エピローグ
ぱたりと、何かが倒れたような音がした。
物が高いところから落ちたような衝撃はなく、優しく風によって倒されたような感覚。
その小さな音を察知できたのは、きっと偶然だったのだろう。
「あれ……ドア開けっ放しになってる」
ぴくりと揺れた耳の方向に視線を向けると、そこは男性が一人過ごしていそうな作業部屋。
そんな部屋の中の窓際には、ずらりと飾られた自分のグッズの中にぽつりと写真立てが置いてあった。
「これ、こんなところに飾ってあったんだ」
そこにあったのは、自分が最後の有マ記念を勝ったときの写真。
その中の自分は今まで獲得した優勝旗を肩に掛けながら、カメラ目線でピースなんかしてしまっていた。
「随分と生意気な顔してるじゃん」
そりゃG1レースを制覇したらこんな顔したくなってしまうのは、十分わかる。
だがそこに映っているのが過去の自分だからだろうか。今の自分に向けて、こういわれているような気がしてならない。
──昔のボクは、こんなにも凄かったんぞって。
「……まぁ、確かに凄かったんだろうけどさ」
クラシック三冠レース制覇に、他のG1レースの勝利。
自他ともに最強を名乗っていいくらいには、自分のしてきたことは凄いことだし誇れる部分だ。
だけど。
「なんか、なぁ……」
その写真が置かれているのが彼の自室ということを除けば、だが。
自分のグッズがところせましと置かれているこの部屋も、よく見渡してみれば写真はこれ一枚しか飾られていない。
このままだと過去の自分に負けているような気がして、もやもやしてしまう。
さて、どうしたものか。
「……あっ、いいこと思いついた」
この写真の隣に、今の自分の写真も置いてあげよう。
過去の自分に負けないくらい、今の自分も輝いているんだって教えてあげればいいんだ。
いうなれば、昔の自分と今の自分でのレース。
まぁこんなこと彼に言ったら、くすりと笑われてしまうだろうけどさ。
「さてさて、どういう写真にしようかな」
そんなことを考えながら写真を撮るために、小さなデジタルカメラと脚立を家の中から探し出してリビングに設置する。
カウントダウンのタイマーを手動で設定し、カメラの前に立ってみてテスト用にぱしゃり。
こうして出来上がった写真を、すぐに印刷して確認してみたのだが。
「なんか物足りないな……」
写真の質といえばいいのだろうか。
色合い、構図、その他諸々。昔撮った写真と比べたら、負けているように見える。
それも当然だ。
だってあっちはプロが撮った写真で、自分は素人。
いくら時間が経っているとはいえ、それに勝つのは難しいだろう。
「……」
そうなると僕は別の箇所で勝負した方がいいかもしれない。
過去の自分と比べて、今の自分が勝っている要素といえば。
「……よし」
かしゃりと。
結局カメラも使うことなく、手元の携帯で自撮りをする。
そして印刷したらそれを、余っていた写真ケースに入れて彼の部屋に置いておいた。
「ちょっと大人気なかったかな……?」
彼との距離。
それをアピールするように、撮った写真には。
過去の自分に負けないくらい、きらりと輝いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
一人家の中で秘密の小競り合いをした後。
窓を少し開けてリビングのソファに座ると、心地よい眠気がとくとくと注がれてくる。
暖かい日差しが布団のように覆いかぶさってきており、きっとこのまま目を閉じたらとても気持ちがいいのだろう。
だけど、今眠るわけにはいかない。
なんて言ったって、今日は大事な記念日なのだから。
「まだ……かな」
準備万端で、あとは待ち人を待つだけになった状況。
足をパタパタと動かしながらいつでも動ける準備をしていると、耳がぴくりと動く。
外から聞こえてきたのは、地面をとんとんと叩く足音。
それだけでもう誰が帰って来たか分かった自分は、直ぐに玄関に駆けつけて笑顔で彼を出迎えるんだ。
「お帰りなさい!」
いつまでも、どこまでも。ずっと。
「ボク/僕」は隣に、一緒にいるよ。
だから、次は何をしようか。だから、次はどこへ行こうか。
だから次は……「キミ/君」を名前で呼ばせて欲しいな。
ね? 「ボク/僕」の大好きな、トレーナー?
~FIN~
トウカイテイオーの物語は、一つに集まる。
最後の挿絵はHIBIKI様に描いていただいた「大人と子供のテイオーが出迎えるシーン」となっています。
最後のエピローグを見て、貴方の思い浮かべたテイオーは「どちら」のテイオーでしたか?
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