微妙にこの話の転生兄の性格を忘れとるのであんま自信無い。
故にイチャイチャで誤魔化した。
わざわざ匙君から貰った情報なんだけど、何でもお兄ちゃまは俺と違って悪魔からの受けが宜しいらしい。
グレモリーって人の実家の両親からも受けがよく、純血悪魔じゃないのに結婚云々カンヌんと言われて満更でも無いとか何とか……。
「すっげーな、あの『お兄ちゃま。』は。
どんどん出世してるじゃん……悪魔社会の中でだけど」
「あぁ、腑に落ちない点はあるんだが、奴はほら赤龍帝でこの前コカビエルを倒したって功績があるから……」
「はは、堕天使の人だっけ? そうだねぇ、
「何だよ? 何が可笑しいんだ?」
「い~やべっつに~? フフフフ!」
本人はコカビエルを倒す所かこんな俺の不意打ちで『気絶』し、起きたら自分がコカビエルを倒した事にされて疑心暗鬼になりかけてるってのに、周りからはどんどんと期待されていく。
まあ、あの何でもかんでも『優しく』そつなくやれる『お兄ちゃま。』なら、これからもその期待に答えられるだろうさ。ふふふ。
「お前、憎くないのかよ? 親はお前を捨てたも同然な扱いをして、他人の女を受け入れてるってのに」
「最初の頃は思ってたぜ? けどさ、結局の所決めたのはうちの両親だし、無駄に逆らう真似して拗れるよりかは言うこと聞いてあげる方が親孝行ってもんじゃない」
「そんなの無茶苦茶だろ……。お前、やっぱり変だよ」
「だろうね。けど今のところ後悔はしてないよ匙君。
ふふ、家を出たお陰でセンパイともっと一緒に居れるようになれたし……ふっふっふ」
「嫌味かこのヤロー……と、言いたいが、最近の会長を見てると思うわ。
お前みたいな奴じゃないと合わないんだろうなって……なんつーか、理解できないっつーかさ」
「その理解できない所が素敵なんじゃないか」
俺は俺なりに楽しく生きるから精々頑張って欲しいと心の底から応援するよ……ふふふ。
一応ソーナの両親に気を使い、極力ソーナにひっつく事はしなかった。
若手悪魔の会合ならびに、魔王・サーゼクスとの個人面談を明日に控える身であるので、この日もソーナの実家に留まってる一誠は、既に並みの悪魔から『穢らわしい存在』という認識を受け、あからさまに居ない者扱いをされていた。
「一つ学習したよ。どうもセンパイ以外の悪魔の人達も人間とあんまり精神は変わらないみたい。
もう既に何時もの対応だもの」
「ホント、ぶっ壊してやろうかしら……」
「良いって良いって、寧ろ何時も通り過ぎて肩肘張る必要が無いって考えようぜ?」
「だが露骨だろ。イリナにも徐々にそんな態度だし……」
「私は良いのよ、悪魔なんかに好かれてもしょうがないし」
雄大な自然に囲まれるシトリー領土の湖の畔に腰掛け、下手くそに石を投げて水切りを楽しむ一誠に対するあんまりにも露骨な対応に顔を歪めるイリナを、ヘラヘラ笑って宥めている。
ソーナの実家に籠ってても、遣いの悪魔達やソーナの両親の露骨過ぎる視線が鬱陶しいというイリナの要望に応えての湖訪問な訳だが、ここに来るまでもまた中々に修羅場だったらしく、一誠の頭から軽く血が流れていた。
「いやー石まで投げつけられる辺りもまた同じだよね? しかも悪魔さんって人間より強いから勢いが強いこと強いこと」
「顔は覚えたから絶対に後で壊してやるわ……あの悪魔達」
「それも良いよイリナちゃん。
そんなんで目くじら立ててたらキリなんて無いし、それに石投げつけられて怪我しても、逃げちゃえばなんて事ないもの」
米神を伝う赤い血を手で乱雑に拭き、傷口のある頭を撫でる一誠がスキルによる否定をし、一瞬で消しながらクスクスヘラヘラと笑い続ける。
現実を否定し、幻想へと逃げるマイナスが一誠の傷を消し去る訳だけど、石を投げ付けられた現実は存在し続けている。
だからこそイリナは報復に出たい訳だが、本人がヘラヘラとイリナにとってはドキドキするような笑みを浮かべながら下手くそに水切りをするもんだから抑える他なかった。
「イッセーくんが言うなら我慢するけどさ……」
「そうそう、蔑まれても、殴られても、罵られてもヘラヘラ笑い続ける。それが俺たちマイナスなんだぜ? もっと楽しくやろうぜ。あ、ゼノヴィアさんは違うけども」
「うっ、そうかもしれないけど私は仲間だと思ってるからな? やめろよ! 見捨てるとかはやめてくれ! ひとりぼっちは嫌なんだ!」
「わかってるって。マイナスじゃないにせよ俺達とつるもうって時点でキミも大概変わってるしね。
それに俺もトモダチは欲しいし」
聖剣という概念そのものを消し去った一誠により、デュランダルまで失ったゼノヴィアには最早相棒のイリナや一誠やソーナしか居ない。
故に必死だった。
「ほ、本当だろうな? 後でやっぱり嘘だよとか言わないよな?」
「言わない言わない。イリナちゃんの相棒の子だし」
「教会に戻った方がゼノヴィアにとって良いのかもしれないと思うんだけどね私は」
「も、戻れる訳無いだろ。神は死んでいた事を隠されて私は教会という組織そのものが信じられないのに……」
ある意味信用できる奴から見捨てられたくない……と。
そんなマイナス達とは別に、英雄と持ち上げられつつある兵藤誠八は、ソーナが実は一誠を冥界に連れて来ているとリアスから知らされ、グレモリー家の客室で難しくしていた。
「なんでアイツが……」
「何でもお兄様――兄から直接話がしたいからって理由らしく、明日の会合の時に会うみたいよ?」
「サーゼクス様がですか? 何で魔王様が人間一人と……」
「それは私にも分からないけど……もしかしたら彼の持つナニかを突き止めるつもりなのかも」
「それで危険なら殺す……ですか?」
「そんな事はしないわよ。紛いなりもアナタの弟君なんだから」
「……………」
一誠が冥界に、それもサーゼクスと面談する理由で来ていると詳細までは知らぬリアスに聞いた誠八は、眷属ですら無い奴が何故そこまで……と嫌な気持ちで両親から勘当された一誠を思い浮かべ、若干顔を歪めた。
「シトリー生徒会長の様子が完全に変質した事を部長はどう思いますか?」
「ソーナの事? ……まあ、確かに彼と深く関われば関わる程おかしくはなってるわね。
やっぱりセーヤは自分の弟のせいだと?」
「そうとしか思えません。だってアイツは昔から他人を不愉快にさせるし、人の気持ちをまるで考えない。
こっちが歩み寄ろうとしても拒絶する……そんな奴が何でシトリー生徒会長と仲良くなれたのか……まったくわからないから不気味なんです」
「今彼はソーナのお世話になってるみたいだけど、確かに不思議と言えば不思議ね」
確かに元々……というか今もそうだが、普通の人間――それもある意味底辺とも言える性格かもしれない男と何故気付いたらあそこまで仲良くなれていたのか。
「ある時を境にまったく隠さなくなったというべきか、最近はあの悪魔祓いだった二人とも一緒に居るし、何だか本当に変わったわねソーナは」
「そうさせたのが俺はアイツだと思ってるんです。
見たでしょう? 副部長や小猫ちゃんやアーシアに対する最低な話し方を」
「……。確かに煽る様な言い方だったわね、自覚があるない拘わらずに不愉快にさせるというのかしら?」
「そんな奴だからこそ、生徒会長の事を騙してる可能性だってあるんです。
だから早くアイツを生徒会長から引き剥がさないと、生徒会長まで……」
「そうは言うけどソーナ自身は楽しげだし、もっと言えば彼がソーナに対してそこまでするとは思えないと思うのだけど……」
コカビエルの件が一誠によるナニかと疑っていた誠八はこれまで以上に一誠を排除したがる言動が多くなっており、今もリアスに同意を求めるかの如く一誠は駄目だと話している。
「一応言うには言うけど……そこまで彼が嫌なの?」
「嫌とかじゃないんです。関わらせたくないんです。
アイツのせいで無関係な人達が不幸になるなんて……」
「不幸って……」
仮にも弟に向かってクズ扱いする時の誠八はどこか必死であり、それを最近気付いたリアスは確かに一誠自身に問題はあるかもしれないが、何もそこまで言わなくても……と胸の中で呟くに留める。
リアス自身も一誠がまともじゃないとここ最近思い始めてたので。
「取り敢えずその話は置いておいて、明日の会合を頑張りましょう。
ソーナ達も出席するし、その時にでも様子を見れば良いわ」
「………はい」
落ち着かせる為に頭を撫でつつ、この場に他の女の子が居ない事を利用して然り気無く抱きついたリアスにしぶしぶ頷く誠八。
それが正解だったのか、それとも終わりの始まりだったのか……この時点で知る者は誰もいない。
両親達からの一誠との関わりについての小言を右から左に受け流したソーナはと言えば、血塗れになってもヘラヘラしながら外から帰ってきた一誠を出迎えていた。
「あははは、冥界ってのはクレイジーっすねセンパイ。
三人して湖で遊んだ帰りに山賊に襲われちゃいました!」
「山賊? そんな輩はうちには居ないのだけど……」
「山賊じゃなくて多分この地に住む悪魔よ。
急に取り囲まれたかと思ったら襲い掛かって来たのよ」
「何とか追い払えはしたが、その……私とイリナは慣れてるから怪我も無かったが、戦闘力が無い一誠が袋叩きにされてしまって……」
そう一誠を怪我させてしまったと自分を責めてるのか、罰の悪そうにして襲われた経緯を話すゼノヴィアに、ソーナの顔が恐ろしいほどの無表情になっていくと、シトリー夫婦が口を開く。
「手当てをしてあげなさい。
それとうちの領土にそういう狼藉を働く者はいない」
「転んだだけじゃありませんか?」
「……………あ?」
自分達の管理するシトリー領にそんな野蛮な悪魔はいない、単に自分で怪我をしたくせに盛ったのではないかと言うソーナの両親の態度に、様子を見ていた匙達は『え?』と困惑し、思わず一番に反応してしまったイリナは、相手がソーナの親とも忘れて若干擦りむいた頬から血を滲ませながら食ってかかろうとする。
「ちょっとアンタ達いい加減に――」
「イリナちゃん! …………良いから別に」
「けど……!」
「大丈夫だから。
センパイもゼノヴィアさんも……大丈夫」
我慢の限界だったイリナが爆発しそうだったのを止め、同じく何かしでかそうとしていたソーナや、しでかすことはせずとも一言文句を言いかけていたゼノヴィアの肩をそれぞれポンと叩きながら血塗れの顔でヘラヘラ笑って見せた一誠は、思わず悪魔ですら吐き気を覚えさせる笑顔を深めてソーナの両親に言った。
「ごめんなさいセンパイのお父さんとお母さん。
確かによく思い出してみたら俺の勘違いだったかもしれません。ええ、そうですね……俺は転んだだけです」
「「………」」
不愉快さしか感じない笑顔で自分は転んだと訂正する一誠に、両親や聞いていた悪魔達やソーナの眷属達の顔が怪訝なものへと変わる。
しかしその怪訝な気持ちは――
「こんな転んだ程度で一々騒いで申し訳ございません。だから――
――――これで許してください」
傷だらけだった自分の指をへし折り、第二間接から骨が飛び出てる様を見せ付けながら謝罪した事で驚愕に変わる。
「なっ!? 何のつもりだ……!?」
「何故自分の指を……!」
当然驚く周囲。
だが一誠はその理由を答えない代わりに……。
「やっぱり一本程度じゃ足りませんか? なら二本でどうです?」
『!?』
ニコニコ笑いながら、へし折った人差し指の他に中指もへし折る。
「な、何をしてるんだ!? 何故!?」
「そ、そんな事をして何の意味があるのですか! やめなさい!!」
流石に気持ち悪くなってきたソーナの両親が怒鳴る様に一誠にやめる様に命じる。
しかし一誠はそれを――
「意味ならありますよ、ふふ……お騒がせしてしまったセンパイのご両親に対するお詫びがこれしか無いんですよ。こんなちっぽけな人間である俺に出来る事が……はい、三本目です。これでも足りません? あ、足りませんよね?」
笑いながら謝罪の意味だと返し、薬指をへし折った。
「あはは、こりゃ痛いや。良くみたら骨飛び出てるしね。
あ、でも段々痛く無くなって来たぞ? これはもしかして壊死でもしちゃったかなぁ?」
「や、やめろ! やめなさい!! 誰も謝罪など求めては――」
「いえいえ、これは求められるとか求めてるとかじゃなくて、俺自身のアナタ達に対して行える精一杯の誠意ですから……ふふ、はい小指もやります!」
あまりにも終わってるやり方に吐き気を覚えたソーナの父が顔色悪く一誠を止めようとするが、一誠はそんな二人に笑顔を絶やさないまま、鈍く嫌な折れる音を奏でさせながら小指の骨もへし折った。
「あー……右手の指がおしゃかになっちゃったなぁ。でもこれじゃまだまた許されないよなぁ? あ、そうだ逆の指も折りましょう! お二人が許してくれるまで! 足の指も! 歯も! それでも足りなければ目を潰し! それでも足りなければ手を切断! それでも足りなければ内臓をこの場でぶちまけて見せましょう! 許してくれるまで!!」
「「」」
あははは! と無垢に笑ってる一誠だが、言ってる事は吐き気を通り越した不愉快な言葉の羅列だ。
悪魔と言えども、いや、悪魔だからこそなのかもしれない。
脆弱な人間が平然とここまでやれるという様を目の前で見せつけられてしまって抱く得たいのしれない恐怖は、それまで毛嫌いしていたソーナの両親に思わず言わせた。
「わ、わかった許す! 許すからもうやめたまえ!」
「だ、誰も罰を与えるなんて事はしないから……お願いだから――」
「いえいえ、これじゃあ俺の気が収まりません……ふふ、大丈夫ですよ? これは只の俺の自己満足ですから、アナタ達は何にも『悪くない。』」
やめろと懇願にすら聞こえる二人の言葉に血で汚れた顔で笑いながら一誠は右目を折れてない指でくり貫き、その眼球をソーナの父の手に乗せ、悪くないと宣った。
結局これが引き金となって、遂に吐き気に耐えきれずにソーナの眷属達やシトリー家の使用人達はその場で吐き、両親もその場に尻餅を付くようにしながらヘタリ込んだ。
「い、今すぐに彼を治療するんだ! は、早く!! フェニックス家に連絡して秘薬を手に入れろ!」
そして生まれて初めて、只の人間に精神的にへし折られた。
精神的に潰される形となったシトリー夫妻は当然の様に寝込んでしまった。
そのせいでソーナと一緒に居ても文句すら言えなくなってしまった訳だが、一誠にしてみればそれこそが目的だった。
「すいませんセンパイ、ちょっと無理矢理過ぎました」
とはいえ、敬愛するソーナの両親を精神的に傷つけてしまったのは頂けなかったと思ったのか、客室へと戻るや否や、受けた傷をイリナとゼノヴィアのも含めて全て否定すると、二人をお風呂場に入らせ、二人きりとなって謝った。
「良いわよ別に。どうせその内似たような事を私がやろうと思ってたもの」
「本当はもう少し時間を掛けたかったんですけど、あのままだとイリナちゃんが完全にプッツンしちゃうと思ったんで」
ソーナに頼み込んで敬語口調を止めて貰ってたせいかより親密に見える会話を繰り広げながら、備えのソファに座る一誠。
「暫くは父も母も何も言わないでしょう。
明日には一誠くんも向こうに戻るし、会うことも無い」
「ええ、今更センパイを諦めろなんて俺には無理ですから」
「私も、ですよ……ふふ」
ソーナもその隣に座り、自然と肩が触れ合う距離で微笑み合う。
互いに顔を剥がしても好きだという感情がぶれが無いかと狂気とも言える確かめ方をしただけあり、周囲から何を言われようが離れる事は出来ない。
「二人はまだお風呂……ですよね?」
「ええ、シャワーの音が聞こえるから間違いないわ。ふふ、どうする? 今なら紫藤さんに邪魔されないと私はチャンスと感じてるのだけど?」
それ程までに二人は波長が合い過ぎた。合い過ぎてしまった。
イリナとゼノヴィアが席を外し、二人きりである事をわざとらしく微笑みながら強調するソーナが一誠の肩に頭を預け、手を重ねる。
それはソーナからの合図だ。
「あはは、センパイには敵わないなぁ」
その合図を受け取った一誠はソーナの肩に手を回し、ゆっくり向かい合うよう動かすと、どこまでもマイナスに濁る……一誠にとっては素敵な目をしているソーナと見つめ合い、掛けていた眼鏡を外してあげる。
「センパイ……」
「今はセンパイって呼び方は嫌。名前で呼んで?」
「わかりました、ソーナ……」
そして促されて名前で呼び、徐々に顔を寄せ合って額をくっ付け合うと。
「やっぱり大好きです……」
「私も大好きよ一誠…。
ふふ、皆して今更言っても遅いのにね……」
抱き合い、そのまま唇を重ねた。
何も変わらないと互いに教え合う様に、時間も忘れて何度も。
「ん、紫藤さんと違って胸が足りないかもしれないけど、ぎゅってしてあげる」
「胸の大きさとか俺全然気にしないですよ? そもそもセンパイ以外にして貰うとかも考えてないし………。
それにしても、センパイって安心する良い匂いがする……」
それこそイリナとゼノヴィアが戻ってきた事にも気付かず、特にイリナに大騒ぎされるまで何度も何度も。
補足
十八番、許してくれと逆に言うまで追い込む。
結果精神の一部をへし折る。
まあ今回の場合は、マジギレ寸前のイリナさんによる世紀末世界創造を防ぐためにわざとらしくああやったに過ぎませんけど。
その2
匙君も流石に慣れてたとはいえ、全開状態のマイナスにはつぶれるしか無かった。
その3
もう遅い。というかソーナさん自身も生まれながらに素養があることに気付かなかった時点で遅かれ早かれこうなっていた。
…………いや、やっぱり一誠と出会ってしまってそれに拍車掛かった感は否めませんがね。
その4
どこぞのひんぬー会長が見たら、このソーナさんを妬みまくるかもしれんくらい、一誠はソーナさんが好きすぎるようです。
しかし、なんでこんなお気に入り数が増えとんだ? ……てっきり50以上減ると踏んでたんだけどな……。