ゆるふわです。
少し長めです。
アパートの窓から差し込む朝日は、部屋に充満した生活臭——カップ麺の残り香、干しっぱなしの洗濯物、そして絶望の臭い——を無慈悲に照らし出していた。
「あー、マジでないわ。人生詰んだ」
狼獣人のダム子が、破れたソファに寝転がりながら天井のシミを数えていた。
「ねえ、誰かさぁ、宝くじとか当たってないわけ? 1億くらい。そしたらアタシ、一生遊んで暮らすのに」
「そんなのあるわけないでしょぉ」
鏡の前で、猫獣人のリッツォが安物の乳液を顔に叩き込んでいる。
「それより見てよ、この目の下のクマ。昨日の『侍』さんとの飲み会、朝までコースだったからぁ。……あ、でもチップは弾んでくれたよ。銀貨二枚」
「銀貨二枚じゃ、先月の電気代も払えないよぉ……」
羊獣人のルリルが、部屋の隅でボロボロの家計簿(という名のメモ帳)を睨みつけていた。
「ガラクタ号のオイル交換もしなきゃいけないし、罰金の分割払いもあるしぃ。……ねえ、誰か臓器売る?」
「やだよぉ。傷跡残ったら価値が下がっちゃう」
生産性のない、底辺の会話。
昨日と同じ、そして明日も続くであろう、ぬるま湯のような地獄。
しかし、その澱んだ空気の中で、一人だけ異質なオーラを放っている者がいた。
狐獣人のショウだ。
彼女は部屋の隅に積み上げられた「本の塔」の陰に座り込み、分厚いハードカバーの書籍を猛烈な勢いでめくっていた。
眼鏡の奥の瞳は、まるで獲物を狙う狩人のように鋭く、口元には薄ら笑いが浮かんでいる。
「……フッ。なるほど。世界の構造(レイヤー)は、こうなっていたのですね」
独り言のように呟き、熱心にメモを取る。
その姿は、いつもの冷笑的な彼女とは違い、何かに憑りつかれたような情熱を感じさせた。
「ねえ、ショウちゃん」
ルリルが不思議そうに声をかけた。
「最近、ずっと本読んでるよねぇ。珍しいねぇ、そんなに真面目にお勉強するなんて」
「勉強? 違いますよ、ルリルさん」
ショウは顔を上げず、ページをめくる手を止めないまま答えた。
「これは『アップデート』です。私の脳内OSを、旧時代のバージョンから最新のものへと書き換えているのです」
「おーえす? なにそれ、美味しいの?」ダム子が鼻をほじる。
「……はぁ。だから貴女たちは『情弱(養分)』なんですよ」
ショウはパタンと本を閉じ、表紙を三人に見せつけた。
そこには、金箔押しの派手な文字でこう書かれていた。
『世界を支配する0.1%の思考法 〜なぜ貴方は貧乏なのか〜』
「いいですか? 私たちが貧困に喘いでいるのは、運が悪いからでも、社会が悪いからでもありません。『真実の情報』を知らないからです」
ショウは立ち上がり、演説するように腕を広げた。
「大衆(パンピー)が知らない成功の法則。それを知れば、ダンジョンに潜って泥にまみれる必要なんてない。クリック一つ、思考一つで富を生み出せる。私は今、その領域(ステージ)に行こうとしているんです」
「へぇ〜。なんか難しそうだけどぉ、すごいねぇ」
リッツォは興味なさそうにネイルを磨き始めた。
「で、その本いくらしたの?」
「……金貨一枚ですが」
「「はぁ!?」」
三人の声が重なった。
「金貨一枚!? 嘘でしょ!?」ルリルが悲鳴を上げる。
「それだけあれば、一週間はまともなご飯が食べられるよぉ!」
「バッカじゃないの!?」ダム子が身を乗り出す。
「そんな紙束に金使うなら、肉買えよ肉!」
三人の非難に対し、ショウは哀れむような冷笑を浮かべた。
眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、静かに告げる。
「これだから、消費者は困ります。これは『浪費』ではありません。『自己投資』です。愚痴り合ってるだけの貴女たちと、将来の富に種を撒く私。……どちらが賢いか、議論するまでもありませんね」
「むぅ……」
「なんかムカつくけどぉ……言い返せない」
確かに、彼女たちは毎日を無為に過ごしているだけだ。それに比べて、ショウは何か目的を持って行動しているように見える。
その「知的武装」された態度は、学のない三人にとってはある種の不可侵領域だった。
「ま、精々頑張んなよ」ダム子はふてくされて寝転がった。
「成功したら、アタシにも奢れよな」
「ええ。私が『億り人』になった暁には、貴女たちを私の専属使用人として雇ってあげましょう」
ショウは満足げに鼻を鳴らし、再び『真実の書』の世界へと没入していった。
部屋の隅には、先週までは存在しなかった本の山が、天井に届くほどの高さになっていた。
『秒速で稼ぐ錬金術』
『王族だけが知っている魔法の税金対策』
『思考は現実化する:超覚醒編』
それらの背表紙が放つ胡散臭さに、三人はまだ気づいていなかった。
数日後。
午後二時。冒険者としては一番活動すべき時間帯だが、リッツォたちは部屋でダラダラしていた。
そんな中、ショウが外出の準備を始めた。
いつものボロボロのローブではなく、どこで買ったのか分からない、少し仕立ての良い(に見える)ジャケットを羽織っている。
「あれ、ショウちゃんお出かけ? クエスト?」
ルリルが尋ねると、ショウは少し緊張した面持ちで頷いた。
「ええ。今日は重要な『カンファレンス』がありますので。夕食はいりません」
そう言い残し、彼女は足早に部屋を出ていった。
「カンファレンスぅ……?」
リッツォが首を傾げる。
「なにそれ、美味しいご飯屋さん?」
「いや、なんか怪しくない?」
ダム子が窓から外を覗き見た。
「あいつ、最近金遣い荒いし。まさか、また変なことに巻き込まれてるんじゃねぇの?」
「……心配だねぇ」ルリルが立ち上がった。
「ウチらも行ってみようか。ショウちゃん、頭いいと思い込んでるだけで、結構ドジだから」
三人は慣れた手付きで変装セット(サングラスとマスク、ボロ布)を取り出した。
ショウの尾行は簡単だった。
彼女は周囲を警戒する素振りを見せつつも、その足取りは浮ついており、完全に「自分は特別な場所に招待された」という高揚感に包まれていたからだ。
三人は路地裏や建物の影を使い、一定の距離を保って追跡した。
彼女が向かったのは、王都の裏通りにある、一見すると廃倉庫のような古びた雑居ビルだった。
入り口には看板もなく、ただ屈強な警備員が立っているだけだ。
ショウは入り口で何か合言葉のようなものを伝え、会員証のようなカードを見せて中に入っていった。
「うわぁ、怪しい……」リッツォが顔をしかめる。
「アタシらも入るぞ。ルリル、裏口探して」
三人はビルの裏手に回り、錆びついた非常階段から潜入した。
カビ臭い廊下を歩き、人の気配がする最上階の大広間へと向かう。
扉の隙間から中を覗くと、そこには異様な光景が広がっていた。
薄暗いホールには、百人ほどの獣人や人間がパイプ椅子に座っていた。
彼らの目は一様に充血し、熱狂的な光を宿している。服装は貧しい者が多いが、誰もが「自分はこれから成功する」という確信に満ちた表情をしていた。
その最前列に、ショウの姿があった。背筋を伸ばし、ノートを膝に広げ、まるで優等生のようにペンを構えている。
ステージ上には、純白のローブを纏った、長身のハイエルフの男が立っていた。
整った顔立ち、透き通るような銀髪。背後には後光のような照明演出がなされ、彼が動くたびにキラキラと光の粒子が舞う。
『——いいですか、皆さん』
ハイエルフの男が、うっとりするような美声で語りかける。
『世界は、嘘でできているのです。政府も、ギルドも、学校も、すべて貴方たちを「労働力」として縛り付けるための洗脳機関に過ぎない』
会場から「おおぉ……!」というどよめきが起きる。ショウも深く、何度も頷いている。
『貴方たちが貧しいのは、能力がないからではない。「システム」に搾取されているからです。しかし! この『真理の箱船(アーク)』に出会った貴方たちは、選ばれた存在なのです!』
男は両手を広げ、天を仰いだ。
『量子魔力理論に基づいた、この『賢者の水』を飲めば、脳のリミッターが解除され、金運、恋愛運、全ての運命が好転します。さらに、この情報を三人の友人に紹介すれば、貴方は「マスターステージ」へと昇格し、不労所得の権利を得られるのです!』
典型的なマルチ商法、あるいはネズミ講の勧誘だった。
しかし、扉の隙間から覗く三人の目には、それがどう映ったか。
「……ねえ、あの人、すごくキラキラしてるよ」リッツォが呟く。
「言ってること、なんか正しそうじゃね? アタシらが貧乏なのは社会のせい、ってのは同意だわ」ダム子が頷く。
バカが三人、感化されかけていた。
しかし、次の瞬間、数字が彼女たちの目を覚まさせる。
『このスターターキット、通常は金貨五十枚ですが……今日、ここに集まった覚醒者の方々だけに、特別価格、金貨五枚で提供します!』
「ご、金貨五枚ぃ!?」
ルリルが小さな悲鳴を上げた。
「それ、ガラクタ号の中古価格より高いよぉ!」
「ボッタクリだ! あんな水、ただの水道水だろ!」
ダム子も正気に戻った。
だが、ホール内の熱気は最高潮に達していた。
参加者たちが次々と手を挙げ、「買います!」「私を覚醒させてください!」と叫びながらステージに殺到する。
その先頭に、ショウがいた。
「私です! 私が一番に理解しました!」
ショウは叫びながら、懐から巾着袋を取り出した。
その袋には、見覚えがあった。パーティの共有財産を入れていた、へそくりの袋だ。
「あれ、ウチらの食費……!」ルリルが青ざめる。
「あいつ、持ち出してやがったのか!」
ショウは震える手で、金貨をハイエルフに差し出した。
「これで……これで私も、情報の海を支配する強者になれるんですね……!」
「ええ、そうですとも、賢き狐の娘よ」
ハイエルフは慈愛に満ちた(営業用の)笑みを浮かべ、金貨を受け取ると、代わりに安っぽいガラス瓶と、紙切れのような契約書を渡した。
「ようこそ、勝者の世界へ」
ショウはガラス瓶を胸に抱きしめ、恍惚の表情で涙を流した。
「ありがとう……ありがとうございます……! これで私も、何も知らない愚民たちとは違う……!」
その姿を見て、覗き見していた三人は、怒りを通り越して深い脱力感に襲われた。
「……あーあ。買っちゃったよ」
ダム子が頭を抱える。
「ショウちゃん……普段は難しいこと言ってるのに、なんであんな子供だましに引っかかっちゃうのかなぁ」
ルリルが悲しげに呟く。
「プライドが高い人ほど、自分だけは騙されないって思うから、カモになりやすいんだってぇ。……あ、これ、ショウちゃんが前に言ってた受け売りだけど」
リッツォが皮肉っぽく笑った。
三人は、ショウが契約書にサインし、さらに高額な「上位コース」への勧誘を受けているのを見て、静かに扉を閉めた。
ここで乗り込んで止めても、今の彼女には声が届かないだろう。「貴女たちは真理を知らない愚民だ」と罵倒されるのがオチだ。
「……帰ろっか」
「そうだねぇ」
「今日の夕飯、どうする?」
「……雑草でも採って帰る?」
アパートへの帰り道、彼女たちの足取りは鉛のように重かった。
失われた金貨五枚。それは、彼女たちの生活をさらに数段階、地獄へと押し下げる決定打だった。
その夜。
帰宅したショウは、いつになく饒舌で、そして傲慢だった。
「貴女たちも、いつまでも低い次元にいないで、私についてきなさい。……ふふ、未来が見える。私には見えます」
彼女が抱きしめて寝ている「賢者の水」の中身が、ただの着色された井戸水であることを、彼女が知る日は来るのだろうか。
いや、知ったとしても、彼女は認めることはないだろう。
「これは本物だ、騙されたのは私ではない、世界の方だ」と、新たな陰謀論に逃げ込むだけなのだから。
賢者を自称するカモのライブラリに、また一冊、無価値な聖典が加わった夜だった。
翌日。
アパートの一室は、厳粛な空気——とショウが一方的に思っている空気——に包まれていた。
「いいですか、皆さん。これはただの水ではありません。『構造化された高次元液体』です」
ショウは、昨日なけなしの金貨五枚で購入した「賢者の水」の小瓶を、まるで聖遺物のようにテーブルの中央に安置していた。
中身は無色透明だが、よく見ると底の方に正体不明の白い沈殿物が溜まっている。
「これを飲むことで、脳内のシナプスが再構築され、富を引き寄せる波動(バイブス)が出ます。まずは一口ずつ、感謝して飲みなさい」
「えぇ〜……」
リッツォが露骨に嫌な顔をする。「なんか、濁ってない? 苔の匂いしない?」
「それは貴女の身体に溜まった『貧困毒素』が反応している証拠です。好転反応ですよ」
ショウは冷ややかに言い放ち、自ら手本を示すように小瓶を口に運んだ。
ゴクリ。
彼女の喉が鳴る。一瞬、眉間がピクリと動いたような気がしたが、すぐに陶酔した表情を作った。
「……素晴らしい。五臓六腑に染み渡る、叡智の味です」
「ホントかよぉ」
ダム子が疑わしそうに瓶を奪い取り、ラッパ飲みした。
「んぐ、んぐ……ぶはっ!」
「あ、こら! 貴重な聖水を!」
「まっず! なにこれ、鉄の味すんだけど! あと泥臭ぇ!」
ダム子が舌を出して吐き出す。
「これ、裏の用水路の水と変わんなくね?」
「失敬な! 用水路の水と一緒にしないでください! これは『量子濾過』された水です!」
ショウは激昂して瓶を取り返したが、その顔色は少し青ざめていた。実のところ、彼女の舌も「これは変だ」と警告信号を出していたのだ。しかし、金貨五枚も払ったのだ。これが偽物であるはずがない。偽物であってはならないのだ。
「……まあいいでしょう。凡人には理解できない味なのです」
ショウは震える手で瓶を抱きしめた。
「私はこれから、この水の販売権を得るための『プラチナ会員』昇格手続きに行ってきます。あと金貨十枚必要ですが、これは投資ですから」
「まだ払うのぉ!?」
ルリルが叫ぶ。
「もうお金ないよぉ!」
「消費者金融があります。信用を金に変える、それも錬金術です」
ショウは狂信的な目つきで言い残し、部屋を飛び出していった。
「……あいつ、ヤバいねぇ」
「止めないと、ウチらまで借金背負わされるよぉ」
三人は顔を見合わせ、再び変装セットを手に取った。
昨日の雑居ビル。
ショウが息を切らせて到着した時、そこには異様な光景が広がっていた。
「金返せぇぇぇぇ!!」
「約束が違うぞ! 誰も紹介できないじゃないか!」
「私の老後の資金がぁぁぁ!」
ビルの入り口には、昨日「覚醒」したはずの参加者たちが群がり、怒号と悲鳴を上げていた。
屈強な警備員の姿はない。
入り口のドアは半開きになっており、寒風が吹き抜けている。
「……え?」
ショウの足が止まった。
嫌な予感が、背筋を氷のように冷たく駆け上がる。
彼女は人波をかき分け、最上階のホールへと駆け上がった。
ガランとした大広間。
昨日まであったきらびやかな照明も、高そうな演台も、パイプ椅子さえも消え失せていた。
床に散らばっているのは、踏みつけられたパンフレットと、空になった「賢者の水」の瓶だけ。
そして、部屋の中央に、一枚の張り紙がヒラヒラと落ちていた。
『株式会社 真理の箱船 移転のお知らせ(移転先:未定)』
「……あ、あ……?」
ショウはその場に崩れ落ちた。
膝から力が抜け、持っていた「賢者の水」の瓶が床に落ちて砕け散る。
中の液体が広がり、腐った卵のような異臭を放ち始めた。
「嘘……嘘ですよね……? だって、ハイエルフ様は……世界を変えるって……」
彼女の後ろから、追いついたリッツォたちが顔を覗かせた。
「わぁ、もぬけの殻だねぇ」リッツォが冷静に感想を述べる。
「やっぱり詐欺だったじゃん。言わんこっちゃない」ダム子が呆れる。
「……あの」
ルリルが、近くで泣き崩れていた老婆に声をかけた。
「何があったんですかぁ?」
老婆は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「逃げたんだよぉ……! 今朝来たら、誰もいなくて……! 警備隊の人が来て言ってたよ。『典型的な霊感商法グループだ』って……! あの水、ただの水道水に藻を混ぜただけだって……!」
「……水道水……」
ショウの口から、魂が抜けるような声が漏れた。
金貨五枚。へそくり全額。そして何より、自分は「選ばれた賢者」だというプライド。
それら全てが、ただの汚水となって排水溝に流れていったのだ。
「……ショウちゃん」
ルリルが、優しく、しかし残酷な事実を告げるように肩に手を置いた。
「帰ろっか。ここいても、お金戻ってこないよぉ」
ショウは反応しない。
眼鏡がズレ落ち、焦点の合わない目で虚空を見つめている。
「……量子……力学……高次元……波動……」
壊れたレコードのように、意味のない単語を繰り返している。
「あーあ、壊れちゃった」
ダム子がショウを米俵のように担ぎ上げた。
「おい、帰るぞ。重てぇな、頭に無駄な知識詰まってんのか?」
アパートへの帰り道。
夕陽が、四人の影を長く伸ばしていた。
ショウはダム子の背中で揺られながら、ようやく正気を取り戻し始めていた——あるいは、新たな狂気を再構築し始めていた。
「……聞いてください、皆さん」
ショウが、掠れた声で呟いた。
「アレは、詐欺ではありません」
「はぁ?」リッツォが振り返る。
「まだ言ってんの? 完全に騙されてたじゃん」
「いいえ。違います」
ショウは眼鏡を中指で押し上げ、キッと強い眼差しで言い放った。
「あれは……国家権力の妨害です。私たちが『真実』に近づきすぎたため、政府の工作員によって組織が解体させられたのです。ハイエルフ様は、きっと地下に潜ってレジスタンス活動を続けているはず……」
「……うわぁ」
「引くわぁ……」
「救いようがないねぇ……」
三人は心底呆れ返った。
彼女は、自分が「騙された愚か者」であることを認めるくらいなら、「強大な悪と戦う悲劇の主人公」であるという妄想に逃げ込むことを選んだのだ。
その方が、プライド(自尊心)を守れるから。
財布の中身は守れなかったけれど。
「というわけで、今回の損失は『活動資金』としての必要経費として処理します。家計簿にはそう記載しておいてください」
「ふざけんな!」
ダム子が背中のショウを地面に投げ捨てた。
「金貨五枚だぞ! 返せ! 体張って返せ!」
「ぐえっ……! 野蛮な……! 私は頭脳労働担当です!」
「うるさぁい! 今日からショウちゃんのご飯、一週間抜きね!」
ルリルが珍しく声を荒げた。
「あと、その怪しい本、全部古本屋に売ってくるから!」
「やめて! それは私の聖典です! 知識の源泉です!」
道端で取っ組み合いの喧嘩を始める四人。
通り過ぎる馬車からは、「またあの底辺獣人か」という冷ややかな視線が注がれる。
結局、彼女たちは何も学ばない。
失った金を取り戻すために、また安易な「儲け話」や「一発逆転」を夢見て、泥沼へと足を踏み入れるのだろう。
ショウの眼鏡の奥には、反省の色など微塵もなく、ただ「次はもっとうまくやる」という根拠のない自信だけがギラギラと光っていた。
ハートフルコメディを目指しています。
評価や批評をお待ちしております。