マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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グダグダやります。


少しヤサグレ男と優等生ちゃん
朝イチの屋上


 兄なんて最初は居なかった。

 俺は元々一人っ子だった筈。

 なのに5歳くらいのある日、俺の前に現れた兄と名乗る誰か。

 顔立ちは俺とそっくりで、双子の兄と宣うその誰かは兄弟が居るなんて言ってなかった両親も自分の子と言っている。

 そのある日までそんな存在があるだなんて無かった筈なのに、両親はソイツを俺よりも可愛がって育てた。

 

 俺はソイツが何者で何故兄と名乗っているのかが分からないし、兄とも思えず寧ろ恐怖を感じた。

 だって、笑顔浮かべながら突然俺の前に現れて兄ですとか言われてもピンと来る訳無いし、ソイツの言葉を普通に受け入れている両親を見ても不気味以外何も思わない。

 ともなれば、当然そいつを警戒してしまうし心を許す訳も無かった……それがいけなかったのだろう。

 

 

 ある日から……俺は邪魔者となってしまった。

 脱落者扱いされてしまった……。

 兄を名乗る奴に、俺が居た筈の居場所を奪われた

 何をやっても結果以上の結果を残す奴のせいで、俺は存在価値を消去された。

 でも、その事で奴を恨む事は無かった。

 恨んでもどうにもならないし、別に奴が何だろうが関係ない。あるのは只、 俺の兄と名乗らないで欲しい……。

 取って付けた様な笑顔で気安く近づかないで欲しい。

 只の……他人でしか無い貴様なんかに。

 

 

 

 普通に起床し、普通に朝飯は食わず、あの日まで両親と慕っていた親に挨拶をせず逃げる様にして学校に行く。

 アレが現れてから、俺は出来損ないの弟というポジションに両親から当てはめられている。

 不自然な程に何でも出来る兄と自称するあの男と比べられて来れば、両親の目は自然とそうなるし、自覚も一応する。

 だから俺は高校すらも、去年から共学校となるという事を余り知られなく、男子枠にて定員割れの恩恵を受けて大した努力も無しに駒王学園という高校に運良く入り込めた。

 本当は中学卒業と共に家を飛び出し、何処か地方の料理屋か旅館かなんかに住み込みで働こうかと思ってたのだが、当時中学の担任だった先生がヤケに親身に高校選びをしてくれ、言っても無い筈なのに兄と名乗るあの男が俺の決めていた進路を両親にリークしてくれたせいで、両親からは世間体がどうのこうのと言われたという経緯の下、今俺はこうやって自分で似合わないと思う制服を身に付けて高校に通ってる。

 

 定員割れで高校に入ったせいなのと、中学卒業と共に家を飛び出る計画だった俺に当然学力なんてものは無く成績はビリッケツ。

 今こうして2学年に在籍出来てる自分に対して奇跡としか思えないくらいだ。

 まあ、進級出来たのはとある理由があるからなんだけど。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 さっさと家を出て学校に来たせいで、登校時間までまだ1時間以上もある。

 到着し、門を潜り、のそのそと俺が居ても意味が無い教室を目指して歩いているが他に登校している生徒は殆ど居ない。

 あの男が現れてからというものの、小学校から俺はこんな感じの生活パターンとなっている。

 両親とで囲む食卓なんてものは5歳のあの日から崩壊し、それまでの俺の居場所は既に兄と名乗るあの男のもの。

 恐らく今朝も両親と楽しくお食事でもしてるんだろう、何時もの様に胡散臭い笑みを貼り付けた状態で。

 そう思うと、逃げるようにして特にやる事も無い癖に学校に来てこうやって屋上で黄昏れる自分が酷く情けなく思えて仕方ない。

 本当なら俺があの場所に居る筈なのに、本当なら兄なんて居る筈がないのに……。

 

 

「はぁ……」

 

 

 逃げてる自分が嫌になる。

 あの男が現れてから楽しいと思える事が何一つ無くなっていた俺は、何度したか分からない溜め息を吐く

 この溜め息と表情のせいで、兄と比べると根暗だという評価を知らない他人から頂いている訳だが、全く以て否定が出来ないのが余計悲しい。

 お陰さまで友達なんて呼べる存在も居ない……というより俺が他人に懐疑的なせいだからというのが理由だったりする。

 血の繋がった両親ですら今では信じられなくなってるのだ……所詮は他人である連中を信じるなんて俺は無理なのだ。

 

 だから俺には普通の人みたいにおはようと気軽に挨拶を交わすような存在はないし、何でも出来る自称兄貴が居るので、劣等者の弟認識されてる俺に近付こうとする者も居ない。

 極少数の変人以外は。

 

 

「やっぱり此処に居ましたか」

 

「む……」

 

 

 やるせない気持ちで屋上からの風景をぼんやり眺めている俺の背後から聞こえる声に、俺は一瞬だけ身体を硬直させながら振り返る。

 先程述べたが、自称兄貴と名乗る男……では無くて何故か俺に関わろうとする極少数の変人。

 最初は置かれてる立場柄、仕方なく俺に接触したのかと思ってたのだが、本人は違うと否定する変な奴……尤もその違うというのも本当かは知らないけど。

 兎に角その変な奴の内の一人である俺と同じこの学園の生徒である上に優等生バリバリの肩書きである生徒会長の称号を持つセンパイ。

 黒髪と眼鏡という見た通りな感じの雰囲気を持つ人、支取蒼那って人だった。

 

 

「ども……」

 

「おはようございます、一誠くん」

 

 

 向こうから接触される事自体にあまり慣れてないせいで気の効いた挨拶すら言えなく、無愛想な声で首だけを傾けて会釈する俺に、嫌な顔一つせず挨拶をしてくれるセンパイに何だかむず痒さを感じてしまう。

 フッと笑みを向けてきたセンパイから逃げるようにして背を向けた俺は、手摺に寄り掛かってまた意味もなく見飽きた風景を眺めると、センパイもその隣に来て同じく風景を眺める。

 

 

「「……」」

 

 

 会話はない。

 元々見た目も性別も違うし、親しいとは言えない微妙な関係なのだから当たり前だ。

 何より俺は他人との会話経験が無さすぎて何を言って良いのかよく分からないのだから尚更だ。

 とは言え、2・3言のジョークなら何とかなるが、それでもやはり普通の友達同士の会話は解らない。

 

 

「奴は居ないんすか?」

 

「奴? 奴とは誰の事でしょうか?」

 

「ほら、ヤケに喧嘩腰で突っ掛かってくる男子の……」

 

「ああ、匙ですか? いませんよ」

 

 

 他人は信じられない。

 だけど、話をするくらいなら何も思わないし、いくら会話経験が無いとはいってもこの程度ならギリギリ何とかなる。

 無言に耐えられなくなって思わず話を振ってみれば、センパイはフツーに応じてくれるし、将来就職するに当たって必要なトークスキルはこの人を練習台にするのが丁度良い。

 

 

「匙に何か用でも?」

 

「いや、嫌われてるみたいですからね。正直居なくてホッとしてます」

 

 

 センパイの取り巻きの一人でこの学校の数少ない同学年の男子の話は割りと盛り上がる。

 今センパイが言った匙という男子は、どうも俺が気に入らんのか顔を見る度に嫌そうな顔をする。

 理由は……まあ何となく分かるっていうか、この人にあると思ってる。

 何せこの人、基準が俺にはよくわからないけど、一般人から見たら美人と言えるでしょう顔してるしね。

 しかも真面目で俺みたいな劣等拗らせて半グレ気取っちゃってる奴にもこうやって話しかけてくれるんだ。

 そりゃあ奴……あぁ、サジくんだったかが面白くないと思うのも仕方ないと思うよ。

 

 

「なんか申し訳ないですね。

何時も匙には言っているつもりなのですが……」

 

「いや別に……。

アンタみたいな人が俺みたいな馬鹿&見た目アウトロー気取りの奴とこうしてるのを見てるのが心配なんでしょうよ」

 

「む……またそうやって……。

自分を卑下するのはやめて欲しいのですが……」

 

「殆ど事実ですから。

『兄』と比べれば何の取り柄もない搾りカス同然だし」

 

 

 何でも人並み以上にこなし、常に周りには誰かが居る。

 今の俺と比べたらどちらが良いかだなんぞ答えるまでもない。

 だからついつい自虐的になってしまうのだが、どうもこのセンパイはそういうネガティブな事は嫌いらしい。

 自分の事じゃ無いのに何故かムッとしてる。

 

 

「確かに兵藤君は優秀な人なのかもしれません。

よく評判を耳にしますから」

 

「……」

 

 

 名字が被るという理由で、何時からか俺を名前で呼ぶようになったセンパイが敢えて風景を見てる俺をまっすぐ見つめる。

 

 

「それに比べて、一誠くんはネガティブですぐ自分を卑下して、何かに付けて人を避けようとする臆病者でちょっとエッチなのかもしれません」

 

「………………。おい、ちょっと待て。何で俺の話に――っ」

 

 

 何でか知らんけど途中で俺の事なってるし、しかも随分と酷い事を真顔で言われてる気がした俺は、校庭で走り込みしている女子達から思わずセンパイに顔を向けると、俺の目の前にはセンパイの顔が至近距離で映っていた。

 

 

「けど、それでも私は貴方に興味があります」

 

「…………ア,ハイ」

 

 

 近い……何か良いこと言われた気がしたけど全然聞こえん……あ、眼鏡で気付かなかったけど睫毛が長いや…………。

 

 

「なので私の前で自分を卑下するのは止めてください。

それじゃあ、私が貴方に勉強を教えた意味がありませんからね」

 

「ア,ハイ」

 

「ん、よろしい」

 

「ア,ハイ」

 

 

 よく解らないけど返事だけはしとこう。

 何を言われたのか全然聞こえんかったけど返事だけはしとこうと、俺は変な声で何度も首を縦に振りながら返事をするとセンパイは微笑んだ。

 何でなのかは解らないけど、機嫌が直ってくれたのならそれで良いに越したことは無いのは確かな事だった。

 

 

「あ、チャイムが鳴りましたね。

どうも一誠くんとお話すると時間が経つのが早く感じますね……フフフ」

 

「ア,ハイ」

 

「む……。さっきからそれしか言わないのは何故ですか?」

 

「ア,ハイ」

 

「……」

 

 

 チャイムの音が鳴り終わるのと同時に、バシン! と背中に張り手を貰ったお陰で、俺は意識が戻った。

 そして戻った頃には何故かセンパイはちょっと怒った様子でさっさと行ってしまった。

 

 

「最後は結構勇気を出したのに……」

 

 

 とか何とか言ってたのが聞こえたが、サッパリ分からなかった。

 

 

 兵藤一誠

 

 趣味・一人焼き肉か一人人生ゲーム

 好きなもの・特に無し

 嫌いなもの……5歳の誕生日の日に突然現れた双子の兄と名乗る男。

 

 

備考……神器無しの高校生&ちょっとコミュ障




彼はそもそも悪魔になるかも不明

神器の代わりはある。

くらいかな。

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