ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録 作:Rime casket
――ログアウトの先で、はじめまして
待ち合わせ場所は駅前のカフェ前。
人通りは多いけど、開けていて見通しがいい場所。
イルムが指定した。“最初は安全圏”らしい。
俺は少し早めに着いてしまって、落ち着かないままスマホを見たり周囲を見たりしていた。
ゲームのボス前より緊張してるの、どう考えてもおかしい。
その時、視界の端に――
見覚えのある色が入った。
淡い青。
振り向く。
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◆ アリスブルーの現実
そこにいたのは、間違いなくイルムだった。
長いアリスブルーの髪。
ゲームのアバターと同じ色なのに、光の当たり方が現実で見るともっと柔らかい。
赤みのある瞳も同じ。
でも、雰囲気が違う。
ゲームのイルムはシャープで隙がなかった。
目の前のイルムは、少し緊張していて、少しだけ頬が赤い。
服装は、淡いピンクのパーカーに白いインナー。
ラフなのに、きちんと整っている。
そして――
正直に言うと、アバターよりスタイルが良かった。
イルムは俺の視線に気づいて、少しだけ視線を逸らす。
「……トーヤ?」
声は少しだけ低めで落ち着いていて、
でもゲームで聞いていた声と同じ響きがある。
「イルム、でいいんだよな」
「うん」
短く頷く。
二人とも、数秒立ち尽くす。
ゲームならもう次のクエスト始まってる時間だ。
でも今は、“現実の間”がある。
⸻
◆ はじめまして
「……はじめまして」
イルムが先に言った。
俺は思わず笑う。
「もう何百時間も一緒にいるのに変な感じだな」
「うん。だけど、ちゃんと言いたかった」
その真面目さがイルムらしい。
俺も改めて言う。
「はじめまして、イルム」
少しだけ、肩の力が抜けた。
⸻
◆ 歩き出す
「どこ行く?」
俺が聞くと、イルムは少し考える。
「まずは……人の少ない場所」
即答だった。
やっぱり基本は慎重派。
駅前の通りから一本外れた遊歩道へ向かう。
並んで歩く。
ゲームの時みたいに自然に距離が詰められない。
でも離れすぎてもいない。
ぎこちないけど、嫌な沈黙じゃない。
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◆ 視線の話
少しして、イルムがぽつりと言う。
「さっき」
「ん?」
「見てた」
何のことか一瞬分からなかったが、すぐ気づく。
「……ごめん」
正直に謝ると、イルムは首を振る。
「嫌ではない」
顔が少し赤い。
「ただ、慣れていない」
俺は苦笑する。
「こっちもだよ」
イルムは小さく息を吐く。
「アバターは調整していたけど、現実はそのままだから」
「十分すぎるくらいそのままでいいと思う」
言ってから、ちょっと直球すぎたかと焦る。
イルムは数秒黙ってから、小さく言う。
「……ありがとう」
その声が、ゲームよりずっと近く感じた。
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◆ ベンチで一息
遊歩道のベンチに座る。
風が髪を揺らす。
アリスブルーが現実の光を反射して、やっぱり綺麗だなと思う。
イルムが横で言う。
「あなたのこと、ちゃんと“現実の人”として見るのは初めて」
「幻滅した?」
聞いてみる。
イルムは即座に首を振る。
「むしろ逆」
胸の奥がじわっと温かくなる。
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◆ 今日の現実ログ
初リアル対面完了
緊張度:前線ボス以上
安心度:街イベントより高い
イルムが隣で言う。
「まだ、少し信じられない」
俺は笑う。
「俺もだよ」
でも並んで座っているこの距離が、ちゃんと現実だ。
ゲームの世界で並んで立ったあの日の続きが、
今ここに繋がっている。
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その日の最後の記録は、日記じゃなくて、スマホのメモだった。
「イルムは、本当に来た。
そして、やっぱり隣にいる人だった。」