マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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新章です。
取り敢えず完結に向けるつもりです。

※ちょっと細かく修正しました。


マイナス三人組……に加わりたい
マイナス三人組と泣き虫ゼノヴィアさん


 凄い結論だけを言うと、言ってた通り本当にイリナちゃんが戻ってきた。

 物凄いスッキリした顔で、俺を見るなり勢い良く飛び込んで来たり、案の定センパイを見た途端嫌そうな顔したりと忙しそうなのは変わり無さそうで安心した。

 

 そしてどうやらイリナちゃんは本当に所属していた教会やら家族やらとの縁を『ぶち壊して』しまったようだ。

 俺が兵藤の苗字を使ってるように、便宜上紫藤という苗字を使用しているものの、紫藤の人達との縁が壊れてしまった今、彼女は只のイリナちゃんとなり、然り気無く駒王学園に転入という形で入り込んだみたいだ。

 

 

「うふふ、これでイッセーくんとの仲を邪魔する大半は壊したわ。

後はイッセーくんをそこほ気にくわない悪魔から上手く引き剥がし、私とずーっと一緒に生きる様に出来れば何もがハッピーエンド。

あはははは、白いお家に住んで大きな犬と白い猫を飼って沢山子作りするのよ。

私が会えなかった間にこにくたらしいこの悪魔がイッセーくんを誘惑してようが関係ないし、イッセーくんにその気が無くても私は諦めないし頑張ればイッセーくんは絶対に振り向いてくれるもん。どうせこんな悪魔にだって黙らせてるだけだろうしこの悪魔も良いように利用しようとしてるに決まってるそうよそうに決まってるわだって昔イッセーくんと結婚する約束したもの大きな白いお家に猫3匹と子供四人と幸せに暮らすって約束したもんね。

ふ、ふふふ……すーはーすーはー……あぁイッセーくんの匂いや体温を感じる度にお腹の下辺りが熱いけど気持ちいい。

あはぁ……♪ これはきっとイッセーくんと子作りしなさいって私を応援する誰かさんが言ってるのよきっとうん

だからやってやるしこのスカしたペチャパイ悪魔からイッセーくんを取り返して死ぬまで愛でてやるいえ、寿命や老化という概念も『破壊』すれば永遠に愛し合える。

うふふ素晴らしい……なんてフォーリンラヴでパッピーエンド相思相愛純愛ゴールインなのかしら!!」

 

「Oh……もーれつぅ……」

 

「私思うのですが、紫藤さんはアホの子という奴ではないでしょうか?」

 

 

 か弱い女の子って言葉あるだろ? あれ絶対に嘘だと思うんだ。

 転校生の癖に俺が所属を一応してる学級崩壊状態のクラスに入ると宣い、実にマイナスらしい良い眼と笑みを浮かべて俺に抱き付きながらマシンガンの様にペラペラペラペラと言葉を高速で繋げている。

 いやぁ……肉食系もびっくりだよねイリナちゃんって。センパイもそこは感心してるようで……というかセンパイもセンパイで授業を受けずに俺しか居ないこの教室に最近入り浸ってるのはどうかと思う気がしてなら無い――まあ、言わんけど。

 

 

「あのーイリナちゃん? 再会を嬉んでくれるのは実に嬉しいんだけどさ……ちょっと離れてくれると良いかなって思うんだ。

ほら、イリナちゃんおっぱい大きいからさ、もうさっきから凄い当たっちゃって色々と大変なのよ……何処がとは言わんけど」

 

「はぁはぁ……イッセーくんの子種……♪」

 

「……。ごめんセンパイ。イリナちゃんから身の危険を感じて仕方ないッス」

 

「大丈夫ですよ、絶対にさせませんから」

 

 

 ちょっとラリった表情のまま離れてくれず、さらに変な事まで口走るイリナちゃんに色々と困ってしまうのと同時に……男の性というか悪癖というかセンパイ以外の美少女に好かれてるという現実にちょっとだけ嬉しいと思ってしまう。

 ちかたないよ……だって多少なりとも男だもの。

 

 

「……という訳で今日からよろしくねイッセーくん!!」

 

「ん……まさか本当に自分の家族との繋がりまで壊して此方側に来るとは思いもしなかったけど」

 

「あはは! いやーねーイッセーくんったら! イッセーくんのお嫁さんになる私にとってそんなものなんて全部必要ないもん!」

 

「あ……あ、そう……」

 

「無駄なことなのに。

というか、私だって大きくないけどあるもん……」

 

 

 物凄い無垢な笑顔で家族との絆を『壊した』と言い切るイリナちゃんに俺は閉口してしまう。

 だって、イリナちゃんの肉親って別になにもしてないのにそこまでする必要があるのかって話だし、何より俺自身イリナちゃんは幼馴染みで友達としか思ってないしそう言ってた筈なのに、お嫁さんがどうとか言ってるせいで物凄く断りづらいというか……センパイは後ろの方で胸を気にしてる様だし……混ぜると危険とはまさにこの事だな。

 

 

「あ、あのー……」

 

「ねぇねぇイッセーくん、私まだこの学校の細かい所とか知らないから案内とかして欲しいな?

特に人気がまったくない、ロマンチックなキスが出来る場所があったら是非!」

 

「え、それは無いと思うけど……センパイが生徒会長だし」

 

「ええ、というよりあっても貴女には教えたくないですね」

 

「あのー……!」

 

「はぁ? 何を言ってるのかしらこのペチャパイ地味悪魔は? この前の裸Yシャツで私との差を実感した筈じゃあないかしら? 特に(ココ)とか」

 

「ハァ……頭が残念なのは脳に行く筈の栄養がそこに行ってしまったからでしょうね、貴女の場合は。

一誠くんは胸の大きさで判断する人じゃ無いのに……ね?」

 

「え? あ、はい……センパイがセンパイだから好きなんです的な?」

 

「あのー!」

 

「ふんだ! イッセーくんもその内分かってくれるもん! アナタみたいな真面目しか能の無いつまんない女より私の方が良いってね!」

 

「いや……それは無いと断言できるんだけどイリナちゃんや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー!! 無視されると物凄い空しくて仕方ないのだが!!!」

 

「「「え?」」」

 

 

 そんなこんなでイリナちゃんと正式にツルむ事になった今日この頃な訳ですが、どういう訳か俺含む三人の他に一人だけ無関係な筈の人がこの教室に居て、仲良く三人でほのぼのとした会話に横槍を入れてきた。

 

 

「も、盛り上がってる所申し訳無いが……む、無視しないでくれ……色々と泣きそうになるんだ、疎外感とかで」

 

 

 わざわざ大きな声まで出してほのぼの日常系の会話に横槍を入れてきた――あー……えー……っと……ごめん名前が思い出せないけどイリナちゃんの仕事仲間だった気がする前髪に多少の緑メッシュが入ってる青髪の女の子は確かに泣きそうな顔だった。

 

 

「あー……」

 

 

 どうも無視されてると勘違いしてる様なのだが、俺もセンパイもイリナちゃんも無視したつもりなんて一切無い。

 その証拠にセンパイとイリナちゃんに目で『無視でもした?』と確認しても二人はキョトンとしながら首を横に振ってる。

 要するに勝手に此処に居て会話に混ざりもしなかった癖に無視されたとか理不尽な事をこの人は言ってるんだ。

 失礼にも程があると俺は思う。

 

 

「疎外感? 何を言ってるのか俺にはよくわからないな。

俺は無視なんて虐めみたいな真似をしたつもりなんて無いし、センパイとイリナちゃんも無視してないよ。

キミが勝手に黙りながら突っ立ってボーッとしてただけで会話に混ざろうともしなかっただけだろ? ほら『俺は悪くない。』」

 

「うっ……だ、だって……」

 

「そもそもゼノヴィアが勝手に私に付いてきたのよ?

それなのに何でそんな気を使わなければいけないのか私には分からないわよ……だから『私は悪くない。』」

 

「黙ってるだけなら子供でも出来ます。

会話に加わりたかったら最初から輪に入れば良いと私は思います。

だから『私も全然悪くない。』」

 

「うぐっ……!」

 

 

 どうやら色々と壊してきたイリナちゃんにくっついて来たみたいらしい……えっとゼノヴィアって人は俺達の親切な指摘に顔を歪ませて言葉を詰まらせていた。

 『永久自習』という黒板にデカデカと書かれた文字や、俺達以外誰一人として居ない空きだらけの40近くの机やらに違和感でも感じたのかは知らんけど、俺は人見知りなんだよ。

 残念ながら見知らぬ他人に無償の親切なんてごめんだね。それは優しくてお強くて魅力的な『お兄ちゃん。』の専売特許であって俺じゃない。

 

 というかそもそもイリナちゃんを介して俺を知ったのなら、俺がどんな奴かくらい予想できるだろうに……何でイリナちゃんに付いて来たのかも謎だけど、それ以上に『お兄ちゃん。』にすり寄らないのが謎過ぎるぜ。

 

 

「だ、だってアイツ等只の悪魔だし……」

 

「は? ならセンパイも悪魔なんだけど?」

 

「そうかもしれないが、ソーナ・シトリーは悪魔だけどイリナっぽいから……」

 

 

 イリナちゃんっぽいから……って、知らんよそんなの。

 だから何だよって話だよこっちは。

 

 

「神が死んでいたと聞かされ、それまでの何もかもが信じれなくなってしまった。

けれど、同じく神が死んだとコカビエルに言われてケロッとしてたイリナなら分かってくれるかなって信じられて……」

 

「だから一緒になって付いてきたと?」

 

「……うん」

 

 

 取り敢えず立ちっぱなしも何なので、適当な空き机に座らせて詳しく話を聞いてみると、本人は如何にも傷ついてますな顔で語り始める。

 で、聞いてみた感想としては……別にどうとも思わないというか。

 

 

「『それは可哀想に、辛かったね? 俺達が仲間にしてあげるからもう大丈夫だよ』――なーんて言われることを望む、幸福者が如何にも考えてそうな都合の良い話だね」

 

「何ゼノヴィア? 行く宛が無かったから仕方無く私に付いてきた訳?」

 

「ち、違う! そんな訳――」

 

「じゃあ何故此処に居るのですか?

紫藤さんはともかく、アナタにはコカビエルを討伐するために共に戦ったヒーローこと兵藤誠八君が居るのに」

 

 

 いや、別に意地悪とかじゃなくてね? この人の考えてることがふわふわし過ぎというか、何となく俺達がこんなんじゃ無かったら、あの紅髪の人に頼んで『破れかぶれで悪魔に転生した』とか言い出しそうというか……神が居なかったからなんて只の言い訳にしか聞こえねぇというか……。

 

 

「な、何を言ってるんだ! そもそも兵藤誠八は――いやあの夜戦った私含む全ては、お前の……兵藤一誠の訳の分からない変な力で皆台無しにしたじゃないか!」

 

 

 ……ん?

 

 

「悪魔連中はどうだか知らないが、わ、私はハッキリと覚えてるからな! ヘラヘラしながら聖剣を消滅させた処か、あのコカビエルや悪魔連中……果てには私にまで巨大な杭と釘で串刺しにしたことを!」

 

「…………」

 

 

 正直ちょっと驚いた。

 どうもこの人……わざと記憶を残してあげた『お兄ちゃん。』とは別に、素であの夜の事を覚えてたみたい。

 椅子をぶっ倒す勢いで立ち上がり、俺に指差してハッキリと宣う様子から見ても、デラタメで言ってないのがなんと無く分かる。

 

 

「お陰で私のデュランダルも消滅してたし……もう散々なんだよ!」

 

「でゅらんだる? なにそれ?」

 

「英雄・ローランが持っていたとされる伝説の聖剣よイッセーくん」

 

 

 半泣きになって俺にキレるゼノヴィアって人の口にした、デュランダルなるものが分からず頭に?を浮かべると、横からイリナちゃんがしっかりと説明してくれた。

 どうもこのゼノヴィアって人は希少極まりない天然のデュランダル適合者だとか何とからしく、あの日の夜ピカピカと鬱陶しかったのと、争い理由がそれだったからという俺にとってはかなり真面目な理由で『この世に存在する全ての聖剣を否定し、存在なんてしない幻想に逃げる』ってスキルを使った二次災害的な意味合いで、この人のデュランダルってのに作用しちゃったらしい。

 

 お陰で彼女は武器を失い、挙げ句に信仰してた神が実はハリボテの大嘘だったと聞かされて絶望したりと散々な目に遇わされてメンタルがスタボロ。

 そのせいで、ちょっと泣き虫になっちゃってるらしい……と、泣きべそかいてるゼノヴィアさんって人の八つ当たりを受けながら、隣に居たイリナちゃんにこっそり耳打ちで教えられた俺は、物凄いシラケた気持ちにしかなれない。

 

 

「結果的に解決したが、そのお陰で行き場が無いんだよ! だから養え! 責任とって私を養え!!」

 

「……。結局それが本音なの?」

 

「……。ゼノヴィア――いえ、この雌犬。

自分の行き場が無くなったからってイッセーくんに寄生ですって? ぶっ壊してやろうかしら……」

 

「それとも永遠に死に続ける『ループ』にでも嵌めてしまうのも悪くないかもしれませんね」

 

 

 それまで所属してた教会が信じられない。デュランダルは消えた。行き場が完全に無くなった。

 この三重苦に悩んだ結果――ハッキリと覚えているその原因に寄生するが為にイリナちゃんに付いて来た――というのがゼノヴィアって人の真相だった。

 要するに食い物と家をデュランダル代わりに寄越せと言いたいのは解るけど、イリナちゃんとセンパイがかなり物騒な事を言ってるのが聞こえてないのかね。

 

 いや、聞こえてないか……。

 

 

「ぅ……グスッ……そもそも何だよお前らは……! 反則みたいな力を平気な顔してつかいおってからに……! 私だってデュランダル使えたんだぞ! コカビエルとかバルパーだって驚愕したんだぞ!」

 

 

 それにも気付かず、過去の栄光を引きずるかの如く文句を言ってくるゼノヴィアって人は、多分将来大物になりそう―――とは別に思わなかった。

 

 

「ふーん、してたんだ……そりゃ凄いね。もう聖剣もデュランダルとやらも纏めて消えたけど」

 

「確かに天然のデュランダル使いは希少の中でも希少なのは分かるわね……もう全部消えちゃったけど」

 

「さぞ教会側の上層部からは重宝されてたのでしょう……もう存在が消えてますけど」

 

 

 覚えてる事には多少驚いたけど、別にだからと云ってそこまで困る訳でもないので、取り敢えず煽れるだけ煽ってやることに。

 すると……。

 

 

「うわぁぁぁぁん!! わざわざ三人揃ってヘラヘラした顔で言うなぁぁぁ!! びぇぇぇぇん!!」

 

 

 遂に我慢の限界だったのか、子供を彷彿とさせる本気の泣きをしだすゼノヴィアって人。

 あんまりにも煩いので、隣のクラスから何だ何だと人だかりが……………というのは俺が居るので無く、空しく子供宜しくに泣きじゃくるゼノヴィアって人を俺とセンパイとイリナちゃんで眺めながらどうしようかと相談する。

 

 

「正直に言って良いですか?

俺は嫌ですね、何でこの人の聖剣まで消したからって責任なんて取らなきゃならないのか、そんなもん知るかって感じっすもん」

 

「うんうん、イッセーくんは浮気しないタイプだからそうだよね! 私としては誠八くんに押し付けちゃえというのに一票!」

 

「紫藤さんに同意です。

いっその事を皆で彼女の記憶を『壊して』『否定して』『二度と甦らないように悪循環』させてしまった方が彼女も『幸せ』な人生を送れると思いますよ……私達には一切理解のできない幸せでしょうけど」

 

 

 満場一致だった。

 全く友達甲斐の無い発言を何故か嬉しそうにするイリナちゃんと、実に悪魔らしい発言のセンパイと……そして俺はグスグスしてるゼノヴィアって人へ揃って視線を向ける……ニヤニヤしながら。

 

 

「にゅ!? な、なんだその目は! 私は屈しないぞ!?

別に兵藤一誠の事なんて何とも思ってないからな!」

 

「結構だよ。俺もキミの事なんて何とも思ってないもの……だから今から否定しても『俺は悪くない。』」

 

「残念だけどゼノヴィア。アナタこれまで良い『友達』で居られたけど、雌犬みたいな発言は許されないわ……だから今から壊しても『私は一切悪くない。』」

 

「悪魔の私に言われたくないでしょうが、貴女は私達と関わらなくて良いと思うのです。

なので今から二度と思い出さないように繰り返させても『私は全然悪くない。』」

 

 

 センパイが眼鏡を外し、イリナちゃんがパキパキと両指の関節を鳴らし、俺は両手に何時ものアレを持ちながら、どっかの薄い本の女の子みたいな目付きで……されど涙目で俺達を睨むゼノヴィアって人に近付きながら、俺達は宣言した。

 

 

幻実逃否(リアリティーエスケープ)

あの日の夜の真実を記憶しているキミを『否定する』」

 

壊楽手義者(ハンドレッド・ブレジャー)

貴方の邪な思考を『破壊する』」

 

悪循完(バッドエンド)

二度と記憶が甦らないよう、思い出した瞬間に忘却する様に『貴女を嵌める』」

 

「な、なにをする! や、やめっ――

 

 

 完全にさよならするための最終処置を施す為に、ゼノヴィアさんにスキルを使う俺達はマイナス三人組。

 嫌嫌と逃げようとするゼノヴィアさんをイリナさんが足払いをして転ばせ、俺が彼女の着ていた衣服にのみ釘と杭を刺して動けないよう固定し、センパイがトドメ刺す。

 うーんこれぞまさしく特撮ヒーローのお約束のごとし……悪役は――まあ、居ないけどそれっぽいのでそれで良いのさ……。

 

 

「らめぇぇぇぇっ!!!!」

 

 

 この人をどっかに放り込めればそれでね……。

 とまあ、そんなこんなで彼女の持つ記憶を否定して壊して二度と甦らないようにループに落とそうとした俺達に、身の危険を大いに感じてか嫌嫌とマジ泣きしながら首を横に振ってるゼノヴィアさんの生身目掛けて持ってた釘と杭を投げつけてやろうと大きく振りかぶって――

 

 

「イヤだぁ……ヒック……独りぼっちなんて嫌だよぉ……エグッ……」

 

 

 振りかぶってぇ――

 

 

「くすん……くすん……」

 

 

 振りかぶって……ぇ……。

 ………………。

 

 

「ねぇ」

 

 

 あー……うん、ちょ、ちょっとタンマ、腕が痛いからタンマして同じように固まってるイリナちゃんとセンパイにちょっと言っておきたい事が……。

 

 

「……。何イッセーくん?」

 

「考えてる事は分かってますが、聞きましょう」

 

 

 しくしく泣いてるゼノヴィアさんを取り敢えずそのままに、ついさっきから感じる変な気分について二人の意見を聞いてみたいと何となく思うというか―― 

 

「あの……此処まで来て物凄い言いづらいんですけど……正直――ショージキね? さっきからメソメソしてるこの人見てるとちょっとだけドキドキしてるんですよ」

 

「うん」

 

「はい」

 

 

 あ、良かった怒られなかった――じゃなくてだね、今二人に暴露った通り、この人がマジ泣きしてる辺りから、その様子を目にしてると物凄いワクワクしますと言いますか――引かれるかもしれないけど二人に相談しなきゃならないという意味不明な使命感に駆られるがままに俺はぶっちゃけてみた。

 

 

「その………この人が――いや女の子が、ガチ泣きしてる姿を見てると物凄いワクワクというかソワソワした気分に――えっと、この前二人が見せてくれたダボダボ裸Yシャツ姿を見てドキドキしたあの気分になってる気がするんですけど、俺ってばもしかしなくても変態なのかな?」

 

「あー……大丈夫よイッセーくん、私も今そんな気分になってるから」

 

「えぇ、皆一緒みたいですし安心しても良いと思います……多分」

 

 

 あ、あぁそう。

 釘と杭を刺したせいで、サラピンの制服が所々破け、目尻に涙溜めながらしくしくしてる女の子抱くこの気分が俺だけじゃなくて良かったけど……うーん。

 

 

「くすん……くすん……ふぇ?」

 

「「「……………」」」

 

 

 ……。やばい、それ以上に緊急事態な展開になってしまった。

 実はそんな性癖もありましたよりヤバイというか、さっきから妙なんだ。

 俺もセンパイもイリナちゃんも……さっきからゼノヴィアって人に『危害を加えたくない』って気分にさせられてるというか、心が誘導されてる様な感覚がするんだよ。

 

 こう……この前安心院さんから聞いた異常性って奴の中にあった『人心支配』みたいな……そんな様な。

 まさかとは思うが……。

 

 

「独りぼっちは嫌だぁ……エグッ……」

 

 

 まさか……な。

 それは無いと思いたい……ていうかそんなホイホイ能力保持者(スキルホルダー)と出くわすなんて、そんな漫画みたいな話がある訳ないよね……いやあって堪るか。

 

 

「んー……都合良く現れた『お兄ちゃん。』がこの光景を見て、眠くなる正義感と勝手な勘違いでこの人を連れて行ってしまえば楽なんだけどな……こういう時ほど彼は出てこないから困る」

 

 

 まあ、あんな後手後手の偽善英雄様に期待するだけ無駄なのは最初から分かりきってるけどさ……。

 

 

「独りぼっちが嫌ならさ……ちょっとエロい格好とかして夜の繁華街でも彷徨けば良いと俺は思う。

主に変態からモテて独りぼっちじゃなくなると思うよ? ご飯代とかくれると思う――――」

 

「ごはんたべられる……?」

 

「――あ、いやごめん……今のはちょっとした嘘というか……」

 

 

 ……。その捨てられた猫みたいな目をする相手を間違えてると思うんだよ……俺は。




補足

ゼノヴィアさんについて。

あんまりにもある意味逞しく生きてるイリナさんが羨ましく、そこまでさせる彼なら、聖剣を消したとはいえ信用できなくも無い――と思ってたら、一誠くんからの対応は人見知りと気質違いでこんな扱い。

 しかし幻実逃否(リアリティーエスケープ)があんまりにもエグく、それを使って色々とやらかしてた姿をハッキリと覚えてる為なのと、相棒のイリナが物凄い入れ込んでるので……まあ、ある程度信用してもイイカナーとか、イリナの相棒やってたと知ってるし仲間にしてくれるだろうなー……とかとかとか甘く考えてたら精神的にイリナやソーナからたでフルボッコにされた。

 そうで無くても信仰してたものがハリボテでしたとショックを受けて精神がボドボドダァ状態だったので、こんな泣き虫ちゃんに……。


 しかしながら意外にも、見せられた女の子のマジ泣き顔に、イッセーくんは新しい変な感情を持ち始める羽目に……みたいな?
つーか誰だよこの人状態は相変わらずです、ゼノヴィアさんといい……ぶっ飛んでるイリナさんといい。

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