マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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また変な方向に飛んだ。
というか、まあ……センパイのターンかこれ。


だから、『私は悪くない。』

 イリナちゃんの任務が何なのかは知らないけど、そのせいでイリナちゃんが死んでしまうのは俺としても真面目に辛い話だから『もしも死んでしまったらスキルを使う』――――みたいな話をしたら、センパイの顔付きがあからさまに嫌そうになっていた。

 その理由を聞いてみた所、センパイは少しむすっとしながら答えてくれた。

 

 

「一誠くんが彼女と幼馴染みの間柄で、トモダチだという事も解ってます……」

 

「はい」

 

 

 何時もの通りにセンパイと帰り、ジローとコジロー達とも戯れ、この街が何処ぞの堕天使によって割りと危険な事になっている事もどうでも良かったりする俺が今居るのはセンパイの家だ。

 あのはぐれ悪魔に喰い殺された時以来なこの場所は相変わらず綺麗に掃除されており、フッカフカなソファに座らされた俺は、同じく隣に座っているセンパイを説得するのに必死だった。

 

 

「ですが……その……」

 

 イリナちゃんと波長が合わないのか、どうにも俺が彼女と親しくしてるのにセンパイは我慢ならないらしいのだが、自分でも理不尽な事を言ってる自覚があるせいであんまり強くは出てこれないのか、少しショボンとしている。

 

 

「あー……つまり、センパイ以外にセンパイと似た態度をしてるのが嫌だと……」

 

「はい……。ごめんなさい、無茶苦茶な事を一誠くんに言ってる自覚はあるのですが、どうにもあの紫藤イリナという方は一誠くんに対して友達という感情以上のものを持ってるので……」

 

 

 俯き、罪悪感を感じる声で言うセンパイに、俺は確かにとイリナちゃんと再会した時を思い出す。

 昔からどうもあの子は思い込みが激しいというか…………えーっと、そうメンヘラっぽい所があった。

 いや、最初はそんな事は無く、偶々出会って一緒に遊んでたら気が合っただけだったに過ぎなかった。

 変わり始めたのは、あの男が現れてからだったか……。

 とにかくセンパイが言うには、イリナちゃんは俺にそんな感情を持っているらしく、俺が彼女にフラフラと行ってしまうのでは無いかと不安らしい…………はは、何か俺バイト先のおやっさんが昔体験したらしい『モテ期』って奴になってるっぽいな。

 他人からモテてもしょうがないが、センパイとイリナちゃんからなら…………っと、この考えは過負荷(マイナス)じゃなくて只の最低(ゲス)だな。

 

 

「うん、イリナちゃんはトモダチ以上の事は思ってません。

いえ、確かに大事な子には間違いないですが、センパイとは別方向の大切さというか――うぬ、上手く説明が……」

 

「つまり、異性としては意識してないんですね?」

 

「そう、それっす。異性というよりはやっぱりトモダチですね……」

 

 

 そう……確かにイリナちゃんは大事だ。

 だけどやっぱり好きって感情を向けられるのはセンパイ只一人だ。

 互いに顔を剥がし、肉片だけになっても変わらずに好きな相手はセンパイだけ……他に居ない。

 こればかりは他とは違い、顔面を剥がしてまで何かを確かめるという気にはイリナちゃんに対しては無い。

 だから俺はセンパイが好きなことは一貫しているのだが、今回の事でセンパイに要らん心配を掛けちまったのもまた事実だった。

 だから俺はそのケジメを付ける……その為に今日はセンパイの家に来た訳だ。

 で、そのケジメの内容も決まってる。

 

 

「センパイ…………俺を煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

 

 文字通りの意味で、俺自身の生殺与奪をセンパイに明け渡す事だ。

 

 

「中途半端にしか物が考えられない俺にはこうする事でしかセンパイの信用に答える事が出来ませんからね……だから切るなり喰うなり刺すなり磨り潰すなり好きにしてください」

 

 

 元々俺はもう、センパイに死ぬまで付いていくとあの時から決めていた。

 しかし、その付いて行く相手であるセンパイからの信用を失いかけてしまって居る今の状態で俺が出来る最大の忠は最早これしかなく、隣に座るセンパイを見ながら両腕を横に広げて『お好きにどうぞ』と一切の抵抗はしないという趣旨を見せる。

 しかしセンパイの顔は浮かないままだった。

 

 

「あんまりそういう真似はしたくないというか……そもそも一誠くんのスキルで痛みも何も全部無くなってしまうじゃないですか……」

 

 

 意味がありませんよ……とソッポを向いてしまうセンパイ。

 あ、そうか……センパイは知らないのか。

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)の穴を……。

 

 

「いえ、そうでも無いですぜ。

確かに幻実逃否(リアリティーエスケープ)で痛みや死という現実から逃げる事は出来るかもしれません…………が、それは何処とも知らねぇ――どうとも思わない只の他人から受けたものだったらの話です」

 

「え?」

 

 

 幻実逃否(リアリティーエスケープ)の弱点というか穴を知らなかったセンパイが、多分ヘラヘラ笑って見えるだろう俺に顔を見せてくれる。

 その目は子供の様に丸くてちょっと可愛く……俺はそんなセンパイにニッと笑みを見せながら穴であり完全な欠点を教えようと口を開く。

 

 

「今ある現実から都合の良い幻想を作り上げてそこへ逃げるスキル……それが幻実逃否(リアリティーエスケープ)ですが、これは俺自身の欠点の一つで、どうにもセンパイから受ける全ての現実からは逃げられ――いや、逃げたくないんですよ」

 

「それはつまり……」

 

「そうです。俺を無条件で殺せるのはセンパイだけですね。

センパイから受けた全ては幻実逃否(リアリティーエスケープ)が発動されません……この前自覚しました」

 

 

 まあ、センパイにぶっ飛ばされたとかは一度たりとも無くて試した事は無いが、俺の中のナニかがそう告げてるのだからこれは間違いない。

 要するに、俺を消滅させられるのはセンパイだけなのだ。

 こればかりはイリナちゃんでも無理なセンパイだけに許された特権って奴だ。

 

 

「まさか……」

 

「あ、やっぱりそう思います? なら失礼して……」

 

 

 俺の過負荷(マイナス)を唯一知るからこそ、信じられないといった表情になっているセンパイ。

 まあ、早い話が因果関係なしに全部の事象から逃げ切るスキルをセンパイという存在だけがパスできるだなんて嘘だろうとは思うでしょうが、事実は事実なのだ。

 現にほら、こうしてセンパイの手を取り、自分の首筋に指先を当てて爪を引っ掻いて出来た傷も……

 

 

「消えない……」

 

「でしょう?」

 

 

 ピリピリと痛む首筋の引っ掻き傷が消えないことに驚くセンパイに俺は変に得意気な顔となる。

 

 

「意図的に消そうにも消せない……いや消さない。

センパイから受けた全ての現実はありのまんま受け入れる。

故にセンパイだけが俺を殺せる。センパイだけが――

 

 

 俺を支配出来る。

 それがトモダチと初恋の相手との違いだった。

 イリナちゃんも安心院なじみも…………いや安心院なじみはぶっちゃけ素でブチ殺されそうだが、それでも仕込みも何も無しに俺をどうこう出来るのはセンパイだけなのさ。

 

 

「と言っても、センパイが俺を必要と思えば自動発動は可能ですけどね。ほら、前に顔面剥がした時何かがそう。

簡単に言えば、センパイが俺に死んで欲しいと思いながら殺せば幻実逃否(リアリティーエスケープ)が自動発動せず本当に死ぬと……まあそんな感じっす」

 

「そうだったんですか、なら私が付けたその首筋の傷から逃げて欲しいと思えば………」

 

「消えますね……ほらこの通り」

 

 

 逃げて見せろと告げるセンパイに応える形で、幻実逃否(リアリティーエスケープ)を発動して傷を消して見せる。

 にっひひひ……センパイだけに許された俺に対する支配権限だ。

 俺を生かすも殺すも全部センパイ次第って訳さ。

 

 

「わかりました?」

 

「はい……つまり一誠くんは私の言うことは全部聞くということですね?」

 

「その通りでございます…………って事でさぁセンパイ。

さっき言った通り殺すも嬲るも思うがまま……これはイリナちゃんにすら不可能な事ですぜ……あははは」

 

 

 勝手な事だが、俺はトモダチだけは裏切りたくない。

 それは、例え向こうから裏切られても俺は許してしまうし、センパイがもし俺を裏切るのならそれはもう仕方無いと喜んで死んで見せる。

 それが俺にとっての『好き』って感情であり、譲らないモノって奴だ。

 故に今こうしてセンパイに好きにされる事に苦は感じない。

 

 

「…………」

 

 

 フフンと笑って見せる俺をセンパイが見つめながら何か考えているのが分かる。

 さぁ、何だって良いぞセンパイよ。脳味噌ぶちまけるのもやったるし、腸抉り出してだってやる。

 さぁ……さぁ……どんと来い!

 

 

「それなら……」

 

 

 内心覚悟バリバリで指令を待ってる俺に、センパイが小さな声を出した。

 さぁ、なんだ? やっぱりセンパイ自らボコボコってか? よっしゃ来い!

 

 

「上の服だけ全部脱いで貰えますか?」

 

「よし、喜ん----は?」

 

 

 よっしゃあ! と意気込んで手に持った釘を心臓にぶっ刺してやろうかと思ってた俺は思わず間抜けな顔になって真顔なセンパイの顔を見る。

 

 

「……。どうしたんですか? 嫌なら別に--」

 

「え、い、いや…………そんなんで良いんですか? はい……今やりますね」

 

 

 何か思ってたのと違うんだがと内心困惑しながらも、言われた通り制服の上着とYシャツをさっさと脱いで上半身裸の姿となる。

 太らない体質なのと、栄養バランス最悪な食事パターンが形成されて早10年近く……。

 見れば見るほど情けなく、貧相で青白い自分の身体は前に体育やら水泳の授業で見た同い年の男子と比べると一目瞭然レベルの貧弱さであった。

 

 

「前に見た時と同じく、細くて直ぐに壊れそうな身体ですね……」

 

「はは……ちょっと情けないと思えてきたかも……」

 

 

 上半身裸となってソファから立ちあがり、隣でジーっとその様子を見てたセンパイが的確にて正直な感想をくれる訳だが、やっぱり筋トレくらいはしておくべきだったのかもと今更後悔してしまう。

 いやだってねぇ? こんなガリガリの身体は見てて見苦しいとしか思えない----う!?

 

 

「本当に脆そう……」

 

「え……セ、センパイ……?」

 

 

 軽く自己嫌悪に陥って意識を別方向に向けてたので気付かず、ハッとした時にはセンパイがさっきよりも近くに居て、俺のショボい身体の腹の部分に指を這わせながらピッタリと身を寄せてきた。

 これは…………罰なのか?

 

 

「え、ええっと……」

 

「む……動かないでください。何でもすると言ったのは嘘なんですか?」

 

「あ、はい……」

 

 

 動くなと言われてもセンパイの指がくすぐったくて…………あ、わかった。これは擽りの刑なのか……なるほど、それは確かに拷問にもあるしちゃんとした罰だねうん--っふ……擽ったくてゾワゾワするぜ----っあ!?

 

 

「いったたた……!」

 

 

 此処から何をされるんだろうかと想像しながら身を寄せているセンパイを見てた時だった。

 こんな見た目でもセンパイは歴とした悪魔で俺みたいな人間でも最弱のレベルの雑魚なんぞとの腕力は天と他程の差があり、急にセンパイが俺を突き飛ばしたせいで、背中と後頭部を床にぶつけながら仰向けにひっくり返ってしまった。

 そして痛がる俺の上にセンパイが乗っかって馬乗り……つまりマウントを取られた。

 

 

「な、何だか今日のセンパイは嫌にミステリアスっすね……わははは」

 

「別に私は普段と同じですが?」

 

 

 丁度俺の腹辺りに乗り、真面目に意図が掴めなくなってて困惑する俺を見下ろして笑顔を見せてくるセンパイだが、やっぱり何がしたいのかサッパリわからない。

 いやもしかしたらこのままボッコボコに殴られるのかとか思ったが、そもそもセンパイがそんな真似をするとは思えないし、殴るなら最初の時点でやってるだろうからわざわざマウントを取る必要も無いだろう……。

 となれば別の意図があるんだろうけど……やはり分からん。

 

 

「一体俺は何をされるんですか?」

 

 

 わかんねーし、こういう時は素直に聞いてしまえと考えるのがダルくなった俺は、笑みを浮かべたまま俺を見るセンパイに聞いてみると、センパイはアッサリと答えてくれた……俺の予想の真逆な答えを。

 

 

「考えてみたんですけど、私は一誠くんが好きです。

それで一誠くんも私が好き……これは分かりますよね?」

 

「はい……」

 

 

 うん、それは間違いない。

 死ぬまで付いていく時点で、顔を剥がして自覚した時点でそれは確定している。

 だから俺は迷わずに頷くと、センパイは此処に来て一番の笑顔を見せた…………何か寒気を感じるタイプの。

 

 

「そう……そうなんですよ。

て事はですよ……私達は世間的にはお付き合いをしている事になってる……ですよね?」

 

「ん、んー……まあ……確かに」

 

 

 世間に蔓延るカップル的なアレ……センパイが言いたいのはそうなんだろうけど、俺等の場合ってその括りで果たして合ってるのか……微妙なんだよな。

 上手く言えんけど、そういう概念とはまた違う関係というか……まあいいか。センパイがそうしたいのならそうなんだろうし、そんな関係で俺は全く困らないし寧ろ嬉しいしね、とか考えつつ頷くと、センパイは『ふふふ……』と笑いながら言ったのだ。

 

 

「一誠くんは私が死ぬまで傍に居てくれる…………つまりこれはもう結婚ですよね?」

 

「は、はぁ……………………………………………は?」

 

 

 ニコニコと笑って過程をすっ飛ばした言葉を口にしたセンパイに俺は思わず変な声が出てしまった。

 

 

 

「け、けっこん……って、えぇ? あー…………その話が出るの早くね?」

 

 

 俺は真面目にそう思ってるのだが、センパイはそうじゃ無かったらしく、ちょっとだけ傷付いた顔になる。

 

 

「……。嫌ですか?」

 

「いやいやいや、そんなもん嫌な訳ないですけど……」

 

「あは、良かった……嬉しい……」

 

 

 人間と悪魔の価値観の違いって奴なのか……? イマイチ分からないけど、この話とこの今の状況の共通点は何だろう……そっちが先だったりするんだけどね……。

 

 

「ですから……そういう関係なら良いじゃないかなと思って……」

 

「何を?」

 

「最後まで言わせないでくださいよ……恥ずかしいじゃないですか……」

 

 

 頬を赤めるセンパイに俺はまた真面目に考える。

 ええっと、結婚とやらがめでたく決定しました……んじゃあそんな関係なら何をしましょう………………………………………………………って、まさか。

 

 

「すいませんけど、センパイは生徒会長ですよね?」

 

「そうですよ?」

 

「おう、即答ですねオイ……。

ならダメじゃね? だって、センパイが今言ってるのって……」

 

 

 脳裏に過った何かが嘘だと信じつつ、俺はセンパイに確認するも、物凄いあっけらかんとした顔で即答してきたに加え、じゃあ駄目なのでは無かろうか? という俺の意見の言葉は半ば無視される形でセンパイは言うのだ。

 

 

「今の私は支取蒼那じゃなく、只のソーナ・シトリーです。だから何の問題も無いし『私は悪くない。』

ふふ……何処か間違ってますか?」

 

「……」

 

 

 首筋から始まり、鎖骨、胸、脇腹へと指を這わせながら紅潮した頬で言い切るセンパイに俺はただただ黙ってゾワゾワする感覚に半分溺れ掛けてしまう。

 

 

「な、なるほど……だからこんな遠回しな事をしたのかセンパイは……」

 

「いえ、これでもかなりストレートにやったつもり。

それと今は名前で呼んで一誠……お願い」

 

「……。ソーナ……」

 

 

 訂正させてくるセンパイ……じゃなくてソーナに言われた通りに名前を口にする。

 するとソーナは本当に嬉しそうに微笑む。

 

 

「待っててもどうせアナタは手を出さないでしょう? だから本当は恥ずかしくて死にそうだけど、私からこうするしかない……。

ほら一誠……こうしたらわかるでしょう? 私の心臓の音が……」

 

「っ……お、おぉ……!?」

 

 

 俺の細腕を掴み、そのまま手を胸に押し当てるソーナの心臓は確かに目茶苦茶激しく動いてるのが分かる。

 というか、それ以前に彼女の胸触ってしまってるせいで何か頭の中がカーッってなっちゃってるぜ……あは、あははははは……。

 

 

「こうすれば誰も一誠に手出し出来なくなる。

こうすれば一誠はずーっと私と一緒……幼馴染みだか何だか知らないけど……一誠はもう私だけの……」

 

「あ、あの……なんかボーッとしてきたんだけど……」

 

「ん……大丈夫よ一誠。私に任せてくれれば……」

 

 

 任せる……はい、任せれば良いんだったらもう何でもいいや…………あは、あはははのは。

 とかなんとかボーッとした頭で考えていたら、ソーナの顔が徐々に近付き…………念願の初キスを貰った……まあ、俺も初めてだけどさ。

 

 

「ん……一誠……キスは初めて?」

 

「は……ぁ……。そりゃ当たり前だっつーの……ぅ? な、何か変なんですけど……」

 

「ふふ、良かった……私もです」

 

 

 嬉しそうに頬を紅く染めるソーナは、何だか何時も以上に魅力的に見えた……そしてそこからの記憶は…………うん、永遠に黙っとこう。

 

 

 

 

 つまる所、ソーナにとってイリナという存在はイレギュラーに近かった。

 何せああも一誠に対して好意を超えた感情を向けているのだから、基本的に嫌われ体質である一誠に対しては予想外だ。

 

 

(不安だから実行する……)

 

 

 だからソーナはさっさと手を打った。

 一誠を騙してる様で申し訳無いかなとは思ったが、これもあの幼馴染みとやらから一誠を奪われない為には仕方無いとソーナは割り切って実行に移した。

 どうやら一誠の持つスキルである幻実逃否(リアリティーエスケープ)はソーナにのみ効果を発揮しないらしく、それを聞いたソーナは遠回しな事を止めて一気に畳み掛ける事に成功した。

 

 

(やった……これで後は……)

 

 

 眼下にはボーッとしている一誠が居て、抵抗する気も無さそうだ……。

 正直恥ずかしいし、イマイチ勝手も分からないけど、そこはもう本能で補う事にするし後戻りなんてあり得ない。

 

 

「一誠……好き……大好きよ……」

 

「うん……うん……ぅ……おれも……あ、アレ? 頭がポーッと……うぇ?」

 

「…………本当にスキルが発動しない。

冗談のつもりで仕込んだ無味無臭の媚薬が効くなんて……」

 

「ひ……ひやく……ってなんら?」

 

 

 イリナに一撃必殺をくれてやる為には、只の深い関係では無く、言い逃れ不可能な関係まで進める必要があったので、冥界の裏ルートから密かに手にしたヤバイお薬を一誠に使用した結果はご覧の通りで、ソーナに最早躊躇は無く、互いに初めてだというのに彼女の方から一誠の唇と自らの唇を重ね合い、そこからどうなったかは誰にも分からなかった。

 

 

「私の勝ちですね紫藤イリナ……。

アナタは単なるトモダチでしかなくなりましたが、仲良くしましょう……何と言っても『トモダチ』なのだから……ふふ、あはははは♪」

 

「は……ひ……」

 

 

 薬で頭がヤられて意識がおかしくなっている一誠の上に乗ったまま、ソーナはただひたすらに笑い、そして動けない身体を起こして抱き締める。

 これでさっさと諦めて消えてくれればそれで良いし、諦めなかった場合は……。

 

 

「ねぇ、一誠……もし紫藤さんと何かしらの理由で殺し合う事になっても、アナタの事だから全力で止めるでしょう。 けど、その後は私の味方になってくれますよね?」

 

「ぅ……うん……なる……ソー……ナの味方になる……けど、出来れば……そんな……こと……………に……は……」

 

「はい……分かってます……私だってトモダチと喧嘩はしたくありませんから……フフッ♪ でも味方になってくれるのは嬉しい……」

 

 

 完全に自分に味方するようになりまで一誠を愛する。

 それが今のソーナがやろうとする仕込みだった。

 舌が上手く回らず、途切れ途切れながらも今はソーナしか考えられてない一誠を愛しそうに抱き締めるその表情は見惚れる程に綺麗だ。

 

 彼女もまた『悪魔』であり一誠と同じく他人を退化させる過負荷(マイナス)だった。




この話の続きは永遠にない。

強いて言うなら、この後は普通に正気に戻してそのまま寝ました終わりみたいな。


補足
こんな真似をした理由は、イリナさんが予想以上にトンでたからです。
で、危機感抱いたからです。

ちなみに、イリナさんにこうされた場合の一誠くんは……………皆様のご想像にお任せします。

まあ、トモダチなら何されても受け入れる、ある種のマゾな彼ならお察しですけどね。

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