アミューズメント施設で散々遊んで、全部の娯楽を一通り楽しんだ後。
二人で一緒に外に出ると街はすっかり暗くなってしまっており、人工的な灯りが付き始めている。
学生の頃だったら出歩くのすら許されなかった、なんだか不思議な大人の時間。
そんな中、僕がトレーナーを連れて行くのは今日のデートの目玉のお店……だったのだが。
「やっと着いたぁ……。こんなの、初見じゃ分かんないよ……」
「なぁ、本当にここであってるのか……?」
「あってる……はず。民家にしか見えないけど……」
僕が地図をにらめっこして辿り着いたのは、大通りから大きく外れている街の路地裏。
周りが民家だという場所も相まって、ここに行く目的がない限り見つけることすら不可能に思えてしまう。
まぁでも「OPEN」って看板もあるし、ここで間違いない。多分。ちょっとだけ、自信ないかも。
「し、失礼しまーす……」
一抹の不安を抱えつつ恐る恐るドアを開けると、からんころんという鈴の音が僕の耳に入ってくる。
中を覗いてまず一番初めに目に入って来たのは、壁一面にたくさんの種類のお酒が並べられている棚。
そして少し薄暗く手狭な空間に存在している、木目調のおしゃれなバーカウンター。
そんな独特の雰囲気が醸し出されている店内に入ると、そのお店のマスターらしき人が僕に対して話しかけてきた。
「ご予約されていたトウカイテイオー様ですか?」
「はい、間違いないです」
「お待ちしておりました。こちらの席へどうぞ」
事前にしっかりと予約していたので、待たされるということもなく僕たち二人はカウンター席へと案内される。
マスターからお通しということで貰った魚の燻製を早速摘まんでいると、隣に座ったトレーナーが耳打ちをするように話しかけてきた。
「よくこんなお店知ってたな」
「知り合いがおすすめしてくれさ。お酒と料理がどっちも美味しいって、隠れた名店なんだよ?」
今回僕が彼を招待したのは、知る人ぞ知る名店という名前が相応しいバー。
ここを教えてくれたのは、商店街でバーを経営しているナイスネイチャだ。
同業者である彼女が太鼓判を押してたくらいなので、それだけ評判がいいのだろう。
だからこそ、僕はトレーナーと夜の時間を過ごすためにここを選んだのだ。
こうやって大人じゃないと出来ない楽しみをデートとして使っても、なかなかに悪くない。
「かんぱーい」
「乾杯」
早速お酒を注文して、お互いのコップをこつんとぶつける。
僕が頼んだのは甘くて飲みやすいリンゴの果実酒で、彼が頼んだのはなんだかかっこいい名前をした日本酒。
お酒に詳しくないからわかんないけど、たぶんちょっとお高めそうなやつなのかな。
「……おいしい」
一口飲んでみると、お酒にしてはアルコール感が少なく果汁ジュースのような舌触りでかなり飲みやすい。
値段というのも勿論あるのだろうが、それだけバーのマスターの腕がいいことも確かだ。
おつまみで頼んだ料理も全部おいしいし、これはお酒がするすると喉に入ってしまう。
「美味いな……」
トレーナーも少し驚いたような顔をしながら、お酒と料理を一緒に食べ進めている。
そんな彼の横顔を見ながら、僕はいつも話すときのように話題を切り出した。
「まぁ、ゆっくり話そうよ。そうだなぁ……最近のレースで注目してるウマ娘とかいる?」
「そうだなぁ……。やっぱり最近だと──」
バーでゆったりと会話をしながら料理に舌鼓を打っていると、僕はとあることをふと思い出した。
そういえば、彼がお酒に酔った場面を見たことがない。
いつもセーブしているというのもあるのだろうが、居酒屋とかで飲むときでも顔を赤くすらしていない。
「ふーん……?」
ならここは一つ……トレーナーを酔わせちゃおっかな。
もしかしたら可愛い顔とかしてくれるかもしれないし、酔いつぶれちゃっても僕はウマ娘だから人ひとりくらい簡単に運べる。
多分アルコール耐性は僕の方が高いはずだし、楽しく話しながら飲んでれば先に酔ってくれるかもしれないという期待を抱いたのが数時間前の事。
「うへへへ……♪」
そうしたら、酔った。めちゃくちゃ簡単に酔った、僕が。
吐き気とか気持ち悪さはなくて、ふわふわして頭がぽわーってする感じ。
幸せ酔いってやつだ。知らんけど! あはは!
「……大丈夫か、テイオー?」
「やー! ぜんぜん、へーき! まだしらふ~」
トレーナーが僕のことを心配して声をかけてくれるが、僕的にはまだまだ余裕でいける。
明日僕もどーせ休みでやることないし、ちょっとくらいぐだぐだしてもいいじゃんねぇ?
トレーナーも明日はなんもないって言ってたじゃん。
あと数杯くらいさぁ、別にお金は余裕あるしぃ。実は僕、結構エリートなんだぞ〜!
「ねぇねぇ、次何にする~? ウオッカのロックとかいいんじゃない?」
「大丈夫じゃないな、これは。すみません、マスター。お会計で」
「えー!? 僕まだ、話足りないんだけどー!」
「もう終電だぞ。俺、帰れなくなっちゃうから」
言われてみてから時計を確認すると、確かにもう次の日を跨ぎそうな時間帯。
都内だからまだギリギリ電車が出ているのだろうが、あと数本でそれすらもなくなってしまいそうだ。
つまり……もうちょっと、時間稼げばトレーナーと一晩入れるってこと!?
「いえーい♪」
そう考えたらなんか楽しくなって、彼のほっぺをつんつんと突いてしまう。
トレーナーが抵抗してこないので僕が好き勝手に彼の顔を遊んでいると、一つ「とてもいいこと」を思いついた。
「トレーナーさぁ、終電なくなっちゃってもいいんじゃない?」
「……いや、家に帰れなくなるから。今から泊まる場所を探すっていうのも」
「なら、僕の家に泊まればいいじゃん」
トレーナーは確かに電車に乗らないと帰れないが、僕の今住んでる家はここのバーから近い。
彼を背負って走って行っても、数十分といったところ。
これならトレーナーと一晩中話せるし、隙もない完璧な案じゃないか。
「じゃあ、しゅっぱーつ! あ、支払いはもうしといたからね!」
「いつのまに……って、駄目に決まってるだろ。年頃の女の子の家に上がり込むなんて──」
「僕がしたいからいいの!」
こうして僕は勢いのままトレーナーをおんぶすると、お世話になったマスターにお礼をいって店の外へ出た。
すっかり真っ暗になって人気もなくなった夜道を、僕はあれから抵抗してこない彼を背負いながら駆ける。
なお。これがすごい大層なことをしていることに僕が気付くのは、もう少し時間が経った後になるのであった。
「そういえば、これ乗バっていうらしいよ! トレーナーが上っていうのもなんか気持ちいいなぁ!」
「頼むから、その言葉は人前では言わないでくれよ」
~~~~~~~~
「あっづ!」
口から女の子とは思えない声が、無意識のうちに出てきてしまった。
次の瞬間、僕の意識がぼんやりと現実世界へと戻って来るような感覚に襲われる。
さっきまでの記憶がもやがかかったように曖昧で、自分がなんでここにいるのかも分からない。
「うーん……あれ、僕何してたっけ……」
場を把握する為に周りを見渡すと、目の前の鏡には全裸でぽけっと突っ立っている自分が映っていた。
どうやらここは自宅のお風呂のようで、シャワーを浴びる直前だったらしい。その証拠に、さっき床に落としたシャワーヘッドがお湯を出して暴れている。
「あー……さっきまでお酒飲んでたんだっけ……」
お湯を頭から被って、なんとなく自分の置かれた状況が分かってきた。
最後の記憶は、トレーナーとお酒を飲んで楽しく話したバーの中の光景。
これは酔っぱらって、そのまま勢いで帰宅しちゃった流れかな?
あのバーからは自宅まではそこまで遠くないし。僕の帰巣本能もたいしたものだ。
いやまぁ、記憶はないから憶測になるんだけどさ。
「トレーナー……とはもう別れちゃったよね……」
わざと熱めに設定したお湯でシャワーを浴びていると、大きな溜息が零れ落ちてしまう。
だいたい、自分がお酒に凄い強くないっていうのは分かっていたのだ。
悪酔いはしないけど、早めにアルコールが回って早めに抜けてしまうタイプ。
だけどあの時はトレーナーと一緒にいるのが嬉しくて、つい羽目を外しすぎてしまった。
それでデートの最後の記憶がないんだから、本当に世話がない。
「だいたいデートプラン考えてたのに、全然活かせてないじゃん! なんなのさー!」
前日から緻密に練っていたデートプランも、しっかりと守れていたのは午前中だけ。
後半からは僕じゃなくてトレーナーにエスコートされるわ、お酒に負けてトレーナーの顔は見れないわで散々。
だけど。それでも。
「楽しかったな……」
僕が最初に考えていたデートよりもずっと。
ずっと。
ずっとずっと。
楽しかったのだ。
「うん、最後だけあれだったけど……凄い良かった」
朝も、昼も、夕方も、夜も。
トレーナーの隣にずっといれて、トレーナーの顔をずっと見れた。
学生の頃だったら好きな時に一緒にいられたけど、今はその時間もとても貴重なものになっている。
「お風呂あがったら、トレーナーに連絡入れなきゃ……。また、デート出来るといいけどなぁ」
もし次のデートがあるなら、トレーナーと一緒に星を見たい。
二人で綺麗な夜空を、プラネタリウムではなく実際に眺めるのだ。
彼も興味を持っているみたいだし、ちょっとお星さまの勉強しようかな?
「着替え……あれ、無い。パジャマとかリビングに置きっぱなしだな、これ」
シャワーを浴びて目を覚ました後、僕はタオルで軽く体を拭いくと着替えが無いことに気づいた。
どうやら新しい着替えを、脱衣所に置いておくのを忘れてしまったみたいだ。
一応洗濯機から引っ張ればさっきまで着ていた服はあったけど……別にいいや、全裸でも。
というかタオルも濡れてるし、そのまま洗濯機に突っ込んでおこ。
「はー、今何時なんだろ。日付変わってるだろうなぁ──」
こうして僕がリビングに出るために脱衣所の扉をがらりと開けた瞬間、確かにこの空間の時が止まった。
「や、やぁ……」
何故か僕の視線の先にいたのは、さっき別れたはずの僕のトレーナー。
あれ、ここ僕の家だよね。なんでいるの?
瞼をパチパチと何度か開いても光景が変わることがないため、恐らく酔っ払いの幻覚というわけではない。
夢かと思って頬をつねってみるが、普通に痛い。現実らしい。
「……え゛?」
つまり、今の状況を説明するとこうだ。
──トレーナーに、僕の全裸が見られた。
「うわああああああ!!!」
僕は悲鳴に近い声を出しながら、壊れる勢いで思いっきり引き戸を横にスライドする。
バンと壁とドアが当たった音が鳴り響き、僕はその場にバクバクと心臓を鳴らしながら座り込んでしまう。
頭をぶんぶんと振り回すと、ショック療法というわけではないがだんだんと「今の正しい状況」を思い出してきた。
「落ち着け……。まだ、まだ慌てる時間じゃない……」
まずデートの最後に別れたというのが間違いで、僕が酔った勢いでトレーナーを自宅までお持ち帰りしてしまったが正解。
それで、家に帰ってきたら先にお風呂入るとか言って。トレーナーをリビングに座らせたまま、僕だけ先にシャワー浴びていたと……。
「何やってんの? 僕?」
過去の僕へ。あまりにも本能に忠実すぎで、今の僕は困ってます。
と、取り合えず。トレーナーにごめんなさいをしなくては。
彼も急に来たこともない他人の家で待たされて、居心地も悪かっただろう。
最近掃除してなくて、女の子の部屋としてはちょっと床にモノが散乱し──待てよ。
「なんか、大事なことを見落としてるような」
掃除してない、はまだいい。
いや一人暮らしとしてはよくないけど、これは最近忙しかったからという言い訳が効く。別に床がみえないとかゴミ屋敷とかではないし。
そう、これは言い訳が効くのだ。
それよりも、なんかこうもっと大事な。言い訳すら効かない、やばいものを放置してたような。
「あっ。……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「うおっ、急にどうし──ちょっ、色々見えっ!?」
それに気づいた瞬間の僕の初速は、恐らく現役時代のスタートダッシュよりも短かっただろう。
もはや服を着る暇はない。一刻も早く、ベッドに放置されている「ブツ」を片付けなければ。
ピンクの丸いやつとか、肌色の長いやつとか、小さな吸引機みたいなやつとか!
「なんでこんな時に限ってぇ!」
僕の自宅はリビングが広いタイプの部屋で、ベッドが生活スペースに設置してある。
つまり、寝るところや食事をするところが同じ部屋というわけなのだが。
これが、トレーナーがリビングで待機してもらう時に致命傷になった。
だって「ブツ」が放置してある場所、ベッドの近くなんだもん! 使う場所的に!
まだ、こっちの方まで見られてないよね!?
「……あれ、テイオーってペット飼ってるんだっけ? なんでペットシーツが──」
「うぎゃあああああ!!!!」
急いでカラフルで色々な形をした複数「ブツ」をベッドの下にぶん投げてると、裸の僕から目を逸らしてくれていたトレーナーがぽつりとつぶやく。
声がした方に素早く振り向くと、トレーナーが不思議そうにペットシーツの袋を見ていた。
ちょっと!? それだけ机の近くに放置してたとか、過去の僕何やってるの!?
僕が急いでトレーナーの近くにあった「ブツ」をつかむと、玄関の方に向かってぶん投げる。
これで処理出来たな! よし!
「あの、テイオーさん……。色んなとこ見えてます……」
しまった。こっちの方は処理出来てなかった。
いやあっちは色々考えて処理はしてたけど、こっちまでは処理出来てなかったというか。
というかもう別にトレーナーになら、全部見られてもよくない? 今ちょうどお風呂上がりで綺麗だし。
どっちの方が恥ずかしいって言ったら、さっきの「ブツ」見られる方が恥ずかしいんじゃない?
……うん。
「見ていいよ! なんなら、トレーナーなら好きなとこも弄っていいよ!」
「テイオーさん!? まだ、酔ってます!?」
「だって、トレーナー僕の胸元見てたじゃん」
「む、昔と比べてバ体が良くなったなと……。や、本当にそれだけで……」
「巨乳好きだったから、学生時代の僕には手を出さなかったの?」
「違うんだけどな!?」
「今ならおっぱいおっきくなったよ? 触る?」
「……触らないし、見ません」
「や、でも視線は正直じゃん」
「……」
「……なんかトレーナーに見られてると思ったらゾクゾクしてきた。下半身の方がきゅうって切ない感じ──」
「服、着ようか! 俺のためにも、テイオーのためにも!」
こうして。
結局この一悶着は、僕が生まれたままの姿から服を着るまでバタバタと続いてしまったのであった。
その間にもちらちらと視線は感じたけど、別に嫌じゃなかったのでお互いのためにも黙っておこう。
~~~~~~~~
トレーナーと僕の悲鳴が、マンションの一室に響き渡った後。
僕は普段使っているパジャマにしっかりと着替えてから、土下座する勢いでトレーナーに対して謝っていた。
彼は「俺も悪かったから気にしなくていい」と返してくれたが、恐らく僕の痴態は脳裏に刻まれることになるだろう。
先ほどの出来事のせいで自分の顔が真っ赤になってしまっていると、トレーナーはそれを見てくすりと笑った。
僕はそんな彼に対して、ベッドにあった枕を掴むとびゅんと投げつける。
なんだか、さっきまでのめちゃくちゃだった空気が嘘みたいだ。学生だった時のような、なんでもない雰囲気。
確かに、これも心地よくてこのままにしたいんだけども。
「ねぇ、トレーナーが良ければこのまま泊まっていかない? お詫びってことも兼ねてさ」
「俺は……別にタクシーでも帰れるけどな」
「深夜だと倍以上にお金かかっちゃうでしょ? それなら明日また電車で帰った方がいいって」
自分が彼を家に連れてきてなんて都合のいいことを言ってるんだ、なんて。
そう思ってしまうところはちょっとはあるけど、彼と一緒に少しでも長くいたいのは本音。
過去の自分も今の自分も変わらない、僕の確かな想いの一つ。
だってこのレースのゴールは、彼に想いを伝えることなんだから。
まだチケットの一日は、終わっていない。
彼がもっと僕を意識して。気になって。もう僕のことしか考えられなくなるまで。
彼を溶かしてから、想いを口移しするんだ。
「もう、夜も遅いし寝ちゃお?」
とは言っても昼間に二人ではしゃいだりしたためか、僕の体力もそろそろ限界が近い。
ウマ娘の僕だってそうなんだ。いくら僕のトレーナーだからって、少なくとも眠気はあるはず。
だからちょっとだけ蕩けた声で、ベッドの方へと誘い込むために腕を絡めとる。
彼をどろりとした沼に沈めようとするが、そのお誘いには簡単に乗ってくれないようで。
「俺は床でいいよ。テイオーが家主なんだから、ベッド使いな」
「……」
この返事は、なんとなく分かっていた。
でもこれは彼が「トレーナー」だから、絶対に言うと思っていたセリフ。
だけど大人の「僕」と「君」しかいないこの空間で、その意志はどこまで持つかな?
「布団は予備ないし、床で寝たら風邪ひいちゃうよ?」
まだだ。まだ、建前の言葉。
体調を心配するふりなんて、まだ仕掛けとしては可愛いものだ。
だからこそ、彼は引っ掛からずに食い下がるはず。これはお互いの探りあい。
狙うのは、彼が絶対に僕に「惚れた」と確信した瞬間。
「……俺は、大丈夫だから」
揺らぐ。揺らいでいる。
今日デートして分かったけど、別に彼は僕のことを意識してないわけじゃない。
だけどきっとそこには、見えない壁があって。かっちりと、別れている感じ。
僕は、それを壊したいんだ。
「僕が一緒に寝たいんだけど……駄目、かな」
次に見えるのは、感情での訴え。
僕から彼にわがままを言って、甘く判断させる。
あぁ、大人の想いの駆け引きって本当に難しいものだ。
だってこの胸に溜まる感情を、ただ一気に吐き出すことが許されないんだから。
学生の頃から熟成された「コレ」を垂れ流すなんて、僕には出来ない。出来なかった。
だから、今だけでいい。
今日一日デートして彼に植え付けた僕の一面を、全て引き出せるように。
「僕は……トレーナーになら、なにされてもいいんだよ?」
ちょっと格好つけてしまったところも。
反撃されてからかわれてしまったところも。
彼が好きと言ってくれた元気で笑っているところも。
子供らしいところも。
大人らしいところも。
全部乗せて、言え。
──好き、だって。
僕が溶かすように視線を投げていると、固まっていたトレーナーがぴくりと肩を揺らした。
何か我慢していたところが、ばちりと切れたような。そんな音がこの部屋に響いた気がする。
そうして彼がかくんと顔を下に向けたかと思うと、僕の拘束からするりと抜けて正面に立ってきた。
その表情はなんだか、堪忍袋の緒が切れたような……
「なぁ……それはワザとってことでいいんだよな?」
「……ぴえ?」
「ベッド行くぞ、テイオー」
僕が返事をするより早く、彼は僕をお姫様だっこしてきた。
びっくりして反応できなかったのもあるけど、簡単に抱っこされた僕はそのままベッドに押し倒されてしまう。
ぎしりとベッドが軋む音が聞こえてきたかと思うと、視界を覆う様に彼の顔が僕の視界いっぱいに広がる。
自分の手首をそれぞれがっちりと掴まれてしまい、抜け出そうも抜け出せない体勢。
あれ……これってさ。
「……もういいよな?」
トレーナーが、僕を襲ってる?
いやっ、それは嬉しいけど! トレーナーが僕のことをすっごい意識してたって分かるけど!
でもまだ僕が告白してないし、ちょっと順番が早いかなって、あれでも僕が散々誘惑してたからトレーナーがこうなっちゃったわけで、責任取らなきゃいけなきゃ──
「きゅう……」
この状況を理解した瞬間、僕の頭はオーバーヒートを迎えていた。
その結果、眠くなっていたのも相まって気絶する様に意識がぼんやりと遠のいていく感覚がする。
まだ彼に対して何も言えていない状況の中で、彼はぽそりと何かを呟いた。
「俺も──」
その言葉は最後まで、僕の耳には届かなかったけど。
「──大好きなんだよ、テイオー」
この恋のレースがゴールへと近づいているということだけは、僕でも理解出来たのであった。
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