マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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折り合い一誠くんの弱点露出回と章完。


超越者と無力男(マイナス)

 最初は下世話な奴が来たかと思ってた。

 だから白髪チビの様にしてやろうかと思ってた。

 隙見て杭と釘で串刺しにした後、脳天ぶち抜いてからスキルを発動してやろうと思ってた。

 けれど俺は、自身の弱さを忘れていた。

 圧倒的過ぎる奴には無力だということを忘れていた。

 

 

『リアス様眷属の女王……リタイアです』

 

 

 モニターから聞こえる誰かの脱落アナウンスには興味は今無い。

 俺が全神経を集中させているのは扉の向こうから感じる圧倒的強者を主張してくるプレッシャーだ。

 

 

「誰……?」

 

「恐らくは……魔王様かと」

 

 

 段々と大きくなるプレッシャーはその大きさに比例して此方に近付いている事がよーくわかる。

 素人の俺ですら膝を折りたくなるようなこの強い気配は、センパイ曰く魔王って奴らしいが……ゲームが終わっても無いのに来るのかよ。

 

 

「…………。チッ」

 

 

 こういうのを生物の危機的本能って奴なのだろうか。 殆ど無意識の状態のまま両手に杭と釘を持って、何時でも投げ付けられるようにと構える。

 ……。まだ怖いという感情は俺の中にどうやら残ってるらしいな。

 

 

「その二つを構えるのは止めた方が良いです。

いくら何でも魔王様にソレを向けたら私でも庇いきれなくなりますから……」

 

「…………はい」

 

 

 久しぶりに全身が強張る感覚に陥る俺の腕にそっと触れるセンパイの言葉に我へと返り、持っていた杭と釘を未だ見ぬ魔王とやらから隠す様に適当な植木の後ろに向かって放り投げておくと、遂に扉を2度叩く音が聞こえる。

 

 

「はい……どうぞ」

 

「……………」

 

 

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)………。

 自分に降り掛かる嫌な事(げんじつ)を否定し、優しい幻実(げんそう)へと逃げる俺の過負荷(マイナス)

 多少の奴にはそれが効いたが、お伽噺の存在としか思えないその親玉に果たしてそれが通用するか、今のままの(マイナス)で逃げられるのか……その答えは、たった今開けられた扉の向こうに居る存在を見てから解る。

 

 

「失礼するよ」

 

「……」

 

 

 この紅い、赤い、朱い……魔王に。

 

 

「自分から招待しといて挨拶が遅れて申し訳無かったね。

僕がサーゼクス・ルシファーだ……よろしくね兵藤一誠君!」

 

「……………」

 

 

 一見すれば優男にしか見えない……いや、貧弱の俺が他人の事は言えないが。

 

 

「お久しぶりです……ルシファー様」

 

「こんにちはソーナさん。あはは、そんな畏まらなくても良いよ?」

 

 

 目が覚めるような整った容姿と赤い髪に俺は目が離せず、サーゼクスと名乗った男がペラペラとくっちゃべってからセンパイに話し掛けているのを只見ているだけしか出来ない。

 安心院なじみは確かにこの男すらカスとなるレベルの人外かもしれないけど、それを感じない雰囲気を持っていたら軽口が叩けた。

 しかしコレは違う。無意識に放ってあるだろうオーラからして解る……人間……いや過負荷では絶対に届く事の無い勝利者特有の気配。

 あーぁ……これは凹むわぁ。

 だってどう足掻いたって勝てねーもん。

 

 

「その……彼が色々と失礼な事を……」

 

「いやそれは全然……寧ろ此方が謝らないと。

唐突で無理矢理過ぎたしね……申し訳無かったよ兵藤一誠君」

 

「…………いや……別に……」

 

 

 分け隔てありませんと主張する笑みで謝ってくるサーゼクスと名乗った男に俺は上手く声が出せないままぶっきらぼう気味に返してしまう。

 くそ……飲まれてるな……彼に。

 

 

「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

「…………。ええ、脈絡無く手紙だけ寄越し、成り行きとセンパイの顔立て目的でこの場所に居ますが、別に嫌だという感情は今はありませんので……」

 

 

 だからせめて皮肉だけは言わせて貰おう。

 その横に何か居た銀髪の人の頬が若干動いた気がするけど、不敬? 知るかそんなもん。俺はさっきも言ったけど悪魔じゃないし、人間代表として言ってるまでだからな。

 

 

「あはは……ホントにごめん」

 

 

 皮肉と察してくれたのか、彼は苦笑いしながらまた頭を下げて来た。

 チッ、やりづれぇ。

 

 

「一誠くん……」

 

 

 そんな俺を見てマズイと感じたのか、センパイが先程から俺の腕を掴んだままだったその手を動かして手を握って安心させようとしてくれる。

 

 

「分かってます……」

 

 

 それだけ、たったそれだけだが、俺は他の誰にも感じない絶対的な安心感を得てざわつく心が落ち着くのと同時に、胸の中にあった黒々としたナニかが綺麗サッパリ消えていく。

 

 

「すいません……」

 

「え? 何で君が謝る必要が……?」

 

「その他色々含めて何となくです」

 

 

 ボソッと謝る俺に目を丸くするサーゼクスって魔王に適当すぎる理由を口にする。

 どうであれ彼は俺を嫌悪した様子も見られない……だから俺も何も思わないし、今謝ったのですらそんな気分だったからに過ぎねぇし俺は悪くねぇ。

 

 

「そう……うん、そうだね」

 

 

 俺の死んだ魚と最近評されまくってる目を見て勝手に納得したサーゼクスって魔王さんはニコリと……紅髪の人を思い出させる笑顔を見せる。

 ああ、そういやこの人紅髪の人の兄貴だっけ? は……兄より優れた弟や妹は存在しねぇってか?

 

 

「うん、自己紹介はこのくらいにしようか!」

 

「…………。はい」

 

 

 どうにも気安いこの魔王の人は、ポンポンと話を進める。

 いやそっちのほうが有り難いしさっさと消えて欲しいから良いんだけど……。

 

 

「妹……あ、今レーティングゲームで凄い頑張ってるリー――いや、リアスの事なんだけど、どうかな? レーティングゲーム」

 

「………………」

 

 

 何故か中々帰らずにペラペラと話始めだした。

 椅子座って、隣に居た銀髪の人がいつの間にか用意してた茶なんざ飲んで。

 

 

「……。うちの姉と同じで案外軽いんですよ……」

 

「…………。あ、そうっすか」

 

 

 ニコニコニヨニヨしながらレーティングゲームじゃなくて妹の自慢話にスライドさせている魔王の人に何とも言えずに呆然としている俺の横からヒソっと耳打ちするセンパイに、何でか知らないけどしょっぱい気分になってきた。

 やっぱり折り合い付けても人見知りするこの性格の根は変わらないらしく、こうも向こうから一方的に喋られるとキツいというか言い返せない。

 その点銀髪の人はそんな喋んなかったから何とかなれたけど……この魔王の人みたいなのが人で居たとしてもトモダチにはなれそうもない。

 

 

「それでね、小さい時のリーアたんは……」

 

「は、りーアたん? ナニソレ?」

 

(サーゼクス様がプライベート時に口にするリアスの呼称です)

 

 

 気付けば一緒のテーブルに座らされ、紅髪の人と兄者が手なんぞ繋ぎながら炎オーラを纏ってる変な奴をタコ殴りにしてる映像を見ながら嬉々として語りまくり、意味不明な単語が出る度に隣に座るセンパイが耳打ちで補足してくれるのだが、正直に言わずとも…………すんげぇどうでも良い話ばかりだ。

 

 

「おや、ライザーが圧されてる。

フム、リアスの横に居る彼はキミの双子の兄だったね?」

 

「ええ、まあ……」

 

 

 兄とは思っても無いし最早どうだって良い奴だったりするんだけど……心の中で補足しながら頷くと、魔王の人は意味深に笑っている。

 

 

「赤龍帝・兵藤誠八君か……。

リアスも随分と頼もしい眷属達に恵まれたみたいだ」

 

「ですね」

 

 

 赤龍帝が何だか知らんし、変ちくりんなもんが付いてるあの腕が何なのかにも興味は無いが、アレが俗に言うところの神器って奴か……そういや直接目にするのは初めてかも。

 

 

「あんまり仲が良くないみたいだけど……」

 

「最近はそうでも無いですよ」

 

(……)

 

 

 んな事まで把握してるのかよこの魔王の人は。

 何処までチクった事やら……あの紅髪は。

 それとセンパイ……横で『えー?』って顔しないで……本当に最近はある意味で距離縮まってるんだから。

 

 

「お兄さんが悪魔に転生した事について何か思うところはあるかい?」

 

「別に。奴の人生だしどうだって良い。

俺が一々心配せずとも『お兄ちゃんは』優秀ですから……」

 

 

 消えろとも思わないし、死ねとも思わない。

 奴が誰で、何処から来て、何で周りが兵藤一誠の双子の兄と認識してるのかも未だ知らない。

 だからどうでも良い。

 悪魔に転生しようが、誰かに殺されようが、そのまま生きてようが俺にとって何の意味も為さない。

 周りがなんて言おうが、俺に兄弟は居ないと折り合い付けた今でもそれだけは信念とし持ってる。

 それだけで今は充分だ……画面の向こうで俺とムカつく位に似た顔した男が男らしく変な奴を殴り付けているのを見ながら人知れず思う。

 そして……。

 

 

『ライザーフェニックス様がリザイン致しました。

よって、勝者はリアス様率いるグレモリー眷属となります』

 

 

 勝敗は決まったらしい。

 

 

「リアスの勝利か……フッ、少しホッとしたかな」

 

「へっ……負けたら結婚でしたか? そんなに妹が大事なら、偉い地位である貴方様の権限で潰せば良かったものを……」

 

「はは、意地悪しないでくれ。魔王なんてやってるけど、実際は若輩者でしか無いし、一部じゃ『若造ごとき』とか思われるだろうからね」

 

 

 たははと苦笑いする魔王の人。

 案外そこら辺は世知辛いのね……どうだって良いけど。

 

 

「さてと……勝負が決まったらしいし、取り敢えず僕は失礼させて貰うけど……」

 

「あぁ、結構ですよ。さっさと行ってやってくださいや」

 

 

 一々俺なんぞに許可取らずにさっさと行けよ。

 大体分かって来たが、大方妹から俺のスキルの情報が流れて来て、それの探りでもしに来たんだろう。

 聞けば俺のこのスキルはセンパイ曰く『エグい』らしいからね。

 様子を探り、イザとなったら即殺す為に俺を呼び寄せた……そんな所だろう、こんな茶番に呼んだ理由は。

 だがな……俺は勝てないかもしれないけど殺される気はねぇ。

 殺されたという現実からも逃げ。

 センパイから引き剥がされるという現実からも逃げ。

 嫌な事からもずっと逃げる。

 

 逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げ続ける。

 誰にも否定させねぇ……センパイを連れてずーっと現実(イヤなこと)から逃げてやる。

 

 それがやっと出来た……俺の生きる意味なんだから。

 

 

「……。ん、それじゃあまた今度ゆっくりお話しよう」

 

「そんな機会が無いとこを俺は祈りたいものですが」

「ふっ、来るさ……良く分からないし何と無くとしか思えないけど、個人的にキミは『僕等に近い』気がするしね」

 

「は?」

 

 

 何言ってんだコイツ? と目を丸くする俺に魔王の人は若干腹立つ笑顔を見せる。

 

 

「早い話、キミ個人に好意を持ってるってことさ」

 

「………………………きっも」

 

 

 俺が女だったらアレだったろうが、生憎俺はちゃんとした男だしノンケだ。

 故にいくらイケメンからとしても野郎にそんな事を言われるのはサブイボが立つし、思わずそんな言葉も出てしまう。

 

 

「勿論そういう意味じゃないよ? 僕だって普通(ノーマル)のつもりさ。妻子もいるしね。

僕が言いたいのはその……上手く言えないけど人格が好ましいって事。それにキミは彼女とそういう関係なんだろ? 」

 

 

 はははと乾いた声で笑いながら訂正する魔王の人は、センパイに対して意味深な視線を向けている。

 

 

「……………。センパイがお金持ちの純血悪魔だから、人間ごときはとっとと消えろと?」

 

「違う。まあ、冥界の悪魔達はそういう考えを持つのが少なくないけど、僕はそうは思わない。

寧ろそういう考えはぶち壊して欲しいくらいだもん……。

ホント、自分達こそが至上の種族だの、純血こそ選ばれた存在だのと……全部『あの人』の前では平等にくだらないのにさ……」

 

「……」

 

 

 最後、一瞬だけ暗い顔をする魔王の人の小さな呟きはこの場に居る全員の耳に入る。

 それは魔王というよりはサーゼクスという個人の声に聞こえた。

 

 

「サーゼクス様……少々口が過ぎますわ。お控えください」

 

「あ、ごめんよグレイフィア。てな訳一誠くん、今言った事は秘密ということで……」

 

「俺としても言い触らす理由が無いんで」

 

 

 ウィンクなんざ噛ましてくる魔王の人に気色悪さを感じながら言わないと約束するが……あの人って誰だ?

 ……………………まさかな。

 

 

「それじゃあ一誠くん……またね!

それとソーナさんもね!」

 

「はい」

 

 

 魔王の人が口にしたあの人が何でか気になり考えている間に、もう一度挨拶をしてから銀髪の人と共に部屋を出ていった。

 漸く去り、ホッとしながらソファに座り直す俺にセンパイもその隣に座る。

 

 

「結局ストレートには聞いてきませんでしたが……」

 

「ですね……俺、ああいう一方的に話す奴が苦手みたいです」

 

 

 相手が俺を薄気味悪がる前提なのに、ああいうイレギュラーは俺に気持ち悪さも嫌悪感も抱きゃしない。

 だから相手のペースに飲まれてしまう…………今後の課題だなこれは。

 

 

「ですが、どうやらサーゼクス様の様子からいって一誠くんを引き剥がそうとはしないみたいで安心しました。

後は姉さん辺りを抑えれば……」

 

「姉さん? あぁ、携帯画面の人か……」

 

「この場には今日は来てないみたいですが、その内会うことになるでしょう……。その時はよろしくお願いします……」

 

「………はぁい」

 

 

 携帯画面の人……センパイの姉らしいけど……俺はこの時点で、さっきの魔王の人以上にめんどくさそうな奴だと予感する。

 大体、普段センパイが携帯画面の人の話を全くしない時点で察せるもの。

 

 

「なんか疲れたわ……知らん間に紅髪の人達も勝ってるし」

「結構ギリギリだった様ですがね」

 

 

 そんな事より……今は眠い。

 早く帰りたい。

 センパイは紅髪の人に一応挨拶しに行くらしいので、その間ちょっとだけ寝るか…………夢の中をチョロチョロするあの女にちと聞きたい事が出来たし。




補足
「悪魔だろうと堕天使だろう天使だろうと、二天龍や無限・夢幻の龍神だろうと神だろうと、全て僕にとってはくだらねーカスさ。
ふふ……それにしてもあの青二才も随分とご立派になったみたいだな……サーゼクス・グレモリー君」


補足2
ライザーさんを撃破したのは、補正で何とかなった兄者とリアス嬢。
女王さんは……………誰かのせいで精神揺らぎまくりでリタイアしました。


次は……………トモダチが来るかも。

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