最早需要は無いでしょうが……。
良かったね……と拍手をすれば何故か殴られる。
大丈夫? ……と苦しんでる人によかれで話し掛けたら石を顔面に投げ付けられる。
ご飯を買いに行こうとしたら、人の山の騒ぎに巻き込まれて片眼が見えなくなりましたとさ。
全く以てどうしようもない不運。
自分一人でだとどうしようもなく理不尽な目に遭う。
これはもう生まれ持った俺のどうしようもなさなので今更憎む事も絶望する事も無い。
だって、そんな不運の中にも出会いはちゃんとあるのだから……。
「大変な事件だったね」
「うむ、まさか会談を行っている三大勢力のトップのもとに旧魔王派なる団体が現れるとはな」
「まあ、正直私達にはなーんの関係もないけどねー」
「まあ、偉い方々が頑張ってくれるでしょう」
怠惰に過ごす日々というか。
そこら辺の消ゴムでしかない俺からすれば、結局の所、悪魔だ堕天使だ天使だが何をしてしまおうが知ったこっちゃ無いし関わる理由も資格も無いのである。
故に、学園で会談してたその偉い人たちの元に変な集団が現れて何かをしてようが、俺達に何が出来る訳じゃあ無いのだ。
まぁどーせ『お兄たま。』やそのお仲間達が何とかするだろうし、何とか出来なくともそれはそれで仕方ない。
蟻んこに出来る事なんてなーんも無いのだ。
「で、結局キミは向こう側に行かなくて良かったわけ? ぶっちゃけ最後のチャンスだったんじゃね?」
「そうよ、ゼノヴィアだったら頼めば仲間にしてくれたのに」
「やめてくれ、いくら何でも悪魔に転生してしまおうと考える程、人生を投げてるつもりは無いんだぞ私は」
とある休日。
会議とやらが終わってから妙にピリピリしとる『お兄たま。』とそのお仲間が何故かウチに来て、お父さんお母さんと仲良く楽し気にやってた空気を壊さないようにと自分なりに気を利かせたつもりで外でお散歩していた時に出くわしたセンパイ、イリナちゃん、そしてまだ宙に浮きっぱなしのゼノヴィアさんに誘われるがままにセンパイの家に遊びに来た俺は、ちょっと古いテレビゲームタイプの人生ゲームをしながら、この前の事について何となく振り返っていた。
センパイのおねーさんやら、三大勢力会談やら、そこに襲撃かまして宣戦布告してきたどっかの誰かさんとか……。
まあ、悪魔であるセンパイ以外は無関係の部外者でしか無い様な内容なんだけど、無言でゲームするよりマシなんでこうしてペチャクチャしとりますって訳さ。
「あーあ、またマイナスマスで……『引ったくりの被害に遇って銀行からおろしたばかりの財布の入った鞄が盗られる』……-3000万だよ」
「これでイッセー君がまた最下位になっちゃったね」
「というか、何故私達はルーレットを回してもマイナスマスの目の数しか出ないのかしら……バグ?」
「いやそんな事無いだろ。ほら、私はちゃんと+のマークに止まれるぞ」
もっとすることは無いのか? と思うかもしれないけど、こうしてボーッとやってる方が楽だ。
でなければ英雄様にお兄たまを祭り上げた意味が全く無いしね。
少なくともセンパイとイリナちゃんは当然として、独りぼっちが嫌だと泣きわめくゼノヴィアさんも似たような考えなんで誰も文句なんて言わないし、こういうのが平和って奴なんだろうね。
「匙が一誠くんに謝りたいと言ってましたよ。目の事で」
「え、わざわざ黙ってあげたのに自分からバラしちゃったのかよ匙君は? 何か人が良いというか……別に気にしてなんか無いんだけどなー……直ってるしもう」
引ったくり、冤罪、理不尽な言い掛かりによる様々な災害が1ターン目から重なり続け、気付けは中間結果の時点で総資産が-45億という、現実ならとっくに自殺してるだろう人生をゲーム内でエンジョイしてる俺は、起死回生のギャンブルエリアで更に総資産をマイナスにしまくりながらもゴール目指してポチポチやっている最中、隣に座って総資産-35億円になってるソーナセンパイから、この前の事故についてその原因となった匙君について教えられ、思わず苦笑いをしてしまう。
あの人……てかまあ同い年なんだけど、センパイの眷属さんである匙くんは割りといい人と云うか……確かセンパイの事が好きだったと記憶してる。
だけどその、まあ、うん……。
横から横取りしたみたいな形で俺が割り込んじゃったせいで――なんかうん……ごめん匙くん。
「あぁ、あの無駄に空回りしてそうな人? へーその人がイッセーくんの目をね……」
「別に気にしてないけどね。だって故意じゃなかったし」
「まあ結果的に目は元通りになってるしな……相変わらずエグい力だ」
好きだと気付かされた時には既に完成していたというか……ホントに匙君には寧ろ悪かったなーというか。
珍しく俺と内心はどうであれ普通に接してくれる人だから余計変な罪悪感が沸いてしまう訳で……。
「匙なら最近はウチの姉と楽しくやってる様ですよ。
今日も一緒に何処ぞへと出掛けてるみたいですし」
「へぇ……匙くんがセンパイのおねーちゃんと――はい?」
なんて思ってたら、予想外な情報に俺は思わず目が丸くなった……と思う。
センパイの姉って……あの変な格好してた人だよな? え、マジなんすか?
「よくは知りませんが、イッセーくんの目を潰してしまった原因同士として一緒に罪悪感に苛まれていたらそうなったみたいで」
「あら、イッセーくんが出会いの架け橋になったって事? 凄いじゃない、貴女だったらもっと良かったけど」
「む……ギャンブルに勝利して+1億円か! やったぞ!」
そうなんだ……。
センパイにボロクソに言われて散々な目に遭ってちょっと同情してたけど……。
まあ、何だろうな……結果オーライ?
「1億円だぞ!」
「そもそも罪悪感なんて必要ないですよ。別に匙と恋人同士だった訳じゃないし」
「はぁ……」
「そこは微妙に同意出来るわ。
恋人だったところを――というのなら話は別だけど、彼がこの悪魔を好きだったってだけで具体的にそこから何かがあった訳じゃないし」
「そりゃそうだけど」
「私の総資産が40億円になったぞ皆!」
まあ、今更俺からセンパイを取り上げますなんて事があったらそりゃ道連れにしてまでも地獄に引きずり込んでやるつもりではあるけどさ……何か微妙なオチで消化不良な気分というか……。
じゃあ良いや……これ言ってももう問題とか無いみたいだし言うよ。
「じゃあ言っちゃお、家の部屋が無くなって寝る場所が消えちゃいました……昨日付けで」
家での自分の居場所が完璧に抹消されちゃった話をね……。
「え、どういう事それ?」
予めセンパイにそうなりそうだと言っていたので、センパイは特に驚く事はしなかったが、知らなかったイリナちゃんは信じられないと驚きながらどういう事なんだとコントローラから手を離しながら聞いてきた。
「よくは知らないんだけど、あのー……誰だったっけか、あの金髪の女の子が家に住むようになってから益々俺が空気になっちゃっててね。
で、よく知らない内にまたお兄たまが誰か拾ってきて住まわすようになったら俺が部屋から追い出されてね」
「それ、おじさんとおばさんは何て?」
事情を説明している内に、勝手にわいわい騒いでたゼノヴィアさんまでもが若干温度の下がった表情になってイリナちゃんとセンパイ二人と揃って耳を傾けていた。
特に昔の両親を知ってるイリナちゃんは若干怖いくらい冷えきった顔だった。
「いや……男だし、住み辛くなったら独り暮らしとかしてみないか? という言葉と共にこのお金貰っただけかな」
元々お兄たまが現れてからは、俺を居ても居なくても良いみたいに見てたし、その内そうなるんだろうなと予想してたんで別にショックなんて無い。
寧ろよくぞ今まで我慢してたねと尊敬すら両親にしてるぐらいであり、この札束一つの手切れ金と共に遠回しに出て行けと言われたら俺は黙ってありがとうという言葉と共に出ていくつもりさ。
「こんなお金で出て行けですって? ふざけてるの?」
「どっちも至って真面目だと思うぜ?」
「だ、だがこれじゃ捨てられたのと同じじゃないか!」
「いや捨てられたというか、自立させて貰ったと思うことにしてるけど」
黙ってらそのまま壊しかねないイリナちゃんと、憤慨し始めるゼノヴィアさんをどうどうと宥めながら俺は気にしてないと大真面目に自分の本心を告げる。
親が出て行けと言うなら子はそれに従うべきだし、俺より何でも出来る『お兄たま。』を可愛がるのは、例え本当は偽者でそれに気付いてなくとも真理だと思う。
だから俺は別に両親に捨てられたとは思わない。
寧ろ早くから自立できると信用してくれたと喜ぶところなのだ。どうであれね。
「センパイにはこの前言いましたけど、やっぱり正式にそうなっちゃいました」
家賃としてセンパイにこの札束二つを渡して部屋を貸して貰った方が、俺としては実に安らげるし。
「了解しました。これで堂々と一緒に住めますね? ふふ」
「ですです」
「私も居るのを忘れないで欲しいわね」
「わ、私もだぞ……」
俺らしく生きるには、あの家は窮屈すぎたんだよ。
これで漸く一誠君が……と思うと実に心が満ちていく。
紫藤さんとゼノヴィアさんは呆気なく一誠君を捨てた両親に対して憤慨している様ですが、窮屈を我慢してまで居る位なら、私が永遠を共にしてあげれば何千倍も良い。
だから私は一誠君の両親に何を思うことも無いし、寧ろありがとうございますとでも一筆書いて送る位はしてあげたい程だ。
「貴女達には余ったお部屋を貸しているので、家賃代わりに晩御飯の材料を手分けして買ってきなさい。お金とメモはこれですので」
「チッ、嫌味っぽく言っちゃって……」
「お、お釣りでアイスは駄目か?」
「良いですよ。人数分をお願いしますね?」
行く宛が無いのと、一誠君の知り合いという理由で住んでる家の部屋を貸している二人を体の良い理由で先ずは追い出そうと、わざと多目のお使いを頼む。
「イッセーくんに変な事しないでよね!」
その際紫藤さんがゼノヴィアさんに引き摺られながら煩く釘を指してきたが、私は別に一誠君に変な事をするつもりなんて無い。
「さてと……お使いをして貰ってる僅かな間ですが、一誠君を慰めてあげましょう」
「はい?」
だって変な事なんて初めてから一度もしてないんですもの。
「慰める? 俺別に落ち込んでませんけど……」
「じゃあ言い方を変えましょう、急に一誠君を甘えさせてあげたいので、お二人が帰って来て煩くなる前にに思いきり甘えてください」
共に堕ちてマイナスへとなった時から、私達は一緒に生きる事を誓っている。
だから住む家が無ければ当然一緒に住むし、頼れる人が居なくなれば頼れる者になる。
今更過ぎるけど、私は一誠君が大好きであるが故に、ちょっとした恋人気取りになりたくもなる。
「甘えるか……住まわして貰ってる時点で思いっきり甘えてる気がしてならないんですけどね」
「一緒に住むのは初めから決まってた事ですからノーカンです。それとも……やっぱり嫌ですか?」
「いえ全然、寧ろご褒美っす」
紫藤さんには悪いが、こればかりはいくら言われようが譲ってやるつもりなんて無い。
二人を追い出し、リビングに残った一誠君と並んでソファに座り、そのまま膝枕をしてあげながら頭を撫でる。
何度もやっている事だけど、こればかりは飽きない。
「リアスは何か言ってました?」
「さぁ? 俺あの人とそんな話したこと無いんでよくわかりません」
心地良さそうに目を軽く閉じてる一誠くんの頭を撫で続ける。
妙な事に随分と久しぶりというか……知らない間にモテモテに一誠くんがなってたとか、ちっちゃい子供と取り合いをしてたとか……そんな映像が頭の中で一瞬浮かんで来たけど、全部気のせい。
だって一誠君はちゃんと此処に居る……。
弱くて、負けてばかりで、理不尽な目に遇ってもヘラヘラ笑い続ける私と同じ
「夏休みになったら冥界に帰らなくてはならないのですが……困った事に一誠君とお会いしたいとサーゼクス様がおっしゃってまして……一緒に行きます?」
「留守番してるよりはセンパイと一緒の方が良いし、構いませんよ。
何で会いたいのかは知りませんけど」
私の大好きな人……パートナーはちゃんとココに居る。
それだけで私はもっと駄目になって幸せになれる。
「んー……センパイのお腹は温くて柔っこくてサイコーっす」
「ぁ……っとと、これじゃあ押し倒されたのと変わりませんね」
「いや、何故か微妙に久しぶりな気がしましてね。ちょっと色々とタガが外れて」
「一誠くんもそう思ってたのね――っ!? も、もう……私の小さい胸なんかに顔を埋めたって面白くも何とも無いでしょうに……」
「んー……このくらいが一番良いっす」
正しくて偉大で、褒められる様な事は他の誰かがすれば良い。
補足
思えばこれが原点でしたねー……。
そして一番安定してるというか、平和になっちゃってるというか……ソーナさんマジソーナさんというか……。
IFのストーカーなソーナさんとは大違いだぜ。