マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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そろそろクライマックスですかね。




トモダチ泣かせは罪である

 辻斬りに実はビビったりとかしたけど、肝心のイリナちゃんには会えて無かったので引き続き探す。

 そしたらさっきまでの苦労は何だったんだと拍子抜けするレベルで発見できた。

 

 

「イッセーくん!」

 

「おっしゃ、イリナちゃん発見」

 

 

 辻斬りされた現場から程無く離れた人気の無い住宅街に訪れた感動的な再会は、イリナちゃんが俺を見た途端に抱き着いてきたという泣かせ演出まで盛り込ませたものとなった。

 例の如く兄者と金髪元シスター……そして居ない匙君の代わりなのか金髪の人と青髪の人とかが居たりした訳だが、取り敢えず今はトモダチとの2日振りの再会に盛り上がろうと思う。

 

 

「お仕事はどう?」

 

「んーと……ぼちぼち?」

 

 

 前に聞いた小の街に留まる理由である仕事について振れば、それなりと答えてくれ……。

 

 

「む……イッセーくんから他の女の匂いがするんだけど」

 

「え、あー……これはセンパイだねうん」

 

「ふーん……。(チッ、あの女……)」

 

 

 センパイの事を口にすると途端に不機嫌になったりと、やっぱりトモダチだけあって普通に会話してくれる事に嬉しさは正直感じる訳だが、イリナちゃんはどうしてもセンパイとは波長が合わないって態度で伝わってくる。

 

 

 

 

 紫藤イリナ、ソーナ・シトリー、そして一誠。

 見れば見るほど分かるこの三人の共通点は『口にした次の瞬間に何をされるか分かったもんじゃない』という所だ。

 そもそもシトリー先輩に関してはその元凶ともいえる一誠のせいで変えられてしまった。

 本人はそれで満足らしいのだが……どう見たって彼女は一誠に変えられたという自覚が無い。

 一人でも膝が折れそうになる気分の悪さを感じるのに、二人……そして三人と一誠によって数が増やされれば増やされる程、その底冷えする重圧感は増すし、現に紫藤さんと一誠がこうして近くに居るだけで俺やアーシア、木場や紫藤さんの相棒であるゼノヴィアさんの顔付きも強張っている。

 

 皆分かってるんだ。

 普通の感性を持つ奴だったら誰しもが分かるのだ。

 

 

「ねーねー、イッセーくんは何であんな女と仲良くしてるの? 私あのスカした態度苦手なんだけどなぁ……」

 

「いやいや、そんな事ないぞ。あの人って悪魔だけどマジいい人なんだぜ?

まあ天使陣営のイリナちゃんに言っても説得が難しいのは分かってるけど……」

 

「むー……それもだけど、あの女確実にイッセーくんに色目使うんだもん……嫌だ」

 

「色目て……。

あの人はそんな事……………しないだろ」

 

「あ、今目を逸らした」

 

 

 聞けば普通の友達同士の会話なのかもしれない。

 しかし俺の目には今のやり取りをする二人から発せられる形容しがたい気持ち悪さで全部台無しになってるとしか思えず、怖がりなアーシアが不安そうに俺の隣に立って服の袖を掴んでくる。

 

 

「セ、セーヤさん……」

 

「分かってる、大丈夫だ……」

 

 

 何時からだ……只の臆病者だったのが、存在するだけで気分が悪くなると思えるようになったのは。

 声を発すれば他人を挑発するような事ばかりしかしなくなったのは。

 人を傷付けてもへらへら笑ってるだけの奴になったのは。

 

 

「ねぇ誠八君……。紫藤さんや兵藤くんみたいな人が他に居ると思う?」

 

「少なくともあの二人とシトリー先輩以外は見たことが無いな俺は」

 

「……。私としてはイリナ以外に居た事に驚きが隠せないんだがな」

 

 

 木場も、そしてゼノヴィアさんも皆あの二人から感じる不快感に顔をしかめている。

 どうして……なんでこうなったのか。

 

 

「いやうん、センパイは好きだよ。

肉片になっても好きで居られる自信がある程度には」

 

「ぐっ……そ、そこまで洗脳されてるなんて、卑劣極まり無いわねあの悪魔……」

 

「いやだから洗脳じゃないってば……困ったなー」

 

「じゃあ何で好きなのよ! だってイッセーくんは将来私と結婚するって言ったもん!」

 

 只そこにいるだけで不愉快になる人間が何故存在するのか、俺には分からなかった。

 

 

 

 

 参ったな……携帯持ってるかどうか聞くために探してたのが、何故かありもしない結婚話にすり替えられているんだが……。

 うーん、昔と変わらずイリナちゃんは若干人の話を聞いてくれないから厄介だぜ。

 

 

「言ったもん……」

 

「いやいや、待とうぜイリナちゃんよ。

俺はトモダチとの想い出はキッチリ覚えてるんだよ、だから言った覚えが無い事もハッキリ覚えてるんだぜ?」

 

「言ったもん……それでも言ったもん……」

 

 

 言ったと言い張るのを何とか納得させようとするんだが、やはり聞いてはくれず、どんどん元気が無くなっていくイリナちゃんに、ちょっと焦りだす。

 トモダチに泣かれたら流石に俺も凹むからな。

 というか、さっきから外野が黙ってこっちを見てるだけなのは何なん? いや、邪魔にならないからそれで良いんだけどさ。

 

 

「言ったもん……互いに18歳になったら結婚して山奥に大きな家立てて即日子作りして上手いこと三つ子に恵まるって二人で約束したもん。

だから結婚しよ? 」

 

 

 この通り、イリナちゃんの癖が入っちゃったし、宥めるのに苦労するから邪魔が無い方が助かったりするんだよね。実は。

 

 

「イリナちゃんイリナちゃん、それは無いよ。

そもそも18とか不良だし、するならまともな就職して将来見据えてからじゃないと……」

 

「ならイッセーくんは働かなくて良い。お金なら私が……」

 

「いやいや、俺はヒモは嫌だって言うか……あら? 誘導されちゃいないかこれ?」

 

 

 何処と無く安心感を覚える目をしながら迫り来るイリナちゃんを回避しつつ説得するには中々骨が折れる。

 バッサリと断ろうにもイリナちゃんはめげない子だから効かないんだよね。

 この心の有り様は俺も尊敬すべき所だぜ。

 

 

「誘導じゃなくて、決まってる事なの。

イッセーくんと私は運命の赤い糸で結ばれてるって主様も絶対言うもん」

 

「いや、それは無いっての。

第一俺の身体の8割はセンパイのモノだし……」

 

「じゃあ一誠くんを束縛するその悪魔を滅すれば良いの? そうすれば洗脳も解けて私だけを見てくれる?」

 

「だから洗脳じゃないんだよ。真面目に初めて好きなんだよ。

それに滅するなんて無理だろ。あの人って俺寄りになっちまったけど、それでも勝てるタイプの人だし……」

 

 

 しっかしアレだね……全然話が進まない……。

 どうにもイリナちゃんは俺がセンパイに洗脳されてると思いたいらしいけどさ、それは違うんだよ。

 まあ確かに別な意味で洗脳されてるのかもしれないし、イリナちゃんには言わないけどね? 顔を剥がして肉片だけ残ってもトキメク人はセンパイ以外居ないんだよ。

 受けた全てが現実逃避不可能な人なんてセンパイ以外居ないんだよ。

 見た目とか性格とか言う問題じゃないんだよ……あの人から感じる魅力って奴はな。

 ……………。ホント、トモダチを裏切る様で申し訳ないけど、これだけは妥協出来ない。

 

 

「悪いけど、俺は結婚は出来ない。ごめんよ?」

 

「…………」

 

 

 でも言わないとトモダチを苦しめてしまう。

 だから言う……無理だと。

 そしたらイリナちゃんは、黙って俯いてしまった。

 ……あぁ、真面目に胸がズキズキするけど言わなきゃ駄目な事だし、これで絶交されても文句言えないな。

 取り敢えずそれを誤魔化す為に、さっきから見てるだけの数人をダシに使わせて貰おう。

 

 

「そうだ、コッチ見てるだけの青髪の人に言いたい事があるんだ。

さっき俺薬キメてそうな男に西洋剣みたいな剣で辻斬りされ掛けたんだけど、キミ等の仕事と何か関係あったりする?」

 

「なに? 何処でだ?」

 

「えーっと、俺が今出て来た路地裏。

運良くその辻斬りさんが顔面から壁に突っ込んで気絶してくれるみたいだし、急げば間に合うんじゃないかな?」

 

 

 あら、喋った瞬間に金髪の人と青髪の人の顔付きが変わったからつい詳しく教えてしまったが、もしかして今の情報って結構当たりだったのかな? ま、良いか……。

 

 

「情報提供感謝する……。

チッ、オイ木場祐人! 勝手な事はするな!」

 

「いや、もしかしたら聖剣かもしれないからね……急がせて貰うよ」

 

「くっ……おいイリナ! 取り敢えず彼との話はそこまでにして早く行くぞ!」

 

「…………うん」

 

 

 場所を教えた途端目にも止まらぬ速さでダッシュする金髪の人を見て焦る青髪の人が、俯いたままのイリナちゃんを引っ張って追い掛けていく。

 兄者と金髪の元シスターも同様にだ。

 残ったのは、自業自得で痛む胸を残した俺と、ポケットから聞こえる携帯の着信音……。

 

 

「あ、センパイ……え? まあテンションは低いっすね。

うん…………トモダチを泣かせるのってかなり辛いですよね……」

 

 

 センパイ裏切ったら……多分死ぬだろうな俺。

 

 

 

 

 何時からだろう、夢を夢見にしたのは。

 何時からだろう、次期当主のプレッシャーもどうでも良くなったのは。

 何時からだろう、悪魔という種族に誇りなんて持たなくなったのは。

 

 いや、分かっている……彼という存在があったからそうなった。

 彼という存在が居てくれたら心が楽になった。

 彼という存在が居てくれたら……彼を好きになれた。

 

 

 グレゴリの幹部・コカビエルがこの街に奪った聖剣欠片を持って潜伏しているという話を聞いた時は興味が無かった。

 そんな事よりも先だったのが、一誠くんの幼馴染みを自称する人間で、その人間は思いの外彼を想っていたという事から来る焦りだった。

 幼馴染みだか何だかは知らないが、ベタベタベタベタと彼に触れているのを見るに、かなり親しかったと予想が出来た。

 だから私は、今在る只の繋がりから、二度と切れない繋がりにする為に一誠くんを家に招いてある事をやった。

 その結果……私は一誠くんと更に離れられない関係となれた

 一誠くん自身はその時の記憶が曖昧らしいが、その証拠はちゃんと一誠くんの身体に刻み込んであるので、何時でも記憶を呼び起こす事は可能だ。

 

 後はあの幼馴染みを自称してる女がさっさと諦めて消えてくれるのを願うだけだが、それは多分無いだろう。

 だからその時が来れば親切に教えてあげるつもりだ。

 

 洗脳? 違う、これは互いの合意だ。

 顔を剥がした亡骸でも私は彼を愛するように、彼もまた私に対して同じ感情をハッキリ持っている。

 だから1回で成功したし、その証は一誠くんの身にちゃんと刻まれている。

 

 

 現代の悪魔の駒で作る眷属とは別領域にて危険と判断され厳禁とされた太古の一対一の契約術……。

 絆なんて目に見えない繋がり等話にならないくらいに強く繋がる事で、互いが持つ力を最大限に引き出せるという話だが、私が着目したのはそこでは無い。

 強く繋がる。絆等という言葉では生易しいとさえ感じる強固な繋がり……。

 どんなに親しく、幼馴染みだろうと血の繋がった兄弟姉妹ですら立ち入る隙が皆無な絶対的な楔……。

 私が欲したのは此処だ。

 

 1度完了すれば死ぬまで……いや死んでも繋がるとされ、ある種の呪いとまで言われる最強最悪の契約術。

 その契約を果たす事により、一誠くんの全ては私のモノとなり、私の全ては一誠くんのモノとなる。

 だから私はやった……微睡みの状態の一誠くんの身に己の契約紋章を刻み込み……………ちょっとだけアレな事もした。

 

 だからもう一誠くんは誰のモノにもならないし、私も誰のモノにもならない。

 だって私は一誠くんのモノであり、一誠くんは私のモノなのだから。

 

 

「トモダチを傷付けたからといって一誠くんの泣きそうな声を聞くのは私も辛いです。

だから戻ってらっしゃい。私が話を聞いて、必ずアナタを安心させてみせますから……」

 

 

 聞こえる声は彼の辛そうな声。

 幼馴染みが居なければそもそも一誠くんは辛くなかった。

 なまじ仲良くしたから一誠くんは裏切らないと誓ってしまった。

 中途半端な時期に離れ離れになっておきながら結婚? フッ……夢見がちな少女としては及第点なのかもしれませんが、一誠くんには通用しない。

 そして私は結婚しろとはもう言わない。

 だってそんなもので縛る以上に、私と一誠くんは離れたくとも離れられない状態なのだ。

 だから言わない。

 まあ、一誠くんがしたいのなら構わないし、紫藤さんの言ってた通り、子供が欲しいのは同意するけど……ふふ♪

 

 

「大丈夫……トモダチである彼女なら許してくれる筈。

だから貴方は『悪くない。』」

 

 

 今回の事で伏線は張れた。

 最早魔王だろうと何だろうと私と一誠くんを引き剥がす事は出来ない。

 寧ろ、今回のこの禁術を使ったと死罪にでもしてくれれたら万々歳だ。

 そうすれば全ての邪魔が消え、何処か遠くでずーっと静かに二人で生きていける。

 安心院なじみとかいう人曰く、世界で最初の過負荷(マイナス)スキルである幻実逃否(リアリティーエスケープ)と、あの契約の日に私の中で目覚めたこの力さえあれば、死を偽装する事が出来る。

 

 眷属の皆はそんな私を軽蔑するだろう。

 ふざけるなと怒るだろう。

 もしかしたら殴りかかってくるかもしれない。

 しかしそれを含めれば、それが最悪で最良のエンドなのだ。

 心の底から欲してしまったモノの前では全て無価値だ。

 勿論、その時が来るまで私は全力になる。

 バットエンドを回避……いや受け入れる為に全ての痛みや苦しみを味わってやろう。 

 そうする事で私はもっと駄目(マイナス)となり、自然と周りから人は消えていく。

 そしてそれでも残る只一人の人間と墜ちていく。

 全てを取り込み、マイナスへと導く……これが私の――

 

 

 

悪循完(バット・エンド)……。私と……いえ、私と一誠くんの不幸(シアワセ)……」

 

 

 その為に今まで一誠くんを眷属にはしなかった。

 只の繋がりでは最早足りない。

 この世に存在する繋がりが全て偽りと錯覚する程の繋がりを獲る為、私は今まで我慢をした。

 そして今……その為の伏線は全て張った。

 その為にはまずは、今在る厄介事はリアスに押し付けてしまおうかしら。

 彼女は優しいですからね…………フフフ。




さて……メインタイトルもそろそろ回収だ。


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