ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録 作:Rime casket
――駆け上がる一年:前編【春〜初夏】
ログイン32日目
俺はまだFランクだった。
けど、もう初心者じゃない自覚はあった。
剣の振り方、間合い、モンスターの癖。体が覚えている。
そしてこの頃、ダンクロ最初の大型動きが発表された。
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◆【第一回ワールドイベント:群青スタンピード】
突如、全フィールドに魔物が異常発生。
初心者エリアにも上位個体が出現し、街の外は阿鼻叫喚になった。
「無理無理無理!!」
「街まで逃げろ!!」
あの日、俺たちのパーティは森でゴブリンを狩っていた。
そこに現れたのは――
青く発光する変異種《群青牙ゴブリン》
通常個体の倍以上の速度。
ミナの回復が追いつかない。
「トーヤ下がれ!!」
ガロウの槍が弾かれ、ボルドの盾が削れる。
あの瞬間、俺は初めて“判断”した。
逃げるんじゃなくて。
倒す方を選んだ。
横合いから足を斬る。
動きが止まった瞬間、レティの火球が直撃。
最後は全員で畳みかけた。
《変異個体討伐成功》
街に戻ったとき、ギルドがざわついていた。
「森の変異ゴブリン倒したパーティがいるらしいぞ」
「マジかよ、あれ上位勢でもきついって話だぞ」
俺たちの名前が、初めて掲示板に載った。
その日、FランクからEランクへ昇格。
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◆ 噂の名前
イベント後、掲示板にもうひとつの話題が出ていた。
【速報】スタンピード単独制圧プレイヤー現る
そこにあったのは、たった一文。
確認名:イルム
心臓が止まりそうになった。
フィールド最奥部で、変異ボス級を単独討伐。
映像は残っていない。
目撃報告だけが異様に多い。
「やっぱ運営だろこれ…」
「いやプレイヤーだって」
「アリスブルーの髪のやつだよな?」
またその色の名前を見た。
会えないのに、伝説だけが増えていく。
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その夜の日記。
「俺はEランクになった。
でも、イルムはたぶんもう“別の世界”にいる」
悔しさと、妙な闘志が芽生え始めていた。
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――加速する夏【中編①】
ログイン94日目
ダンクロは“職業進化システム”を実装した。
プレイヤーの行動履歴で上位職が解放される大型アプデ。
俺の選択肢に出たのは――
◆【剣闘士】
前線維持能力と対複数戦闘に特化した近接職。
迷わなかった。
この頃には、俺は完全に前衛の要になっていた。
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◆【第二回ワールドレイド:深層樹海攻略】
サーバー全体協力型の巨大ダンジョン。
階層制、死亡で強制撤退。
俺たちは野良連合に混ざり、初参加した。
第3層で壊滅しかけたときのこと。
ボス《樹海の守人》の範囲攻撃。
全滅寸前で、俺は叫んだ。
「ボルド、盾上げろ! ミナ回復温存! レティ、次詠唱合わせて!」
指示なんてしたことなかったのに。
気づけば声が出ていた。
連携が噛み合い、ギリギリで撃破。
チャット欄が流れる。
「今の指示誰!?」
「前衛のトーヤってやつだ!」
その日から、俺は野良レイドで名前が知られ始めた。
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◆ また聞く名
レイド最深部到達報告。
先行クリア者リスト。
その最上段。
《イルム:単独踏破》
もう驚かなかった。
ただ思った。
いつか同じ場所に立ちたい。
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――秋、選ばれる側へ【中編②】
ログイン187日目
ダンクロ初のPvP公式大会が開催された。
【第一回アリーナ選抜戦】
ランク別トーナメント。
俺はBランク帯代表として出場。
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◆ 初めての対人戦
モンスターと違って、人は読めない。
でも。
相手の呼吸、足運び、視線。
戦闘経験が全部繋がった。
準決勝、決勝と勝ち上がり――
Bランク優勝。
ギルドで知らないプレイヤーに声をかけられる。
「トーヤさんですよね?」
「動画見ました!」
動画。
俺の戦闘が、誰かの観戦対象になっていた。
この頃から掲示板で呼ばれ始めたあだ名。
【壁役剣闘士トーヤ】
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◆ そして、再び噂
大会裏で運営視察があったという書き込み。
目撃報告。
「観客席にアリスブルーの髪のやついた」
俺は試合後、観客席を探した。
いなかった。
また、すれ違いだ。
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――一年後の現在【後編】
ログイン365日目
ダンクロ一周年記念イベント。
全サーバー共同ボス《星喰いの巨竜》討伐戦。
参加条件:Aランク以上。
俺のギルドカードには、はっきりと表示されていた。
《ランク:A》
あのスライムに震えていた初心者はもういない。
今、俺は前線部隊の主力だ。
咆哮を上げる巨竜に向かって、盾役と並び立つ。
後衛が俺の背中を信じている。
戦闘中、ふと思う。
ここまで来た。
1年前は想像もできなかった場所にいる。
でも。
視界の端に、ふと期待してしまう自分がいる。
白じゃない、淡い青の髪を。
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最後の日記ログ。
「ログイン365日目
Aランク到達
俺は一流プレイヤーになったらしい
でも――
まだ、イルムには追いつけていない気がする」
少し間を空けて、最後の一行。
「だから、たぶん俺はまだ強くなる」