突然で驚くだろうが、私は転生者と言うものだ。生前は学者をしていた。主に神秘を求める
だが夢と現実とでは全く違うものだ。
結果として残ったのは何一つとして成し得ることが出来ず、馬鹿にされ続けたという過去のみ。そんな私の
私とて驚きはした。
幾ら神秘に関する事を研究していたとは言え、別世界にて新たな人生を送る事になるとは思いもしなかった。
だが私にとってこの状況が最高である事に変わりは無い。何せ求めに求めていた神秘が目の前に
私が目覚めたのは家の中だった。
兎に角訳も解らない状況だったが
ふと私はその中の1冊を手に取り、内容に目を通し瞬間心の内が
それを知った時、私は歓喜した。驚きよりも喜びの感情の方が大きかった。
これで生前の研究が活きる。研究対象も多く存在するのであれば、真に神秘…魔法や錬金術をこの手で使用出来る。
とあれば
さあ始めようと家から一歩外へ踏み出した瞬間、家の周囲…と言うよりも家を囲う森に
この経験から私はひとまず家の中へと引き篭もり、毒素やそれに連なる何らかの要素に対応できる魔法を創る事を選んだ。
何故か見た事も無い筈の文字が読めるが、余り気にするつもりは無い。食料もどうにかなるだろう。
「さて。始めようか」
こうして私の別世界、異世界での新たな生活が幕を開ける事となった。これからが実に楽しみな事だ。
▼
──転生してから30年。
時の流れと言うものは私が思っているよりも早く過ぎるらしく、気付けばこの世界へ来てから30年が経過していた。そして同時にひとつの違和感に気付いた。
鏡に映る私の姿が何ひとつ変わっていないのだ。歳を取っていない…と言うよりも
このような事になったのは恐らく、食料をどうにかしようと
あれは約三ヶ月程が経った頃、家の中へあった食料が底を尽き、
常時ならばこのような物は食べずに研究へ周すのだが、飢えに飢えていた私はそれを
味などはしなかったが、その
私としては嬉しい限りだった。偶然の産物たる物だが、これで
寝る必要が無ければ研究時間が伸びる。性欲は…生前より無かった為か、特に変化を感じ無い。
ひとまず私はその石を、“賢者の石(仮)”と名称した。
さて私は変わるが、近頃私は魔導書と言う物を制作している。
何故魔導書の制作に着手し始めたのかと問われれば、本棚に並べられていた本の中に魔導書制作やそれに連なる情報が記されていたからだ。
その内容によれば、誰もが魔導書を知っている訳でも無ければ作れる物でも無いらしい。魔導書とは魔法を作った本人か理解し使えるようになった者、又は才能を持った魔法使いだけが作れるとのこと。
だがどうやら、大半の魔導書は不出来な物ばかり。
例えば魔導書とは目を通し理解すれば
魔導書に重要なものは正しい文字列と魔法陣との事だが、大半の魔導書は
魔法に関する文字列とは本来詳細に記すものであり、同様に魔法陣も細部まで描か無ければならない。それは何処からどのように
だがこの本によれば大抵が壁画のような絵図か、魔法陣すら描かれていない代物。
それでは錬金術に関する書物と言われた方が納得が行く。
という訳で、私はそう言った箇所に注意しながら研究及び魔導書制作を続けて行く事とする。
▼
──転生してから80年。
あれからさらに時は流れ、今の私は五つの魔法を制作する事が出来た。たったの80年で魔法を作れたのは生前の記憶あってこそだろう。
さて私が作り上げた魔法についてだが──
一つ目が《呪いを無効化する魔法》。
当然この魔法は外へ出る為に作ったものだ。
ともかく最初の40年はこれに時間を
二つ目が《植物を生長させる魔法》。
これは植物のみに使用出来る。試しに外にいたリスを捕まえて検証してみたが、なんの変化もなく終わった。次は《生物を成長させる魔法》を作ろうかと考えている。
三つ目は《水を氷に変える魔法》だ。
何故こんなものをと思ったかも知れないが、これは実に便利な物だ。この世界にも季節があるようでね、当然夏だって巡ってくる。
暑い時、氷があれば涼しくなるだろうと思い作ったのがこの魔法だ。他にも冷たい飲み物を飲む時に便利だ。正直常温の飲み物は好きじゃないのでね。
四つめに《水を生み出す魔法》。
私は一つミスをしてしまった。普通に考えたら分かる通り、《水を氷に変える魔法》は水がなくては意味が無い。だがこの近くに水源はないんだ。こうなれば作るしかないだろう?折角作った魔法を快適に使えないというのは、なんとも悔しいのでね。
さて次が最後となる訳だが、最初の魔法を
だが最後に作成した魔法は違う。この魔法が完成したのはつい先程だ。
その魔法こそが私の求めてる魔法の一つ、《空間を拡張する魔法》だ。この魔法は私の
私がこれを必要とした理由は幾つかある。単に作りたかったというのが本音でもあるのだが、第一にこの家には倉庫が無い。
その
他にも
第二に、私が生前求めていた魔法の一つであるからだ。空間を広げる魔法、これは生前に見つけた古本に記されていたものだ。
なんと素晴らしい魔法なのか、なんと美しい魔法なのかと思った。あの時代、私の生きた科学技術を
あと幾つか、私の真に求める魔法がある。私はそれらを必ず完成させる。その為の第一歩だ。
それから《空間を拡張する魔法》を除いた魔法は魔導書として描き出し保管してある。
《空間を拡張する魔法》は素晴らしいものだが、何かの間違いで世に広まれば多大な影響が出るだろう。
私は楽しく魔法を使いたい、私の作った魔法が争いを呼ぶことを私は望まない。
故に、影響の大き過ぎる魔法は魔導書に描き出すことは無い。
▼
──転生してから150年。
あれからかなりの時間が過ぎて行った。その間私はこの森から一歩も外に出ていない。出なくとも外界の事を知れる魔法を制作したからだ。
それに此処から出る理由も無い。私は食事を必要としない、何かを食したいと思えば植物の種を生長させれば良いだけだ。肉とて森に沢山いる。
他にも理由はある。外に街が存在しないからだ。村のような物は複数見つけはしたものの、小規模のものばかり。
そのような場所に行ったところで、私の心に興味と言う物は浮き上がらない。
誰かと交流するのは大事だと言う者も居るが、今の私にとってそれはどうでもいい事だ。
それよりも、私が転生してから150年の時が経過した。その間に制作した魔法の数は98、その内魔導書に描き出せたのは38個。
内ひとつは描き出さないと決めた魔法、残りの14の魔法は単に描き出せていないだけだ。
今の所私のお気に入りは《虹を作り出す魔法》だ。私は美しいモノが好きだ。だから私はこの魔法が好きだ。
便利なもので言えば《物を複製する魔法》と《生物を操る魔法》の二つだ。
前者はそれ単体で便利と言える。後者の物は《五感を共有する魔法》との合わせ技をする事で外界を知ることが出来る。
他には錬金術に関して大きな進歩があった。それこそが魔導具だ。例えば《永遠に光り続けるランプ》。これは一度魔力を通せば永続的に光り続けるという単純ながらも実用に
ただ一つ
これを消すには核を破壊しなければならない。その核と言うのが、私の開発した“魔導石”という宝石だ。
原材料は高純度の宝石と魔物の一部と私自身の魔力。大抵この三つが揃っていれば作成することが可能だろう。
流石に魔法の剣などという代物は作れない。技術が足りないと言うよりも、もっと別の何かなのだろう。しかし正直なところ、魔法の剣に大して興味はない。
そもそも私はそういった争いになりかねない物を作る気は無いんだ。そんな物よりも実用的な物を作っている方が楽しいだろう?
他に作った魔導具と言えば、《物が透けて見える眼鏡》《頭が冴える帽子》《動物を呼ぶ笛》《周りを暖かくするネックレス》など他にも多数の魔導具を作る事ができた。
このまま上手く事が進めば、より良い魔法、より良い魔導具が作れるはずだ。
それから余談ではあるが、この森に二重の結界を張った。
一枚目は何人たりとも近付けぬように、認識を違和感なく
二枚目にこの家に辿り着くことが出来ないようにする霧型の魔法。
これがあればさらに先の未来まで邪魔される事なく研究を続ける事が出来るだろう。
▼
──転生してから300年。
時間感覚がかなりズレたのだろうか?転生してから300年と言う年月が経ってしまった。振り返ってみれば100年が過ぎた辺りからズレが生じ始めていたのだろう。
だが問題は何一つ無い。
今では魔法と魔導書は500近くに上り、錬金術によって生み出された魔導具は200以上になった。
これ程の事、生前いた世界では何一つとして実現出来なかった事だ。寿命に於いても、世界に於いても。
これらはこの世界だから出来たことだ。もし私をこの世界へと蘇らせた存在が居るのならば、心から感謝の意を
それから、一匹家族が増えた。
2年程前に森の中を探索していた時に拾った猫だ。魔物ではあるが、攻撃性が無く大人しく普通の猫と大差はない。私は名を付けるのが苦手でね、今は博士と呼んでいる。
流石に普通の猫とは違い少し太っているが、健康状態に関しては特に問題無い。たとえ問題があったとしても、今の私ならばどうにでもなる。
「んにゃー」
「そうか、もう時間か。では食事をしようか、博士」
私は食事を取らなくても良い体だ。博士と出会う以前はもはや食事を殆ど取っていなかった。睡眠も同様だ。
だが共に住むようになり、私も食事を取るようになった。久しぶりに口にした料理は中々に美味いものであった。矢張り精神面において、食事と睡眠は必要なものだと言うことを再度理解した。
因みにだが、博士は魚や肉が大好物だ。今日は魚を与えている。
私はトーストとベーコンエッグだ。朝は毎日これを食べるのが最近の日課だ。
あぁ最近と言えば、少し離れた場所で魔物が暴れているのを確認した。距離も離れている上に結界もある、ここへ来ることは無いだろうが一応は警戒をするに越したことはない。
「にゃ〜」
「そろそろ魔導書に描き出す時間か…では行こうか、博士」
「にゃ〜」
この世界へと来て300年という長い時が経った。しかし存外、まだまだ楽しめそうだ。
そう思っていた矢先、数日後に博士が賢者の石(仮)の複製品を食べてしまうという事件が起きたが…これも何かの運命なのだろう。
博士とは死ぬ時まで共に過ごすことになりそうだ。