マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

19 / 56
ウザいイッセーくんが続く。

無駄な加筆も続く……というより入れるのを忘れてたので……。


俺はあくまで人間だ。だから悪くない。

 センパイが言うからレーティングゲームとやらの観戦に乗ったけど、正直興味なんてまったくない。

 どうでも良い奴等同士の潰し合いなんて見たって何にも思えないし、勝手にしておくれって感じだ。

 魔王って人が何で俺を招待したのか含めてどうすりゃ良いのか分かりゃしないし、センパイに言われてスキルをホイホイ使う訳にもいかないし、先程から取れた奥歯の所と頬が痛くてしゃーなかった。

 まあそれはセンパイが持ってきた苦くて不味い変な薬で直ぐ治るんだけどさ。

 

 

「おぉスゲー。センパイがくれた苦い薬で口ゆすいだら口の中の傷と取れた歯が元に戻った……」

 

 

 銀髪の人の治療は普通に嫌だったんで断り、センパイにして貰った優しい治療のお陰ですっかり頬の痛みと取れた奥歯が元通りになる。

 そのお陰大半とも言える謎の緑色の液体の正体は結局わからんし、センパイがくれたもんに対して一々疑問にも思わないので、治してくれたセンパイにキッチリお礼を言う。

 

 

「いやぁ、ありがとうございますセンパイ。

痛みも腫れもお陰て無くなりましたぜ」

 

「効き目はバッチリみたいで良かったです」

 

 

 紅髪の人達がやるゲームの会場……まあ、ぶっちゃけると学校をまんまコピーした謎の場所だったりする所の外側に設置してあった観戦用のホテルみたいな個室のソファに座る俺とセンパイは何時もの通りの会話をする。

 

 

「しっかし、何で俺が悪魔のゲームを見る事になったんだろうか……しかも魔王って人直々の招待状付きで」

 

 

 で、やはり先ずはこの話題だった。

 結局俺の悪ふざけとちょっとした意趣返しでゴタゴタしてうやむやとなってしまったが、何故人間でしか無い俺がこの学園にクリソツなレプリカ空間に居るのか、何故俺を呼ぼうとしたのか……その理由が分からないままで、さっきからそればかり気になってたりするんだよね。

 

 

「もしかしてですが、一誠くんの持つ過負荷(マイナス)能力(スキル)の情報が漏れて、それが本当かを確認する為にに呼んだ……とか」

 

「スキルを?」

 

 

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)をか?

 うむ、まあ確かに俺が持ってるものといえばこんなもんしか無いけど……。

 

 

「ですが、一誠くんは普段スキルを安易に使用する事は無いですし、知っているのは私だけの筈だからこの線は薄かったりしますけど……」

 

「うん。最近1回だけ使いましたけど、それだってジローとコジロー達との会話を成立させる為―――――あ」

 

 

 うんうんとセンパイに同意する様に頷いて見せてた俺は、不意に思い出してしまった。

 ジローとコジロー達以外にスキルを使ってしまった相手が居ることに……。

 

 

「どうしました? ……と敢えて言いますが、まさか一誠くん……」

 

 

 物凄い気まずい気分になった俺の顔を見て察してくれたのか、徐々にジト~っとした目になるセンパイ。

 うん、これはもう隠せんわね。

 

 

「いやー……実はジローとコジロー達と会話したいからって理由でスキルを使った日に……。

ほら俺あの白髪の人にぶん殴られて気絶したじゃないですか? その前にジロジロと盗み見してたのにイラッとしてつい牽制的な意味合いで……」

 

「使ったと?」

 

「はい……」

 

「……。確か一誠くんはちょっとおちょくっただけと言ってましたよね?」

 

「いやそれがその……直後に殴られて意識吹っ飛ばしたから言うのを忘れてました……」

 

「……………はぁ」

 

 

 白髪の人の視線がついつい鬱陶しく、出る杭を打ってから次見たらマジこうするからって釘を刺してしまった話をしたら、センパイは大きくため息を吐いてしまっていた。

 

 

「搭城さんにスキルを使えばそりゃあリアスにも報告は行くし、探ろうともしますよ。

せっかく無理矢理誤魔化したのに……」

 

「ホントすんません……あの白髪チビ今度シバキ倒しますんで……」

 

「即返り討ちされるに決まってるでしょう? もうバレたものは仕方ないですし、こうなったら最後まで苦し紛れにはぐらかす事にしましょう」

 

「……はい」

 

 

 今になって短絡的だった自分にちと反省する。

 ちきしょうが。まさかチクリ入れるとは……あの白髪……今度は完璧に俺を見ただけで即吐くレベルの仕返しをしてやる等と、内心は仕返しの算段を立てる俺だが、結局の所スキルがあっても持ち前の運の悪さで全部ひっくり返されちゃうので、かなりの難易度なんだよね。

 この前串刺し攻撃当てられたのも半分スキル頼りだったし……結局解除した瞬間殴られて気絶させられたし、俺って呆れる程弱いよな。

 

 

「さっき兄貴に一発殴られただけで意識飛びそうになってたな……そういや」

 

「寧ろ生身の人間で加減してくれたとはいえ、転生した悪魔に殴られて気絶しなかっただけ、何気に一誠くんの身体に耐久力はありますよ」

 

「そうすかぁ……? こんなひ弱ボディですけど……」

 

 

 何か誉めてくれてるセンパイの言葉をイマイチ素直に受け取れず、ペタペタと自分の身体を触る。

 運動は嫌いでは無いが好きでも無く、普段は引き込もってばかりなもんだから、肌は青白いし身体付きも全体的に細い。

 兄者は悪魔に転生してから鍛えでもしてるのか、俺と比べりゃあガッチリしてるのが分かるし、さっき胸ぐら掴まれた時に感じた腕力の強さから見てもよーく分かる。

 腹周りなんか括れとるし、肩幅狭いし……。

 

 

「身体鍛えるなんて今更やりたくないし、この貧弱さは諦めるしかないかぁ……」

 

 

 無駄な努力やら、痩せこけたしょうもない勝利は昔の時点で諦めちゃってる身であるが故に、貧弱体型に嘆くだけ嘆いて終わり。

 そんなストレートに怠惰な性格してるから勝てないんだろうと去年辺りに一瞬だけ考えたりもしたけど、結局考えるだけ。

 まだ始まらぬレーティングゲームの様子を映像として映すだろう巨大スクリーンをポーッとソファに座って眺めていると、不意にセンパイが膝の上に乗せていた俺の手を取って握る。

 

 

「……どうしたんすか?」

 

「いえ、確かに砕けそうな程に脆そうな手だなぁって……」

 

 

 改めて見ればやっぱり一誠くんは貧弱かもしれませんね……そう少し笑って言うセンパイに俺は乾いた声で笑うっきゃない。

 

 

「否定が全くできねぇや……あははは」

 

 

 これで良く歯を折った程度で済ませられたよなぁと自分でも不思議に思うくらいに雑魚い肉体持ちなのは一番自分がよくわかってる。

 こんなもん想像せずともわかるが、例えばセンパイと今この場で喧嘩しても3秒で組伏せられて終わるか、ワンパンであの世行きする自信がある。

 まあ、あの世に行っても直ぐに逃げ戻れるからある意味不死身だったりするんだけどさぁ。

 

 

「でもそれで良いですし、今決めました」

 

「何が?」

 

 

 制服とYシャツの袖を捲り、血色の悪い細腕を『美味そうな食い物を今まさに頂きますして食べようとする』……みたいな、何かこう……うっとりした目で頬を染めながら見つめて何かを決心した口調のセンパイに何の事だと返す。

 するとセンパイは『フフフ』と小さく笑いながら俺の細腕から手を離してからピッタリと身体を寄せて来ながら何処か甘える様な声で言うのだ。

 

 

「文句を言う為に今までは一誠くんが殴られても黙ってましたが、次からはちゃんと仕返ししてやります……」

 

「んな事わざわざせんでも……」

 

「いくらあのスキルがあって、殴られても平気だって分かってもやはりいい気分はしませんもの……」

 

 

 まあ確かに、センパイが傷つけられたのを見たら、負け戦だろうとも仕返ししてやりたくなる気持ちになる俺と同じか? と考えれば何と無く納得出来る訳だが、どうにも珍しくセンパイがこんな……えーっと、そう……ジローとコジロー達が擦り寄って来るみたいなアレと似た感じの事をしてくるのには何かドキドキする。

 

 

「ええっと……こうですか?」

 

「ん……そうです。ふふ……本当に一誠くん身体は男性らしく無いです……」

 

「悪かったですね……」

 

 

 あんま慣れて無いので、おっかなびっくり応で俺よりちょっと小さいセンパイの身体を抱き寄せてみると、どうやら正解らしく、喜んでくれている様で何よりであった。

 ……その際にくれた感想はグサッと来るものがあったけどね。

 

 

「でも良いんです……別に私は一誠くんに変わって欲しいなんて思ってない……そのままで良いんです……」

 

「……」

 

 

 ふわりと香るセンパイの匂いに何だか頭ボーッとするし、何時の間にか始まっててモニターに映し出されていたレーティングゲームもさっき以上にどうでも良くなっていた中俺は改めて思う。

 うん……やっぱり俺のこの幻実逃否(リアリティーエスケープ)はセンパイにだけ使おう……他の奴相手にはおちょくる時か本気で消してやる時しか使わね。

 

 だって、互いの顔面を剥がし、それでも変わらずに好きで居られたと分かったあの日から、俺の全部の決定権はセンパイに明け渡してるんだもの。

 

 

『ライザー様の騎士一名、兵士二名、僧侶一名……リタイアです』

 

 

 おや? ちょうどお兄たまが腕に変なモン付けて女の人数人をブチのめしたってアナンウス付きの映像が流れてらぁ。

 うーん、やっぱし何をしてもそつなくこなしやがるなぁ。

 あぁ、応援したくなってきたぜオイ。

 まあ、その前に……。

 

 

 

「見られるのって、やっぱり嫌いだわぁ……」

 

 

 割りと早く使う時が来ちゃったかもね、幻実逃否(リアリティーエスケープ)をさ。

 多分それでも精々殺されない程度にしか出来ないだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 簡単な話、普通に信じられなかった。

 単なる人間の……それも見た限りじゃデコピン一発で首が飛びそうな人間をリアス・グレモリーがちょっと探って見てくれないか……そう言われたグレモリー家メイド長兼魔王サーゼクス・ルシファー眷属の女王であり妻でもあるグレイフィアは、そのサーゼクスの妹であるリアスの眷属の兵士であり、今代赤龍帝である兵藤誠八の弟……一誠が次期シトリー家当主であるソーナに連れてこられたのを目にしても何も感じなかった。

 

 神器なんてありもしない只の人間。

 無駄に口が回るだけの只の人間。

 その性格(キャラ)に少し難アリなだけの只の人間。

 グレイフィアにはそう見えるだけだった。

 どれだけ目を凝らしても何も感じない……転生悪魔数人が彼を見て異様とも言える嫌悪感を示していたのに違和感こそ感じ得ても、やはり自分にはそこら辺に居る一般人と同じにしか見えなかった。

 

 目の前でサーゼクスの手紙を破り捨てながらベラベラと屁理屈捏ねる姿を見た後、誠八に殴り飛ばされてもヘラヘラ笑いながら、『昔何処かで感じた似た雰囲気』を出し始めたのには若干驚きはしたがそれでも所詮は人間だった。

 但し彼の隣に居たソーナが殺意に満ちた目を隠しきれなくなっていたのを見た時は、素直に驚いたが……。

 

 

「で、グレイフィア。どう思ったかしら彼は……?」

 

「兵藤一誠……ですか? 普通の人間としか思えませんでしたね」

 

 

 一誠とソーナよりも先に、本日の主役の片割れであるリアスとその眷属達をゲーム会場に転送し終え、戻って今度はあの二人を転送しようと準備するグレイフィアに話し掛けて来たリアスに対して正直に話す。

 

 

「グレイフィアでも分からないか……」

 

「彼は本当に何かを持っているんでしょうか? 傍目から見てもやはり只の人間としか……」

 

「この前お兄様に連絡したのを聞いたと思うけど、彼はうちの眷属である小猫に『妙な幻覚』を見せたらしいのよ。実際私は見てないけど」

 

「ええ、サーゼクス様からお話を聞きましたので存じてます」

 

 

 難しそうな顔で話すリアスに小さく頷くグレイフィアは、一誠からスキルを使った脅しを実際受けた小猫からリアスへと伝わり、それを探る為に頼る事になったサーゼクスを経て軽く耳にしていた。

 だから一誠の動向を探ろうと誠八に殴られてる所を仲裁せず見ていたけど、結局彼はヘラヘラと笑いながら殴られっぱなしなだけでその変な幻覚を使う事は無かった。

 単純に使うまでもなかったから……と言われたらそれまでだが、それを考慮しても一誠という人間にそんな力があるとはとても思えなかった。

 

 

「サーゼクス様が直接拝見すれば、或いは何かを感じてくれるかもしれませんね……。お役に立てなくて申し訳ございません」

 

「いいえ、私だって彼を見ても何も思う所が無かった訳だし仕方ないわよ。ただ、ああもうちの眷属の大半が彼を嫌悪してるのを見るとやっぱり何かあるとしか思えないのよ」

 

「木場様、姫島様、アルジェント様……そして彼の兄である兵藤様ですか……」

 

 

 部室で見た時の4人はまさに一誠に怯えているか嫌悪しているかだったのを思い返すグレイフィアにリアスは頷く。

 

 

「ええ、それと彼のクラスの生徒達と担任もね。

もう大半が学園を辞めたか不登校になってるわ」

 

「それは……」

 

 

 確かに異常だ。

 人間の心理は純血悪魔故に余り理解出来ないが、共に学ぶ場所で、彼と近い距離に在った者達が軒並み消えていくと聞けばやはり怪しく思えてしまう。

 自分やリアス……そして今は一人天井を見つめてボーッとしている小猫以外であるあの4人の転生悪魔は何かを彼から感じている。

 自分達では理解出来ない何かを……。

 

 

「とにかく今はこの話を止め、レーティングゲームに集中してください。立場上大きな声では言えませんが……頑張って欲しいので」

 

「ええそうね……ありがとう」

 

 

 しかし今は兵藤一誠よりもレーティングゲームだ。

 グレイフィアは小さくリアスに激励を言葉を送り、リアスも笑みを溢しながら小さく応えると、その問題の存在である一誠……そして暫く見ない内に何処か変わっているソーナを観戦室に転送する為にもう一度戻る。

 シトリー家次期当主であるソーナはともかく、一誠は単なる人間であるので、多数の悪魔が集まる場所での観戦は難しく、特別に個室での観戦となる。

 それは人間でありながらもすんなりと許可してくれたサーゼクスの配慮だったりする。

 だから、その配慮を知らずにヘラヘラ笑いながら招待状と直筆の手紙を破り捨てたあの時は若干頭に来た訳だが、彼が言った通り、悪魔じゃない彼が従う理由も無いのも事実なのでほんの少しだけ表情を変えるに留めた。

 まあ、少しだけ嫌いになった訳だが。

 

 

(聞いた通り、どうもシトリー様はあの人間に対して情念を向けているようですが……)

 

 

 グレイフィアの中では不思議人間化している一誠に、情を向けているソーナを思い返しながら自身転送させる。

 転送前と変わらないオカルト研究部の部室……違いは先程まで居たリアス達の姿は無く、代わりに居るのは取り残しておいた一誠とソーナが、何やら互いの立場なんぞクソ喰らえ状態でのほほんと会話をしている場面。

 

 

「だから俺は応援というものはしませんよ。

俺が応援した者は全部確実に負けますもん。

なので、そんな気分になれたら兄貴だけを誠心誠意応援しますわ……ふふ、前と比べて仲良くなって来てるでしょ?」

 

「その話をした後に誠心誠意応援すると言われたって、まるで説得力が皆無なんですけど……」 

 

「あれ、そうすか?」

 

(…………)

 

 

 やはり何も感じない。

 ソーナが右の頬を真っ赤に腫らせている人間相手に楽しそうにしている、という事以外は何も思う所が無い。

 だが、リアスの言っていた事を踏まえれば普通で処理は早計と判断したグレイフィアは小さくコホンと咳払いをして二人の会話をそれとなく中断させる。

 

 

「準備が完了致しましたので、お二人を特別室に転送させますが……シトリー様の眷属の方々は……」

 

「ああ……私の眷属達なら既に向こうに居ますのでご心配は無用です。観戦場所は別になることも予め伝えてありますし」

 

「……。かしこまりました、では転送致しますが、兵藤様は向こうで治療をさせて頂きますのでもう暫く――」

 

 

 王は女王を常に横に置く――という常識を真っ向否定してるソーナにやはり変わったとしか思えなくなってきたグレイフィアだが、取り敢えずは先程殴られたままの……既に腫れ上がって痛々しくも思えてしまう一誠に視線を向けて治療の話しをしようとするが……。

 

 

「ああ、そんな気を回さなくて結構ですよ。

ほら、こうなった原因は俺が魔王様とやらの手紙を破いたせいですしね」

 

 

 一誠は右側の頬をだけが異常に腫れた状態のままで貼り付けた笑顔を浮かべて体よく断ろうとする。

 しかしながら彼は紛いなりにもサーゼクスが招待したゲスト。

 故に、そんなボコボコに腫れた顔のまんまはいくらなんでもアレだと判断しているグレイフィアは『そうはいかない』と食い下がる。

 

 

「そうは参りません、我々のせいで貴方様は怪我を負ったのですから――」

 

 

 責任を取らせて頂きたい……そう続けようとしたグレイフィアは言葉を止めてしまった。

 その理由は謂わずもながら……一誠がそのグレイフィアに被せる様にしてこう言ったからだ。

 

 

「なら止めれば良かったでしょうに。『お兄ちゃん』にぶん殴られる前にさ……貴女なら出来たでしょうに、それくらいは」

 

「…………………」

 

 

 ニコーッと嫌味な程に可愛らしく見せてるつもりの笑顔で宣う一誠にグレイフィアは何とも言えずに口を閉じてしまう中、続けざまに彼の放った言葉を耳にして一つだけ一誠という単なる人間の事が解った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんて事を建前に本当の事を言うと実に単純で簡単な事ですぜ。

極々普通に、アンタみてーな今日知っただけに過ぎない得体もしれない人に触れられたく無いだけなんですよ。はい以上」

 

「…………」

 

 

 あくまで笑顔で、人懐っこい声で……自分より遥かに弱い人間が言い切る。

 単なる馬鹿なのか、それともリアスや自分が考えてる通りに何かを持つが故に挑発しているのか……それは解らないが……この人間は人を……悪魔を的確にイラッとさせる事を言うのが上手いのかもしれない。

 グレイフィアは横から一誠の頭をペシリと叩いてから何度も頭を下げるソーナにお気になさらずと返しながら思うのであったとか。

 

 

 

 

 

 

 『俺は悪くない』

 

 

 双子の兄である誠八君に殴られる直前に口にしようとしていたその言葉を初めて聞いた時、自分の胸が大きく鼓動したのと同時に、昔の事を思い出してしまった。

 別に彼が私を知ってる筈も無いし、私も彼を知らないのに、あっけらかんとした態度でその言葉口にしたのを耳にした瞬間、固い鎧で覆って忘れたフリをしていた筈のある記憶が無理矢理思い出された。

 だから私は彼に嫌悪感を抱いた。

 

 

 

 

 

 けど同時に私は、あの全てを台無しにする雰囲気に『羨ましさ』すら感じてしまった。

 そんな存在に……あの男の様には絶対にならないとあの日誓い、自分なりに必死に生きた努力全てを水泡に帰すようなその言葉をその時私は嫌った。

 

 それは、彼を同じく嫌悪した騎士と兵士の2人も同じ気持ちだったらしく、その日を境に、後に加わる僧侶の子も含めて妙な仲間意識が芽生えた気がしたが、私は少しだけ違う気持ちが小さな芽の様に生まれていた。

 

 

「私は……悪くない」

 

「え、何か言いました?」

 

 

 レーティングゲームが始まる20分前の最終ミーティング。

 無意識にポツリと口にしてしまったその言葉に、彼にそっくりな顔立ちでありながらその中身は全くの真逆であるセーヤ君が不思議そうな顔をして私を見ている。

 

 

「いえ、何でもありませんわ……ふふ」

 

 

 そんな彼に私は何時もの調子で何とも無いと返すが、内心はまるで違う事を考えていた。

 もし……もしもシトリーさんでは無く、私が彼と親しく、私の全てを知った場合彼は何と言うのか……。

 あのシトリーさんを見る限り、彼は親しくなった人には絶対に嘘は吐かないとある種の確信すら覚える。

 だからこそ、誠八君や祐人君やアーシアちゃんには絶対に秘密だし言えないけど……気になってしまう。

 彼は……兵藤一誠が私と親しく、そして全部を知ってたとしたら何て言ってくれるのか……。

 いや、大体予想は出来る。

 彼ならあの男との確執に対してどうこう言わずにこう言う筈だ…………。

 

 

「あぁ、それは大変だったんですね……。辛かったんですね。

うん、大丈夫ですよ……どう考えても『先輩は悪くなんてない。』」

 

 

 へらへらと笑って言ってくれるだろう。

 そして簡単に受け入れた挙げ句、私を優しく腐らせてくるだろう。

 頑張る必要なんか無い。

 悩む必要は無い。

 母が死んだのは私のせいでは無くて、あの男だから気に病む必要なんか無い……そう、笑って言ってくれる気がする。

 自分より最低な人間が近くに居るだけで安心するように……彼は――

 

 

 

「一誠……アイツは急激に変わった。

前は……ほんの少し前は只の臆病者だったのに……」

 

「そ、そうだったんですか? 私には……その……想像が……」

 

「まあ、わかるよ。その……セーヤくんの前で言いたくは無いけど、今の彼は本当に人が変わった様だよ……」

 

 

 グレイフィア様やサーゼクス様相手に喧嘩を売った真似をし、セーヤくんに殴られてしまっても心を抉るような笑みを崩さなかった先程の彼の話が私を中心に祐人君やセーヤくんやアーシアちゃんの間で展開される。

 主であるリアスはグレイフィア様と何か話をしており、小猫ちゃんは一人で考え事をしている様子だ。

 もうそろそろレーティングゲームが始まると言うのに、彼――兵藤一誠のお陰で私も含めた皆の精神は余り宜しくは無さそうだ。

 リアスの婚約を破棄するためのレーティングゲーム……敗北は許されず、今は関係の無い彼の事を考えるのは良くない筈なのに……最近は彼の話がリアスと小猫ちゃんを除いたこの4人の間で持ちきりだった。

 力なんて全く無いし、弱い筈なのに……初めてマトモに見た彼のあの負のオーラは本当に人なのかと思うほどのインパクトがあったから仕方ないとは思う。

 女王として、副部長として私は3人に集中するように告げながら、私自身も関係の無い彼の事を頭から消そうと精神統一をする。

 

 

『大丈夫さ……先輩は悪くないですよ。

悪いのはその堕天使って奴さ……俺はそう思いますよ? ククク』

 

「っ……」

 

 

 出てくるな。

 私とアナタは話なんてしたことは無いし、そんな事言っても無い。

 だから、私の心を乱さないで……シトリーさんみたいに私を腐らせようとしないで……。

 私は……。

 

 

『頑張る必要も悩む必要も無いさ。

ご飯食って、トモダチと遊んで、只その日その日を無意味に生きてればみーんな幸せさ……そうは思いません? ほったらかしにしてくれた父親擬きを恨んだ所でお母さんは帰って来ないよ?』

 

「ぅ……」

 

 

 やめて……やめて……!

 

 

『大丈夫、何度だって俺は言ってあげる……先輩は悪くない。悪いのは余計な事をした奴と育児放棄した父親さ!』

 

 

 私の中を荒らすのは……想像でしか無いアナタが私を腐らせるな……!




補足

一誠くんはどんどんうざくなる。
なぜか? 話す相手がセンパイじゃ無いから。

その2
彼はセンパイのみ、潜在的な奴隷願望があるかもしれない………………?


その3
全ては彼女の想像で一誠くんは全く関係ないです。
無駄覚醒した彼は、只居るだけでこうして害となる……兄者が嫌悪する理由の最大のひとつ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。