ボクの力で、トレーナーもイチコロだもんね!
「ボクは、このチケットを──すぐ使いたい!」
ボクがこのチケットを手に取って直ぐに出した答えは、本能に基づいたものだった。
レース中に仕掛けるときのように、ボクの直感が「ここ」と呟いたのが聞こえた気がする。
ボクのワガママな部分が、一番前に出て追い抜かしていった。そんな感じ。
こんな魅力的なものを直ぐに使わないなんて、そのヒトはよっぽど臆病者なんだろうな。
「……いや、俺はいいけど。今からは流石に無理だぞ?」
ボクの言葉を受けたトレーナーは、流石に直ぐに使われると思っては無かったのか少し苦い笑みを浮かべている。
まぁ確かに、今から一日独占するはダメかもしれないけど……なるべく早く使いたい。
そうなると、次のお休みの日とかがいいのだろうか。
「うん……来週の休日なら予定空いてるな。そこにチケット使うのでいいのか?」
「いいよ! ボクのために時間取っておいてよね!」
ボクのために、なんて。
そんなちょっと恥ずかしい事を勢いよく言っちゃったけど、それでもボクは止まらない。
だってこれを貰う前から、気持ちは決まってたんだから。
だからこの権利は、ボクの背中を押してくれただけにすぎないんだ。
「じゃあ、来週よろしく! 予定決めたら、また連絡するから!」
「はいはい……って、もう行っちゃったか……」
先ほどまでお疲れ様会していたトレーナー室を飛び出して、楽しくステップを踏みながら寮の方へと戻る。
なんだろう。今だったらなんでも出来る気がする。
まるで、自分の「夢」が見つけられた時みたいに。目標に向かって一直線に進むという、ボクの信念がそこにはあった。
「よっし! 絶対にこのデートで、トレーナーに『告白させる』ぞ!」
月が輝く夜空に向かっておーっと叫ぶと、なんだか透き通るような気持ちが湧いてくる。
トレーナーに、ボクのことを「女の子」として意識させてやるんだから! 覚悟してよね!
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「うあっあっあっあっ……」
「テイオーちゃん、うるさい」
そんなカッコいい宣言をしながらトレーナーをデートに誘って、次の日の朝。
ボクは筋肉痛が酷かった時のように、自分のベッドの上でびちびちと跳ねるウマ娘と化していた。
昨日はあんなに何でも出来るような全能感があったのに、今は自分の無力を感じてフワフワに沈むことしか出来ない。
「デートって何すればいいのさ……」
「テイオーちゃん、いつもデート行ってるじゃん。それじゃダメなの?」
「あれは……普通のじゃん」
マヤノにも言われてしまったけど、ボクとトレーナーはことあるごとにデートしているのだ。
ゲームセンターに行ったり、遊園地に行ったり、ショッピングモールに行ったり……
次にするデートは特別なのに、このままだといつも通りの平凡なデートになってしまう。
それはそれで楽しいと思うけどさぁ……。
手詰まりになってしまい頭を捻らせていると、マヤノがボクにアドバイスをしてくれた。
「うーん、そういう時は経験者を見てみるのはどう?」
「経験者?」
「そうそう。いるじゃん、あつあつカップル」
トレセン学園には、誰がどう見ても付き合ってるウマ娘とトレーナーがいたりする。
レースはエンターテイメントとしての側面もあるため、学生とトレーナーが付き合ったら問題になるから表としては禁止かもしれないけど。
まぁそれで止まってたら苦労しないよね、というのがトレセン学園全体の暗黙の了解だ。
というかトレーナーがスパダリすぎるのも悪い。
ボクの男性感を返して欲しい。
さてさて、閑話休題。
「最近だと……あれじゃない? お清楚三銃士」
「何そのヤバそうなトップスリー」
トレセン学園は女子校だからか、噂が広まるのがめちゃくちゃ早い。
噂好きで色んな人から話を聞いてるボクでも、日々目まぐるしく変化する情報は全て追いきれていなかったりする。
そんな中でマヤノが話してくれた三人のウマ娘は、確かにボクとしても印象が残っているヒト達だった。
そんな呼ばれ方してたんだ……とはなったけどさ。
「ありがと、マヤノ。参考になるかは分かんないけど、見てきてみるよ」
「まぁ、あのカップルなら一日中どこでもイチャイチャしてると思うよ。いってらっしゃーい」
ボクは凝り固まった頭をほぐしたい気持ちも込めて、よっと声を出しながら勢いつけてベットから体を起こす。
そしてボクはトレーナーとの特別なデートプランを考えるために、例の方達がいる学園の方へと足を進めるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜
「ただいまー……」
寮を出て学園を一通り探索してから、数時間後。
ボクは満身創痍になった心をなんとか支えながら、ふらふらとマヤノのいる自室へと戻ってきてしまっていた。
朝と同じように枕の上に顔を沈めると、力なく尻尾を垂らしながらぐでりと解ける。
「おかえりー。帰ってくるまで早かったね。もしかして見つからなかったの?」
「いや……見つかったけどさぁ……」
そう。噂に聞いていた、例のお清楚三銃士はすぐに見つけることは出来たのだ。
なんなら探さなくても、勝手に視界に入るくらいには目立っていちゃついていたから探す行為すら必要なかった。
だけど、ボクのテンションがここまで低いのにはもちろん理由があって。
「参考になるとかそういう次元じゃなかったんだけど……!」
「あぁ……ご愁傷様ってやつなのかな」
「あれなんだったの!? ワケワカンナイヨー!」
彼女たちはボクの想像していた、男女のカップルとは全く違っていた。
一人目、サトノダイヤモンド。
彼女は、ボクの大切な後輩であるキタちゃんと一緒にハーレムを作っていた。
二人目、エイシンフラッシュ。
彼女は、自分のトレーナーをドイツに連れて行って二人で働くケーキ屋の話をしていた。
三人目、メジロアルダン。
彼女は、もう既に結婚していた。
「ボクの想像してた、トレーナーと一緒にデートする~とかじゃなかった……」
「テイオーちゃんって、意外とぴゅあぴゅあだよね……」
失礼な。ボクはトレーナーに自分を意識させるなら、一つ一つステップを踏む必要があると思っているだけだ。
あんな「いいとこ入った!」からの「ノンストップガール」は流石に飛ばし過ぎだと思う。
とはいえ、ボクとトレーナーの特別なデートプランが思い浮かばなかったのは事実。
「どうするかなぁ……」
このままだと来週のデートはいつものになってしまって、トレーナーに惚れさせるなんて夢のまた夢に……。
「いや……ボクはトウカイテイオーだぞ……」
他人の夢なんか、関係ない。自分の夢に対して真っ直ぐ進むのが、自分のレースなんじゃないのか。
ボクが、トレーナーにどうしたいのか。トレーナーにどうして欲しいのか。
「ボクはトレーナーに異性として見て欲しい……。けどトレーナーはきっと、ボクのことを担当ウマ娘として見てるはず……」
ボクがトレーナーのことが大好きなように、トレーナーも絶対にボクのことが大好きだ。
想いの強さが同じなら、そのベクトルを隣からつついて「親愛」から「恋慕」に変えてあげればいい。
ボクがまるでレースの前のように走り方を考えていると、マヤノがそっと話しかけてくれた。
「……やっぱ、そっちのテイオーちゃんの方がマヤは好きだよ」
「へ?」
「自分が最強だって信じてる顔。今のテイオーちゃんなら、絶対になんでも上手くいく気がしちゃう」
「……勿論!」
これは、ボクとトレーナーだけの「恋のダービー」だ。
一歩一歩ステップを進めて、相手をボクに堕とせばゴール。
「ボクがボクとして、トレーナーに出来ることは……これかな」
こうして。
頭の中でレースプランを組んでぴたりと当てはめた時には、すっかり外は真っ暗になっており同室の彼女は静かな寝息を立てていた。
ボクはゆっくりと携帯を操作してメッセージアプリを立ち上げると、トレーナーに対してとある一つのメッセージを送る。
「トレーナー! 来週、ボクと一緒にピクニックに行こう!」
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