ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録   作:Rime casket

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並び立つ剣と鎌

――アリスブルーの許可

 

ログイン540日目

高難度レイド《天蓋回廊》前線エリア

 

空中に浮かぶ石の回廊。

 

足場は狭く、落下は即死。

出現するのは飛行型の高機動モンスター。

 

Aランク上位以上のプレイヤーしかいない前線。

 

俺はいつも通り、先頭付近で立ち回っていた。

 

前に出すぎず、後ろを崩させず。

 

無理はしない。

でも引きもしない。

 

敵の突進を受け流し、味方の詠唱を守る。

 

「左から二体、回り込むぞ!」

「了解、カバー入る!」

 

息の合った連携。

 

昔みたいな焦りはない。

 

ただ、研ぎ澄まされた集中だけがある。

 

その時だった。

 

背後から、戦場に似合わないほど静かな声が落ちた。

 

「動きが変わった」

 

振り向かなくても分かる。

 

それでも振り向いた。

 

風に揺れる、淡い青の髪。

 

イルム。

 

前線の喧騒の中にいるのに、その周囲だけ音が薄い。

 

「久しぶりだな」

 

息は乱れていない。

 

心臓は、少しだけ速い。

 

イルムは敵を見たまま言う。

 

「無駄な踏み込みがなくなった

 視線が味方を追っている

 それでいて、攻撃の迷いがない」

 

評価されている。

 

淡々と、事実として。

 

「色々あったからな」

 

苦笑する。

 

イルムが一歩前へ出る。

 

敵の飛行魔物が突っ込んでくる。

 

俺は反射で横に回り込み、イルムの死角を潰す。

 

イルムの一撃がコアを貫く。

 

ほぼ同時。

 

息が合っていた。

 

イルムが初めてこちらを見る。

 

まっすぐな視線。

 

以前の失望はもうない。

 

代わりにあるのは――

 

確認。

 

「まだ、怖い?」

 

不意打ちみたいな質問だった。

 

少しだけ考える。

 

「怖いよ」

 

正直に言う。

 

「判断ミスるかもしれないし

 誰か死なせるかもしれない」

 

でも、と続ける。

 

「それでも前にいるって決めただけだ」

 

沈黙。

 

イルムは視線を外し、次の敵を落とす。

 

そして小さく言った。

 

「それでいい」

 

胸の奥が、静かに揺れる。

 

戦闘がひと段落し、回廊の中継地点に到達。

 

束の間の休息。

 

イルムがこちらに向き直る。

 

風が吹き、アリスブルーの髪が揺れる。

 

初めて会った時より近い距離。

 

でも今は、目を逸らさない。

 

イルムは言った。

 

ゆっくり、はっきりと。

 

「今の貴方なら」

 

一拍置いて。

 

「私の横に立ってもいい」

 

時間が止まったみたいだった。

 

許可。

 

評価。

 

認定。

 

どれでもあるけど、どれでもない。

 

ただの“事実の提示”。

 

それがイルムらしかった。

 

喉が詰まる。

 

嬉しいとか誇らしいとか、そんな単純な感情じゃない。

 

ずっと追いかけてきた背中が、

 

並ぶ位置に来たと言っている。

 

「……やっとか」

 

それだけ言うのが精一杯だった。

 

イルムは小さく頷く。

 

「遅い」

 

でも声は少しだけ柔らかい。

 

「けど、間違っていない」

 

遠くで次の敵の出現エフェクトが光る。

 

イルムが視線を戦場へ戻す。

 

「行くよ」

 

短い一言。

 

俺は剣を握り直す。

 

「おう」

 

並んで走る。

 

前でも後ろでもなく。

 

横に。

 

二人同時に踏み込む。

 

攻撃が重なる。

 

敵が崩れる。

 

完璧な連携でも、奇跡でもない。

 

ただの自然な動き。

 

でも、それが何より証明だった。

 

 

その日の最後の日記。

 

「ログイン540日目

イルムに言われた

『今の貴方なら私の横に立ってもいい』

 

少し考えて、最後にこう書いた。

 

「追いついたんじゃない

ここから一緒に前に出るんだ」

 

セーブ。

 

画面が暗転する直前、ふと思う。

 

もうアリスブルーの背中を追いかけなくていい。

 

今は、その隣に立っているから。

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