マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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彼にとってのトモダチは……的な。


トモダチだから助ける。他が何を奪おうが復讐に燃えてようが知らない

 イリナちゃんとの思いがけない再会にちょっぴり嬉しい気分に浸れたまま次の日となった。

 あの青髪の人と何の話をしてたのかは知らないし、センパイに聞くことも無かった訳だが、どうやら話を終わらせた後寝てたイリナちゃんを引っ張って帰ってしまったとの事らしく、その後会う事は無かった。

 因みにな話だが、兄者もイリナちゃんと会ったらしく、珍しく向こうから自習の最中に話を振られたっけか。

 どうにもこの兄者はイリナちゃんを俺と同じレベルで嫌悪してるっぽいが…………無知とは罪だね。

 お前が現れる前のイリナちゃんはちょっとだけ妄想癖のあるってだけの普通の子だっただけだし、今もそんな悪い子じゃ無いぞ。お前はその頃を知らないからそう見てるだけなんだろうけどな……………とまあ、内心ニヤニヤしながら金髪シスター共々嫌な物を見る目をしながら話掛けてくるのを適当にあしらうなんて事があってから放課後。

 

 

「~♪」

 

 

 たまには良いだろう……ということでセンパイとその部下の皆様方に差し入れでもしようとドラッグストアで茶菓子でも買いに行こうと街を歩いていた時だ。

 道行く人々が何故か俺を見るなり露骨に道を避けるもんだから、スイスイ歩けて快適だぜとか思ってると、向こうの方で昨日見たばかりの格好をした二人組が、何かを言いながらその場にずっと立っているのを発見し、思わず足を止めて遠巻きに眺めていると、駒王の制服に身を包んだ数人が二人の前に現れて何かを話している。

 それだけだったら気にはならなかったのだが、その数人の駒王の生徒は例の紅髪の人の部下と兄者……そして何故か生徒会室で頑張ってる筈の匙君だったもんだから、俺はついつい彼等に近付いて話し掛けてしまった。

 

 

「や、匙くんじゃん。こんな所で何してんの?」

 

「どわっ!? きゅ、急に背後から話し掛けるなよ馬鹿! ビックリすんだろうが!」

 

 

 普通に声を掛けたつもりなのに、どうやら匙くんは驚いてしまったらしく、びっくり顔になっていた。

 

 

「あら、ごめん……。いやほら、買い物しようとしたら珍しい組み合わせの匙くんを見付けたから……さ」

 

「っ……一誠……」

 

「おいおい『弟』を目にした瞬間にその顔かい?

はっはっはっ、今日も良い『お兄ちゃん』だぜ!」

 

 

 俺が現れた事で一気に嫌そうな顔になる兄者と金髪の元・シスターさんと……………嫌そうでは無い顔して見てくる仕返しし損ねた白髪チビに一瞥くれながら話すと、匙くんは不貞腐れた表情になる。

 

 

「ケ! 俺だって好きで居る訳じゃねーよ。

何でか知らねぇけどお前の兄貴に協力をせがまれて……」

 

「へー『お兄ちゃん』にかい? あらら、何かごめんよ?」

 

 

 何の協力かは知らないけど、どうにも兄者は嫌がる匙くんを無理矢理引っ張って来たらしい……。

 理由が良くわからんな。センパイ直属の部下を簡単に連れ出して良いものなのかとか、そもそもその事をセンパイが知ってるのかとか、色々疑問に思うことは多かったが、取り敢えず『弟』として謝っておいた。

 

 

「こんな所を会長に見られでもしたら何て言われるか……」

 

「あら……黙って来たんだ。ったく……他人の事はとやかく抜かす癖に自分(テメー)はこういう事するなんて、随分とまぁ横暴な『お兄ちゃん』だわ」

 

「……。煩い……お前には関係ない」

 

「……だ、そうだぞ? ごめんよ匙君。俺じゃあどうにもならんぜよ」

 

「期待なんかしてないから安心しろ」

 

 

 強くは言い返せないのか、嫌な目をコッチに向けたままボソッと小さな声を出す兄者の言った通り、確かに俺には関係無い話だったので、これ以上は何も言わず、順番が遅れてしまったイリナちゃん…と序でに青髪の人に挨拶してから帰ろうと、彼女達に視線を向ける。

 

 

「昨日振りだねイリナちゃんと……ええっと青髪の人。

何かお邪魔みたいなんで帰りますわ……んじゃ――」

 

 

 向こう側関連で此処に来たって話だけは知ってるので、所詮一般人でしか無い俺に入り込む余地は無し。

 そもそも外に出た理由だって茶菓子を買いに行こうとしてただけだったので、このまま軽く挨拶してから帰ろうとするんだが、何故か俺はイリナちゃんに手を思っクソ掴まれてしまって帰るに帰れない状況となってしまった。

 

 

「待ってよイッセーくん! 折角会えたのに直ぐに帰っちゃうなんて嫌!」

 

「っとと、嫌って言われてもねぇ……。

何か大事な話でもしてたんじゃないの?」

 

 

 ほら、俺とキミ等以外全員悪魔だしねぇ……なんて思いつつ話すが、どうやら違ったらしく、イリナちゃんと青髪の人は揃って首を横に振っていた。

 

 

「いや、イリナが行動資金を贋作の絵に使う馬鹿をやってくれたせいで、道行く人の慈悲を分けて貰おうとしてたら、彼等がやって来ただけで特に何を話してた訳では無いぞ?」

 

「そうそう……って、ゼノヴィア酷い!」

 

「贋作?」

 

 

 贋作という青髪の人の言葉に首を傾げる俺に、イリナちゃんが背中に背負ってた布に包まれてた何かを取り出して中身を見せる。

 それは……………俺から見たら子供の落書きか何かにしか見えん絵だった。

 

 

「展示会の人が聖人様のありのままのお姿を絵にしたって言ってつい買っちゃった♪」

 

 

 テヘ♪ って顔をするイリナちゃんの話を聞きながら俺は絵を見るが、絵のレベルが高すぎるせいで理解が出来ない。

 というかコレ贋作なんだろ? じゃあ聖人様じゃないじゃん……青髪の人も怒ってるし。

 

 

「私にはどう見ても落書きにしか見えんものをこいつは簡単に騙されて買ってしまってな…………お陰で支給された資金が無くなってしまったのだ。

だからこうして慈悲を貰おうとしてたところを彼等と遅れてキミがやって来たって訳だ」

 

「慈悲を貰おうとしたら悪魔か……うーん、何だか運が良いのか悪いのか……」

 

「まぁな」

 

「イッセーくん……私お腹すいた……」

 

『………』

 

 

 別にそんなつもりは無かったのたが、悪魔の皆様には皮肉に聞こえたらしく、早く帰りたいオーラを出してる匙君以外が後ろから俺を睨んでるのを感じる。

 で、イリナちゃんは……相変わらずマイペースだった。うぅむ…………青髪の人はどうだって良いけど、イリナちゃんが腹減ったって言ってるし……………うーむ、トモダチが困ってるなら仕方ないな。うん。

 

 

「ホントは茶菓子を買いに行く予定だったんだが、イリナちゃんがこんな様子じゃあ可哀想だ。

うん……ほら、その御慈悲とやらになるかは知らないけど……」

 

 

 こんな事くらいしか出来ないケド……と言って財布から貴重過ぎる一万円札を取り出してイリナちゃんに渡す。

 マイナスが御慈悲というのも変な話だけど。

 

 

「良いのか?」

 

「ん、まぁイリナちゃんが腹減っとるって言ってますし。

結構こう見えてトモダチ想いなんですわ、俺は」

 

 

 青髪の人が意外そうな顔をして言うので、俺は手をヒラヒラさせながら構わないと返す。

 何だか後ろの方で数人の誰かさんが『こ、こんな事するんだ……』って顔をされてる気がするが、無視で通す。

 

 

「やっぱりイッセーくんだけが私に優しい! だから大好き!!」

 

「あー……ハイハイ。トモダチだからねうん」

 

 

 そしてイリナちゃんがスッゲー笑顔で抱き付いてくるのに適当に付き合う。

 正直、センパイ以外にこう事されても受け入れるなってセンパイに言われてるからアレなんだけど…………仕方ない。イリナちゃんって見た目に依らず力が強くて剥がせないんだもん。

 

 

「元はと言えばお前のせいだろうが……」

 

「良いもん、お陰でイッセーくんに優しくして貰えたし。

そもそも騙した展示会の人が悪いのであって『私は悪くない。』」

 

 

 ニコリと邪気無しの笑顔で、自分は悪くないと堂々と言い張った瞬間、後ろに居た兄者達から『うっ……』という狼狽えた声が聞こえ、何やらヒソヒソと話し声が……。

 

 

「あ、あの紫藤イリナって人……兵藤さんに今似てた気が……」

 

「…………。一誠とまともに付き合える幼馴染みなんだよ彼女は……俺はあんまり関わらなかったが、ハッキリとあの頃より退化してってのが解る。

天使の陣営に居れるのが不思議なくらいだ……」

 

「同じ……」

 

「なあ、俺もう帰って良くね?」

 

 

 ボソボソと煩いなぁ。

 文句があるなら堂々と言って貰いたいもんだ……あ、俺に関わっちゃ駄目って魔王の人に言われたから出来ねぇのか。なら仕方ないか…………ん? そもそもこの連中は二人に何の用があったんだろうか……匙君に迷惑まで掛けてよ。まあ良いかどうでも。

 

 

「んじゃ俺はこれで……むむ、イリナちゃんやそろそろ離してくれないか?」

 

「や」

 

 

 大人しく戻ろうとイリナちゃんを剥がそうとするが…………離れてくれない。

 クッソ……女の子より力が無いとか笑えんのだけど。

 

 

「どうせ離したらあの悪魔の所に行っちゃうんでしょ? だから嫌」

 

「嫌って……うーん困ったな。あのーすいません……イリナちゃんを何とかしてくれませんかね?」

 

 

 昨日の時みたいな感じで上手い事気絶させてくださいよと、青髪の人にペルプを送るも、2度もその手が通じる事が無く、イリナちゃんが青髪の人をギロリと睨み付ける。

 

 

「昨日は何も言わなかったけど、今日もまた邪魔をするならゼノヴィアでも容赦しないわよ……」

 

「あのなイリナ……隣の彼に会う為にわざわざ志願したのは分かってるが、その前に任務の方も忘れては困るんだよ……」

 

 

 どう見ても苦労してるっぽいと解る疲れ気味な顔で説得する青髪の人。

 察するに、イリナちゃんとはそれなりの付き合いがあるっぽい。

 

 

「任務ってなに?」

 

 

 そして俺は俺で、地味に出てきた任務っての言葉の内容が気になったので、まあ教えてはくれんだろうなとか考えながらも取り敢えずイリナちゃんと青髪の人の両方を見ながら聞いてみると、意外な事に青髪の人は答えてくれた。

 

 

「あーそうか……キミは我等がこの場所に居る理由を知らないのだったな。

うむ……まあ、簡単に言うとだ、ある堕天使が天使陣営で保管してた物を奪ってこの地に潜伏しててな。

それを私とイリナが奪還するといった所だ」

 

「へー……随分と危ない事になってるんだねこの街。

ていうか二人で大丈夫なの?」

 

 

 人の知らない間にそんな事になってると街の人達が知ったら大騒ぎだろうなぁ……とか考えながら二人だけって事に関しての疑問を問うと、青髪の人はサッパリとした顔だった。

 

 

「普通に行けば殺されるの関の山だろうな。何しろ相手は堕天使の幹部クラスだ」

 

「その様子だと死ぬと分かっててやってるって感じかな?」

 

 

 ありゃ……随分とアレな考えを持ってるんだなこの青髪の人……いやイリナちゃんもだけど。

 俺がその立場だったらさっさと逃げてしまうのに、中々どうしてお強いというか。

 

 

「それが教会――いや、主から与えられた試練なのだから仕方ないが、私達は別に奴等に正面切って挑もうとは思ってない。

要するに奪われたソレを破壊すれば良い話だしな……と言っても破壊工作も容易では無いが」

 

「うんうん、私もイッセーくんとゴールインするまで死ぬつもりは無いわ! 意地でも何とかして見せる」

 

 

 なるほど、ゴールインは知らんけど、トモダチが死地に赴くのを黙って行ってらっしゃいは………この青髪の人はどうだって良いにしてもイリナちゃんはなぁ……。

 いやでも戦う術があるからこんな事をさせられてるんだろうし、最近は野良犬にすら負ける気がしてならない俺にどうすることなんて出来ない。

 最悪、イリナちゃんが殺されでもしたら幻実逃否(リアリティーエスケープ)で殺されましたという現実から逃げてしまえば何とかなるけど……うーん、ま、そうなる時が来ないと俺じゃ無理だな無理~堕天使とか瞬殺確定だしー

 

 

「そっか……なら今は俺なんぞに構ってないで頑張らないとじゃないかイリナちゃん。俺は応援するよ……あ、勿論青髪の人も」

 

「あぁ、キミから頂いたこのお金を無駄にしない為にも全力は尽くすつもりだ」

 

「うん……分かった我慢する。私だって、イッセーくんとハッピーエンドを迎える為に絶対死なない……だからこれが終わったらあの時みたいに……」

 

「あぁ、分かってる分かってる」

 

 

 うん、遊ぶくらいならセンパイも許してくれる……かな?

 それにだ、 キミが例え死んだとしても……イリナちゃんだけは死んだって現実から逃げて見せるから大丈夫さ。

 んで、死なせてくれたその堕天使とやらには、勝つ勝たないじゃなくて、その『ツケ』を払わせるから…………フフ変な気分だ、やっぱりトモダチだけは裏切れない。

 

 まあ、多分『お兄ちゃん』達が何かするんだろうし、気楽に行くよ気楽にね。

 

 

 

 

 

 別に最初はそうではなかった。

 ただ単に近いものを感じたから仲良くなっただけだったのが、何かが原因で少年の心に変化が起き、それが少女の心を掴んだ。

 出会い、認識、そして別れという経験を経て数年の歳月の後に再会した時、少女は完全に確信した。

 あぁそうか……やっぱり変わらなかったと。青年の双子の兄に関してはあんまり関わりが無くて名前を呼ぶだけの関係だったので良くは分からないが、一誠は一目見ただけでわかった。

 見てるだけで、触れるだけで、話をするだけで安心する程に彼は退化(せいちょう)を遂げていた。

 これが何なのかは分からない。相棒の少女は青年を見て『お前以下の奴が居るなんて……』と顔を歪ませていたが知ったことではない。

 そもそも自分は偶々聖剣の適合者たる資格があったから、彼とお別れをしたってだけで、確かに主に対する信仰心もちゃんとある訳だが、それ以上に青年に対する想いがあった。

 故に誰もが青年を気味悪がるのは寧ろ好都合で、悪魔に洗脳されている事を除けば全て思い通りだった。

 後一つだけを上手く済ませられれば全ては解決する。

 青年をあのスカした上級悪魔から引き剥がして連れ去り……誰にも干渉されない場所で死ぬまで一緒に祈りを捧げる。

 その為には……。

 

 

「じゃあイリナちゃん……『また今度』」 

 

「うん……『絶対に今度だよ?』」

 

 

 上手い事揃って『死んだ事』にする。

 そうすれば誰にも邪魔されない幸せが訪れる。

 人懐っこい笑顔を見せながら手を振って去っていく青年の背中を見つめ、少女は純粋な心のまま至極まともにそう思っていたのだった。




補足

過負荷特有……一度でも受け入れた相手は裏切られても許してしまう。
ある意味で、彼にとっての弱点はトモダチの裏切りなのかもしれない。

その2

「他の女の匂いがします……」

「あ、これはアレっす、偶々外でイリナちゃんとですね……」

「………………」

「…………。まあ、会って話をしただけなんですけど、そういえば匙くんが紅髪ののお供の人達と仲良くやってましたぜ?」

「はい、匙は後で話をしますので心配いりません。で、会って話をしただけなんですか?」

「…………あ、いや……お金に困ってたみたいなんでちょっとカンパしてあげたら……感極まったのか抱き着いてきましたね――あ、はいすいません。そうですね、センパイの言付け守ってないね。
でもトモダチは見捨てらんないです……ていうか引き剥がそうにもイリナちゃんの方が力が強くてどうにもならなかったんですよ……だから『俺は悪く――――

「…………」

「――無いって訳無いか……すいません」

「いえ、私の方こそ過敏になりすぎてますね……」


ということがその後あったとか

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