マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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完成したマイナス組。

今日も元気に負を撒き散らしながらマイペースな日常を送るのだが、唯一まだ何も持たぬゼノちゃんは、そんな自分に持つ必要はまったくない劣等感を抱いていました……。


マイナス組の日常
泣き虫ゼノヴィアちゃんとの違い


 彼等から『安心』を常に貰うという事とは、彼等から『仲間』と認めて貰う条件というものはそういう事なのか。

 ロスヴァイセというヴァルキリーを見て小猫と朱乃は思い知ってしまった。

 

 

『会えない、声が聞けない、姿が見えない、話せない、手も繋げない、温もりも感じられない……』

 

『何を一人でブツブツと―――っ!?!?』

 

『ロ、ロスヴァイセ! どうしたと云うのじゃ!?』

 

 

 北欧神話内の小競り合いに巻き込まれる形で護衛に出ていたリアス達悪魔が目にしたのは、同じ悪魔であるソーナの様なナニかを放ちながら虚ろな瞳で親指の爪を噛む、明らかに様子がおかしくなっていたロスヴァイセ。

 

 彼女はオーディンの秘書であり、どういう訳か全く無関係の筈のイッセーとどこかで邂逅していた女性だった。

 オーディン曰く、ただの人間とは思えない嫌悪感をどうしても抱いてしまうイッセーとの出会いからロスヴァイセは何かのタガが外れてしまったの如く彼との接触が無い事で精神の均衡を崩しているとの事。

 

 それは襲撃者との戦いの最中もずっとそうであり、途中で応援に現れたサイラオーグやソーナ達と共に戦っていてもロスヴァイセはブツブツと陰鬱なオーラを撒き散らしながら佇んでいた。

 

 が、恐らくはその時からだっただろう。

 何かがおかしくなり始めたのは。

 

 

『うわっ!?』

 

 

 戦っている最中、空から大粒の雹が降り注ぎ、運悪く戦っていた者や獣の脳天に直撃してしまったり。

 

 

『ぬ、何故雹が――うぐぅ!?』

 

 

 空を見上げたオーディンに運悪く先端の尖った雹が落ちて右目を貫いてしまったり。

 

 

『ハハハハ!! これは傑作だぞ、オーディンの右目が雹で使い物にならな――ギャアッ!?!?』

 

 

 それを見て襲撃者が嗤えば、今度はその襲撃者に向かって隕石が降り注いで押し潰してしまったり……。

 

 

『きゃあっ!? い、いきなり火がっ!?』

 

『うぐわっ!?』

 

『せ、誠八くん!?』

 

 

 何も無い箇所から突然発火し、全身大火傷を負ってしまったり……。

 

 

『これは……!』

 

『…………』

 

 

 それを見ていた無事な者達は、突如訪れた各々の不運による被害を前に驚愕してしまう。

 そしてその不運の地獄絵図と化した戦場のど真ん中には、ただ一人外から見ていた者以外で無傷のロスヴァイセが笑っていた。

 

 

『もう良いわ。

私だけ不幸ばかりなんてもう沢山。

だから皆も一緒に不幸になりましょう? そうすれば世界は平和になります』

 

 

 これまで不運続きで、それでも笑って誤魔化し続けたロスヴァイセの精神の中にある最後のスイッチが壊れた。

 それは自分ばかりではなく、周囲の全てにすらその不幸を撒き散らし、天災クラスの破壊力となって襲い掛かった。

 

 それはロスヴァイセの持つナニかが完全に解放されたと同じであり、それを見ていたソーナはすぐに『自分達と同じ』だと理解した。

 

 

『あの人に逢えないなら、皆不幸になってしまえば良い……!』

 

 

 同じだ、イッセー達と。

 嗤いながら不幸を撒き散らすロスヴァイセを前に小猫と朱乃は戦慄しつつも羨んでしまった。

 

 

『そんなに逢いたいなら私が会わせてあげても良いですよ』

 

『! アナタは噂のソーナ・シトリーさん!? 本当ですか!?』

 

『ええ、今彼は仲間達とキャンプに出掛けてるだけですので』

 

『キャンプ? あ、だから探しても見つからなかったのね! それなら是非!』

 

 

 彼等の輪に無条件で入り込めるものを持つロスヴァイセが……。

 

 

 

 

「え、修学旅行には行かないの? 京都ですよ京都?」

 

「積立金とか払ってないからね。それに向こう行ってる間はセンパイと会えないでしょう? だから余計に行く意欲なんてないよ」

 

「えぇ? 折角の新婚旅行の場所としてはうってつけなのに……」

 

「新婚旅行って何だよ。マジで助けてよセンパイ……」

 

 

 そしてすんなりと彼等に受け入れられてるのが……。

 

 

 

 

 イッセーという例を前にすっかり自分を覆い隠して誤魔化すのを辞めてしまったロスヴァイセは、実は才女ではあったので駒王学園の教師として赴任する事になった。

 とはいえ、隠すのを辞めた彼女は到底普通の人間にしてみれば悪夢でしか無く、当たり前のようにイッセー達特別クラスの副担任に抜擢されたのは云うまでもない、

 

 

「ロスヴァイセさんのマイナスによって、お兄ちゃん達が割りと大ケガを負ったらしいけど、修学旅行までには復帰できるらしいよ」

 

「へぇ、それは良かったじゃない。お互いにとっても」

 

「まーね、要らない恨みを買いたくはないもんね」

 

 

 他人の幸運を奪い取り、不幸を押し付ける。

 まさに人の形をした天災であり、とてつもない危険性を孕んだマイナスではあるが、ロスヴァイセ自身がそのマイナスを既に完全な制御下に置いているので暴発の危険はないらしい。

 寧ろ今の彼女は旦那様と決めてる相手のイッセー傍に常に居られるということで皮肉じゃなしに幸せの真っ最中だった。

 

 

「はいアナタ? あーん」

 

「自分で食えるんで……」

 

「そんなに照れなくても良いのに。

うふふ、シャイなんだかっ! キャー!」

 

「……………」

 

「ソーナ、アンタよく黙って見てられるわね? 腹立たないの?」

 

「アナタと違ってイッセーが誰を本当に好きなのかが分かってるからね」

 

 

 旦那様の為にご飯を作り、旦那様に食べさせてあげたり等々、本人が普通に拒否してるのにも関わらず、すっかり新妻気取りのロスヴァイセに当然イリナはムカムカしっぱなしなのだけど、反対にソーナは余裕綽々な態度だった。

 というのもイッセー自身、貧弱過ぎて身体能力に勝るロスヴァイセにされるがままなのだが、結局彼の気持ちはあの日の『誓い』から変わってないのだ。

 

 

「…………」

 

 

 そんなソーナの余裕とは逆に、ゼノヴィアはロスヴァイセという新たなイッセー達の同類の出現に内心不安になっていた。

 

 

(私だけなにもない……)

 

 

 聖剣という概念をイッセーにより否定されてしまった事でゼノヴィアは文字通り何も持たぬ者だった。

 この四人が共通して持つものは自分にはない。だからその内見捨てられてしまうのではないかとゼノヴィアはずっと不安なのだ。

 

 

「……。ちょっと飲み物を買ってくるよ」

 

「?」

 

 

 こうやって自分だけ教室を出ても誰も気にしてくれない……とネガティブな事ばかり思いながら教室を出ていくゼノヴィアは既に半泣き顔だった。

 

 

「なんで私には……なんで、なんでだ」

 

 

 自分だけ何もない。

 力もない、かといって弱さにしても中途半端。

 これで本当に友達だと言えるのか? イッセー達は友達と言っているけど、ゼノヴィアは何も持たない自分にそんな資格があるのかと、ただただ一人泣きながら人の来なさそうな場所を探して走り続けるのだった。

 

 

「はぁ……」

 

 

 暫く泣きながら走り続けた結果、旧校舎裏へとたどり着いたゼノヴィアは、小さくため息を吐きながらその場に座り込むと、ぼーっと空を見上げていた。

 

 

(皆みたいなものがあれば私も……)

 

 

 見捨てられるだとされないだので不安に駆られる事なんて無いのに……。

 一人小さく膝を抱えながら座るゼノヴィアはまた涙を流していると……。

 

 

「そこで何をしてるのですか?」

 

「!」

 

 

 自分に話し掛ける声が聞こえた。

 その声に少しビックリして顔を上げると、リアスの仲間である塔城小猫と姫島朱乃が自分を見ていた。

 

 

「……何だキミ達か」

 

「「………」」

 

 

 しょっちゅうイッセー達に絡んでくるしつこい奴等……という認識を二人に持ってたゼノヴィアの対応は実に素っ気なく、偶々旧校舎の窓からゼノヴィアが一人で歩いているのを見て気になった二人も少しムッとなるが、イッセーの友達の一人ということでそこは抑えて、変な笑顔を浮かべて接してくる。

 

 

「何かあったのでしょうか? とても辛そうですけど」

 

「キミ達には関係ない」

 

「そういう訳にもいきませんでしょう? 泣いているご様子ですし」

 

「癖みたいなものだから気にしなくていい」

 

 

 あの不思議な輪の中で唯一何も感じられないゼノヴィアの事は勿論知ってるし、ここで親切にしておけば彼等への心証も良くなる。

 そんな打算を抱きながら警戒心を抱いているゼノヴィアの隣に其々座ろうとした二人だったが……。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ……み、みつけた……」

 

「!」

 

 

 疲労と酸欠で顔色が悪いイッセーが肩で息を切らせながらやって来たせいで失敗に終わる。

 

 

「イッセー!? な、なんでお前がここに……?」

 

「「……」」

 

 

 取り入るタイミングを他ならぬイッセーに図らずとも阻止されてしまった小猫と朱乃は少しだけ残念に思いながら驚いてるゼノヴィアの近くまで、今にも倒れそうな足取りで近寄るイッセーを見つめている。

 

 

「も、戻って……ひぃひぃ、来ない……と思って、心配になって……えほえほ!」

 

「し、心配って……私をか? というか大丈夫か?」

 

 

 2000年代に入る前の某広島球団の地獄練習後の選手みたいな疲労全開のイッセーの絶え絶えな口調の『心配』という言葉に、ゼノヴィアは更に驚きながらもそのまま倒れそうになる彼のヒョロヒョロな身体を支えてあげる。

 

 

「い、色々探し回って、走り回ったからね。自分の貧弱さがこうも仇になるとは思わなかったよ……」

 

「何でそこまでして……」

 

 

 てっきりソーナ達と自分の事なんて気にもせず楽しく遊んでるのだろうと思ってただけに、こんな満身創痍状態になってまで探してくれた事にちょっと困惑が隠せない。

 

 

「皆も手分けして探してるよ。

キミ、教室を出ていく時また泣いてたろ? だから気になったんだよ」

 

「それは……。だって、私だけ皆と同じじゃないから、友達だなんて思われてないって……」

 

 

 小猫と朱乃がこっちをガン見してくるその視線に変なものを感じながらも、自分の不安を吐露していくゼノヴィアに、イッセーは息を整えながらヘラヘラと笑う。

 

 

「最初は確かに鬱陶しいと思ってたかも」

 

「ぅ……」

 

「そうやってすぐ泣くし。キミみたいな普通の人は俺達と一緒に居るよりお兄ちゃん辺りと一緒に居れば幸せになれるのにとも思ってたよ」

 

 

 鬱陶しいと思われてたとドストレートに言われ、またしても涙目になるゼノヴィア。

 

 

「でもキミは石を投げつけたり、蹴り飛ばしたり、殴ったり、罵倒したりしなったからね。

だから今は友達だと思ってるよ、真剣にね」

 

「!」

 

 

 しかしイッセーから向けられた正直な言葉は、ネガティブな彼女の心にある意味の救いが与えられた。

 

 

「マイナスじゃないからって差別なんかしないよ。

キミはいい人だから、俺もイリナちゃんもセンパイも――あー、多分ロスヴァイセさん辺りも好きなんじゃないかな?」

 

 

 それはまるで仕事から帰ってきた飼い主を家の前で待つ犬の様であり、ゼノヴィアに犬のと耳と尻尾があったらピコピコと動いているだろうというくらいには、とても喜んだ表情だった。

 

 

「「………」」

 

「皆に見つかったって連絡して、早いとこ教室に戻ろうぜ? 疲れちゃったよ」

 

「あ、あぁ……なんというか、すまない」

 

 

 悪く言えば凄まじくチョロいゼノヴィアは、言われた通り戻る事にした。

 不安が完全に消えた訳じゃないし、スキルを持たない事に対してのコンプレックスもある。

 

 だがわざわざ自分を探してくれた事は嬉しいし、少なくとも今自分を嫉妬めいた目で見てくる二人よりは確実に勝っている。

 

 

「てか、その人達はなんなの?」

 

「ここでぼーっとしてたら現れただけだ」

 

「あ、そう。よくはわからないけど、さようならお二人さん」

 

「「………」」

 

 

 ゼノヴィアに肩を借りつつ、さっきから見てるだけで突っ立ってるだけの小猫と朱乃に向けて素っ気ない感じで挨拶をするイッセー。

 

 

「ま、真面目に疲れたよ。自分の体力の無さをこんな呪ったのは初めてだもの」

 

「ご、ごめん……」

 

「ふー……別に謝らなくてもいいよ、ちょっと肩貸して貰うけど……」

 

「も、勿論だ! いくらでも貸すぞ!」

 

 

 自分達を案じる仲間達が居るのに、何故か自分達に対して拘ってくるこの二人の事は前々から本気で鬱陶しいと思っているだけに、関わりたくはないというのが本音なのだ。

 

 

「うわっ!?」

 

「ぐぇっ!?」

 

 

 だからさっさと去るに限ると、肩を借りながら去ろうとしたイッセーは、ゼノヴィアがバランスを崩してイッセーを巻き込む形で盛大にスッ転んだ拍子にそのまま下敷きにされてしまう形でひっくり返った。

 

 

「ご、ごめんイッセー!? だ、大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫っぽいけど、早く退いてくれ。

き、キミの胸のせいで呼吸ができな――もがもが!」

 

「あわわわ! す、すまない!」

 

 

 その際、ゼノヴィアの胸がイッセーの顔面を覆って軽く窒息寸前という、ロスヴァイセにされた時みたいな事が起きたが、どっちもそれどころじゃなくてそんな空気にもならず、ゼノヴィアはちょっと恥ずかしくてドキドキしたものの、即座にイッセーを助け起こしていた。

 

 

「いてて、イリナちゃんといい、ロスヴァイセさんといい……これで三度目だよ、女の子の胸で死にかけるのは」

 

「こ、こっちは少し恥ずかしかったのに、そんなリアクションをされるとちょっと悲しいぞ……」

 

「センパイの胸に抱かれる安心感に勝るものが無いからね。

センパイってさ、実はキミやイリナちゃんやロスヴァイセさんより小さい事を気にしてて、そこがまた可愛いと思うんだよね」

 

「…………。羨ましいくらいにソーナは愛されてるな」

 

「俺は別に小さくないと思うし、センパイって存在そのものが大好きだから――」

 

「わ、わかったわかった! そ、そこまでハッキリさせられると泣きたくなるからやめてくれ!」

 

 

 既に小猫と朱乃の事は完全に無視しており、ゼノヴィアも今初めて異性に胸をどうこうされてしまったのに、その異性が別の女にのろけてるので実に微妙な気持ち似させられていて、二人の事は意識に入らなかった。

 

 

「待ってください。実は私と副部長は授業をサボって暇をしています」

 

「…………。だから? まさかとは思うけど、このまま付いてくるだなんて言わないよな?」

 

「我々に近いゼノヴィアさんが良くて私たちがダメという理由はございませんでしょう?」

 

 

 だがこの二人はそんなやり取りを見てからイッセーを呼び止め、授業をサボって暇だからこのまま教室に押し入ると言い出したのだ。

 

 

「それに、お二人のしてたやり取りをシトリー先輩にうっかり話してしまったら、とても悲しむのではありませんか?」

 

 

 ゼノヴィアが良くて自分達がダメなのは差別だと言い張って。

 しかも軽く脅迫気味に。

 

 

「ゼノヴィアさんは俺達のクラスメートでもあるんだから良いもダメもないでしょう?」

 

「あの、脅しをしたつもりだが、多分無駄だぞ。仮にお前達が話した所でソーナは気にも止めないだろうからな」

 

 

 しかしイッセーはそれでも嫌がった。

 別に誠八の仲間だからとかじゃなく、この二人こそ根本的に気が合わないだろうと既に判断したから。

 

 

「それにゼノヴィアさんとキミ達が同じだって? おいおい、それは違うだろ?」

 

 

 だから言うのだ。何度でもハッキリと。

 

 

「キミ達は結局、自分の都合の悪い状況を俺達を使って誤魔化したいだけだろう?」

 

「「………」」

 

「キミは確かお姉さんとの、先輩さんの方は堕天使のおっつぁんとの柵を誤魔化したいから、俺達という都合の良い奴等を利用したいってのが見え見えなんだよ。

本当にやめてくれよ、そういうの――心底うざったいぜ?」

 

 

 俺達はお前達の都合の良いリラックスアイテムなんかじゃない。

 ましてや解決できるかもしれない仲間達に恵まれてるというのに……。

 と、周りに自分達しか居なかったゼノヴィアとの違いを言ってやったイッセーは、顔を僅かに歪ませた二人から背を向け、肩を貸して貰っているゼノヴィアと共に歩き出した。

 

 

「ましてや、二人の其々の身内さんは俺達との関わりに

反対してるんだからさ。

それはきっと正しいんだぜ?」

 

「それって私は間違えてるのか?」

 

「当たり前だろ? 正気じゃないぜ、俺達に見捨てられるってわざわざ心配してメソメソするなんてさ? 言っとくけど、今後キミが『やっぱり嫌になった』って言って離れて行こうとしても、俺達は死ぬまで追いかけ回すぜ?」

 

「え……!? そ、そうなのか!? そ、そんな風に思ってたのか私を……」

 

「そうさ。俺達は無責任で、無価値で、無関係だとしてもトモダチは大事だからな」

 

 

 少なくともトモダチとはあの二人に対して思った試しは無いけどゼノヴィアは違うとハッキリ言ったイッセーにこれでもかと素直に喜ぶ訳だが、ハッキリ拒否された方は何故そこまでと思うレベルで取り乱し、二人の前へと回り込んできた。

 

 

「ま、待ってくださいよ……! 何で私達はダメなんですか! 別に利用するだなんて考えだってないのに!」

 

「羨ましく思うことがそんなにいけないのですか!?」

 

「お、おいキミ達、いい加減しつこくないか? イッセーの言うとおり、キミ達にはキミ達を案じる肉親が――」

 

「あんなのは肉親なんかじゃない!!」

 

「認められてるアナタにはわからないでしょうね!!」

 

「ぅ……」

 

 

 そのしつこさにゼノヴィアが注意しようとするも、地雷を踏まれた二人は激昂をして食って掛かってきた。

 そのあまりの剣幕に、メンタルが凄まじく弱くなって泣き虫になっていたゼノヴィアは涙目にまたしてもなってしまう。

 

 

「今度はゼノヴィアさんに八つ当たりかよ。はぁ……まったく……

 

 

 

 だがそれを前にイッセーはゼノヴィアから離れて彼女を庇うように二人の前に立つと……。

 

 

………マジでウザいよ」

 

 

 その精神性(マイナス)を一気に剥き出しにした。

 

 

「「う゛っ!?」」

 

 

 胃の中を引きずり出されたかの様な嫌悪感。

 吐き気すら催す強烈なナニか。

 久しく前にしなかったイッセーの全開状態の過負荷を前に、小猫と朱乃は口許を押さえながら後退りしてしまう。

 

 

「そんなに救われたいならウチの兄でも頼りなさいって何度言わせるのかなぁ? 俺達はボランティア団体なんかじゃないんだしさ」

 

「お、おいイッセー……? 急に二人が具合悪そうにしてるけど、大丈夫なのか?」

 

 

 その両手に巨大な釘と杭を持ち、ゆっくりと後退りする二人へと近づくイッセーに、ゼノヴィアは特に怖がる事なく、逆に気分を悪そうにしてる二人を心配している。

 これこそが二人とゼノヴィアの差であり、イッセーも思わず笑ってしまう。

 

 

「ふふ、ほらね。この子とキミ達の差だよこれが。

確かに自分の不幸を泣く事は多いけど、キミ達は不幸を不幸のまま単に嘆いてるだけじゃないか。

そんなんじゃ永遠に俺達の事なんか理解できやしない」

 

 

 不幸を嘆いて誰かに励まして欲しいなら、他所で好きなだけしたら良い。

 自分達は不幸を前にヘラヘラと笑ってやるだけなのだから……。

 

 

「でもある意味レアだよキミ達も。

こんなに気が合う気がしない相手はお兄ちゃん以来だもの」

 

「そ、そんな……」

 

「どうして私達がダメなんですか……」

 

「そんなの永久にキミ達にはわからないよ。言ったろ、住む世界が違うし、踏み込まれても迷惑しか持ってこないだろキミ達は? そんなのはごめんなんだよ。

俺達はその日をバカみたいにダラダラしながら生きていければそれでいいんだから」

 

 

 だから否定する。

 それが幻実逃否。それが彼の螺子曲げられた精神。

 

 

「行こうぜゼノヴィアさん、トッポが食いたいぜ」

 

「あの二人は良いのか……? 全身がお前の投げた釘と杭で針ネズミみたいになってしまってるけど……」

 

「大丈夫だよ、勝手に消えるからその内」

 

 

 存在せし現実を否定し、ねじ曲げるマイナス。

 




補足

ロスヴァイセさんはイリナちゃんばりにアグレッシブで強引さも大体似たり寄ったりです。
ていうかもう新妻気取りです。


その2
そんな女の子達の影を前にしてもソーたんは平然としてます。

どうなろうと間違いなく自分の所に戻ると解りきってるのと…………まー普通に大人の階段を二人で上がってますからね。

ただ、ちょっと皆と比べたら胸が小さいのを気にしてはいるらしい。

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