仄めく少女の言霊を   作:犬鼬

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第4話 幽花彩姫

「んん〜……今日も心地いいお天気ですね〜………絶好のお悩み解決日です〜」

 

 屋上でお日様の光を浴びながら伸びをひとつしますのは、この学校に憑いた1人の幽霊少女。そんな私の名前は幽花彩姫といいます。

 

 幽霊なのに日中からこんなアクティブなことに疑問を持たれているかもしれませんが、安心してください。いちばん活動的になるのは夜なので。

 

 ……いえ、どこにも安心できる要素はないですね。忘れてください。それよりも自己紹介の続きをしましょう。

 

 年齢は恐らく17歳。恐らくというのは、この言葉に確証がないからです。

 

 もっといえば、この幽花彩姫という名前さえも、本当に自分の名前なのか自信が持てない時があります。

 

 と言うのも、私は目が覚めたらこの学校に取り憑いている状態でした。自分がどうしてここにいるのか、なんでこうなっているのか、全くの情報がないまま頭の中にあったのは、自分がこの学校の高校3年生であったことと、名前が幽花彩姫であるということだけ。その他のことについては、まるでモヤがかかったかのように思い出すことが出来ず、また、この学校に取り憑いているせいなのか、学校から離れることも出来ないため、この思い出せない何かを取り戻しに動くことすらままならないという事実が、余計に情報を手に入れる機会を奪ってきます。

 

 幸いにして、土地に憑くという性質と、私自身がこの土地と相性がいいせいか、そこそこの力を持って生まれたおかげで、幽霊ながらもここの生徒と話をしたり、物を動かしたりすると言ったことができ、一時期はこの学校の生徒に話をかけて、自分について情報を集めていた期間もありました。私自身、困っている人をついつい助けてしまうという癖もあってか、生徒と関わる機会というのは存外少なくかったですしね。

 

 しかし、ここで邪魔をしてくるのが私を縛る大きなひとつのルール。

 

 それは、私に関する記憶は日を跨ぐと消えてしまうというもの。

 

 私の力を強くこの現世に影響させるために生きてくれた、土着的な意味を持つこの体質が、こと記憶においては逆方向に反応してしまったらしく、この学校を離れた状態で日を跨ぐと、その時点で私の記憶を無くしてしまうらしいのです。

 

 一応の打開策としては、学校の外で日を跨がなければ良いので、学校の中で宿泊をすれば、私に関する記憶は保持することができます。現に、文化祭や部活の合宿の泊まり込み、警備員さんが夜勤で1晩超えて在中していた時は、私を覚えてくれていた人はチラホラ見かけました。ですが、当然学校に泊まり続けるという訳には行かず、行事や仕事が終わり、1度家で過ごしてしまえばもうおしまい。私の記憶は綺麗さっぱり無くなってしまいます。

 

 このルールに初めてぶつかったのが、生まれて1週間後くらいのことで、このルールの全容にたどり着いたのが、私が目覚めてだいたい半年が経ったくらいでしょうか。

 

 初めてこの現象にぶつかった時と、このルールの全容を解き明かした時の2回は、強く泣いたことを今でも覚えていますし、なんでこんなことになったのだろうと、幽霊らしく強く呪ったこともあります。その時は、一晩中教室やら図書室やらのものというものがポルターガイストを起こしまくって、大変なことになってしまいました。勿論その後ちゃんと直しましたよ?片付けはちゃんとできる子なので。

 

 科学で大体のことが解決できていると思い込んでいる現代において、幽霊という非科学的で、存在を否定されているものに対して適応ないし、相性のいい人が減っているというのも、私を覚えてくれない理由のひとつなのかもしれません。

 

 そんな絶望的な状況にあった私なのですが、それでも困っている人を助けずにはいられないという性に抗うことは出来ず、苦しみながらも人の手伝いをしていたあるときに、とある1人の学生と交わしたお話によって、何とか心を持ち直すことができました。

 

 おかげで今は、こうやって忘却の現象を目の前で確認しても、少しの寂しさを感じるだけに収まってくれています。本当に感謝ですね。

 

 その恩人も、既に私のことを忘れていますし、もうとっくに卒業しているので、今何をしているのかとかは何も分からないんですが。

 

「……いえ、寂しくなんてないですけどね!!」

 

 なんて、誰に向けているのか分からない言葉を発した私は、改めて目を閉じて、耳を集中させ、頭頂部から伸びているあほげをセンサー代わりとしてのばし、この学校全体の音と景色を観て聴いていきます。

 

 この学校に憑いている事もあってか、私の感覚が届く範囲はこの学校全部です。勿論、常時この範囲を把握できるという訳ではなく、こうやって意識している時しか見聞きすることはできませんし、さすがにお手洗いやお着替えをしている所まで見てしまうのは、モラル的にも危ないので見ないようにしてはいますが、それでも、この学園内のことであるのならば、ほぼ全てのことを私は把握することが可能です。

 

「ふむふむ……物を無くして困っている人が2人と、怪我をして泣いてしまった子が1人、それに、道に迷ってしまった子が2人ですね……入学してすぐということを考えたら、まだ少ない方でしょうか……よし!!」

 

 目と耳で情報を受止め、そして判断した私は、掛け声を上げながら立ち上がり、大きく伸びをひとつします。

 

「寂しい気持ちは一旦置いておいて、私の役目を果たしましょう!!」

 

 元気よくそう告げた私は、その場で180°身体の向きを変えて、先程まで眺めていた屋上からの景色に背中を向けます。そして、その状態から目を瞑りながら、ゆっくり後ろへ倒れ込むように身体を動かします。

 

 この学園の屋上にフェンスはありません。というより、そもそもこの屋上自体が基本は進入禁止なので、そういった対処はする必要がありません。なので、外に向かって倒れこめば、私の身体は宙へ投げ出されます。

 

「……」

 

 そのまま背中から落ちていく私は、しかし一切の抵抗をすることなく、屋上から地面への片道切符を突き進みます。

 

 これは私のひとつのルーティーン。

 

 こうすることで、私の心は何故か穏やかになっていき、同時に集中力が上がるような感覚に襲われます。

 

「さぁ……行きましょう……」

 

 一通り集中し、心が落ち着いたところで、ぽつりと一言。

 

「今日も皆さんのお悩みを、バッチリ解決させましょう!!」

 

 言葉をいい終えると同時に、地面に到着した私の身体は、しかし激突することなく、まるで地面に飲み込まれるように地中へ。

 

 深く、深く……まるで大きな海溝に飛び込むかのごとく落ちていく私は、ある程度落ちたところで、先程声を聞いた場所のひとつを思い浮かべながら、目を開きます。

 

 瞬間訪れるのは強烈な浮遊感。

 

 さっきまで落ちていた身体を、今度は無理やり引き上げられる感覚に任せ、視界を真っ暗から彩りのある世界へと変換。

 

「あれぇ……確かにここを歩いた時は持っていたはずなのに……」

 

 そこで私が目にしたのは、とある空き教室にて、何か物を探している1人の男子中学生。

 

 先程屋上で見聞きした、困っている学生の1人。

 

「大丈夫ですか?お目当てのものは、この教室ではなく、隣の教室に行く途中のお手洗い場の下に入り込んでいますよ」

 

 そんな男子学生に対して、私は解決の声を届ける。

 

 今日も今日とて、私は困っている人に手を差し伸べるために、学園の中を駆け回っていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ひとまずはこんな感じですかね〜」

 

 朝確認した5人の困り人プラス、その5人の悩みを解決している間に新たに増えた3人の悩み……つまり、計8人に手を差し伸べたあたりで、時刻はお昼時間を迎え、学校は賑やかな空気に満たされていきます。

 

 いくら学生の本文は勉強といえども、ずっと勉強をしていたら疲れが溜まりますし、勉強を必要なことと割り切っている人は多くても、勉強が好きという人はほとんど居ないでしょう。そんな多くの人にとってオアシスとなっているお昼時間は、癒しの時間という意味合いが大きいのか、自由に動く人間が多い割には、意外と悩む人は少なかったりします。なのでこの時間は、私にとってもちょっとした休憩時間だったりします。天気もいいですし、今いる場所が屋上ということもあって、絶好のお弁当日和だったりするんですよね。

 

 まぁ、私幽霊なので、疲れはあまり感じませんし、食事も必要ないんですけど。

 

 一応味覚などはあるので食べられなくはないんですけど……お金なんてもっていないので、購買を利用できないことを鑑みれば、結局食べる機会はなさそうです。

 

「いつかは食べてみたいんですけどね〜」

 

 なんて言葉を零しながら、屋上の縁に腰かけて、足をぶらぶらさせている私は、のんびりと皆さんを見下ろしていきます。

 

「おや……?あれは……」

 

 まったりとした時間を過ごしながら、ここからの景色を堪能していると、私の視線があるものを捉えます。

 

 それは、数冊の本を重そうに抱えながら歩いている1人の女子学生。

 

 黒色のボブカットに、少し物憂げな瞳がアンニュイ感を醸し出している人で、そのオーラは、無意識のうちに人よけをしているかの如く、周りに人影が見当たりません。少し長い前髪で目が隠れていたり、道の端っこを歩いていることも、彼女があまり人の目に止まらない理由かもしれません。現に、私もこうやって俯瞰視点で見ていなければ、気づかなかった可能性があります。

 

 そんな彼女は、さっきも言った通り、数冊の本を抱えて歩いているのですが、その足取りがどこか覚束ず、見ていると少しハラハラしてしまいそうなほど危なっかしいです。

 

 別にたくさんの本を同時に持っているだとか、持ってる本の高さのせいで前が見えていないとか、そういうことはなさそうなのですが、単純に力がないのか、少し汗と息を零しながら歩いているように見えます。

 

 目的地はおそらく図書館なのでしょう。今彼女がいる位置から図書館までと考えると、なかなかの距離があることになります。

 

「ここは私の出番ですね!!早速行きましょう!!」

 

 どう見ても困っているその姿。いえ、正確には困ってはおらず、『自分がやらなきゃ』という使命感から行動しているみたいなので、だからこそ、私のお悩みセンサーであるこの頭のアあほげに引っかからなかったみたいで、気づくのが遅れたわけなのですが……こうして気づいてしまった今、もう彼女は私の射程距離内に入っています。

 

「というわけで、少し本をいただきますね?」

 

「っ!?!?!?!?」

 

 屋上から飛び降り、本を抱えている子の隣に瞬間移動を行った私は、そのままふらつく女生徒から本をいくつか拝借。ずっしりとした重さを両腕に……いえ、幽霊なので実際に重さは感じてないですね。霊力的なさむしんぐでふわりと持ち上げて、横に並ぶように立ちます。すると、急に現れた私にびっくりした彼女は、身体を小さく跳ねさせながら少し後退。そのままバランスを崩して後ろに倒れてしまいそうになるのを、本をマット状に並べて受け止めることでカバー。無事、受け止めることに成功します。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え……あ……う……」

 

 背中に本を回して、倒れないように支えながら、顔を覗き込んで質問をひとつ。

 

 目が隠れてしまうほど長い前髪がはらりと横にそれ、綺麗な瞳を顕にした彼女は、急な展開に目を白黒させながら私の顔を見つめ……

 

「ぷしゅ〜……」

 

「あ、ちょっと!!」

 

 そのまま脳の許容量を超えてしまったのか、顔を真っ赤にしながら気絶してしまいました。

 

「う〜ん、手伝うつもりが邪魔をしてしまいました……反省ですね……いくら幽霊だからといって、好き勝手移動しちゃうとこうなっちゃいますか……」

 

 それからは、私は急いで女子生徒を保健室に連れていき、本を図書館へ移動。どこにどうすればいいのかまでは流石に分からなかったので、カウンターの邪魔にならないところに、とりあえず平積みをして置いておくことに。

 

 気絶した女子生徒も、昼休みが終わる前には目が覚め、図書館に駆け込み、本が運ばれていることに首を傾げながらも、授業が始まる寸前だったのでとりあえずこのことは置いておいて教室に戻っていきました。

 

 この日はこれが最後のお悩み解決となったので、あとは下校時間に皆さんを見送って、お昼の部は終わりとなります。

 

 いくら私が便利な力を持っているとはいえ、使い方は考える必要がある。そのことを再認識させられる1日となりました。

 

 今日のミスを再発させないように、反省はしっかりとしていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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