マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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唐突過ぎる展開で、章は終わる。
いや、マジで唐突ですわ。


意味も無い加筆しました。


本当の初恋

 携帯電話ってのは中々に便利なことが16年の歳月で解った。

 電話やメールは勿論の事、デジタルカメラ宜しくに写真撮影も出来るってのは聞いてたが……スゲーなこれ。

 インスタントカメラと違って容量の続く限りほぼ無限とも言える枚数を撮れるのは便利だな。

 お陰でジローとコジロー達のショットがファイルを埋め尽くしてるぜ。

 勿論待ち受け画面もジローとコジロー達の微笑ましいワンショットだしな……ふへへへ。

 

 

「でもこれで使用料タダって何か悪い気が……じゃなくて悪いとしか思えない。

まさか代わりにセンパイが払ってるなんてことは……」

 

「ありませんよ。本当にタダです」

 

「おう!? い、いたんすか。びっくりした……」

 

「さっきから居ましたよ。一誠くんが携帯の画面を見ながらニヤニヤしてる所からね」

 

 

 本日も学級閉鎖で授業が無く、帰りたくないが故に放課後まで屋上で時間潰しを決行していた俺の元に、当たり前ですとばかりに現れたセンパイが笑みを浮かべながら朝から昼休みの今まで座りっぱなしだった隣に座る。

 どうやらジローとコジロー達のフォトを見てニヤ付いていた辺りから見てたらしいが、だから恥ずかしいとかという感情は皆無だった。

 

 

「気に入ってくれたみたいですね。良かったです」

 

「ええ、まさかケータイが此処まで便利だとは……特に写真とか動画撮れるのはスゲーっすよ」

 

「……。大分前からある機能ですよ、それ」

 

 

 センパイの有り難いご指導の賜物のお陰で、今じゃソレなりに使える様になった携帯をしまう俺に、センパイは苦笑いしている。

 多分、俺があんまりにも世間知らず過ぎるもんだから笑けてくるんだろう。

 まあ、俺も自覚してるから何も思わんけど。

 

 

「ほんと、何から何まで申し訳ないっす。何時かこの借りは返します、絶対に」

 

「要りません……と言いたい所ですが、私と死ぬまで一緒に居てくれればそれで良いですよ」

 

「えぇ、死ぬまでってまたかよ……。

センパイの寿命と俺の寿命を考えたらほぼ不可能じゃないすかねぇ?

ほら、俺がジジイになる頃でもセンパイは恐らく今と変わらないでしょうし」

 

 

 センパイが返して欲しい借りの内容は、くたばるまで一緒に居ろとの事だが、それは実質無理な話だ。

 というのも、死ぬまでというのが『センパイが死ぬまで』という意味なのだ。

 俺が~とかならまあ分からなくもないが、センパイがとなると俺の短い寿命では無理。

 まぁ、本当の意味での現実逃避をしてしまえばパスは可能だが、ぶっちゃけると俺は寿命やら不老だとかに魅力を感じないと思ってるせいなのか、幻実逃否(リアリティーエスケープ)が上手く発動しないのだ。

 前に悪ふざけで、『じゃあセンパイみたいにご長寿になったろうやんけ』とか吹いてスキルを発動させてみたけど上手く行かなかったので、ちゃんとした確証がある。

 

 そこから思うに、この幻実逃否(リアリティーエスケープ)の発動の条件って『こんな現実は認めない』と『現実がこうなったら良いな』という信念というか、頑固とも言える我の強さみたいなのが無いと上手く発動してくれないんじゃないかと俺は気付いたんだよ。

 だから、センパイと同等レベルの寿命を得るよりも、40手前まで独身貴族貫いてから成人病で死ぬという方に俺は魅力を感じてしまっている現状ではそんな夢みたいな現実に自分自身を書き換える事は出来ないのだ。

 まあ、その独身貴族よりもセンパイといてぇとか思える様になれば話はまた変わるんだろうけど……。

 

 

「そうですか……。ハァ……一誠くんが私を好きになってくれたら叶うのに……」

 

「こればっかりはスイマセンとしかね。他人を好きになる事にまだまだ理解が出来ないんすよ……」

 

「いっその事一誠くんを監禁して悪魔に転生させてしまおうかしら……」

 

「…………。物騒だなオイ。俺なんぞ悪魔にしても害悪にしかならんでしょうが」

 

「冗談ですよ、半分はね……フフフ」

 

 

 一瞬だけ身構える俺に、センパイはニコリと悪魔なのに邪気がないとはこれ如何に? てな具合の笑顔を見せてくるのだが、何でしょうね……冗談には思えないよ俺には。

 

 

「どうして俺なんでしょうね、貴女程の人が」

 

「貴方が好きだからですよ……他にありません」

 

 

 好きねぇ……。

 好きだから一緒に居たい……それはまあ何と無く分かる。

 俺だってセンパイが嫌いならこんな風に話したりはしない。寧ろこうして居て貰えるとホッとする。

 この感情の意味が何なのかはわからない。これが好きだと意味なのか……。

 だからこそ……俺は知りたいんだ。

 

 

 

「ねぇ、センパイ――」

 

 

 センパイに賭けてみたくなったんだ。

 

 

「ちょっとしたお願いがあるんですけど……」

 

「? なんですか?」

 

 

 つまる所、俺は中途半端なのだ。

 あの女曰くの過負荷(マイナス)とは程遠いというレベルの中間地点を行ったり来たりしているのが今の俺。

 だから自分自身の死だけは逃避可能だけど、それ以外は不可能。

 能力(スキル)を十全使える様になるには、まず自分の持つコレを使う事に躊躇を覚えない事と、そして……受け入れる事だと思うんだよね。

 

 

 理不尽を

 

 事故を

 

 裏切りを

 

 悪意を

 

 堕落を

 

 巻き込まれを

 

 嫌悪を

 

 偽善を

 

 不条理を

 

 負けを

 

 自己満足を

 

 

 それら全部を差し伸べられた手を取って抱き締めて受け入れるぐらいな気構えが無いと駄目な気がするんだ。

 只の憎悪だけでは甘えにしか過ぎない。

 あの男がどうとかという拘りを捨てなけば俺は完璧な駄目人間(マイナス)にはなれない。

 冗談だと言ってた、センパイが俺を監禁して云々も本来なら笑って受け入れるべきなのだ。

 幸も不幸も何もかも受け入れ、弄ばれ……その中で相手と不幸を分かち合い、自己満足の世界でずーっと這い寄る。

 それが俺の中での過負荷(マイナス)って奴だ。

 俺以外の過負荷が居て、その考えが間違いだと指摘しても変えないし変わらない。

 つまり、センパイは俺に死ぬまで傍に居て欲しいと言った。

 けれど、それは無理だ。

 俺はセンパイに隣居て貰うとホッとするし悪く無いと思っているが、そこまでなのだ……センパイに感じる思いがそこまでだから、スキルが上手く発動出来ない。

 ならどうするか? 簡単だ――

 

 

「そのお綺麗な顔……………剥がしてみたいんですけど」

 

 

 センパイが過負荷(オレ)になれば良いのさ。

 

 

「もしかしたら俺は、センパイの綺麗なその顔が好きなだけなのかもしれない……だから知りたいんですよ。

センパイの顔を剥がし、それでもセンパイと一緒に居たいと思えるのか」

 

 

 そうすれば不幸と不幸を分かち合え、マイナス同士がツルめば誰にも文句は言われない。

 あの男も妙な事を言って俺とセンパイがツルんでる姿を見ても何も言わないだろう。

 いや、寧ろセンパイも意味無く誰からも嫌われるかもしれないけど大丈夫さ、死ぬまで俺が傍に居る時点で俺だけがセンパイを嫌わなければ万事解決だからね。

 その為にはまず、センパイのツラの皮を剥いでもトモダチだと思えるか、一緒に居たいと思えるのかが重要だ。

 これでもし変わらずであったなら、俺は駄目になりセンパイの後ろにずーっと付いて行ける――いや、好きだという感情が理解出来る気がする。

 いや、気がでは無く確実だ。根拠なんて無いけど絶対そうだ。

 

 

「もし、顔面を剥がしても変わらずセンパイと一緒に居てホッと出来るなら、恐らくそれが俺の他人に対しての好きって感情だと思うんです。

だからセンパイ……俺の気持ちを受け取ってくれますか?」

 

 

 後は今言った言葉をセンパイが受け入れるかどうか……まあ、無理なら無理で構わないけどね。

 言うだけ言い、ポカンとしてるセンパイを見詰め続ける。

 さあ、センパイ……答えを教えてくれ……。

 俺に、人を好きになるって感情を教えてくれよ。

 

 

「ふふ……なんだ、そんな事ですか? 良いですよ」

 

 

 そんな俺の不安な気持ちの混ざった顔に、センパイの答えは……yesだった。

 唐突過ぎる俺の求めにセンパイは眼鏡を外し、笑いながら即答してくれた。

 

 

「中々エキセントリックな要望ですけど、ふふ……そうしてみたいのならやれば良い。

何と無く、その果ては不幸(シアワセ)な予感がしますから」

 

 

 無い。受け入れてる、理不尽を。

 今の半端者な俺とは違って躊躇いがまるでない。

 くく……なぁにが世界で最初の過負荷だぜ『安心院(あじむ)なじみ』よぉ。

 居るじゃねぇか……俺なんぞカスレベルに霞んじう程の絶対(マイナス)がさ……クックックッ!!

 

 

「ふ……ははは、アンタやっぱり変だわぁ。

フツー真顔で顔面剥がしても良い? とか聞いてくる奴にそこまで素直に即答するかねぇ?」

 

「む……失礼ですね。

誰彼構わず応じる訳が無いでしょう。私は貴方だから受け入れたに過ぎない。だって、大好きなんですから」

 

 

 余りにも即答過ぎて、笑ってしまう俺に少しムッとした顔になるセンパイ。

 その表情が俺の心臓が大きく鼓動させる。

 

 

「だから構いませんよ。全部一誠くんに任せます……ふふ」

 

 

 その笑顔で心臓が早鐘する。

 

 

「そうです、か。なら……」

 

 

 隣に座るセンパイと向き合い、白く綺麗な頬に手を添えながら……理解する。

 そうなんだ……これが――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、センパイ……」

 

 

 人を好きになるって事なんだ。

 

 

「後できっちりお礼は戴きますからね?」

 

 

 最期まで笑って俺を見てくれるセンパイから教えてくれたこの感情を大事にしながら、頬に触れた手に力を込め――――

 

 

 

 

 

 そして……。

 

 

 

 

「変わらないや……」

 

 

 俺はセンパイの顔面を剥がした。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)で俺の腕力を化け物クラスに書き換え、力一杯無理矢理に……。

 

 

「全然変わらない……」

 

 

 生暖かい鮮血が俺の右手を中心に広がる。

 目の前には顔が無いセンパイの亡骸がある。

 

 

「ふ、はは……」

 

 

 変わらない……何も変わらない。

 全く何にも変わりゃしない。

 見て、目に写し、脳裏に焼き付いたセンパイの亡骸を見下ろしている俺は気が付けば小さく笑い、やがて心の中の何かが爆発した。

 

 

 

「ははははははははは!!! 顔の無いセンパイを見ても何も変わらない!! 一緒に居たいとハッキリ思える!! ふくくく……そうか、これなんだな! はははは、恋って奴はこういう事なんだねセンパイィィィッ!!!!」

 

 

 右手は赤く染まり、顔の無いセンパイが横たわるのを前にして俺は笑った。理解した。思い知った。

 センパイが俺を好きだと言った様に、俺はセンパイが好きなんだと。

 見た目で判断してなんか無かったと。

 ほら、顔が無くとも俺はこうしてセンパイを抱き締められる! ふ、ふはははは……ハッキリと一緒に居たいと思える!

 クッククク……何だか気分が良いなぁ……。

 今なら本当の意味で使えそうだ。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)……。センパイの顔面を剥がしたという現実から逃げる……」

 

 

 意味も無く溢れ出てくるナニかに後押しされる形で俺はスキルを発動した。

 すると、辺りに飛び散った鮮血は消え去り、センパイの剥がれた顔は剥がす前の綺麗な顔の時と寸分違わない状態に戻り、ゆっくりとその目蓋は開かれる。

 そしてその姿を見ていた俺は笑い、戻ってきたセンパイも優しく微笑みながら互いに言った。

 

 

「おかえり、そして初めましてソーナ……。『俺』だよ」

 

「ただいま、そして初めまして一誠……。『私』ですよ」

 

 

 同じ者同士による初めての挨拶を。

 

 

「気が変わったぜセンパイ……。死んでもアンタからは離れない事にする」

 

「それは此方も同じです一誠……。私ってかなり執念深いですからね?」

 

 

 微笑むセンパイと同じく俺も笑みを浮かべながら、センパイの手を取り……そして抱き寄せる。

 

 

「今ならハッキリ言える。センパイが大好きです」

 

「私は前からずっと、一誠くんが大好きよ」

 

 

 センパイを抱き締めて感じる体温や匂いが安心する。

 なるほどね……これは良いと思うのと同時に……他の誰にもセンパイを渡したくないという気分になる。

 うん、分かった……センパイに変な事する奴は串刺しにしてやろう。

 センパイを俺から引き剥がそうとする奴は道連れにしてでも殺す。

 

 

「あ、鐘なってらぁ……んじゃセンパイ……また『後でとか』」

 

「ん……勝手に帰っちゃ嫌ですよ?」

 

 

 唯一見つけた生きる意味を世界が奪うんだったら……そんな世界からセンパイを連れて逃げ切ってやる。

 

 

 




補足

一誠くんは恋を知りました。

一誠君は歪な執着心を得ました。

一誠くんは……成長しました。

一誠くんは…………超害悪野郎に成り下がりました。


金髪シスターさんとは出会わない方が良いと思います。

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