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何やら近頃、北部方面で魔物や角付きの動きに変化が現れ始めた。当初から群れを成す個体はいたのだが、最近になってより統率の執れた群れ…いや、部隊と言うに値する集団が増えた。
私が考えるにこれは、特出した強大な力を有する角付きが現れたのだろう。もしくは角付きや魔物を支配する魔法を持つ何者かの二択だ。
「はてさて…一体何が起きているのやら」
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その日から数日後。
エトワールはゼーリエを連れて近くの村に来ていた。正確に言えば、村だった場所だ。今や人っ子ひとりおらず、馬車の車輪や慌てたであろう足跡しか残っていない。
「…ふむ。これは驚いたな。まさか一日でこんなものが現れるとは」
「相変わらず声に抑揚がなくて驚いてるように感じないな」
ふたりが見つめる先には、空に届くのでは無いかと思うほどに巨大な塔が立っていた。黄土色の煉瓦?らしきもので積み重ねられたそれは、エトワールやゼーリエの魔法でも破壊が困難な程の魔法耐性を有していた。
「…高いな」
「加えて魔法耐性も高い。迷宮の類いなのは確かだが、異質すぎる」
無効化…では無く吸収と言うべきだろうか。限界値はあるにせよ、私やゼーリエのような底なしと言える魔力をぶつけ無ければ傷すら付かないだろうな。是非とも一部を持ち帰り調べたいところであるな。
「どうする。まさか登るつもりか?」
「当然だとも」
「……はっ」
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塔の内部の30階付近と思われる階層の行き止まりで、ゼーリエはエトワールを呆れた様子で見ていた。
「私は常日頃からお前を馬鹿だ阿呆だ愚物だと思っていたが…此処までだったか…」
ジト目でため息混じりにそう告げるゼーリエの目先には、ミミックに上半身を食われるエトワールの情けない姿があった。
「済まないゼーリエ。手を貸してくれないだろうか。想定よりも歯が鋭く顎も強い。身体に纏っている魔力を少しづつ削っているところを見るに、分散の効果が有るだろう。このままでは私は死んでしまう」
ミミックはエトワールを骨まで食らいつくしてやると意気込むように、暴れながら食いちぎろうと藻掻いていた。
「…はァ、手のかかるジジィだな」
ゼーリエがエトワールの足を掴み、力いっぱい引っ張るとミヂミヂと嫌な音をたて始めた。だがゼーリエに止める様子はなく、強く引っ張り続ける。
「痛い痛い痛い待ってくれゼーリエ」
「…なんだ。注文の多い奴だな。それでどうする抜けんぞこれは」
ゼーリエはエトワールの足をほっぽり投げる。
「ふむ。抜けないのは一重に、ミミックの歯が特殊だからだろう。反しが付いているのは当然ながら、その歯に纏っている魔力が鍵となる」
「喰われながらそんな事を考えるな変態」
「失礼な事を言わないでくれると助かるんだが」
魔物の持つ魔力は人類種や角付きと大きく違ってくる。人類種、角付き共に魔力の形や効果を操作する事は出来ない。
それに対して一部魔物の纏う魔力は特殊なものだ。獲物を捉える際か身を守る時によく目にされるそれは、誕生の瞬間に極僅かな可能性で発現する。当然効果は種によって多種多様となる。
最も代表的な例が竜だろう。
口から吐く炎は、身に纏う魔力が口へと集中し炎へと自然変換されているためだ。口から放つのは単に狙いが定めやすく魔力の集中箇所として最も効率的であるからだろう。
その他にも狼型の魔物の爪にはザラザラとしたヤスリの様な魔力が纏われており、その効果は酷い痛みや傷の回復速度の低下などが見られる。
この様に種によって効果が変わって来る。
どうやら今回私の捕まったミミックの牙には、小さな細々とした針のような魔力が纏われているようだ。その所為で幾ら引っ張っても抜けないのだろう。とても痛くて困る。
「仕方が無い。《
ひとつ魔法をかけると、先程まで暴れていたミミックが静かになりゆっくりと眠りについた。エトワールは力の抜けた口から上半身を抜いて起き上がる。
「一応聞くが、なぜ殺さない」
「これは私の考えでしか無いが、ミミックは迷宮以外では出現しないだろう。出現するとしても極希だ。滅多に確保できないと考えると今のうちに確保しておきたくてね」
「そんな事だろうとは思った」
「はっはっはっ」
私としてはミミックはかなり面白い生物に分類される。他にも何らかの造形品、自然物に擬態する魔物はいるが、ミミックのように魔力を完全に隠し生命探知の魔法にも掛から無い魔物は初めてだ。家へ戻り次第ミミックを隅々まで調べ、対ミミック用の探知魔法も作った方が良さそうだ。
「さて、どんどん行くとしようか」
それからふたりは各階層を隈なく散策しながら上層へと向かっていった。構造としては特に入り組んでいて道に迷うほど広いという訳でもなく、天井も高く階層自体もそう多くはなかった。
だが宝箱などが設置されていたりして、幾つかの魔道具や数冊の魔導書を手に入れた。道中では魔物がそれなりに現れたが、強さは大して厄介にはならなかった。
全体的に見れば、古いタイプの御伽噺などで目にするような迷宮と言える。
そして夜となった現在、エトワールとゼーリエは迷宮のボスであろう部屋の前にいた。見るからに重厚な大扉には、なんともいえないデザインが描かれていた。
「明らさまだな」
「いいじゃないか。迷宮らしいのは嫌いじゃない」
「よく分からんな…ともかく居るぞ、かなり強い」
「確かにそうだ。なら少し、派手に行こうか」
ゆったりと、腕を扉に向ける。
「──《
膨大な熱量を有した巨大な光線が、扉を容易く穿ち迷宮の外壁すら溶かし吹き飛ばす。夜の世界に一筋の朱色の線が走った。
「……これは些か、厄介が過ぎる」
大穴の空いた扉の先…そこには、砂煙の舞う中に佇む小さな人影があった。シルエットからして、エルフだろう。
『…誰です?私の家を、荒らすのは』
「家だと?」
ゼーリエが声に反応する。
その声は透き通るようで、とても儚く消えてしまいそうな程に薄いものだった。その声の発せられる口がまた──開く、
『 ̸̨̛̜̞̟̓̓͝ ̴̡̢̛̖̗̓̚̚ ̷̢̛̘̙̫̓̓͝ ̸̛̖̗̹̓̚̚ ̴̢̛̜̞̓̓͝ ̷̡̢̛̖̗̓̚ ̸̨̛̘̙̫̓̓͝ ̴̢̛̖̗̹̓̚ ̷̨̛̜̞̟̓̓͝』
「ゴボッ……?」
「っ?!エトワール!」
エトワールが大量の吐血を起こすと同時に、足を崩して片膝を着く。ゼーリエがエルフらしきナニカを強く睨み、手を向けて魔法を放とうとする。だがエトワールが肩を掴んで静止する。
「……」
大量の吐血…胃・食道・肺の何れかの破損と言ったところだろうか。痛みからして食道か。心臓でなくて助かったね。
──《
脳内で唱えると、エトワールの吐血が止まり痛みが引く。そしてエトワールの予測通り、破損した内臓が修復される。
「ゲホッ、ごほっゴホッ…プッ、ふむ。もう大丈夫だ」
エトワールは血反吐を吐き出して軽く口を拭った。
「っエトワール、大丈夫か?」
「ああ、問題はないとも」
強大な気配は感じられるが、魔力を感じないな。隠してるとは違う。魔力とは別の何か…異質とも感じられる、超越した何か…。
『…困りましたね。アナタは、とても危なそうです』
「それはこちらの台詞だと言わせてもらうよ」
『なら一度、還ってください』
『꧁༒†̸̨̛̹̫̓̓̚⸸̷̢̛̖̯̓̚ꙮ̷̷̢̢̛̛̖̯̫̹̫̓̓̚⫷༒꧂』
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▽場面が切り替わる
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まるで頁を最初に▽
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▽戻したように
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。▽
「「っ?!」」
雲ひとつない空。
太陽が煌々と大地を照らしている。
目の前には変わらず塔が聳え立っている…だが、何も変わっていない──『塔に登る前と』。
「…どうやら、とてつもない存在と出会ってしまったようだね」
「時間が…巻き戻ったのか?」
エトワールが持ち物を確認する。そこには、迷宮内で手に入れた魔道具も魔道書も入っていなかった。同時に、迷宮内で使用した物も元に戻っている。
「…あいつから魔力を感じなかった。偽装と言うよりも、元から持っていないような感じだったぞ」
「ああ、私も同じだ。 それどころか、生きているようにも感じなかった気すらするがね」
「エトワール。あいつが使った術…アレはなんだ」
「さぁ…一体、なんなのだろうね。ひとまず、今は引くとしよう」
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次の日。
エトワールはゼーリエと共に再び塔へとやってきた…だが……。
「これは…」
ふたりの眼前に聳える塔には、蔦や苔が生い茂り花まで咲いていた。塔の姿は昨日とは違い、数十m程度の高さしかなくなっていた。その先は崩れ落ちて折れたかのように消失していて、全体は今にも崩壊しそうになっている。
「……」
ゼーリエが外壁を軽く叩くと、ボロボロと煉瓦が欠け落ちる。塔の隙間から鳥や小動物が飛び出してくる。まるで、何十年何百年とここにあったかのようだった。
「…これもあの化け物の仕業か」
「だろうね。これはかなり──恐ろしい」