ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録 作:Rime casket
――墜ちる前線
ログイン402日目
一流プレイヤー。
そう呼ばれることに、慣れ始めていた。
レイドの前線常連
PvP入賞経験
固定パーティの主軸
自分では変わってないつもりだった。
でもたぶん、どこかで慢心していた。
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◆ 事故の始まり
【高難度期間限定ダンジョン:崩落古城】
推奨ランク:A上位
即死ギミック多発エリア
俺たちは固定メンバーで挑んだ。
トーヤ(前衛)
ガロウ(槍)
ボルド(盾)
ミナ(回復)
レティ(魔法)
いつもの布陣。
何度も修羅場をくぐってきた面子。
「トーヤ、ルート任せていいか?」
「ああ、マップ見た。右回りで行ける」
その判断が、すべての始まりだった。
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◆ 見落とし
古城の中層、崩れかけた回廊。
俺は“安全だと思い込んだ”ルートを選んだ。
実際には――
トリガー式の多重罠地帯だった。
床が抜ける。
天井から槍が降る。
足元に魔法陣が展開。
「トーヤ!? これギミック違う!!」
レティの叫び。
気づいたときには遅かった。
「引き返すぞ!!」
叫んだが、回廊が封鎖される。
前にも後ろにも罠。
しかも湧いてくる敵は、ギミック連動型の強化モンスター。
混乱の中、指示が遅れた。
本来なら一瞬で判断すべき場面で、俺は一拍迷った。
その一拍で、
ボルドの盾が砕かれ
ガロウが囲まれ
レティの詠唱が潰れ
ミナの回復が間に合わなくなった
「トーヤ……!」
最後に聞いたのは、誰の声だったか。
視界が白くなり、
《パーティ全滅》
無機質な文字が表示された。
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◆ 戦犯
復活地点の街。
誰も喋らなかった。
しばらくしてガロウが言った。
「……あそこ、左ルートが正解だったらしいな」
責める声じゃなかった。
でもそれが一番きつかった。
「俺が確認不足だった」
そう言ったけど、軽すぎた。
ボルドが小さく笑う。
「まあ次だ次。ああいうのもある」
ミナは「気にしすぎないで」と言った。
レティも「動画見返そ」と。
誰も怒らなかった。
でもその優しさが、逆に刺さった。
俺の判断で、全員を殺した。
ゲームだ。
デスペナも軽い。
でもあの瞬間、俺は“前線の責任”を初めて実感した。
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◆ 動けなくなる
それから、ダンジョンに入れなくなった。
パーティに誘われても断る。
「今日は用事ある」
「ちょっと疲れてて」
嘘ばかり上手くなる。
戦闘中、あの回廊がフラッシュバックする。
“俺の判断で仲間が死ぬ”未来が頭をよぎる。
剣が、重くなった。
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◆ 初期街へ
気づけば、俺は《始まりの街リディア》にいた。
一年前、右も左も分からず歩き回った場所。
初心者プレイヤーたちが、同じようにキョロキョロしている。
スライム討伐に向かう装備。
ぎこちない動き。
昔の俺だ。
門の外で、初心者三人組がスライムに囲まれていた。
「ちょ、HP減ってる減ってる!」
「回復まだ!?」
体が勝手に動いた。
割って入り、一閃。
スライムが霧散する。
「え、強っ!?」「ありがとうございます!」
頭を下げられる。
胸が痛む。
俺は、うまく笑えなかった。
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◆ 居場所の変化
それから俺は、前線ではなくなった。
リディア周辺の見回り
初心者の護衛
クエストの手伝い
装備の相談
掲示板で言われるようになったあだ名。
【リディアの壁】
皮肉でも、悪口でもなく。
“初心者を守る前線”の壁。
誰かの初討伐を後ろから見守る。
危なくなったら助ける。
失敗しても責めない。
あの時の俺が、してほしかったことをするようになった。
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◆ 今日の日記
「ログイン428日目
俺はもう前線にいない
でもここで剣を振るう理由はある
守れる戦い方もあるんだと思いたい」
少し間を空けて、最後に書く。
「イルムならどうしたんだろうな」
返事はない。
でも、剣を置く理由にもならなかった。
だから今日も、門の外で初心者を待つ。
一年前の自分みたいな誰かが、
この世界を嫌いにならないように。