マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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夢と現実を混ぜてしまうマイナス(某オーバーヘヴン)

永遠に真実という未来に到達させないマイナス(某レクイエム)

全てを壊してしまうマイナス

不幸を押し付け、幸運を奪い尽くすマイナス


目覚める必要の無い凶悪なマイナス達が交わった時、それは始まる。


神をも嫌悪させるマイナス

 最初に見た時、オーディンはハッキリとした嫌悪を抱いた。

 人間三人に悪魔ひとりという不可思議な組み合わせ。

 

 しかしそんな不可思議な組み合わせだろうとも、共通して彼等から感じたものは、潜在的な恐怖だった。

 

 

(震えているのか……ワシが……?)

 

 

 非力にしかみえない人間。

 その気になれば瞬きすら許さぬ一瞬でこの世から消し飛ばせる筈の人間に対して、オーディンは自身の手先が僅かに震えている事に動揺した。

 

 

「あのさ、ホントの本気で勘弁して貰えないかな? 見てお分かりの通りさ、俺達は友人同士の馴れ合いをしながら平和に、静かに、道端の雑草の様に楽しくその日を必死に生きてる訳なのよ。

確かにキミがコジローに導かれた結果、あんな出会し方をしたってのだけは認めるけど、ほら、キミにはキミの立場と人生がある訳だろう? だから恋人だの結婚だの言われても非常に困るんだよね…………さっきから向こうからの視線や、そこのおじいさんの視線が痛いし」

 

 

 特にこの、今殺意を放つ赤龍帝の青年をそのまま少し幼く、華奢にしたような少年は一体何があったからこんな腐っているのか、オーディンの『眼』をもってしても解読不能だった。

 

「いえいえ、アナタのその言動でますますその気になりますよイッセーさん。

こういうのを『ふるえるぞハート! 燃え尽きるほどヒート! 刻むぞ恋のビート!!』と言うのでしょうか?」

 

「そもそもキミが何で俺にそういう認識をしてるのかが理解不能なんだよね。

下着を見られたから結婚ってキミは言ってたけどさ、俺はキミから逃げる為の出任せでそう言っただけで見た訳じゃないし」

 

 

 放つ言葉の全てが信用ならない。

 一人ハシャイデるロスヴァイセ相手にうんざりしながら説明するその仕草に嫌悪が止まらない。

 

 

「聞いてたでしょ? そういう訳だからアンタが入り込む余地なんて最初からないの」

 

「そもそも住む場所すら違うのですし、さっさと忘れて明るい未来を生きた方がアナタの為になりますよ?」

 

「このクッキー美味しいな」

 

 

 そして彼の友人と自称するこの三人もまたおかしい。

 クッキーを空気も読まずに食べてる青髪の少女はまだマシにしても、この残りの悪魔の少女とツインテールの少女は少年とほぼ同じ嫌悪感を感じてしまう。

 

 

「どうも聞いてみれば互いに意見の食い違いがあるみてーだ。

どうだ? この場は一旦収める事にして、後日改めて話の場をもうけるってのは?」

 

 

 正体がわからない。

 何故これ程の感情を彼等に抱いてしまうのか、そして何故よりにもよってこの秘書は彼に対してそんなことを言い出してるのか……。

 長い間君臨してきたオーディンですら、初めて明確に出ない答えに頭を悩ませる事になるのだった。

 

 

「悪いねお兄ちゃん。お邪魔しました」

 

「………………」

 

「おーおー、そんなに睨まなくても小市民はさっさと退散しますっての。

にしても、普通の家がこうもデカくなるとは驚きだよ、お父さんとお母さんに祝福の挨拶したらぶっ倒れちゃっんだけど、後で言っといてくれない?」

 

「さっさと消えろ!!!」

 

「わかってるって。そんなピリピリしなくてもお望み通り消えてあげるさ。

ほらゼノヴィアさん、食べてないで早く帰るよ」

 

「ま、待て! せめて後一枚はお持ち帰りで……」

 

「そんなの、欲しければ帰りに買ってあげるわよ」

 

「じゃあリアス……また明日とか」

 

「え、ええ……」

 

 

 

 明らかに嫌悪する兄に対して飄々としながら去っていく弟。

 恐らくもっとも波長が食い違った兄弟とは彼等の事なのかもしれない……と、オーディンは思った。

 

 

 

 

 

 

「くふふっ! 挨拶もしちゃったし、連絡先も手に入れちゃった~!」

 

「あんまりウザメールとかするなよ? 渡した俺が文句言われるんだからよ」

 

「わかってますって~!」

 

 

 来て数分で空気を台無しにするだけして帰っていったイッセー達。

 兵藤家のリビングでは、実に重苦しい空気が流れていたが、ロスヴァイセとアザゼルだけはお気楽なものだった。

 

 

「な、何なんですかあの人達は!? ま、前に見た時よりもっとき、気持ち悪く……!」

 

 

 普段人の悪口なんて言わないアーシアが、青白い顔をしながら全身を震わせ、イッセー達の放っていた吐き気を催すなにかに恐怖していた。

 それは誠八も、木場も、オーディンも、バラキエルも、リアスも同意した。

 

 

「アザゼル、あの者達は何者なんじゃ? 姿形は確かに人間や悪魔かもしれぬが、明らかに中身が別種に思えてならんぞ」

 

「俺が知るわけないだろ。(知ってるけど)」

 

「でも貴方は彼等と平然と接する事ができるでしょう?」

 

「あ? 普通に接するからって俺がアイツ等の味方だとか、理解できてるって思ってるのか? 悪いが俺は奴等の味方じゃなくて担任だよ」

 

 

 悪平等の中でも変人気質なアザゼルが、疑惑の眼を向ける者達に対して馬鹿馬鹿しいと一蹴すると、イッセーの連絡先を手に入れられて舞い上がっていたロスヴァイセが早速とばかりにイッセーにメールを打っていた。

 

 

「連絡先のメモリーには『私の旦那様(はぁと)』とでも付けちゃったりして! きゃ~!!」

 

「ろ、ロスヴァイセ……」

 

 

 そんな秘書の見たことの無い舞い上がりっぷりに、普段はしょっちゅう弄りまくるオーディンもドン引きしていた。

 

 

(キャツ)等の云う通り、ワシ等と奴等とでは立場も住む場所も違う。

何をどう思ってしまったからあの少年に対してそう思ってしまったのかは聞かぬが、すぐにでも忘れた方が良い」

 

「同感です。アイツに深く関われば貴女が不幸になる」

 

 

 このままではマズイという勘が働き、オーディンはとにかくロスヴァイセにイッセーの存在は全部忘れた方が良いと言い、それに誠八も同意しながら忠告する。

 どちらにせよ、あのイッセーと関わって良いことがあるとは到底思えないのだ。

 

 

「何故ですかオーディン様? 私がこのまま寿退社したらからかえなくなるからでしょうか? 一生独身の方がネタとして扱えるだけのヴァルキリーだからでしょうか?」

 

「い、いや別にお主にそんな事を思ってるからではないぞ……」

 

 

 今さっきまで頬を染めながらクネクネしていたロスヴァイセが急に真顔になって言い返すものなので、思わず狼狽えてしまうオーディン。

 その目はかつて彼女が、ほんの一瞬だけ見て気のせいだと思った、暗く、濁ったものだった。

 

 

「ふむふむ、潜在的に抱えても自覚をしなければ発現はしない。

そして既に発現している者と接触さえしてしまえば……いや、イッセーの持つ気質もまた理由のひとつか? どちらにせよ上手く行けばもっと手頃にアイツが昔諦めたフラスコ計画が……」

 

「何をメモしてるのよ?」

 

「いーや別に?」

 

 

 そんなロスヴァイセの様子を視ていたアザゼルが手帳に何かを記している。

 何のメモなのかはリアスにはわからないが、何と無く嫌な予感はした。

 そしてそんなマイナス達をもっと近くで見てしまったバラキエルは更に朱乃を心配していた。

 

 

「頼むから彼と親しくなりたいだなんて思わないでくれ! 彼とソーナ・シトリーという友人達を見てわかった! あ、あれはまともじゃない!!」

 

「まともじゃないのはお互い様でしょう? 普通の人達にしてみれば我々もまともじゃない」

 

「そ、そうじゃない! 根本的に違い過ぎるのだ!

我々とは絶対に相容れないのだ! 俺にはわかる!」

 

「相容れてますわよ、ソーナ様は」

 

「彼女は最初からそうだったのだろう! そうでなければあんな……! あんな!」

 

 

 イッセーが誰と恋愛しようが朱乃にとってどうでも良いし、別に朱乃も小猫も彼に対してそういう感情は零だ。

 だが、彼等が形成するコミュニティはどんな生まれだろうと、どんな生き方をしてきたのだろうと、一切の差別が無く、偏見も無ければ、互いに同等の立場として自然に振る舞える。

 

 それは二人にとってまさに理想とする関係なのだ。

 

 だからこそ、イッセー達とロスヴァイセを見比べて初めて彼等は同じ存在だと気付かされた二人は、こんな簡単にグイグイと行けるロスヴァイセが羨ましい反面、恨めしかったのだ。

 

 

 

「バラキエルさんの言う通りです。

二人は少し冷静に考えるべきだ、アイツは――アイツに関わる人達はまともじゃない。

このままだと本当に取り返しのつかないことになりかねないんだ」

 

「そ、そうだ朱乃! よ、よく考えてくれ……こればかりは本当にお前の事を思って言ってるんだ!」

 

「………」

 

「小猫も、私にはそこまで毛嫌いする相手とは思えないにしても、最近少し変よ?」

 

「………………」

 

 

 友人達が止めてくる。

 それはきっと正しいのかもしれないと、朱乃と小猫も理解はする。

 しかしそれ以上に、あの自然体な彼等の関係が羨ましいのだ。

 

 彼等の中の誰かが危ない目にあったらきっと、どんな手を使ってだろうが全力で味方になってくれるだろう彼等の関係が。

 いや、勿論この仲間達だって同じなのはわかってるけど、それでも……魅力的なのだ。

 

 

「そういえば、さっきお二人はわーわーと騒いでましたが――あーなるほど? さっきイッセーさん達を見て大体感じ方を理解し始めてきましたが、お二人には皆無なんですねぇ? そりゃあ確かに相手にもされませんよ」

 

「「……!」」

 

「ろ、ロスヴァイセ?」

 

「! マイナス成長だと? おいおい、本当に黒神めだかの対極だなアイツは。

意図せずとも堕落させる事に関しては天才的だぜ」

 

 

 だから決定的に欠けている何かかがわからない。

 

 

『自分を不幸だと呪ってるだけ、キミ達は間違いなく幸せ者(プラス)だよ』

 

 

 以前イッセーから言われた言葉が二人の心を刺す。

 

 

「どんな経緯があって、彼等に目を付けたのかは存じませんけど、ひとつだけ分かる事はあります。

自分だけが周りと違って不幸だと思い込むのは勝手ですけど、誰かに救いを求めるのは間違ってますよ。

どんな理不尽な不幸があろうと、どれだけ笑われ様と、どれだけ心が折れてしまおうとも表に出さずに笑い続けるべきです」

 

「「!」」

 

 

 それは奇しくもロスヴァイセの持論にとても似ており、彼女が抱え続けた様々な不運を前にしても人に助けは求めずに笑って誤魔化し続けていたという告白にオーディンの表情が僅かに歪んだ。

 

 

「だから良かったと思ってますよ今は。

彼等という存在は私の生き方に間違いが無かったという証明になりましたから。

確かに何度も挫けそうになりましたし、何度も死んでやろうかと思いました。

けれど、これからはもっと前向き(マイナス)に生きていける……イッセーさん達の存在が私に自信を持たせてくれたのですからね」

 

 

 身に降り掛かる、常人ならとっくにへしおれていたろうレベルの不運に苦悩し続けた女性は、遠い日本という国で出会った負の塊を体現した過負荷達によって、逆という意味での生きる自信を持ってしまった。

 

 

「これからは、愛しき人と同じ様に私は不幸を抱き締めながら生きようと思います。

くふふ、素敵な恋人もできた今、私はかつてない程に充実した人生と遅れ、気合いの入ったお仕事にも打ち込める気がしてなりませんよ! ね、オーディン様! 今の私は凄まじい気合いが入っているでしょう!?」

 

「あ……あぁ……そう、じゃのう……」

 

(同類を得た事で一気に凶悪化したから、本人に自覚は無い様だが……。

なるほどな、そこで絶望した顔をする兵藤誠八が憎悪する理由がこういう訳だ)

 

 

 最初に覚醒してしまったマイナスは、同じ者を惹き付ける波動を放ち、それを感知してしまった者は同様の退行をしてしまう。

 夢と現実をねじ曲げ、手を取り合った者と共に退行し続けていく事こそが一誠の持つ真骨頂だったのだと、ロスヴァイセの姿に戦慄するオーディン達の横で密かに『笑って』いた。

 

 

「あ、しまった。日本に居る間はちゃんとしたデートをしなければいけませんよね。

早速メールで――いえ、こういう時はお互いの声を聞くことで親密度を上げないと……!」

 

「あー、盛り上がってる所悪いが、さっきも見た通り、アイツをデートに誘うには並大抵の障害を乗り越えないと無理だぜ?」

 

 

 何時しか神という概念とは真逆に位置する新たな集団が形成されるかもしれないという、未知への喜びにアザゼルは研究者気質の血が騒いだのだ。

 

 

「だから言ったでしょう? アイツとアナタ達は違うから、関わった所で不幸になるだけなんだ。

お願いだから目を覚ましてくれ……!」

 

「「………」」

 

「そうだ、この目で見て確信したが、二人と彼等は根本的に違うんだ」

 

 

終わり




補足

これはリストラさせても文句言われねぇし、その元凶疑惑のあるイッセーが敵認定されてもしょうがないね。

その2
割りと研究者気質がざわついてニヤニヤがとまらんアザゼルさんのせいで、折角の同盟ももしかしたら台無しに……、


その3
憎いとかじゃなく、共存不能の生物として認識しはじめたノーマル達。

 アカン、気付いたら敵だらけや!


その4
断っておきますが、あけのんと小猫たんは決して一誠に対してそんな感情はありません。

ただ、彼が惹き付けた独自すぎるコミュニティに救いを感じてるだけです

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