ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録   作:Rime casket

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噂のあの人

 

 

ログイン4日目

 

あれから、毎日ログインしている。

 

仕事が終わると即帰宅。

飯は最速で済ませてダンクロへ。

 

完全に生活リズムを握られている自覚はある。

でもやめる気は一切ない。

 

なぜなら――

 

まだ、イルムに会えていない。

 

 

◆ 冒険は順調

 

ガロウたちとパーティを組むようになった。

 

槍使いガロウ

回復職のミナ

盾役のボルド

魔法使いのレティ

 

そして前衛気味の俺。

 

森の奥にも進めるようになり、ゴブリン討伐や素材採集もこなしている。

 

Fランクも半分を超えた。

 

「トーヤ、動き慣れてきたな」

「最初のスライムで震えてた奴とは思えん」

 

そう言われると、ちょっと嬉しい。

 

確かに、戦闘中の余裕は出てきた。

剣の重さにも慣れたし、回避のタイミングも体が覚えてきている。

 

ダンクロは“プレイヤーの慣れ”がそのまま強さになるゲームだ。

ステータス以上に、経験が物を言う。

 

だからこそ、上手い人は目立つ。

 

――イルムみたいに。

 

 

◆ 目撃情報ゼロ

 

「なあ、あの白髪の人見た?」

 

休憩中、何気なく聞いてみた。

 

「誰?」

「ギルドで最初の日にいた人。名前イルム」

 

ガロウが「あー」と思い出す。

 

「いたなそんなやつ。あれ以来見てねーわ」

 

ミナも首を振る。

 

「上位エリア行っちゃったんじゃない? 強そうだったし」

 

レティが言う。

 

「でも、ランク表示なかったよね? 初心者っぽいのに装備おかしかった」

 

そう、それ。

 

ランクバッジが表示されていなかった。

 

普通はFとかEとか見えるのに、イルムにはなかった。

 

その時は気にしてなかったけど、今思うと妙だ。

 

「まさかNPCってことないよな?」

「いやいや、プレイヤー名表示されてたし」

 

結論は出ないまま、話題は次の狩場の相談に流れていった。

 

でも俺の中では、ずっと引っかかっていた。

 

 

◆ 掲示板の噂

 

ログアウト前、公式掲示板を眺めるのが日課になった。

 

攻略情報、職業考察、隠しクエストの噂。

 

その中に、気になるスレッドを見つける。

 

 

【考察】ギルドにいた“イルム”って誰?

 

 

開いてみると、書き込みはまだ少ない。

 

・初日に見たやついる?

・ランク表示なかった

・装備が初期品じゃない

・NPC挙動じゃなかった

 

そして一つのレスが目に止まる。

 

「あれ運営アカウントじゃね?」

 

心臓が跳ねた。

 

さらに続く。

 

・GMの視察用キャラ説

・バランスチェックしてるんじゃ?

・名前がプレイヤーっぽすぎるのが逆に怪しい

 

冗談半分、考察半分。

 

でも、妙に納得してしまった。

 

確かにあの雰囲気は、普通の初心者じゃなかった。

視線が違った。立ち方が違った。

 

まるで、この世界を知り尽くしている人みたいだった。

 

「……運営、かもな」

 

そう呟いてから、少しだけ寂しくなった。

 

もし本当にそうなら。

 

あの人は“同じ冒険者”じゃないのかもしれない。

 

 

◆ もう一つの情報

 

さらにスレを読み進める。

 

すると、別の話題が出ていた。

 

「イルムの髪色、白じゃなくてアリスブルーらしいぞ」

 

アリスブルー?

 

思わず読み返す。

 

・光の加減で白に見えただけ

・近くで見たやつが言ってた

・淡い水色だったって

 

あの時の記憶を必死に辿る。

 

確かに、ただの白じゃなかった気がする。

 

光を受けたとき、少しだけ青みが差していたような。

 

アリスブルー。

 

その単語が、やけに綺麗に胸に落ちた。

 

白よりも、少しだけ冷たくて、でも透明感のある色。

 

似合う、と思った。

 

 

◆ 会えない日々

 

それから何日も経った。

 

森を抜け、丘陵地帯へ。

新しい街にも足を伸ばした。

 

プレイヤーの数は増え続け、街は賑わっている。

 

強い人もたくさん見た。

装備が光ってるやつ、ソロでボス倒したって噂のやつ。

 

でも。

 

イルムはいない。

 

どこにもいない。

 

ギルドにも、フィールドにも、掲示板の新情報にも。

 

まるで最初から存在しなかったみたいに。

 

なのに。

 

森で風が吹くと、ふと白い影を探してしまう。

ギルドの扉が開くと、無意識に振り向いてしまう。

 

自分でもちょっと引くくらいだ。

 

 

◆ 今日の記録

 

ログアウト前、日記ログを開く。

 

「ログイン8日目

イルムはまだ見ていない

掲示板では“運営説”が出ていた

それが本当でも嘘でもいい

でも、もう一度だけ会ってみたいと思っている自分がいる」

 

少し間を空けて、もう一行。

 

「髪色はアリスブルーらしい

次に会えたら、ちゃんと確かめようと思う」

 

セーブ。

 

現実に戻る。

 

画面のない天井を見上げながら思う。

 

この世界には何億人もいるのに、

どうして、たった一度すれ違った人のことを、

こんなに覚えているんだろうな。

 

でもたぶん。

 

冒険って、こういうことなんだと思う。

 

強くなることだけじゃなくて。

 

忘れられない誰かに出会ってしまうこと。

 

ダンクロは、もうただのゲームじゃなくなっていた。

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