そしてオチは……やはり彼は彼だった。
三大勢力首脳会ってのがあるんだってさ、知らんけど。
よく分かんないけど、やっぱりあのコカビエルってのと聖剣騒動は色々とアレだったのと定期的にそんなやり取りをやるらしいんだね。知らんけど。
「取り敢えず眼帯を付けて、怪我人ですと主張しておきましょう」
「おお、ちょっと中二病っぽいくて良いっすね」
結論を言ってしまえば、そんなもん俺には関係が無いのだ。
センパイと親しくしてるからって理由である程度連中の事を把握してるとはいえ、突き詰めても俺は劣化人間なのだ。
聖剣の存在を否定して消したって現実も、知ってるのは極少数だろうし? イザ何か言われても知らんで突き通すつもりさ。
だって、どうであれ今の現実は『お兄ちゃん達とコカビエルとの戦闘により、ちょっとした想定外な事故で聖剣や聖剣にまつわるものが消滅した』って事にしておいたもの。
一介の人間の俺が何かしたなんて……ふふ、このスキルの存在、もしくは
……。前にレーティング・ゲームとやらの時に顔を合わせた、サーゼクス・ルシファーって魔王はちと警戒しないといけないが、それもイザとなれば安心院さんの話でもチカつかせて誤魔化せば良い。
それよりも気になるのは、俺がセンパイの姉の人に何を思われてるかである。
物凄いよく考えたら、センパイって普通に純血悪魔の名家なお嬢様だし、今まではそんな関係ですと周りに知られても、別にどうとも言われんかった訳だが、センパイの実家の人達が俺ごとき人間――しかも
「これで良し。ふふ、あんまり似合いませんね一誠くんの眼帯姿は」
「ん、そっすか?」
「ええ、やっぱり『一誠くんらしい』目が二つ揃ってないと」
眼球破裂で左目が失明したという現実を否定し、何のダメージも受けてませんな幻想に逃げたお陰で、痛みも失明もしてないことになった。
しかし、あんだけ大々的に『僕失明しました』と見せてしまってる手前、まさか『ご覧の通り復活しました』とは言えないので、取り敢えず眼帯でもして怪我人を装う事にしたのは、どうでも良いとして、さっきセンパイがあの魔王様その2にエライ啖呵を切ってしまって大丈夫なのか……それだけが気掛かりなのだ。
「センパイは、あの魔王様その2の人と大丈夫なんですか?」
「へ? 何がです?」
「いやホラ、俺って結局は人間の……しかもその中で更に欠陥品だし……。
そんな人間とよろしくやってましたなんて知られたら、あの魔王様その2とかセンパイの両親が怒るんさじゃないかなー……なーんて今更ながら思い出したもんで」
こんな事言ったからってセンパイから離れる気なんて更々無いが、やはり気にはなってしまう。
俺には後ろ楯なんてなーんも無いし、どれだけ疎んじられようともう何にも思わなくなった。
だからなんだろうね、俺は多分物凄く怖がってる。
センパイが何処かへ行ってしまうことに。
センパイと二度とお話が出来なくなってしまう事に。
考えただけでゾッとする。考えただけで、そんな世界を『否定』したくなる。
いくら
……。うっかり『この世界を否定し、何もないもない無へと書き換えて逃げてしまう』くらいに。
「……。何度目かな、そんな事を一誠くんが言ってくるのは」
『お兄ちゃん。』をどうとも思わなくなった。
恨めしいとも思わなくなった。
なんでもかんでも出来て、誰からも愛される事を羨ましいと思わなくなった。
「不安になる度……かな。鬱陶しくて申し訳ないっす」
理不尽と虐待を受け入れた。
偽善と偽悪を受け入れた。
堕落と無気力を受け入れた。
巻き込まれと二次災害を受け入れた。
風評と冤罪を受け入れた。
裏切りと虐待を……格差も不条理も不幸も不都合のなにもかも受け入れた。
「確かに、姉のリアクションと初対面のタイミングの悪さで何か言っては来るでしょう。
前にリアスが何処かの純血悪魔と婚約させられた時の様に、私にも似たような話が来るかもしれません」
「………」
だが、それでも受け入れられないものがある。
失いたくないと思うものがある。
中途半端な
俺にとって『生きる』というのは、センパイが居てこそなのだから仕方無い……『俺は悪くない。』
薄く笑みを見せながら眼鏡を外し、俺にとって不安がメチャクチャ助長される事を平然と話すせいで、余計不安になり、しょうもない表情を出して二人きりの生徒会室の椅子に座ってる俺の頬に手を添えたセンパイと目が合う。
「そうなったらそうなったで、全力で『逃げて』しまえば良い話です。違いますか?」
センパイの何処までもマイナスで綺麗な目に吸い込まれそうになる感覚を覚えながら、言って欲しかったその一言に俺は何処までも安心してしまう。
そう……逃げる。
俺からセンパイを奪うのであれば、センパイを連れて逃げてしまう。
簡単で俺らしいやり方……。
例え姉で魔王だろうが実の親だろうが捕まえられない……最高峰の逃走経路が俺にはある。
頬に伝わるセンパイの手と言葉と表情が、単に不安だった俺を更に駄目にしていく……。
「うん……そうだね。逃げれば良いよね。
センパイも友達もみんな纏めて連れて、誰も捕まえられない場所に逃げてしまえば良いもんね」
あぁ……気分が最悪に良いなぁ。
心が落ち着くなぁ……。
センパイを見てると……周りがどう思ってようがどうでもよくなる……。
「そうよ……だから私は何処にも行かない。
何時だってアナタの傍よ……一誠」
優しく、何処までも
「……。あ、イリナちゃん――とついでにゼノヴィアさんのご飯……」
何となくそんな気分になったから、こんな風にセンパイを抱き寄せてみた俺だったが、ふと此処で本来の目的だった二人のご飯調達について思い出し、抱き寄せてたままの状態でどうしようと考える。
考えてみればあの魔王様その2だのそれの余波による怪我も元々なんの関係も無い話だった筈なのに、左目筈潰れるはセンパイの姉さんの俺に対するリアクションで不安になるわですっかり忘れてしまった。
きっとイリナちゃん――とついでにゼノヴィアさんもお腹空かせて待ってる筈だし、うん、早いとこ食料を調達にしに行かないとね……食堂じゃなくコンビニか何かで――
「……。今すぐじゃなくてもあの二人は死にはしません。それより、こうしてるのに他の
「ぇ……ぁ、はい……」
変なタイミングで思い出した俺に、センパイがむっとなってコツンと額を軽くぶつけてくる。
最近はそんな表立って喧嘩してなかったからこれも忘れてたけど、そういやイリナちゃんとセンパイの決着って俺がゴチャゴチャにしたせいで曖昧なまんまなんだよね……なんてセンパイと額をくっつけたまま見つめあってボンヤリ考えてると、センパイと唇が重なる。
「ん……」
「今は紫藤さんは居ませんよ……私と一誠くんだけです。
だから私とこうしてるのに彼女の事は考えちゃ嫌です……」
座ってる俺の膝にセンパイが乗り、そのまま唇を重ね合う。
……。まあ、こんな体制になった時点でお察しだった訳でありまして、俺もそうなったらいいなーみたいな考えもあったし、何よりセンパイのキスってめちゃめちゃ良いんだよね……こう、ポヤーッと出来るから。
「んんっ……何度こうしても、私の胸ドキドキしてるでしょう?」
その上、最近は更に進んでる感じなものでありまして、頬を染めながら微笑むセンパイが俺の手を取ってその胸に当てて心音を感じさせてくる。
「ホントだ……」
「……。紫藤さんみたいに大きくは無いですけどね」
「いやいや、大きいとか俺は拘り無いですよ。
それに無いって訳じゃないしセンパイって」
トクン……トクン……と早鐘する心音を胸越しに感じ、妙に自虐してるセンパイを妙に『可愛いなぁ』なんて思いながら、腕を腰と背中に回して小さいとはそんな思ってもないし物足りないなんてのも思わない胸に顔を埋める。
なんだか、こうするのが俺的に一番好きで安心するんだよね。
「ん……やっぱりセンパイにこうするのが一番ですよ。
実家に居るより遥かに安心する……」
「ん……ふふ……擽ったいです一誠くん……♪」
こう、センパイの心音とか胸とか? 大きいと絶対こんな気分になんないというか……。
小さく嬌声を出しながら身を捩るセンパイは、多少コンプレックスを持ってるっぽいけど、俺はこのままが良い……この胸も、ちょっと視線を上げれば見える綺麗な首筋も……。
「やぁ……っん……や、やだ一誠くん……。此処学校なのに、こんな甘えん坊さんになるなんて……」
「いや……すいません。なんと無くで」
「もう……誰かが来たら恥ずかしいのに。
けど……ふふ、一誠くんからこうして来られると、やっぱり嬉しい」
あーぁ、これだからやっぱりセンパイは失いたくないんだ。
優しいし、俺と『同じ』だし、何より
「紫藤さんとゼノヴィアさんには悪いけど……ふふ、此処からはセンパイ呼びじゃなく……ね?」
「うん……わかったソーナ」
何より一緒に
イリナちゃんも同じだし一緒に駄目になれるけど、それ以上にこの人は『好き』だって感情にもなれる。
「生徒会長な私がこんなことを……ふふ、そろそろ眷属達にも『見限られ』てもおかしくないかもしれないわね。
でも……それでも止めれないわ、大好きよ一誠……」
「ん……うん……俺も、絶対に離したくない……」
微笑むセンパイ――いや、ソーナに言われるがままに頷く俺は、さっきまでの不安も全部消えて、ただただその繋がりを確かめる様に互いを求めていくのだった。
まぁ、大人じゃないからそれ以上の事はしませんけどね。
サーゼクス・ルシファー
冥界四大魔王として名を馳せる彼は、実のところ魔王という地位なんぞに興味は無かった。
単純に『彼女』に認められたくて超越者とすら恐れれられてる己の力を限界以上まで研ぎ澄ませてたら、気づけば自分より力を持つ悪魔が居なかった……ただそれだけの理由で魔王をやっていたのだ。
まぁ、他にすることも無かったし、『彼女』は全然会ってくれないしで今もこうして魔王をやっているのだが、此処最近のサーゼクスは『やっと訪れたチャンス』に狂喜しながらも慎重になっていた。
「ふーん、ソーナさんとリアスの兵士の弟がね……」
「う、うんそうなの……」
彼女……安心院なじみの持つ力の半分側を持つ少年であり、最も彼女と会える頻度が高い人間……兵藤一誠。
妹のリアスの非公式レーティング・ゲームの際に出会った時から、サーゼクスは彼をマークしており、当然シトリー家の娘と『そういう仲』なのも初見で察した。
故にサーゼクスはそれをチャンスだと思い、寧ろ一誠と平行して
もしもソーナとの仲を反対する輩が出てくれば、魔王権限で封殺し恩を売る。
そうなればサーゼクスの元に安心院なじみを引き連れて一誠がやって来る時が来ると確信出来ると……サーゼクスは一誠本人の知らないところで色々と根回しをしていたのだ。
が、そんなサーゼクスは今日妹の授業参観に来る名目と三会談で人間界にやって来てた訳だが、ただ今彼は同じ四大魔王として名を馳せている……ソーナの姉であるセラフォルー・レヴィアタンから話を聞かされていた。
主にそのソーナと一誠の関係について。
「ソーナちゃんが私を嫌っちゃった様な気がして……」
「嫌う? 何でさ?」
「その……一誠って子が大怪我した原因が私にもあるって理由で……」
ノリが軽く、何処までもはっちゃけたキャラの筈のセラフォルーが物凄い落ち込んで、中庭での騒ぎについて話すのを、サーゼクスは聞いてはいるものの内心辟易していた。
彼女が如何にソーナを大事に思ってるのかはよーく知ってるし、そのソーナからかなりの事を言われたのは想像しやすいが……そんなもの自己責任じゃねーか……そんな心境だった。
「どうしよ……あんなに怒ったソーナちゃん見るのはじめてで……」
「あのさ、セラフォルーはソーナさんがイッセーくんと『そういう仲』になのに反対な訳? それによって言う事も此方としても変わるからさぁ」
まあ、仮に反対だとしても僕は何が何でも安心院さんに撫で撫でされながら膝枕して貰うためにくっついて貰うけどね……と内心ほくそ笑みつつ、妻子持ちにあるまじき考えを展開するサーゼクスの考えを知りもしないセラフォルーは、ゆっくりと首を横に振る。
「反対だなんてしないけど……彼って転生悪魔じゃなくて人間でしょう? 仮に一緒になってもソーナちゃんは一緒に居れる時間が余りにも……」
「ふぅん、じゃあ反対なんだ? ウチの所みたいに勝手に純血悪魔の婚約者でも宛がうのかい?」
「そんなことしないし、させないもん! 私が言いたいのは、あの一誠って子とは寿命の差が大きすぎるって言いたいの!」
嫌に冷たく言い放つサーゼクスにムキになって言い返すセラフォルー
自分のせいで脆い人間の……それも一生治らない傷を作らせた罪悪感もあるし、『何となく悪魔っぽい気質より更にアレっぽい』気質も好みといえば好みだし、何よりソーナが自分の意思で見付けた想い人だ。
出来ればソーナの意思を尊重はしたい……したいが、どうせなら何でソーナの下僕になって寿命問題をクリアしなかったのか……それが気掛かりで心配だったのだ。
そんな姉としての心配を他所に、同じ妹を持つ身であるサーゼクスはといえば変にあっけらかんとしており、悩みに悩むセラフォルーに向かって軽く笑みを見せながら口を開く。
「寿命問題をソーナさんがそのままにするとは思えないし……ふっ、あのイッセーくんを只の人間と甘く見すぎだよセラフォルー
君達は知らないだろうけど……あんまり彼を刺激しない方が良いと思うな僕は――下手したら『全部を失うハメ』になるだろうし」
「は? それって――」
どういうこと? と、昔から変に達観というか、自分の種族の未来について割りとどうでも良さそうにしてるサーゼクスの言葉の意味が分からず、セラフォルーはよっこらせと席を立つサーゼクスを見つめる。
「不安なら彼と腹を割って話せば良いし、多分大怪我も『治ってる』と思うし、本人達はキミを恨んで無いと思う。
まあ、キミが二人の仲を反対して引き裂こうとする考えだったらアレだけど、そうじゃないみたいだし? 時間を無駄にして更に顔を合わせづらくなる前にケリを着けるべきだと思うぜ? 案外上手いこと言って安心したってオチで終われるかもしれないし。(安心院さんだけに)」
「ぅ……でもソーナちゃんが……」
「それはキミ等姉妹の問題だからなぁ。僕やイッセーくんがどうこう言える問題じゃあないね」
「サーゼクスちゃんまで冷たい……」
結局、自分で撒いた種は自分で処理しろと突き放されたセラフォルーはうぅ……と恨めしそうにサーゼクスを睨むが、サーゼクスは涼しい表情だ。
「冷たいんじゃない、余計な心配事増やしてこれから始まる会談に支障をきたされても面倒なだけさ…………。特にアザゼルの顔見たら殴りたくなるのを我慢しなくちゃならないし」
「あ、相変わらずアザゼルちゃん嫌いなのねサーゼクスちゃんは……うぅ、わかったよ……ちゃんと謝るよ二人に」
三大勢力戦争の時代からアザゼルをほぼ一方的に何故か敵視していたサーゼクスを知るセラフォルーは、戦争が終わって和平交渉の時代となってる今でも無駄に嫌ってるね……と苦笑いしつつ二人にちゃんとケジメを付けに行く決心を固めたみたいで、ちょっと不安ながらも、持っていたステッキをギュッと握り締めながら立ち上がり、サーゼクスよりも早く無人の教室を飛び出す。
「……。まあ、やり辛いどころか、『心をへし折られかねない』レベルまで二人は――いや、紫藤イリナさん含めて
セラフォルーの
一人残るサーゼクスが黒い笑みを浮かべてる事に気付かずにセラフォルーはシスコン故にソーナとの仲直りの為にひた走る。
それが吉なのか凶なのかは……まだ誰にもわからない。
補足
まあ、サーゼクスさんはサーゼクスさんなんですよ。
でも一応我が子と妻は大事にしてますよこの人。
けれど安心院さんに踏み踏みされて撫で撫でされながら膝枕もされたい。
うーむ、実にクリムゾンサタンらしいね!
その2
……。風紀委員長イッセーの所でもありましたが、もしこのマイナス一誠とシトリーさんが新生徒会長の世界の有り様を見た場合のリアクション。
「せ、センパイが『お兄ちゃん。』よりお兄ちゃんやらかしてる人とだと? ……………。なぁもう帰ろうぜ、見たら発狂しそうだ」
「……。世界はそれぞれだとしても、あっさり洗脳されてる自分を見るのいい気分はしませんね」
「あ、あり得ないわ!
何で私がイッセーくんじゃなくてあんな奴!? こ、壊してやる……何もかもぶっ壊してあの一誠くんにそっくりと見せ掛けて一誠くんより不細工なクソ野郎をぶっ壊してやる……! ついでにそれにアッサリ引っ掛かった私もぶち壊して……!!!」
「あ、私は全然マシだぞ……よかった……」
となり、置き土産に兄貴を否定され、壊され、悪循完の力でGER喰らった某ボス状態にされてしまうかもしれない。
そして帰ったら三人でイチャコラして忘れて終わりみたいな。