ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録 作:Rime casket
――アリスブルーの公開宣言
ログイン673日目
始まりの街リディア・露店広場
今日もイルムと街を歩いていた。
最近はもう隠す気もない。
並んで歩いても、周囲は
「ああまたあの二人ね」くらいの扱いになってきた。
俺は素材屋、イルムは魔導具屋を見ている。
その時だった。
「お兄さん、前線の人でしょ? ちょっと手伝ってくれない?」
振り向くと、女性プレイヤー二人組。
装備からして中堅層。
悪気はなさそうだが、距離が近い。
「この装備、どっちがいいと思う?」
片方が腕を掴もうとした。
俺は反射で半歩下がる。
「え、あ、いや――」
説明しようとした、その瞬間。
⸻
◆ イルム、参戦
横から風が吹いた。
次の瞬間、俺と女性プレイヤーの間にイルムが入り込む。
そして。
普段のトーンじゃ絶対出ない大きさの声で言った。
「その人に触らないで」
周囲の音が止まる。
露店広場のざわめきが一瞬消えるレベル。
イルムは俺の腕を掴み、さらに言う。
「私の彼氏だ!」
完全に宣言。
しかも声量MAX。
周囲の視線が一斉に集まる。
俺の思考が一瞬フリーズする。
え、今なんて?
⸻
◆ ナンパ側の反応
女性プレイヤーたちが固まる。
「え、彼氏!? ご、ごめんなさい!」
「知らなかったです!」
全力謝罪モード。
そりゃそうだ。
イルムの目がガチだった。
二人はそそくさと退散。
周囲のプレイヤーがざわつき始める。
「え、イルム今なんて言った?」
「彼氏って言ったよな?」
「公開宣言きたぞ」
やめてくれ。
⸻
◆ 当人たち
静まり返った空気の中。
イルムはまだ俺の腕を掴んでいる。
呼吸が少し荒い。
自分で何を言ったか、今理解し始めた顔。
「……」
数秒の沈黙。
俺が先に口を開く。
「ずいぶんはっきり言ったな」
イルムの視線が揺れる。
離そうとして、でも離さない。
「最適解だった」
真顔。
でも耳が真っ赤。
「否定は?」
聞いてみる。
イルムはほんの一瞬だけ迷ってから、
小さく首を振った。
「しない」
心臓がうるさい。
周囲のざわめきが戻ってくる。
「うわーついに公式か」
「トーヤ終わったな(祝福)」
「壁役、恋愛クエ攻略済み」
うるさい。
⸻
◆ その後の歩行
二人で歩き出す。
さっきより距離が近い。
というかイルムが離れない。
「……あれは反射」
イルムが小さく言う。
「考える前に出た」
「助かったよ」
素直に言う。
イルムがちらっと見る。
「嫌じゃなかった?」
前にも聞いた台詞。
今度は俺が即答する。
「嫌なわけあるか」
イルムの歩幅がほんの少しだけゆっくりになる。
⸻
◆ 今日の日記
「イルムが大声で『私の彼氏だ』と言った」
少し間を空けて書く。
「撤回されなかった」
最後に。
「街イベント、たぶんクリアした」
セーブ。
画面が暗転する前に思う。
戦場で隣に立つ許可をもらった日より、
今日の方が緊張したかもしれない。