マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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ソーナさん成分が無くなった。
てか、新生徒会長イッセーがアレなんで原点に戻るぜ。

いやぁ、これもこれでも最早ソーナさんちゃうけど……。

取り敢えず引き続き不愉快な内容です。

※加筆とちょっとの修正をしました。


過負荷に浸る

 どうしたものか。

 どうしても攻撃しようという意思が削がれてしまう。

 良い歳した人がピーピー泣いた所で滑稽だし同情もしないけど、何故かそのせいで彼女にサヨナラバイバイしようにも出来ない。

 

 

「うーん……」

 

「な、なんだよ……グスッ……」

 

「やっぱり見てると攻撃衝動が無くなっちゃうわね」

 

「ええ、不思議なもので」

 

 

 それから幾度となくスキル使ってサヨナラバイバイしようとしたが、結果はその都度めそめそしだすゼノヴィア……だっけ? 確かそんな名前の人のせいで意志がねじ曲げられてしまう。

 今だってドタマに杭をぶっ刺してやろうと構えても、めそめそしながら此方見てるせいでやはりやる気的な何かが削がれてしまう。

 

 これがもしも『分かっててやってる』なら警戒すべき事なんだけど、厄介な事に本人に自覚が無いんだから大したものである。

 

 無意識に人の心理に入り込み、罪の意識が薄い子供の様に無自覚にねじ曲げる。

 

 さしずめ無邪心(クライコントロール)……なんて言ったところか? イリナちゃんの話だとこのゼノヴィアって人は神器なんて持ってないし、デュランダルってのも俺のせいで失っててまんま身体能力が凄い只の人らしいし。

 

 多分、俺があの夜近所迷惑そうだったからなんて理由で何もかも書き換えて『お兄ちゃん。』にその功績諸々全部を押し付けたという現実を、予想外にも彼女が覚えていたせいで、デュランダルを失った穴埋めと失意の気持ちで覚醒しちゃったスキル……かもしれない。

 

 

 とはいえ、だからと言っても俺はこの人を迎え入れるのには抵抗がある。

 まず第一に、俺はこの人を全然知らない。

 第二に、頭に元が付くものの悪魔祓いだったイリナちゃんが腐っても悪魔の領地であるこの場所に何食わぬ顔で居る事自体、あのグレモリーさん連中は不審に思ってると思うし、それに加えて彼女とまでツルんでたら折角『お兄ちゃん。』に諸々の全部を押し付けた意味がない。

 

 そして第三に……これはソーナ――つまりセンパイ情報に依るお話なのだが、どうやら本日開催されてる『父兄参観』の際、そのどさくさに紛れて三大勢力のアタマが来て今後について会議をするとかしないとか。

 そんな状況で元と勝手に自称してるイリナちゃんやこのゼノヴィアって人がこの地でその日暮らししてます……だとか、天界陣営のアタマの人に知られたら厄介な事になる……かもしれない。

 

 現に今も俺のみ在籍のこのクラス以外は父兄でごった返してるみたいだし、その中に前見た……誰だっけ? 魔王ってが居るらしいし。

 

 

「父兄参観?」

 

「らしいね……。

ま、俺を見に来る家族なんて居ないから関係ねーけど」

 

「え、お前には親が居ないのか?」

 

 

 結局何をしようにも悪い流れになってしまう……という運の悪さを考えると余計な事も出来ず、その時になったら何時も通り開き直ってしまえば良いや……みたいな考えになってしまった俺は、だーれも来てくれない寂しい教室で、正式な生徒じゃないのに此処に居るイリナちゃんとゼノヴィアさんとでボソボソと時間が過ぎるのを待っていた。

 ちなみにセンパイは俺なんかと違ってしっかりした生徒会長であり、生徒であるので今頃授業でもやってると思う。

 隣の教室で英語教師が紙粘土でどーたらこうたらと……お前それ英語と何の関係があるんだしと突っ込みたくなる授業をしてるのが壁越しに様子として聞こえるも、永久自習生徒扱いされてる俺や、生徒でも無いのに学園に居るイリナちゃんとゼノヴィアさんにはなーんの関係もないので、ただただお時間をむだ~に過ごすだけ。

 

 いや良いんだけどね? まだこのクラスにちゃんと他のクラスメートが居たときの授業なんて俺を『気持ち悪いものを見る目』で誰もが見てくるし、酷いときは先がこれでもかと尖った鉛筆で俺をダーツの的にでも見定めて投げまくってくるし、いやぁ、あの時は生傷が絶えなかったなぁ。

 

 

「あって無かった様な親なら居るよ。

多分今隣のクラスで騒いでる『お兄ちゃん。』のクラスの様子を見てると思うし」

 

「あらー……予想はしてたけどやっぱり一誠くんもそうだったのね」

 

「つまり……お前の『その性格』を拒絶されてると?」

 

「まーねー

ただ、別に俺としても構わねぇと思ってるんだわ。

ほら、ヒーロー様々『お兄ちゃん。』と比べたら俺は絞りカス以下のどうしようもない奴だし」

 

 

 両親の有無や、その両親からそういう扱いをされてきたせいで慣れきってますと笑い話にして話す俺にイリナちゃんはなるほどと身に覚えでもあるのか納得しながら頷いている。

 ゼノヴィアさんにしてもそう――では無さそうにさても察してるのかこれ以上突っ込まず、罰が悪そうに俯いてる。

 

 両親については最初はショックで死にたいと思ったが、今じゃそうは思ってない。

 俺を理解(ワカ)ってくれてるセンパイとイリナちゃんが居るんだ、最近はもう家にも帰らなくなったし、心配してる様子も顔を見せてこない時点で大体察してる。

 最早あの人達にとっての俺は只の厄介者で、帰らなくなった事で厄介払いが出来たと内心喜んでると思う。

 

 それを考えれば、無能で何の結果も今まで残せなかった俺による唯一の『親孝行』として去ってしまう方が互いに健全で間違いない。

 

 まあ、残った唯一の『お兄ちゃん。』はこの先数千年も老けない悪魔になっちまってる訳で、多分そのせいで死に目に会えないかもだろうが俺の知ったことでは無い。

 

 

「まあ、そういった訳なんで俺に寄生してもロクな事ねーぜよゼノヴィアさん?

だから傷が浅い内に教会に戻った方が良いんじゃない?」

 

「そうよゼノヴィア。

私は別に一誠くんとのたれ死にしても良いように後腐れなくこれまでの人生の全てを『壊して』無かったことにしたけど、アナタは違うでしょ?」

 

「い、嫌だ嫌だっ!!

もう教会も何も信用できないし、戻ったら何をされるか……」

 

「「チッ」」

 

「し、舌打ちするなよぉ……うぅ……」

 

 

 俺にはもう……両親との血の繋がり以上の繋がりがあるんだから……ね。

 

 

「あぁもう、泣くのをやめろよな……色々と削がれちまうんだよ」

 

「ゼノヴィア。あんた此処に来てから随分と涙腺が緩くなってるわよ?」

 

「くすん……くすん……だって不安なんだもん。

まだお前らから仲間外れにされてるし……」

 

 

 俺にはもう必要がない。

 薄気味悪がってるのを我慢してまで一緒に居ても互いの為にもならないしな。

 これで良いんだよ……うん。

 

 

「ハァ……取り敢えず昼休み入ったから、何か食べ物調達してくるね。イリナちゃんはその人頼むね?」

 

「はーい……。あーぁ、めんどくさい」

 

「グスン……お腹すいた……」

 

 

 そんなこんなで4時間目が終わって父兄交えた昼休みとなったのをチャイムで確認した俺は、お腹を透かせてるだろうイリナちゃん……とついでにゼノヴィアさんの為に食堂から食べるものを買いに行こうと財布を持って教室を出る。

 

 

「わーぉ、賑やかですな」

 

 

 案の定昼休みということで廊下には他クラスの生徒と父兄がごちゃごちゃしてて誠にうるさく、満足に歩けそうもないので。

 取り敢えず――

 

 

退()いて。」

 

 

 誰に言うでも無く只その場でそれだけを小さく言ってみればあら不思議。

 

 

『ぅ!?』

 

 

 それまでわいわいしていた生徒や父兄の視線は一斉に俺へと向けられ、これまた予想通りすぎて鼻で笑ってしまうくらいに『何時も他人に向けられる嫌悪感丸出し表情』をしながらモーゼの十戒みたいに人の波が真っ二つに割れるではないか。

 

 

「なはは、人を化け物みたいな目で見ちゃってさぁ……ま、退いてくれてありがとさんっと」

 

『…………………』

 

 

 皆が皆同じ様な表情を向けられるといっそ清々しくも感じてしまう中を悠々とした足取りで食堂目指して歩く。

 まったく、廊下を塞いじゃ駄目だって昔から言われてるのに皆守ろうぜ? それくらい基本だぜ。

 

 

「~♪ む……」

 

 

 そんな訳で歩けば自動的に皆が道を開けてくれるという何とも親切設計な廊下を歩き、階段を下り、校舎から独立してる食堂に行くため中庭をフラフラと歩いていた俺はまたも人の波……いーや人だかりに邪魔されて足を強制的に止めてしまう。

 よく見たら男子生徒だらけであり、何やら揃ってバカみたいに騒いでるのが聞こえるが、一体何に騒いでるのかは人が多過ぎてよく見えない。

 

 

「あのー……そんな真ん中で――」

 

「うぉぉぉっ!! サイッコーだぜぇぇ!!」

 

「……」

 

 

 取り敢えず目の前で跳び跳ねてる人に声を掛けてもガン無視される。

 ぬぬ……何があるんだか知らないけど、満足に食べ物も調達させてくれねぇのかよと内心ちょっとムカつきつつ、今度はマジになって「退いて」と言ってやろうとその口を開きかけた――

 

 

「退い――

 

「ゴラァッ!! 人が通る道のど真ん中で何をしてる!!」

 

 

 その時だった。

 折角元気よく「退いて」と言ってやろうとしたそのタイミングで、俺の声が簡単に掻き消されちまう怒声が後ろから聞こえたかと思いきや、ドスンと思いきり突き飛ばされて華麗に宙をちょっとだけ舞って地面に顔面からダイブしてしまった。

 

 

「うびゅ!?」

 

 

 受け身なんてどんくさい俺が取れる訳も無く、無様に地面と熱烈キッスをかました。

 しかも運の悪いことに顔面ダイブした地面は固い固いコンクリの……しかも年月が過ぎてちょっと盛り上がってる箇所だった。

 声こそ間抜けだが、ダイブした拍子に盛り上がった所に調度俺の左目が見事に入り、一瞬の激痛と共に左目の感覚が無くなった。

 

 

「おわっと!? って、生徒会かよ……てか匙かよぉー!」

 

「んだよ、俺達は今撮影中なんだけどぉ!」

 

「るっせぇぞボケ共!

道塞いでまでやってんじゃねぇ! さっさと散らねぇと校則違反で反省文書かせるぞゴラ!」

 

「…………」

 

 

 更に言えば、俺を突き飛ばした人……てか匙くんは人だかりの男子生徒を散らすために奮闘してる為、無意識に出てしまった悪魔の腕力で数メートル吹っ飛ばされてうつ伏せのままひっくり返ってる俺に本人も他のだーれも気づいてない。

 いやぁ……やっぱり聖剣の存在を否定した時は奇跡的な運の良さだったんだなぁと、感覚がない左目と下へと伝う生ぬるい感触に変に笑えてしまう。

 

 

「アンタもこんな場所で――てか、親御さんですか? あの、言葉は悪いですけど、親御さんなら相応の格好ってのがありますよね?」

 

 

 やっぱり気付いてないのか、匙くんの呆れの入った声が聞こえる。

 どうやらあの変な人だかりの原因に注意をしてるようだが……。

 

 

「私にとってこれが相応の格好――つまり正装なんだもーん☆」

 

 

 言われてる方の、なんか肩がガクッとなりそうな声の主さんはケタケタ笑いながら聞き入れようとしてない。

 って、俺は何で左目潰れてるのにうつ伏せのくの字体制でこんな実況じみたことを……。

 と、そろそろ慰謝料請求して、その金で待ってるだろうイリナちゃん――とついでにゼノヴィアさんに少し豪勢なご飯を食べさせられると負け犬の癖に勝てる気で、盛り上がってる所に割って入ろうと起きようとしたのだが……。

 

 

「何事ですか匙……。まだ騒ぎは収まりませんか?」

 

「あ、か、会長……いや、この親御さんが……」

 

 

 ぶっちゃけ毎日聞いても飽きない、俺にとっては道を示してくれたに等しい大好きな人の声に思わずくの字のまま固まってしまった。

 本当なら『あ、センパイだー』とでも言って起き上がれば良かったんだが、俺がこんな格好でひっくり返ってしまいました、しかも匙くんに突き飛ばされて――なんて知られたら匙くんが色々とヤバイかもしれないのだ。

 こちとら折角2000円の示談金で無かったことにしようとしたのに、これじゃあ別意味での騒ぎに――

 

 

「あー! ソーナちゃんみーっけ!」

 

 

 なるだろ。だから騒ぎが少しだけ収まるまで寝たフリでもしちまえなんて思ってくの字のままだった俺だったが、騒ぎの原因であるっぽい女の人の声がセンパイを物凄く気安く呼んでるのにちょっと固まってしまった。

 いや、お前誰やねんという意味で。

 

 

「お姉様……ですか」

 

 

 少なくとも俺の耳に入る騒ぎの原因の人の声に覚えは……無いようなあるような。

 いやでも見たことは無い筈だぜと、そーっ消えた左目側の視界のせいで上手いことピントが合わない右目で様子を盗み見ようとする俺だったが、それよりも早くセンパイが無表情でキャーキャー言いながら抱き着いてきてる謎の女性の正体を普通に口にした。

 

 

「え゛?」

 

 

 その瞬間、匙くんの信じられませんな声が聞こえた。

 

 

「え……!?」

 

 

 という……いつの間にか居たらしい『お兄ちゃん。』の声が聞こえた。

 まあ、俺もその場に居たらってか人だかりのせいで今まで見えなくて気付かなかったが、よーくよく思い出してみればどっかで聞いた声だったと今ハッとなる。

 そう、アレは携帯を持ってなかった俺にセンパイからのプレゼント貰った携帯の立ち上げ画面に自己主張の塊みたいな姿でバトンみたいな棒をクルクル回してた女の子の……。

 

 

「うん、お姉ちゃんだよソーナちゃん……!

って、あれれ? サプライズで来たのに随分とドライ……?」

 

 

 つまりセンパイの姉さん……だったらしい、この騒動の原因は。

 

 

「うそぉぉぉっ!?」

 

 

 思わぬ衝撃事実に、魔王の姉がセンパイに居る事は知ってても生で見たこが無かったらしい匙くんがびっくりしてまっせーな声をあげてる。

 うん、俺も前もって偶然に知らなければ引いてたかもしれないからよーくわかるよそのリアクション。

 

 

「でもでも酷いよソーナちゃん! 参観日があることを教えないなんてさ! ショックの余り天界に喧嘩売りに行っちゃう所だったよ~」

 

 

 わーいわーい……みたいなノリを醸し出すのが魔王ね。

 意外と悪魔さんも平和なんだろうね……とセンパイに抱き付いて何やら物騒な事を言ってる……ええっと、名前知らない魔王様その2の姿はお世辞にも……キチッとはしてない格好だったみたいで、さっきまで男子生徒達の視線を独り占めするに足る……アレっぽい格好だった。

 

 

「来てるから良いじゃないですか。頼みもしてないのに」

 

 

 センパイとまるで真逆なキャラ。

 似てるといえば……まあ似てなくもない容姿なんで、類に漏れない整い方をしてると俺は思いながら初見で驚く匙くん達に紛れてちょっと離れから眺めてると、されるがままに抱き付かれてたセンパイはただただ無表情で魔王様その2を軽く突き飛ばしたではないか。

 

 

「やめてください、此処は学校ですよお姉様」

 

「え……? ぁ、な、なんかソーナちゃん反抗期?」

 

 

 しかし現実の携帯画面の人もずいぶん軽いのね……あの時センパイが携帯を握り潰してまで隠そうとしたのがよくわかる様な対応に、魔王様その2は結構な困惑を見せていた。

 

 多分、想定していたリアクションと全く違ったんだろう……顔に書いてある。

 まあ、俺等で互いに色々と駄目になっちまったせいでセンパイも性格とか変わってないようで変わってるからなぁ。

 多分暫く会ってなかっただろうし、余計驚くわな。

 ほら今だってゾクゾクするような濁った目だもんセンパイったら……なんてステキなんだ。

 

 

「反抗期? 別に反抗じゃなくて思った事をそのままお姉様にこうしてお話しているだけですが」

 

「え、で、でもでも! 前はちゃんと可愛い反応を……」

 

「あぁ、してたようなしてなかったような。

兎に角今は参観日でお昼休みにこんな騒ぎを起こしたお姉様に駒王学園生徒会長として対応をさせて頂いてるだけですわ」

 

 

 困惑しながらも何とか食い下がろうとする魔王様その2に、これまた淡々と言い返すセンパイ。

 うーむ、今日のセンパイは何時にも増してCOOLであるね……などとそろそろ血糊が出来上がり始めてるくらい出血しながらぼーっと聞いてたら、センパイが『そんな事より――』と言いながら、魔王様その2……じゃなくて離れから盗み見てた俺を見て足早に近付いてくるではないか。

 まるで最初から気付かれてたかのように……。

 

 

「……。一誠くん? 最初から見てましたね?」

 

「ありゃ、やっぱりバレてました? あはは」

 

 

 やはりセンパイは誤魔化せないか。

 俺が吹っ飛ばされて連中から離れた所で惨めに左目潰して小さく転がっててもセンパイはちゃんと見てくれてる。

 あぁ、なーんかやっぱ嬉しいもんだねぇと土まみれと血まみれ……そして右側しか見えない状態で此方に駆け寄るセンパイに、思わず笑いながら顔を上げて見せてしまう。

 あ、しまった、思わずそのまま顔を上げただけで幻実逃否(リアリティーエスケープ)で受けたダメージから逃げるのをするの忘れてた……右半分しかセンパイが見えねぇし、センパイも流石に左目がエグい事には気付いてなかったのか、一瞬にして狼狽えながら駆け寄ってきた。

 

 

「一誠くん、左目が……!」

 

 

 既に制服まで血塗れで汚ならしくなったのに、センパイは全く気にせず俺の左目にソッと手で触れる。

 その表情で直ぐに『あ、マズイ』と思ったので即座に笑い話に持ち込もうとヘラヘラと笑って話す。

 

 

「これ? いやー……何処かの誰かさんに突き飛ばされた時に派手に転びましてねぇ。

ちょうどここの盛り上がったコンクリートに左目ちゃんがブスッとね……」

 

「……。誰に突き飛ばされたのですか……?」

 

「さぁ、後ろからだったんでよくは……」

 

 

 センパイも俺がまさか左目を潰してしまってるとは思ってなかったのか、痛々しそうな表情で肩を貸してくれ、それに甘える形でフラフラと突き飛ばされただけでガタガタになった身体を立たせる。

 匙くんがやったとは流石に言えないので、そこは臨機応変に誤魔化すが……これも何時まで通用するかはわからないかもしれない。

 主にセンパイによって、漸く俺の存在と悲惨ともいえる大怪我の様子を見てどよめく中、完全に死人みたいな顔でガタガタ震えてる匙くんがエラく目立っちゃってるんで。

 

 

「な、ひょ、兵藤!? お、お前何時から……!」

 

 

 言ったらぶっ殺される……と勝手に思ってるのか、震えながら俺に何時から居たと問う匙くんがちょっと可哀想に思えてきた気がしたので、取り敢えず何時も通りふざけて笑いながら、緊張だけは解してあげようと努めてみようと思う。

 

 

「いたよ、さっきからずっとね……。食堂に行く為、近道しようと中庭通ってたらばか騒ぎする男子生徒のせいで進めずに居た所を……まあ、色々とあってこの様になっちまってさ」

 

「うっ……!?」

 

 

 大丈夫、大丈夫だって匙くん。

 俺はキミのせいだとか絶対に言わないさ、だからそんな露骨にガタガタしないでよ。バレちゃうぜ?

 

 

「ひ、左目が完全に潰れてるよね? だ、大丈夫?」

 

 

 割りと追い込まれると脆いことが今分かった匙くんに、内心もう少し頑張ってよなんて思いながらセンパイに身体を預けてると、一気に蚊帳の外に追い出されてた携帯画面の人が……だから魔王様その2が、やっぱり直接見てもアレとしか思えない不埒な格好で超心配そうに大丈夫かと聞いてくるので、取り敢えず別に親しくないこの人に匙くん身代わりになって貰おうかなと大丈夫ですよとヘラヘラ笑いながら口を開く。

 

 

「ええ、見ての通り全然大丈夫ですよ。

左目が二度と使い物にならなくなっちまったのは、中庭で男子達の視線に晒されて悦に入ったどっかの誰かさんのせいじゃなくて、俺がわざわざ近道なんてしなければ良かっただけですからね……。だから『誰も悪くない。』」

 

 

 よーし完璧! 匙くんもこれで悪くないし、魔王様その2もそんなに悪くない感じに持っていけた!

 

 

「う……!?」

 

 

 だと言うのに、何故か魔王様その2は叱られた子犬みたいな顔で俺を見てくるではないか……何で?

 悪くない。って言ったのになぁ……って、あら? お兄ちゃんが魔王様その2の前に立って俺を睨んでらぁ。

 これも何で?

 

 

「お、おい! お前誰に向かって……」

 

 

 ……。あぁ、そゆことか。

 魔王様その2に気安い態度だったのが『お兄ちゃん。』的に許せないと……。

 ふむ……。

 

 

「あれ、いたんだね『お兄ちゃん?』 全然気付かなかったし、急に出て来て何を言ってるのか俺にはわからないよ。

あぁそっか、もうアンタも悪魔だもんな……。

ひ弱な人間ごときが突き飛ばされた程度で失明したのは、俺が弱いからであってそこの魔王様関係ないもんね?

うんうん、大丈夫大丈夫……俺もそれは同意するから心配しなさんな」

 

「くっ……! ならなんでヘラヘラと……!」

 

 

 取り敢えず言いたいことだけ言っておけと、痛いの我慢してこれでもかとヘラヘラしながらぶちまければ、誰も彼もが顔をこれでもかと歪ませてる。

 おかしいよね、誰も悪くないといってるのに潰されそうな顔してるなんて、意外と皆優しいんだね。

 

 そんな俺の、ちょっとだけ他人の暖かさにプチ感動する横で肩を貸してくれたセンパイは、ただただ無表情で淡々とした態度のまままず捨てられた子犬さんこと魔王様その2に、責めるでもなく味方するでもない……

ただただ『真っ直ぐな視線』を向けて話始めた。

 

 

「お姉様、アナタが何処で何してようが私は否定しません。

ですが、その騒ぎのせいで私の大好きな人が『こうなる』のは許せない……」

 

「い、いや……え、好きぃ!?」

 

 俺もそうだが、まさかこんな人の多いところで好きだと言ったセンパイに魔王様その2は心の底から仰天した表情だ。

 

 

「なんでしょうか? 私が誰かを好きになって悪いんですか?」

 

「そ、それは……で、でもその子……」

 

 

 全くブレない態度のままのセンパイに完全に圧されてる魔王様その2は、物凄い複雑そうに俺を見る。

 その目からして『いやキミがソーナちゃん? い、いやいやいや……キミが!?』とでも言いたそうな様子であり、多分センパイがこんな態度じゃなかったら言ってたろうなと内心笑ってしまう。

 

 しかしセンパイもそんな魔王様その2の視線を察したのか、今より更に低い声で……そしてスッと見透かすような目で魔王様その2を見据えてこう啖呵した。

 

 

「彼を好きになって何が悪いんですか? 人間だからでしょうか? あなた様から見たら話ならない弱さだから?

ハッ……何だかんだでお姉様も悪魔らしいようで」

 

 

 まあ、弱さは俺のチャームポイントみたいなもんだけど、悪魔からすればカスと同類なんだろうなぁ……あぁ

センパイ以外は。

 

 

「無駄話は終わりです、私は彼を全力で治療しなければなりませんので。

匙……彼の事は後でお話しするにして、今は此処の後片付けを頼みましたよ」

 

「っ!? は、はいぃっ!!」

 

 

 此処まで言われるとは思ってなかったのか、物凄いショック受けた顔で固まる魔王様その2とのお話を打ちきり、やっぱりバレちゃってた匙くんに指示を飛ばし、センパイにリードされながらその場を後にしようと彼等に背を向けてゆっくりと歩く。

 死人みたいな顔で震えてる姿に、ごめんよ匙くん……と謝りながら。

 

 

「ま、待ってソーナちゃん! わ、私そんなつもりは……!」

 

「分かってます、ちょっと皮肉っただけです。

お姉様はそういうのがお好きで、つい舞い上がってしまった……ただそれだけですものね? だからお姉様は『悪くありません。』」

 

「うっ……!?」

 

 

 魔王様その2も慌ててセンパイを呼び止めようとするも、過負荷(オレタチ)らしいトドメをセンパイに刺されてしまいそれまで。

 うーむ、俺のせいで姉妹仲に変な亀裂が入ってしまったみたいだな……。

 

「大丈夫ですか一誠くん? ゆっくり歩きましょう」

 

「あ、あのー俺は良いんでイリナちゃんとついでにゼノヴィアさんにご飯を……」

 

「後で私から用意します。寧ろその姿を紫藤さんに見られてごらんなさい……ここら一帯全てがミジンコすら住めなくなる世紀末な事になりますよ」

 

「うーっす……。

それにしても随分と言い切りましたねぇ。

俺は単純に一言言いたかったから、わざとこのまんまで居たのに……」

 

 

 背中に感じる何とも言えない視線を感じながら、センパイに肩を借りてフラフラと人の居ない場所を目指した歩く中、既に『痛くも潰れてもない左目』でちょっと笑ってるセンパイと話す。

 誰にも邪魔されず……ただ楽しく。

 

 

「つーか、最近家を探してるんですよ。

あの家もそろそろマジで居づらいんで」

 

「あぁ、それなら私の家に来てくださいよ。

家賃も掛からないし、毎日一誠くんのお好きな姿でご奉仕しますよ?」

 

「おおぅ、夢がありまくだねぇ……てか、センパイとこうしてると良い匂いして眠くならぁ」

 

「ふふ……それならこの後好きなだけ膝枕してあげますね?」

 

「わーい」

 

 

 そして、怪我の話なぞすぐに終わり、さっきの事も刹那で忘れてただ楽しい会話をする。

 だってホラ、嫌なことは直ぐに切り替える主義なんだよね、俺もセンパイもイリナちゃんも。




補足

取り敢えずゼノヴィアさんは保留扱いとなりました。
それと、スキル名の案をイカの目さんから貰いました。
あざす。


その2
三人終結のせいで最低値(マイナス)が更にアップ……いやダウン。

サーゼクスさんにビビってた頃とは最早別物に最低化してます。

その3
匙くんは普通にかばいますが、セラフォルーさんはよく知らないし、ソーナさんの姉ってだけなんで特に庇う真似もしませんでした。

まあ、ソーナさんはともかく、こんなマイナス野郎に関わって良いことなんて無いんである意味救われてますが……暫くソーナさんと会わなかったせいでキャラの変わり様に暫く困惑はするかと……。


で、お兄ちゃんは来訪者の其々のトップ(サーゼクスさん以外)に英雄様扱いされてます……あぁ、原作程度ですが。



ええっと後は特に今は記述することは無いですね。
強いていうなら感想を貰うとモチベーションが上がるんで、付き合ってあげれたらよろしくです。

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