引き籠りの魔法使い   作:涙袋

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E p i s o d e .11-彼女のたったひとつの…【下】

 

 

「《大爆発を引き起こす魔法(グローセエクスプロージョン)》」

 

「《爆発を閉じ込める魔法(ハヴァトシュミネ)》」

 

「チッ」

 

 木々が視界を遮(さえぎ)森の中を、ふたりは縦横無尽(じゅうおうむじん)に駆け抜けながら最適であると判断した魔法を撃ち合う。

 時には物を利用し空へと浮遊し、空中戦を繰り広げる。

 

 全く、嫌になる。

 私は殺す気で…一切手を抜かずに殺そうとしているのに、あいつは防御と打ち消す為(ため)にしか魔法を使っていない。

 それだと言うのに、一点集中の攻撃も広範囲攻撃も意に返さず飄々(ひょうひょう)と…本当に腹が立って仕方がない奴だ。

 本気なのは私だけか?

 

「…舐めるな。

《生物を凍結する魔法(エンフリアス)》」

 

「!」

(この魔法は私の…)

 

 ゼーリエの放った魔法に、エトワールは僅かに目を見開けた。それは見て分かるように、驚きによるのものであった。

 

「ふ。見て盗めるのはお前だけでは無いぞ?」

 

「…なるほど」

(私の無差別的なものと違い、特定の生物のみを凍らせるのか。魔力消費は《万物を凍結する魔法(クリムコイル)》の三分の一と言った所か…中々にいい改良をする。防御魔法が意味をなさないあたり、簡易的な呪いに近いものだろうか?あの角付きの子供と似ている。ならば対処は容易だ)

 

 エトワールは瞬時に生物を凍結させる魔法(エンフリアス)の構造を理解する。

 

「…」

 

 私の予測が合っていれば、こいつに今の魔法はもう通用しない。

 一度見れば大抵の魔法は理解する…これがこいつの最も強い長所だ。理解されれば対応も真似もして来る。あの馬鹿のことだ、この状況もある意味学びとして楽しんでいるんだろうな。

 ならば数だ。戦闘経験と攻撃魔法の手札の数。それが現状唯一あいつを上回っている私の要素だ。

 

「《災害の竜巻の魔法(トルネルド)》」

 

 ゼーリエが刃のような風が吹き荒れる巨大な竜巻を引き起こし、エトワールへと襲いかかる。

 

「《連爆を起こす魔法(アヘルヴァハト)》」

 

 だがその竜巻はエトワールの爆発魔法によって打ち消される。

 

「《破壊の雷雨を降らせる魔法(フェアデスゲヴィア)》」

 

 続いてゼーリエが森を埋め尽くす程の雷の雨を降らせる。

 

「《避雷針の魔法(ラピスセヴァク)》

《全てを修復する魔法(イースエリク)》」

 

 空より降り注ぐ雷雨が、至る所に現れた柱に収束され破壊的効果を奪われる。

 それと同時に発動した魔法によって破壊され尽くした森が瞬時に元通りになる。

 

「…余裕だな」

「そんな事は無い。それなり疲れている」

 

 などとは言っているが、エトワールの顔には明らかな余裕の色が見られる。互いに魔力を大きく消費しているが、総量が総量なだけありまだまだ余裕がある。

 だが──

 

「これ以上続けても終わりはない。ここら辺で止めにしよう。ゼーリエ」

 

 終わりの見えない喧嘩(たたかい。)

 もはやこれ以上は意味がないと、エトワールはゼーリエを絆(ほだ)そうとする。それに対してゼーリエは軽く息を吐く。

 

「…ならひとつ約束しろ。私が居る内はあの実験をするな」

「ふむ…あいわかった。暫く実験は止めよう」

「そうか」

 

 たかが口約束だ。

 胡散臭い(うさんかさ)くて平気で嘘をつきそうな馬鹿だし、死体を弄ぶような真似をする阿呆…だがこういった類いの約束を破る奴じゃない。

 だからきっと、私がこの場所を離れるまでの間は実験はしないだろうな。

 

 

▼△▼△▼△▼

 

 あれから時間が経ったが、今のところあいつは私との約束を破っていない。家のルールは直ぐに破ったと言うのに、魔法関連となると無駄に真面目な奴だ。

 

 そんなある日のことだ。

 リビングで博士を弄(いじ)っていると、この馬鹿はとうとう『星を降らせられるようになった』などと口走った。

 馬鹿で阿呆でイカれた奴だが、まさかそんな馬鹿げたことまで出来るようになるとは思いもしなかった。本当に人間なのかもう私には分からん。

 だがどうやら地上に降らせるのではなく、空に降らせるという。また意味の無いことすると思った。

 

 

▼△▼△▼△▼

 

 次の日。

 興味が無いと言って起きながら、結局私はエトワールについて行った。空には雲ひとつなく、ただ星がどこまでも広がっていた。

 

 エトワールは星を見ると昔を思い出すらしい。

 

 私は大していい思い出は無い。滅ぼされた村に強い思い入れがあった訳でもない。旅の道中だって散々なものだった。

 こいつのことだ。どうせ今と変わらず、楽しげに魔法を研究していたんだろうな。 

 

「ふむ。君が友人で何よりだな」

 

「ッ?!」

 

 突拍子も無く、この馬鹿は物凄く気持ちの悪いことを言い放った。

  

「よせ気持ち悪い突然どうした!変な薬でも飲んだのか?!」

「はっはっはっ」

 

 私は未(いま)だに理解が追い付かず戸惑っていると言うのに、その原因であるエトワールはなんとも愉快(ゆかい)そうに笑っていた。

 それにしてもこいつの口から“友人で良かった”などと言う言葉が出るとは、思いもしなかった。

  

 何時も何を考えているのか解らないし考えてたとしても魔法のことだけだ。私のことだって友人ではなくエルフと言う種族の一個体でしか見てないと思っていた…それがまさか友人などと思っていたとは驚きだ。

 

 だが種族としてでは無く、一個人として見られるのはあまり悪くは無いな。ましてや友人となると余計に。

 今まで友人と呼べる者がいなかった所為でなのか、長い時間を共にしているからなのか…理由はよく分からないが、多少なりとも嬉しいとは思った。

 

「ゼーリエ。君は何か願いがあるかい?」

「願い?」

 

 エトワールは相も変わらず、解(わか)り難(にく)い言葉を口にする。願いはと聞かれても何を答えればいいのか分からない…だが強いて挙げるとするならば…。

 

「──強い奴と戦いたい」

「であるなら。今から目にする星に、その願いを込めると良い」

「何を言っている?」

 

 星に願えと言われても、それに一体なんの意味があると言うのか。星に願いを込めて叶うなら、ずっと昔に人類がそうしている。

 そう思う私を他所に、エトワールは続ける。

 

「星は、神と云う存在に近く在る。それが流れ更にその近くへと行きその耳へと届く。故に、願いを込めるんだ。

《願い星を降らせる魔法(プロスフィア)》」

 

「ッ!」

 

 見たことも感じたことも無い程の魔力の光が、空へと登り私の視界を埋め尽くす。

 

「これは…今までの魔法とは比になら無い…」

 

 恐ろしい。

 私の見てきたどの魔法より強大でどの魔力よりも濃い。私たち魔法使いだけでは無い、一般人でも戦士でも魔物でも、これは恐ろしいと感じる。

 その筈だと言うのに、何故それを感じさせない?なぜ恐怖では無く美しいと感じる?なぜこの光を暖かいと感じる?魔力でしかないそれに暖かみなんてものは無いと言うのに…。

 

「どうだいゼーリエ。この星の降る空は?案外、美しいものだろう?」

 

「…」

 

 この男は本当にどこまでも、馬鹿に思えてしまう程に、魔法が好きなのか。

 まったく。難しく考えているの可笑しく思えてしまうな。これでは、私が馬鹿な魔法使いでは無いか。

 

「はは…!ははははははは!お前は、お前と言う奴は本当に変わっているなっ!アハハハハハ」

 

 きっとこんな変わり者だからだろうか。共に居て退屈は無い。日々を楽しいと思える。より魔法が好きになる。これを友人と呼ぶのなら、たしかに私はこいつの友人だ。

 

「…あぁそうだな。確かにこれは存外、悪いものじゃ無いな──今まで見たどの魔法よりも、綺麗だ」

 

「そう思ってくれたらなば何よりだ」

 

 くだらない、何処までもくだらない魔法だ。

 私のこの考えは変わらないし、変えようとも思わない。だが嫌悪(けんお)し蔑(さげ)すむ事はしないだろう。何せ私はこの下らない魔法を、心から美しいと思ったのだからな。

 

「それで?次はいつ降らせるんだ?」

「五十年だ」

「?何故だ?」

 

 何故無駄に間を開けるのか?そう聞けば、こいつの古い友人が占い師と言う人間だったらしく、『お前に会う数字だ』と言われたの理由だそうだ。

 その数字にどんな意味が込められているのかは知らないが、こいつの友人のことだ…とりわけ変わった奴なんだろうな。

 

「エトワール。近々、面白いモノを見せてやる」

「…それは楽しみだ」

 

 家へと戻る道中で、私は一言そう伝えた。

 

 

 

▼△▼△▼△

  

 私はあの魔法を美しいと感じた。

 私にはあのような魔法を作る事は出来ないだろう。だから私は美しい魔法を作るという考えを捨てる。

 私の作る魔法は現在(いま)を、未来(さき)を作る魔法だ。あいつの魔法に比べれば見劣りするというレベルでは無いだろうが、これが私の作りたいと思えた、くだらない魔法だ。

 

「過去の私が見たら大いに笑うだろうな」

 

 私は完成した魔法を手に、エトワールと博士を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 太陽が一番輝く時間帯。

 青い空には程よく白い雲が浮き上がっている。

 

「エトワール。私は実戦型…実用型でない魔法をこの先も相も変わらずくだらない魔法だと思い続けるだろう」

「そうか」

「だが、蔑むような事は決してしない。何せ私は、このくだらない魔法が好きだからな」

 

 私は前を見ず、上も向かず、ずっと下を見て歩いてきた。それが一番楽で、後悔することも無く、嫌な思いをすることもない。

 だがその道は何も面白くなく光も見えない、永遠と続く暗い道だった。

 

 だがそれは過去で、変えることはできない。

 

 それならば現在(いま)を歩む道と、未来(さき)を歩む道を、どこまでも終わることの無い色とりどりの鮮やかな花々で埋め尽くしてしまえばいい。

 そうすれば少なくとも、未来は変えられる。

 

「《色鮮やかな花を創る魔法(エリウントメンブルヴェール)》」

 

 私は瞳を瞑(つむ)る。

 この魔法は事前の発動実験をしていない。

 何故かこの魔法が失敗するのが怖いと思ったからだ。だからこうして今も、目を開けることができない。

 

「…そうか。そうかそうか…くくっ、はははははっ!これはなんともまたっ!実に面白い魔法ではないか…ゼーリエ君は随分と、綺麗な魔法を使うのだね」

 

 エトワールが今まで聞いた事のない笑い声をあげる。

 そして私はこいつの言葉を聞いて、ゆっくりと瞼(まぶた)を開く。

 鼻に届く微かな甘い香り。

 目の前に舞う色鮮やかな花弁。

 光に視界が眩(くら)む。

 そして視界が鮮明になり、その光景が私の瞳を覆った。

 

「〜〜〜ッ」

 

 ずっと咲くことのなかった木花のつぼみは目を覚まし、黒かった木々は太陽の光を浴び綺麗な緑色に輝気を放ち、淀んだよう空気は澄み切っている。

 そして一層鮮やかに大地に咲き誇る、何十種類もの花々。

 

「見ろ!エトワール!この私が作った、たった一つのくだらない魔法だ…綺麗だろう?」

 

 久しぶりの心の底から嬉しいと思った。

 その所為か、柄にもなくこの馬鹿の名前を叫んで自慢をした。まるで子供だと自分でも思った。だが今はどうでもよかった。

 

「そうだね。これは本当に、綺麗な優しい魔法だ」

 

初めてのくだらない魔法。

 それと初めて感じ取れた、こいつの本心からの感情。

 

「博士も綺麗だと思うか?」

「にゃぁあ〜!」

 

 この魔法が私の辿り着いた、最初で最後の──

 

 

 

──“くだらない魔法”だ。

 





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