マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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まあ、疑心暗鬼というかタイトル通り被害妄想に囚われやすいというか、そんな性格してます。

少しだけ加筆しました。
これで最後です


被害妄想・一誠と専属教師・ソーナさん

 別に隠してるつもりは初めは無かった。

 ただ、俺自身の影が元々薄いせいか、センパイとの奇妙なツルみは何故かバレなかったんだ。

 だから今になってこうやってバレると何を言われるか分かったもんじゃない。

 ていうか、多分経験則から言って嫌がらせされる可能性が高い……。

 今日はまだ何もされずに1日を終えられたから良かったが……は、ははは……。

 上履きに画鋲仕込まれて、それを知らずに踏むのって結構痛いんだよなぁ。

 

 

「では本日は終わりです」

 

「っ!!」

 

 

 何時も以上に疑心暗鬼になりながら授業を終わらせた俺は、担任のその言葉を待ってましたかの如く鞄をひったくって教室を飛び出した。

 その際、クラスメートと呼ぶ連中のリアクションとか気にする暇も無く一目散に昇降口まで走り、下駄箱に置いてある靴の中に画鋲が仕込まれて無いかを確認しつつ上履きを鞄に突っ込む。

 最早上履きは毎日持って帰らないと不安で仕方無いのだ。

 

 

「……」

 

 

 さっさと靴を履き、また走る。

 恐らく今の俺はかなり必死こいた顔になってるだろう。

 別に他人からの嫌がらせには慣れているが、あんなもん受けずに居られるに越したことない。

 かなり辛いんだぞ、嫌がらせされるのは。

 そして無力なんだぞ、集団から嫌がらせされる身の人間は。

 

 

「……。ちょっと楽しかったんだけどな……」

 

 

 だからもう終わり。

 センパイと関わるのは今日で終わり。

 それでも嫌がらせが来るんだったら学校も辞めて独りで誰も俺を知らない地方の海で漁師の弟子入りでも何でもして自立する。

 俺はもう、あんな思いはしたくない。

 確かにセンパイはいい人で、俺も出会った時から今まで楽しいと思えたかもしれない。

 センパイは価値のない俺にああ言ってくれたけど、俺はそうまでして自分の意思を突き通す程強く無い。

 だから……。

 

 

「今まで、ありがとうございました……支取センパイ」

 

 

 ありがとうございます、そしてさようなら……。

 俺は門から出た所で、一度学園の方を振り返りながら小さく呟いた後、そのまま自分の中にあったナニかを捨てる気分になりながら走ろうとした――

 

 

「オイコラ」

 

 

 その時だった。

 

 

「っ!?」

 

 

 一気に駆け抜けようとした俺を、まるで足でも引っ掛けて転ばずかの様に誰かが後ろから肩を掴み、心臓が飛び出る位に内心ビックリして足が止まってしまう。

 そして遅れてやって来たのは、誰かに触れられたという恐怖で意思とは関係無くやってきた震えだった。

 

 

「な、なん……ですか?」

 

 

 昔から……いやあの日から俺は他人に触れるのも触れられるのにも怖いと感じる……所謂トラウマという厄介なものがあった。

 故に、今こうして後ろからかなり強い力で肩を掴まれているせいでカタカタと身体の震えは止まらないし、何と言っても一番の理由は、俺を止めたその人物にあった。

 

 

「今さっき廊下を全力疾走したな? 校則違反の為来て貰おうか」

 

 

 俺の中で多分他人の中では最悪に顔を合わせたくないランキングトップ5に入る匙君だったからだ。

 

 

「うっ……」

 

 

 最悪だ。

 よりにもよって匙君。

 バカで無能の癖にセンパイと妙な仲のせいで嫌われてしまってる相手である匙君……。

 確か喧嘩が強いとか聞いた事のある匙君……………ぐっ!

 

 

「す、すいません。よ、用事がありまして」

 

 

 匙君に付いて来いだなんて言われたのは初めてで、この時の俺は只ひたすら逃げたかった。

 だからその場凌ぎの嘘のつもりで、震えと吃り口調で完全な挙動不審野郎モードで言い訳を口にするが、相手は匙君だ…………そんな俺の嘘をアッサリ見抜きやがった。

 

 

「ないだろ。あのな、お前とは何度か顔を合わせてるし、どんな人間なのかもある程度知ってる。

急いで帰る理由なんて今のお前にないだろう?」

 

「うっ……!」

 

 

 全くその通り過ぎてぐぅの音すら出ないとは正にこの事だ。

 

 

「やっぱりな、ほら来い」

 

 

 露骨に顔を歪める俺に、呆れた様子の匙君は容赦無く俺の腕を掴んで、脱出しかけてた筈の学校内に再び俺を連行する。

 

 

「あ、あ、あの……あ、明日ちゃんと来ますから今日の所は……」

 

「駄目だ。

気に入らんが、会長がお前を連れて来いとの命令だからな。だから俺はお前を連れていく」

 

 

 まるで死刑執行前の囚人気分で学校内に戻される俺にキッパリと見逃さないと宣言する匙君に、俺の心は絶望半分と疑問半分が支配する。

 

 

「センパイが?」

 

 

 いや、まあ確かにセンパイとは特に意味もなく会うとか良くあったけど……とまだ止まらない震えを我慢しながら思わず口にすると、どう見ても不機嫌なオーラ全開な匙君が前を見たまま言う。

 

「お前が今朝会長と屋上に居た時と昼休みの時、しきりに嫌がらせをされると疑心暗鬼になってたらしいな?

会長はそれを心配して、放課後お前を生徒会室に連れていく予定だったんだ。

それをお前……学年が一緒の俺が呼びに行こうとしたら廊下を爆走しやがって……」

 

「あ、あぁ……なるほど……」

 

 

 不機嫌にそう言う匙君を怒らせないように当たり障り無く納得しましたと首を縦に振る。

 

 

「センパイが……そうなんだ……」

 

「ったく、会長に要らない心配をさせやがって。

出来るならお前を一発ひっぱたいてやりたいくらいだ」

 

 

 いつの間にか靴下の状態で歩かされ、匙君の言った通り生徒会室と書かれたプレートがある扉の前まで来ていた。

 そういや生徒会室って所は来たこと無いなとちょっとだけ落ち着いた心で思いながら匙君を見ると、やはりセンパイの件でアレだったのか、相変わらずの仏頂面を俺に見せてくる。

 

 

「まさか、会長の好みがお前みたいな駄目男だったとはな……」

 

「だ、駄目男……」

 

「あ? その通りだろ? 辛いことから逃げようとするわ、アレだけ会長に世話になっときながら信用できないとほざくわ……。ホント、機会があったら殴り倒したいぜ」

 

「はい……そっすね……すいません」

 

 

 ド正論過ぎて言い返せない……というよりは最早言い返す気すら起きない。

 センパイは確かにいい人だと思う。

 けど……今匙君が言った通り……俺は世話になっときながらセンパイを信用してないのだ……心の何処かで。

 それはあのトラウマのせい――――いや、元々俺はこんな性格なんだろう。

 天の邪鬼……とでも言うのか。

 こんな人間、センパイもさっさと切り捨てちまえば良いんだと思ってる時点でな。

 

 

「…………」

 

「おい、色々言わせて貰ってこんな事言うのも変だが、そのみっとも無い顔を会長に見せるなよ?」

 

「…………うん」

 

 

 みっとも無い、ね。

 俺は何時でもそうなんだよ……。

 心の中で匙君に言い返した俺は、変わらずの仏頂面でドアを開けて中に入れと促される。

 正直な所、今センパイに会いたくないのだが、それを言ったら今度こそ宣言通りぶん殴られるので、重たい足取りで中に入ると、センパイ――だけじゃなく、数人の女子の人達が一斉に俺に視線を向けている。

 

 

「…………ぅ」

 

 

 駄目だ……思ってた以上に居心地が悪い。

 昔からそうだ……独りで何かするのは良いけど、こうして注目されるのは胃が痛くなる。

 キリキリと痛むお腹を無意識に抑え、どうして良いのか分からずに立ち尽くしていると、後から入ってきた匙君が鬱陶しそうに俺の背中をグイグイ押して生徒会室の丁度真ん中辺りまで移動させると、棒立ちしてるだけの俺の隣に立ち、椅子に座って俺を見ているセンパイに向かって口を開く。

 

 

「会長、連れてきました。

逃げるように廊下を走って帰ろうとした所を捕まえてきました」

 

「ご苦労です匙……」

 

 

 さっきまでの仏頂面を引っ込めて、薄く笑みを見せながら捕まえたと報告する匙君にセンパイは小さく礼を言いながら椅子から立つと、相変わらずジロジロ見られて胃がキリキリし、靴下履いた自分の足を一点見しか出来ない俺の前に立つ。

 

 

「大丈夫ですか一誠くん?」

 

 

 そして先の影響でまだ少し震えが止まらない俺の手を取って握ると、何時もの様に俺に話し掛けた。

 普通に……何時も何処かで出くわした時の様に。

 その瞬間、自分でも驚いているが、身体の震えが止まった……。

 

 

「あれ、震えが……止まった……?」

 

 

 何でだ。

 匙君と同じで他人に触れられてるのに、震えが止まった。

 いや寧ろ、風呂から上がって身体が暖かいまま寝る時のあの気分の良さとも言うべき何かが俺の身体を包み込む。

 一体これは何なんだ? 同時にさっきまで見られていた事でキリキリと痛んでいた胃痛も収まったし………わかんない。

 

 

「大丈夫みたいですね。

けど、廊下は走っちゃ駄目ですよ?」

 

 

 どうしてだ。

 この前からそうだけど、何でこの人に触れられても震えが無いんだ。

 分からない……いくら考えても分からないけど……。

 

 

「すいません……。

68年に発売された初代人生ゲームの復刻版を手に入れたんですよ。

だから早くやりたいが為につい……」

 

 

 さっきまでの焦燥感もパッタリと無くなり、俺は何時もの通りの感じにセンパイと話をすることが出来た。

 

 

「それ、独りでやるんですか?」

 

「え、そうですよ? あれ、何処かおかしいですかね?」

 

「それってTVゲームじゃ無くてボードゲームタイプだろ? 普通は一人でやらないというか……お前やっぱり変だわ」

 

 

 取り敢えずセンパイも居るし何もされないだろうという事もあって、少し自分を取り戻した俺の言う事に何故か匙君が引いた顔しながら言っている。

 ん、何かおかしいのか?

 

 

「え、何で? 人生って個人一人で歩むもんで、それをボードゲームにしただけじゃん。

じゃあ独りでやったって何の問題も無いと思うんだけど」

 

『……』

 

「それを真顔で言い切るのは一誠くんぐらいなものです。

わかりました? 一誠くんはこういう人なの」

 

『……………』

 

 

 いつの間にか俺に対してセンパイ以外の全員が引いた顔をしているのにただただ首を傾げる。

 何処が間違ってるのか全然分かんないし。

 

 

「んー……あのセンパイ。何でこの人達は俺を変な目で見てるんですか?」

 

「真顔でパーティーゲームは独りでやるのが当たり前だと宣うからです。

それより、廊下を走った事に関しての反省文を今から書いて貰いますので、此処に座ってください。

そういえば上履きは?」

 

「あ、鞄に入ってます……履きます今」

 

「よろしい。椿姫、一誠くんに何か飲み物を」

 

「は、はい」

 

 

 パパッと椅子に座らされ、文句言う暇もなく紙とペンを渡された俺は、言われるがままに反省文を書くこととなった。

 で、その内容を考えてる最中、そういや会長さんやってるセンパイを近くで見るのって初めてだなぁと、室内に居た人達に何かしらの指示を出してるセンパイに自然と目が行くと、背後から低い声で『オイ』と匙君が俺を呼ぶ。

 

 

「見惚れて無いでさっさと書け」

 

「う……うっす」

 

 

 さっきより地味に怖い声が、逆らうとロクな事にらんと本能が告げたので、俺はセンパイに向けていた視線から真っ白な紙へと移そうとした瞬間、センパイが急に思い出したかの様に俺の座椅子の隣に来て言った。

 

 

「今日は……いや今日から一緒に帰りましょう。

今まではお互い放課後は時間が合いませんからね。今回の事で私は決心しました」

「…………!」

 

「え……でも……」

 

 

 帰るって……そりゃ何も無ければ構わないけど、今朝の事があるし見られでもしたら……と背後からちょっとした威圧感を感じながら躊躇気味な声になる俺に、センパイは何処か自信ありげに口を開く。

 

 

「今朝から一誠くんの抱いてる心配事なら大丈夫です。

もう手は打ってありますから堂々としてても誰も一誠くんを傷付けたりはしません」

 

「ホントかよ……」

 

 

 人間が徒党組んだら個人なんかあっという間に螺子伏せられちまうのに、センパイは何処か『それ見たことか』みたいな顔で心配ないと言っているのが信じられない―――――って、こういうのが駄目なんだろうか俺は。

 

 

「現に今日何かされました? されてないでしょう?」

 

「……………。た、確かに何もされて、無いけど」

 

 

 言われた通り、確かに俺は今日何もされてないし、何時もの通り空気だった事をハタと思い出す。

 え、あれって1日逢えて放置して、安心した所を突き落とすという作戦とかじゃなくてセンパイが何かしたからなのか……? だとしたらかなり凄いんだが……。

 

 

「だから今日は一緒に帰りましょう。ね?」

 

「…………。は、はぁ……それなら断る理由もありませんし」

 

 

 あ、まただ。

 確証なんて無いのに、センパイを少し信じてる。

 何でセンパイの言うことを…………うっ!?

 

 

「羨ましいな色男さんよ……」

 

「え……あ……だ、だったらキミも良かったら一緒に……」

 

「俺をバカにしてるのか? 入り込める訳ねぇだろうが……!」

 

 

 後ろから感じる威圧感の正体に何と無く気まずくなったので誘ってみたが、物凄いドスの効いた声で凄まれてしまった。

 俺は微妙にまた居たたまれない気分で、廊下を走った事に対する反省文を書こうとするんだが……。

 

 

「一誠くん、ここの字間違ってます」

 

「あぁ……すいません」

 

「あと、ペンの持ち方がまた間違ってますよ。

正しくはこうです……」

 

「あ、すいま――え、ちょっと……!?」

 

「なっ……!?」

 

 

 このタイミングで先生モード入っちゃってるセンパイが、癖で中々直せないペンの持ち方を正そうと俺の後ろに回り込んで手を握ってくるせいで何かが背中に当たってる。

 毎回疑問に思うこの変にグニグニした感触は何だ?

 胸の脂肪……じゃないか、そんな無かった気がしたしこの人。

 とにかく周囲の視線がギョッとしてるというか、信じられんものを見てるというか……とにかくまた視線が痛い。

 特にさっきから怖い匙君がどんな顔してるのか戦々恐々なのに、センパイは知らん顔して俺の指導に熱心だ。

 

 

「人差し指と親指を……って、聞いてるんですか?」

 

「あ、はい聞いてます。聞いてますけど、今は反省文の方が優先では――」

 

「一誠くんの癖になってるその持ち方だと、指の皮が剥けて痛いんですよ? その前に持ち方を直してからでも遅くはありません」

 

「だ、だったらこんな園児に教えるみたいなのは止めて欲しいというか……何か皆見てるし……」

 

 

 この人って生真面目っていうのか? そのせいで頑固な所があるというか……一度決めた事はやり通すまで止まらないのが此処で出てしまったせいで、ずっとさっきからセンパイのお友達がガン見してる。

 何か知らないけど、その見られてるのが胃痛じゃなくて気恥ずかしいというか……これも初めての気持ちだ。

 

 

「何でですか……? 普段の一誠くんはそんな事言わないのに……」

 

「普段!? ふ、普段からこんな感じなのかよ!?」

 

 

 嫌がる俺に、何故かセンパイの声に元気が無くなっていきながら多分余計な事を言っちゃったせいで、案の定匙君が声を張り上げながら驚いている。

 いや、まあ……そらビックリするわ。まさか持ち方からレクチャーされてるほどの馬鹿なんだもの……。

 

 

「な、何て羨まし――いや、違う!

オイ兵藤! そんな所まで会長の手を煩わせるな馬鹿!!」

 

「で、ですよねー……」

 

 

 ごもっとも過ぎる匙君の言葉に何も言えない俺は只笑うしか出来きずに乾いた声で笑ってると、それまで背中に感じてたセンパイの身体が離れ、何やら匙君の方を見ると、妙に低い声でこう言った。

 

 

「私が好きでやってるだけよ。文句ある?」

 

「うっ……無い……です……すいませんでした」

 

「でしょう? 貴方ならそう言ってくれると思ったわ匙」

 

「………」

 

 

 顔は俺からは見えなかったが、途端に萎縮した所を見るとやはり匙君もセンパイに勝てないらしい。

 顔を引き吊らせながら謝る匙君に対して急に元の声色に戻すセンパイの顔がどんな顔だったのかが気になるが、あまり深く追求するのはナンセンスだと思い、再会したセンパイの有り難いご指導を有り難く拝聴するのであった。

 

 

「さ、匙くん……元気出して。ね?」

 

「そ、そうよ……私達が居るから……」

 

「……………」

 

 

 彼等のお友達である女子の人達全員に慰めて貰ってたのを見た時は本当に自分でも良くわからないけど、匙君に心の中で土下座しておいた。

 

 

「猫背は良くありません。

もっとこうして背筋を伸ばしなさい」

 

「ちょ、あのセンパイ……暑苦しいんで離れて貰えません?

言って貰えるだけで結構なんで」

 

「無反応だから嫌です」

 

「何に対してだよ。ワケわかんないなこの人は」

 

 

 ホントマジで意味の分からない罪悪感なんて感じたくないのに……。




先に言うと、兄者はよくあるフラグ男です。

内容は次回

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