マイナス一誠とシトリーさん   作:超人類DX

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違うと言われたし、その異様さに気づき始めた仲間にも止められた。

けれど……けれど


忘れられぬ安堵をどうしても求めて

 イッセーという『終わってる』人間がソーナを始めとした多くの者達を『終わらせた』のを見てきた誠八は、あのヴァルキリーのロスヴァイセが『終わってしまった』という所まで墜ちてしまったのは理解してしまった。

 

 敵も味方も関係なく、無差別に台無しにしてしまう様はまさにイッセーそのものであり、誠八自身もオーディンを襲撃してきたロキとフェンリルとの戦闘中に大火傷を負わされたのだから嫌でも理解させられてしまう。

 

 その傷も今は癒えたし、修学旅行にも間に合う訳だが、相変わらずその気持ち悪さを日増しに増幅させながら仲間を作り上げていくイッセーには一種の恐怖があった。

 

 

「それで、アナタ達はまだセーヤの弟君達に拘っているの?」

 

「「………」」

 

 

 リアスもその傷を癒し、何とか束の間の平和を過ごせる事にはなったが、そのリアスも遂にはイッセー達の持つ異様さがまともじゃないと思い始めてきたらしい。

 一足早く動けていた朱乃と小猫が未だ彼等に対して何かを求めている事について、とうとう直接咎め始めたのだ。

 

 

「彼には嫌がられてるのでしょう? ならばソッとしてあげなさい。

私達と彼等は立場が違うし、生き方も違うのよ」

 

「「……」」

 

「そうだ。

救われると言っているけど、それは幻想でしかない」

 

 

 漸くまともな感性を持ってくれたと、誠八はリアスに対して一種の好意を抱きながらリアスに同意しつつ無言の二人に対しての説得をする。

 それは勿論、同じ様にイッセー達が異様だと解ってるアーシアや祐斗も頷いている。

 

 ただ、まだギャスパーだけはイッセー達と直接相対していないのでイマイチわかってないが、その内理解してくれるだろう。

 

 

「確かに弟君と深く関わったソーナは変わったわ。

それも決して良くはない方向にね。それがセーヤの言うとおり、弟君の影響によるものだとするなら、私はアナタ達に彼に対して関わる事を反対するわ。

あまりにも危険だから」

 

「「………」」

 

 

 後はこの二人を止めれば安心する。

 最早あそこまでどうしようも無くなった弟とは関わらなければ良い。

 余計な真似さえさせなければ、家を出ていった今関わる頻度も多くは無くなりつつあるのだ。

 

 

「「……………………」」

 

 

 何かに対するショックなのか、虚な目で聞いてるのか聞いてないのかもわからない無表情で下を向く二人さえ止められれば……。

 誠八の決意はまだ強かった。

 

 

「「………………………」」

 

 

 二人の精神が、求める相手からの完全なる拒絶により、その均衡を崩してしまっていることを知らず……。

 

 

 

 

 

「何が足りないのかしら私達は……」

 

「………」

 

 

 リアスや誠八達の『慈愛』ある説得から解放された朱乃と小猫の心はまるで晴れやしないまま、最近すっかり二人で行動する事が多くなり、今も旧校舎からこっそり抜け出し、人気のない裏道を徘徊しながら、イッセーに言われた『足りなさ』を考えていた。

 

 お察しの通り、この二人はリアスと誠八の説得に対して理解はしているけど諦められてない面が強かった。

 故にイッセーに言われた足りない部分をこうして二人で考える訳だが、朱乃も小猫もそろそろ時間がなくなりつつあった。

 

 

「誰かが余計な事を言ったせいで、あの男が接触しようとする頻度が多くなってしまったわ……」

 

「私も同じです、姉が頻繁に……」

 

「このままだと周りに流されてあんな男と和解させられてしまう……」

 

「私もあの姉と周りに言われて和解しないといけない流れにされてしまうかも……」

 

 

 朱乃は父であるバラキエルの接触……つまり話し合いがしたいという話が多くなり、小猫はテロ組織の構成員化している姉の黒歌から何度も拉致られそうになったりと、其々に時間がなくなりつつあったのだ。

 

 

「いくぜ! 落◯ばりの振子打法―――あぎゃ!? か、肩の骨が外れちまった! いててててて!!!?」

 

「あぁっ!? 大丈夫ですかアナタ!? 今入れてあげますよ!」

 

「アンタの投球が無駄に強すぎるのよ! 手加減しないとイッセーくんが打てないでしょうが!」

 

「私達と違って身体が弱いし、そこは少し勉強すべきね」

 

「い、イッセーの腕がまさに振り子みたいになってるぞ……」

 

「マジで貧弱すぎだろ……」

 

 

 だからこそ彼等の仲間になって安心したい。

 けれど彼等はそんな自分達に対して『無理』と言い放ち、仲間にはしてくれないし、先んじて知り合ってる自分よりもオーディンから解雇された元ヴァルキリーのロスヴァイセを受け入れていて、今も校庭で野球して肩を脱臼してのたうち回ってるという、とても『楽しそうな』マイナス組のやり取りを影からジーっと見ていた。

 

 

「あのヴァルキリーの人はあんなにすんなり仲間になってるのに……」

 

「あの人には足りてるんでしょう。

先輩のいうなにかが」

 

「でも、それならば明らかに普通にしか見えないゼノヴィアさんがどうして……?」

 

「それがわからないんですよね。

余計に納得できないし……」

 

 

 外れた肩を無理矢理ロスヴァイセに入れてもらってるイッセーを見てオロオロしているゼノヴィアに対して小猫が嫉妬めいた顔をする。

 どうやら彼等の組内の二年は修学旅行に行かないらしく、二年の大半の生徒達は歓喜している。

 

 

「千代の◯士さんばりに鍛えないとダメかなぁ……俺」

 

「大丈夫よ、どんなに弱くてもイッセーが大好きだから、そんな疲れる事なんてしなくて良いわ」

 

「寧ろその弱さが興奮しますし?」

 

「チッ、アンタ達と意見が一致するのが悔しいわね」

 

「無理しても身体を壊してしまうかもしれないから、適度くらいが良いんじゃないか?」

 

「マイナスの時点で結果的に負けるからな。それに一般人が鍛えたところでたかが知れてるぞ」

 

 

 なのに本人達はとても楽しそうだった。

 あの輪に自分達も加われたらどれだけ良いのか。

 過去の何もかもを忘れて、今を楽しく生きられたらどれだけ安心できるのか。

 彼等にはそれがある。過去にどんな事があろうとも、彼等の間にはそんな隔たりは塵に等しきものなのかもしれない。

 

 

「取り敢えず体育の授業はここまでにして教室に戻るぞ。お前達に話しがあるからな」

 

 

 故に二人にとって彼等の輪はとても魅力的だった。

 故に二人はマイナスを前にしても、どうしても諦められない面があった。

 

 

「教室に戻るみたいだわ」

 

「……教室の前までこっそり付いて行きません?」

 

「……中には入らないから文句も無いはずだし、やってみましょう」

 

 

 だから二人はそれでも彼等の周りをうろうろするのだ。

 

 

 

 さて、肩を脱臼する騒動もあったマイナス組式体育授業も終わって教室に戻るイッセー達。

 最早当然の様にソーナもその一員ですとばかりに元のクラスには戻らずにマイナス組の教室に居るのは……まあ、突っ込む必要はないだろう。

 

 

「なんだろうね、アザゼル先生の話って?」

 

「授業の変更とかかしら?」

 

 

 そして椅子を横に並べ、その上に横になるイッセーを膝枕する。

 後ろでじゃんけんに負けたイリナがとても悔しそうにしているのはご愛敬だ。

 

 

「全員居るな? ……って、お前らすぐそうやってイチャイチャするな。ちゃんと座れ」

 

「うぃー……」

 

「後で私もしてあげますかねっ?」

 

「いやそれは別に……」

 

 

 そして教師役のアザゼルとロスヴァイセがやって来て、当たり前の様にイチャコラやってる二人を注意しつつ、ロスヴァイセは身体を起こしたイッセーに対して返答無しに一回ハグをしながら耳打ちをする。

 イリナに似てるようで変な所でちゃっかりしてるのもだから、イリナも悔し混じりに後ろからイッセーに飛び付いたりする…………的なやり取りが挟みつつ、漸く全員が落ち着いて席に座った所で教壇に立つアザゼルが前置きもなく言った。

 

 

「二学年の修学旅行には出席しないという事になった訳だが、それじゃあ俺がつまらんので、このクラスだけで修学旅行をする事にした」

 

「「「は?」」」

 

「唐突ね……」

 

 

 京都の修学旅行に出席しない代わりに、アザゼルがプレゼンしたオリジナル修学旅行をしようじゃないかという、最早決まってる話だ的な口ぶりの彼に対してイッセー達ははてと首を傾げた。

 

 

「ロスヴァイセ、こいつ等にしおりを配れ」

 

「了解です」

 

 

 指示をうけた副担任のロスヴァイセがソーナを含めたイッセー達全員に自作したらしいしおりを配る。

 そこには『特別クラスが行く楽しすぎる修学旅行』――と書かれていた。

 

 

「お前達に行く気が無いというのには賛成したが、それじゃあ俺が面白く無い。

従って俺達だけの、のんびり楽しくした修学旅行でもしようじゃねーかって事だ」

 

「えー? 遠出とか嫌だ――」

 

「金は俺が全額負担するし、ソーナも三年の学年主任を説得してこの修学旅行に出席することを許可させてるが?」

 

「行く! センパイが行くなら行く!!」

 

 

 勿論、別に遠出の趣味は無いが、学年が違うソーナも行けると分かった途端、手の平を返したの如く隣に座ってたソーナに抱きつきながら行く気になるイッセー。

 

 彼はソーナさえ居れば地獄にだろうが平然と行ける質らしい。

 

 

「話はわかったけど、どこに行く気なのよ?」

 

「本来の修学旅行は京都ってのは聞いてるだろ? だからまず京都以外だな。

日本神話の連中になんでも書状を届けるらしいし、悪魔側は」

 

「匙がその特使に選ばれ掛けたけど、兵藤君に押し付けてやったわね、この前そういえば」

 

「そういう面倒な事がありそうだから京都以外……例えば沖縄とかあえての鹿児島。

もしくは王道に熱海辺りでのんびりってのも悪くねぇ」

 

「……それ、アナタが単に遊びたいだけじゃないの?」

 

 

 酒が美味そうだぜ……と呟きながら行き先の例を出すアザゼルにイリナが突っ込むが、まさにその通りだった。

 単純に立場も何も忘れて羽目を外したいのがアザゼルの目的なのだから。

 

 

「俺はどこでも良いッスけどねー

センパイと一緒って時点でどこでも同じですから」

 

 

 そしてイッセーはソーナも行くと決まってると知ってる時点で行き先なんてどこでも良く、ソーナを膝に座らせて後ろからこれでもかと抱き締めながら楽しそうだった。

 そんな状況に、ソーナはちょっと恥ずかしそうしながらも、時折ピクッと擽ったそうに身を動かしながら小さく嬌声が出てしまう。

 

 

「イッセー……流石に恥ずかしいから『そこ』に触れないで? 擽ったい――あっん♪」

 

「あ、ごめんセンパイ」

 

 

 絶対的な自負があるのはこういう事があるからであり、別にロスヴァイセやイリナに揉みくちゃにイッセーがされてしまおうとも怒る事はしない。

 

 

「新婚旅行ですねアナタ♪」

 

 

 こんな風に言うロスヴァイセの何時も通りっぷりを耳にしても、イリナが負けじと襲って来ようとも……。

 

 

 

 

 

「「……………」」

 

 

 ただ、この仲間以外の誰かがイッセーにちょっかいを出してくる時は例外であり、教室の外で盗み聞きしてる、足りない二人組だったら本気で消してやるつもりではあるが。

 




補足

彼はきっと、水と酸素とソーたんが居たら生きていけるんでしょうね……。


その2
このソーたんってひんぬーではあるけど、数多のソーたんとは違って『間違いなくの自負』があるので、他とは違って残念な子じゃないんだよね。

……まぁ、その分抱えてる心の積載量が半端無いですけど。

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