ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録   作:Rime casket

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並び立つ剣と鎌

――言葉のいらない距離

 

ログイン634日目

高難度エリア《天蓋回廊・深層》

 

イルムに避けられてから、二週間。

 

連絡は最低限。

前線でも姿を見ない日が多かった。

 

無理に探すことはしなかった。

 

戻ってくるなら、自分の足で来る人だと分かっていたから。

 

その日、深層レイドの増援要請が出た。

 

空中回廊の崩落ギミックと飛行型の群れ。

 

前線が押され気味。

 

俺は先行していたパーティーの穴を埋める位置に入る。

 

「左ライン崩れそうだ、トーヤ頼む!」

 

「了解!」

 

突進してくる飛行型を引き受け、足場端へ誘導する。

 

いつも通り。

 

集中していた、その時。

 

背後から風が抜けた。

 

軽い足音。

 

見なくても分かる動き。

 

視界の端に、淡い青。

 

イルム。

 

合流の挨拶もない。

 

ただ自然に、俺の死角側へ滑り込む。

 

次の瞬間、敵の急降下。

 

俺が受け流し、弾いた先へ――

 

イルムの一撃。

 

コア直撃。

 

息を合わせたわけじゃない。

 

合図もない。

 

それでも完璧に噛み合う。

 

「右上から二体」

 

俺が言う。

 

「任せて」

 

短い返答。

 

言葉が短いのは前と同じ。

 

でも空気が違う。

 

避けていた頃の“距離”がない。

 

代わりにあるのは、自然な並走。

 

回廊が崩れ、足場が消える。

 

俺が踏み込む直前に、イルムの手が肩に触れる。

 

「一歩右」

 

言われた通りに動くと、落下ラインを回避。

 

すぐに俺が敵を押し返し、イルムの詠唱時間を確保する。

 

まるで、何度も練習したみたいな連携。

 

でも実際は違う。

 

変わったのは技術じゃない。

 

お互いの“迷い”が消えただけ。

 

戦闘が一区切りつき、中継足場へ到達。

 

二人並んで立つ。

 

以前なら、どちらかが少し距離を取っていた。

 

今は自然と肩が並ぶ。

 

「……久しぶりだな」

 

俺が言う。

 

イルムは前を見たまま、小さく頷く。

 

「うん」

 

それだけ。

 

でも声が柔らかい。

 

沈黙が落ちる。

 

気まずさはない。

 

静かな安心感だけがある。

 

「動き、変わった」

 

イルムが言う。

 

「そっちもな」

 

俺が返す。

 

イルムが少しだけ視線をこちらに向ける。

 

「前は“合わせていた”」

 

言葉を選ぶように続ける。

 

「今は“並んでいる”」

 

胸の奥が、静かに温かくなる。

 

「そりゃ成長したからな、お互い」

 

軽口のつもりだったが、

 

イルムは小さく首を振った。

 

「違う」

 

一瞬だけ、目が合う。

 

逃げない視線。

 

「心の置き方が、変わった」

 

それ以上は言わない。

 

でも、分かる。

 

避けていた時間の答えが、そこにある。

 

遠くで次の敵の出現光。

 

イルムが一歩前に出る。

 

「行こう」

 

自然な声。

 

俺も並ぶ。

 

「おう」

 

二人同時に踏み出す。

 

どちらが先でも後ろでもない。

 

ただ横にいる。

 

敵が来る。

 

俺が受け、イルムが落とす。

 

イルムが引きつけ、俺が斬る。

 

迷いのない連鎖。

 

周囲のプレイヤーが小声で言う。

 

「なにあの二人、噛み合い方おかしくない?」

「固定か? いやそれ以上だろあれ」

 

聞こえているけど、気にしない。

 

今はただ、戦場の空気が心地いい。

 

 

その日の最後の日記。

 

「イルムと再会した

何も説明しなかった

でも前より連携が上手くなっていた」

 

少し考えて、最後に書き足す。

 

「隣に立つって、こういうことかもしれない」

 

セーブ。

 

画面が暗転する前、思う。

 

言葉がなくても伝わる距離は、

 

たぶん、信頼よりもう少し深い。

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