ダンジョン・クロニクル プレイヤー記録   作:Rime casket

9 / 22
再起する剣壁

――帰ってきた前線、変わらない拠点

 

前線復帰から1ヶ月

 

最初はひどかった。

 

剣の振りは鈍り、間合いはズレ、

敵の初動を読む感覚もワンテンポ遅れる。

 

レイドで一度、判断が遅れてヒーラーを危険に晒した。

 

あの瞬間、心臓が凍りついた。

 

でも――逃げなかった。

 

「ごめん、次は先に潰す」

 

それだけ言って、前に出続けた。

 

怖さを抱えたまま剣を振るう。

 

それが今の俺の戦い方だった。

 

 

◆ 戻ってくる感覚

 

二週間を過ぎた頃から、変化が出た。

 

敵の肩の動きで攻撃が読める

足音で背後の接近に反応できる

味方の呼吸で次の動きが分かる

 

“感覚”が戻ってきた。

 

以前と違うのは、慎重さが増したこと。

 

強引に突破しない

安全確認を怠らない

仲間の退路を常に確保する

 

挫折が、雑さを削ぎ落としていた。

 

そして復帰から1ヶ月。

 

レイドチャットで言われた。

 

「トーヤ、前より安定してない?」

「壁役の完成形みたいな動きしてる」

 

前より強い。

 

自分でも分かった。

 

 

◆ 3ヶ月後

 

【高難度ダンジョン:崩落古城(再挑戦)】

 

あの日、全滅した場所。

 

同じメンバーが集まった。

 

ガロウ、ボルド、ミナ、レティ。

 

「リベンジいくか」

 

誰も責めない。

 

でも全員、覚えている場所。

 

問題の回廊に差し掛かる。

 

俺は立ち止まり、全員に言う。

 

「今回は俺の判断だけで進まない。全員で確認する」

 

マップ、ギミック、敵配置。

 

全員で共有する。

 

慎重すぎるくらいに。

 

そして、進む。

 

罠はすべて回避。

敵は誘導して各個撃破。

 

あの時全滅したエリアを、無傷で突破。

 

誰かが小さく笑った。

 

「やっぱお前が前にいると安心するわ」

 

胸の奥が、静かに熱くなる。

 

ボスを倒し、ダンジョンクリア。

 

《踏破タイム:上位3%》

 

ログが表示される。

 

あの事故の場所を、今は先導している。

 

3ヶ月で、挫折前以上の腕に戻っていた。

 

いや、正確には――

 

“強さの質”が変わっていた。

 

 

◆ それでも拠点は

 

なのに。

 

ログアウト前に戻る場所は、いつも同じ。

 

始まりの街リディア。

 

門の外。

 

スライムに囲まれて慌てる初心者のもとへ駆ける。

 

「落ち着け、後ろ下がれ!」

 

一閃で危機を払う。

 

「すごっ……!?」

 

驚く新人たち。

 

「最初は誰でもこんなもんだ」

 

そう言ってポーションを渡す。

 

前線の猛者たちからも言われるようになった。

 

「なんでまだリディア拠点なんだ?」

「お前クラスなら王都ギルド常駐だろ」

 

でも俺は首を振る。

 

「ここが一番必要な場所だから」

 

それはもう、言い訳じゃなかった。

 

 

◆ 前線と初心者、その両方

 

昼は前線レイド

夜は初心者救助

 

そんな生活が続く。

 

新人たちが成長して、森の奥へ行き、

いつか俺と同じ戦場に立つ。

 

その瞬間を見るのが、たまらなく好きだった。

 

前線で守るのは“今いる仲間”

リディアで守るのは“これから来る仲間”

 

どっちも俺の戦場だった。

 

 

◆ ある日の小さな出来事

 

門の外で初心者に戦い方を教えていると、

 

遠くの丘の上に、見覚えのある色が見えた気がした。

 

淡い青。

 

風に揺れる髪。

 

一瞬で消えたけど。

 

見られていた気がした。

 

試されるような視線じゃない。

 

確かめるような視線。

 

俺は小さく笑う。

 

今なら分かる。

 

失望させたままじゃ終わらない。

 

でも、認めてもらうために戦ってるわけでもない。

 

ただ、自分の剣を好きでいられる場所に立っているだけだ。

 

 

その日の最後の日記。

 

「前線復帰から3ヶ月

挫折前より強くなった

でも帰る場所は変わらない」

 

少し考えて、最後に書き足す。

 

「俺はここから、前線へ行く」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。