私はエトワールの魔法を見る度に何故くだらない…実戦では使えない魔法を作るのか解らずにいる。
あれ程の知識と魔力と技術を持っているんだ。より良い魔法を作れる筈だと言うのに、不思議でならない。
あの馬鹿の一番好きな魔法は《虹を作り出す魔法》だと言う。ただの景色でしかない。触れることもできなければ、なにか特別な効果を持っている訳でもない。なんの障害にもなり得ない魔法だ。
だがそんな魔法を、あの馬鹿は嬉々として私に語ってきた。虹は心を穏やかにさせてくれるだとか、幻想的であるが故に人々を笑顔をにするだとか…他にも色々とな。
私も魔法を美しいと感じるし好きだ。
でもそれは魔物を殺せるからだ。私は戦いが好きだし、魔法を極めるのも嫌いじゃない。だがだからと言ってその中にくだらない魔法は含まれていない。
私が極めるものは戦う
しかし気になりはした。
何故あそこまで意味の無い魔法を作るのか。そこまで思い入れ込む理由があるのか。
イメージ出来ない事は魔法で実現する事は不可能だが、今の私はイメージをしなくとも一部の魔法を使う事ができる。
つまり魔法式の構築さえ出来れば、それを実現する事が可能となる。下らない魔法の魔法式など、大したことは無い筈だ。
結論から言って、くだらないと言っていた魔法を作る事は出来なかった。魔法式に置ける必須条件も揃っている。魔力バランスも問題と思える箇所は見当たらなかった。
矢張りイメージ出来ない事は不可能なのかと考えたが、そうなると過去イメージ出来なかった魔法を使えたのに疑問が残る。
気に食わないがエトワールに聞いてみた。
そうすればあいつは嬉しそうに答えた。
あいつが言うには魔法式を用いた魔法は想像では無く、心の奥底に抱かれる感情によって左右されるらしい。
故に、戦い敵を殺すことに感情を向けている今の私では、戦いに用いることのないくだらない魔法を扱うことは決してできない。
思い返してみれば確かにそうだった。
《
戦いに明け暮れていたからこその
だから戦う為の魔法も、ただ非実用的でしかないくだらない魔法も扱うことができる。
実に腹立たしいが、私は感情と言う面であいつと大きく劣っている。であれば諦めるのか?いいやそれは無い。
こうして私が
確かに私は戦いが好きだ。だが同時に私は魔法使いだ。魔法を好きになった経緯は違えど、求める道行は大差ない。
だからこそ悔しい。あいつに使えて私に使えない?
──
誰かと比較し劣るなど受け入れられて溜まるか。あいつはきっと、私がくだらない魔法を使えば驚く筈だ。
一度でもあいつが驚く…本心から驚く
▼△▼△▼△▼
ここ100年程度、エトワールのように下らない魔法を研究し続けている。
感情が作用する箇所に関しては、実用的効果を少しばかり含めればどうにかなりそうな
ただ同時に問題も生まれた。通常の魔法に比べ遥かに多くの魔力を消費してしまうのだ。この魔法一つで、エトワールと戦った時の倍以上の魔力が持っていかれる。
こんな魔法使えたものでは無いが、今の私に作れるくだらない魔法はこれ一つだ。
だがそのお陰で、これ一つに深く集中できる。
それから最近、この家のルールとして食事と睡眠は必ず
だが体調を崩したところで魔法でどうにでも出来る…そう言えばエトワールに『体調を崩したからと言って魔法に頼っては医学を忘れてしまう』と返された。
それ以上続けても似たような返答しか無いと思い、ルールのことは話半分に受け入れた。
話が多少ズレたが、この中にある食事を摂ると言う
このルールを作ったのは50年前。たったの30年でこの馬鹿はそのルールを破った。もとよりこいつがルールを守る事は無いと分かっていたからか、特に
だがルールを破ったのはエトワールが先だ。私が破ったところで問題は無い。
そこでどうせ魔法の事で引き籠って居たのだろうと察した私は、何の魔法を作っているのかと聞いた。それに対して自身は破っていないかのようにルールの事を口にしてきたので、軽く反論をぶつけたらあっさりと
聞けば何やら今は生き物が空を泳ぐ魔法を作っていると言う。本当に巫山戯たものだ。それがどれ程高度な魔法なのか、こいつはきっと解っていないだろう。
ただ作りたいと思ったから、美しいモノを作りたいからと言う理由で魔法を作るような奴だ。その魔法が世界にどれだけの影響を与えるか考えていない。
仮に魔法の
「それで、君はなんの研究をしているんだい?」
「…内緒だ」
「それは残念だ」
▼△▼△▼△▼
ある日の昼食を終えたあと。
何やらエトワールが以前から開発していた魔法ガ完成したらしく、面倒ながらもそれを共に見ることにした。
いつもの…家から暫く離れた場所へ着くと、エトワールは魔法を行使する為に必要な宝石を規則的に並べて行く。
「では始めようか」
どうやら準備は終わったらしい。エトワールが魔法陣を起動する。
「《
エトワールが魔法を唱えると共に、巨大な魔力が
その光景は明らかに、誰が目にしても分かるほど…人間の領域から踏み出していた。
小さく始まった地鳴りは少しづつ大きくなり始める。それと同時に、本能が警告を発する。なにか…想像も出来ない危険な
死の感覚が全身に鳴り響き、私は即座に戦闘態勢をとった。そして魔法陣から放たれたのは、天まで届きうる巨大な水柱だった。
だがそれは自然に存在する水とは違い、魔力が水のように見せている魔力体であり、本質的には水そのものとはかけ離れたものだ。
そうして高く登る水柱から現れたのは、見たことの無い無数の生き物の群れだった。
「どうだい?二人とも。美しいとは思わないかい?」
私の目の前に立つ男は、無邪気な子供のような笑顔を浮かべていた。こいつからすれば、この魔法は深い理由もなく作ったものなのだろう。だがこれは世界を滅ぼしうる魔法だ。
生命の創生、無尽蔵の魔力、そして幾重にも編み込まれた防衛魔法…。
「…これは危険な魔法だ」
その言葉は私の本心からのものだった。
それに対してのこいつの答えは実に
だが相も変わらず、私はこいつから感情と言うもの感じられず、その言葉が本心から出たものに思えなかった。
だから私は突き詰めるように続けた、お前からは感情が感じられないと。すると今度は、『これでもこの世界を愛している』と
ふ と空を見上げれば、そこには青い
大半が目にしたことの無い生き物…その中で一層存在感を放つ巨大な生き物が居た。エトワールに聞いてみれば、アレは
元は陸上に生息する生き物だったが、
エトワールによれば、多少なりとも角付きに収斂進化とやらが当てはまるかもしれないらしい。正直、私の知ったことでは無いがな。
「エトワール。この魔法は広めるなよ」
「最初からそのつもりだ」
この光景を見れば美しいと思う者が多く居るだろうが、これは広がるどころか知られる事すら危険な魔法だ。
色々と考えている内に、空を泳ぐ生き物たちは遠くへと進み始めた。
こんなものを目にしては、魔物だろうが角付きだろうが人類だろうが
「気を付けろよ」
「分かっているさ」
「…どうだかな」
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偽装結界の張られた黒い森。
此処には強力な呪いに耐性を持ち、その気になれば大都市を
時折魔物同士でぶつかり合い森を破壊するという事も多々ある…だがそんな魔物達ですら今置かれている状況下に於いては、己の
塒から顔を覗かせるれば、空から雨のように降り注いでくる銀の光線…続いて爆発の嵐に凍てつく大地、果てには天に届く程に巨大な木の根が暴れ狂っている。
正に天変地異の如き事象が、この黒い森を散々たる状況へと変容させていた。
何故こんな事になっているのか…その答えを高い知能を持った魔物たちは考え導き出していた。
それはこの黒い森に住まう2人の人間…此処を管理している男と、共に住んでいるエルフの女によるものであると。
はっきり言って魔物たちからすれば迷惑でしかない状況だ。
では何故こうなったのか?それはつい先程の事である。
▼△▼△▼△▼
私はこれでも人の心はあるし、死者を
あいつは馬鹿は馬鹿だが人間だ。
私の知る限り人間と言う生き物は、私のようなことをさも当たり前のように行う感情的な者たちだ。悲しい時は泣き、苦しい時は手を取り合い、嬉しい時は
だがどうやら、あの馬鹿たれはそいつらとは掛け離れた人間だったようだ。
見つけたのは偶然だった。
博士との散歩の道中、
だが小屋から零れてきた魔力が…酷く濁り淀み切った魔力が、帰路に着こうとする私の脚を停めさせた。
私は嫌な感覚と共に、小屋の扉を開けてしまった。そして扉を先にあったのは、床に重ねられた三つの死体と、長方形の土台に寝かされ多くの魔道具に繋げられ
別に大きく驚くようなことでは無い。翌々考えればあの馬鹿はこう言った事は
とは言え──
「少なくとも、死者を冒涜するような真似はしないと思っていんだがな…お前は本当に、阿呆者だな」
後ろから足音が聞こえ振り向く。
そこには
「これは困った。想定よりも早く見付かってしまったな」
「困ったようには感じられないがな。理由は?」
「ふむ。そうだな…魔法使い
「呆れたな。やめろと言ったら、聴いてくれるか?」
「ゼーリエ。進化には対価が必要だ。そこにあるのは元人間だ。問題は無い」
駄目だ。今のこいつには何を言っても通じない。私が
まあつまるところ──
「頭を冷やせ。馬鹿たれが」
瞬間、0.1秒にも収まらない速度でゼーリエが魔法を放つ。
「《
無情にも、ゼーリエの放った銀色の魔法は黒い半透明な球体に吸い込まれ跡形もなく消失した。
「なんだ、それは」
「君の放つ魔法は防御魔法を貫通する。ならば、魔力ごと喰らえばいい。ただ他人の魔力を喰らえば私へと吸収される。その所為で頭が痛くなる。他者の魔力を自身へと入れればそうなるのは必然のことだが嫌になるよ…痛いのは嫌いだからね」
「…化け物め」
「よく言われる」
これはかなり骨が折れそうだ。だが何故だろうな。この馬鹿と本気で戦うのは、心の底から楽しみで、有意義な時間だ。