんてさすがにできないと悟った私は、炊きごみご飯がよそわれた茶碗を受け取り、みんなの輪に並ばせてもらいます。
「じゃあ食べよっか。いただきます」
「……「「「いただきます!!」」」」
私が席に着いたところで、連草君の言葉を合図に起きるいただきますの大合唱。
言葉を言い終えたと同時に食欲を解放させた理久君たちは、一斉に箸を動かし始めます。
理久君は肉じゃが。理央ちゃんは味噌汁。理斗君はきんぴらごぼうと、なんとも3人の性格を表しているような1口目の選出にちょっとした面白さを感じていると、次の瞬間にはみんな口を揃えて同じ言葉を放ちます。
「……「「美味しい!!」」」
それはご飯に対する彼らからの最大の称賛。
食べているものは全員違うけど、綻んだその表情からは、心の底から料理を喜んでいるのが伝わります。その表情に釣られた私は、自分の箸をゆっくりと料理に近づけていきます。
私の標的はまだ誰も口にしていない卵焼き。
綺麗に切って並べられた卵焼きは2種類作られており、片方が少し黒色混じりで、もう片方がテカリを見せる綺麗な黄色をしているあたり、前者が醤油ベースのしょっぱい卵焼きで、後者が砂糖ベースの甘い卵焼きなのでしょう。どちらが好きなのか派閥がある料理ですけど、サラッとどちらも綺麗に作り上げる気遣いと手際にただただ感服です。特に砂糖ベースの方は焦げやすいのにその焦げが一切見えません。少なくとも見た目上は完璧です。
と、ここまで見ておきながら、実は私は醤油ベースの少ししょっぱい卵焼きが好みなので、そちらに箸を伸ばしてひとくち。
「……っ!!美味しい!!」
綺麗な焼き加減の卵の間からほんのり香る醤油の味。絶妙なバランスに思わず口から感想がこぼれます。自分がお菓子を作ったりするからこそ、この料理のレベルがよくわかるから。
「でしょ!!お兄ちゃんの料理は最高なの!!」
「だよな!!おれたちの幸せな時間のひとつなんだ!!」
「……これがないと生きていけない」
「ほんのり出汁とかも入ってるのかな……すごく味が深い……本当にすごいよ連草君!!」
「ちょ、ちょっとみんなも……やめてってば……」
想像以上の美味しさに私たち全員で賞賛の言葉を投げかけてみれば、それを聞いた連草君は照れたように頬をかきながらそっぽを向きます。その姿を見た理久君たちは、嬉しそうに笑顔を浮かべながらごはんをたべすすめていきます。
そんな家族の微笑ましい団欒にまた表情が緩むのを感じた私は、そっと連草君に視線を向けます。
「……なに?鈴音さん」
「ううん、本当にいいお兄さんしてるなぁと思っただけだよ」
「……そ……ありがと」
私の言葉を聞いた連草君は、素っ気なくいいながらも、確かに嬉しそうなほほえみを見せながら食事を再開します。
そこから流れるのは明るく暖かないち家族の日常風景。
部外者である私さえも巻き込んで楽しく盛り上がるこの食事時間は、少なくとも私の人生で、歴代トップクラスの楽しさをおぼえた、素敵な時間でした。