フェルリーアがあの魔人と遭遇し、生かされてから数日が経過した。その間フェルリーアは自問自答を…せずにひたすら魔物を狩り続けていた。以前使っていた鉄の剣はもはや使い物にならなくなった為、村にある剣を二振り借りていた。
そんなある日、村に中年の行商人が訪れた。フェルリーアは新しく自分用の剣を買おうと、行商人の男に声を掛けた。
「剣ですか…」
「ないですかね?」
「いえ。あるにはあるのですが、
「
前に使った事はあるけどどうにも手に馴染まなかったんだよなあ〜。軽過ぎるし強度が高くないから直ぐダメになっちゃうし、思いっきり振り回したい私としては性にあわない。
「どうしよっかな〜」
とフェルリーアが悩んでいれば、男が最近耳にした噂を教えてくれる。
「そう言えば、噂でここから東に行った場所には星の剣があると耳にしましたよ」
「星の剣?」
「ええ。私が耳にした話では、願い星の欠片を使った剣だとか」
「願い星の欠片?!」
願い星。
それは50年に一度目にすることの出来る、流星雨の事である。300年ほど前から『願いの叶う流れ星』とされ伝説になっている。なぜ願いが叶うなどと言われているのかは、誰も知らない。
「とは言え、あくまでも噂ですが」
「噂でもいいから!東のどこ?!」
「確か、シュレクト山脈の麓にある都市だったかと」
それを聞いたフェルリーアは、すぐに旅の支度を始めた。借りていた剣に関しては、村長が道中必要になるだろうと言うことでフェルリーアへと譲ってくれた。
そうしてフェルリーアは、村人達に送り出されて東にあるシュレクト山脈の麓にある都市──イムフタールへと向かったのだった。
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一ヶ月後。
イムフタールに向かう道中で、フェルリーアは久しぶりに小さな街に立ち寄っていた。街に入って暫くすると、衛兵が声を掛けてきた。どうやら此処の領主がフェルリーアの噂を知っているらしく、依頼を頼みたいと言う。
フェルリーアは悩んだが、懐事情が寒くなってきた事を思い出して路銀稼ぎとして依頼を受けることにした。
「薔薇水晶…?」
「そうだ。薔薇水晶はこの街の特産品なのだが、その水晶が取れる洞窟が最近強力な魔物に住み着かれてしまってな。兵を出そうにも近頃は魔人が多い。無闇に向かわせることはできない。どうだろうか?報酬は弾むぞ」
「うん!いいよ任せて!」
フェルリーアは依頼を受けると、早速洞窟へと向かった。
洞窟には巨狼の魔物が待ち構えていた。巨狼はフェルリーアが剣を抜くよりも早く、敵だと察知して襲いかかった。
鋭い爪の伸びた前足でフェルリーアを叩き潰そうとするが空振る。フェルリーアはその隙を逃さず、剣を抜いた勢いで足を切り飛ばす。
巨狼がよろめき後退りをするのを前に、フェルリーアは油断も躊躇いも見せずに巨狼を斬り殺した。
「…よし、これでいいかな」
フェルリーアは念の為洞窟の中に入って索敵を行ったが、他に魔物はおらず問題は見当たらなかった。そして洞窟の奥に辿り着くと、そこには色とりどりの薔薇の姿をした水晶が広がっていた。
「うわ〜すっごい綺麗」
まるで夜空が花になり地上に咲き誇ったかのような光景に、フェルリーアは息を飲み呆気に取られた。暫くその光景を眺めた後、街へと戻り領主に報告をした。
フェルリーアは領主から報酬を受け取り、その日はぐっすりと休んだ。それから数日ほど滞在して、再びイムフタールに向かい始めた。
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──フェルリーアが旅を始めてから2年半。
フェルリーアはイムフタールに向かう中で、何度か村などに立ち寄っては依頼を受けた。そうして約半年を掛けて目的のイムフタールへと到着したのであった。
シュレク山脈の麓にあるイムフタールは、難攻不落の都市として知られていた。自然の険しい立地による護りに加えて、分厚く巨大な城壁が侵攻を食い止める。加えて魔人による上空からの攻撃にも耐えられるように強固な防護結界も展開されていた。それにより幾度となく魔人や魔物の襲撃を跳ね除け、絶対の平和を護っている。
そして何よりもイムフタールを難攻不落としているのが、六英雄と称される者のひとりが守護を担っているからである。
六英雄とは魔王出現以前に大きな功績を残した者達のことであり、様々な分野で人類に貢献を成した伝説的な英雄だ。
「…でっか」
フェルリーアは城門の前で、巨大な城壁を前に間抜けな顔をして見上げていた。灰色のブロックで隙間なく積み重ねられ、鉄などによる補強もされていた。
「こりゃ落ちないわ」
見たことないくらい大きな城壁と分厚さ…複雑そうで意味分からないくらい硬そうな結界。今まで何度か防護結界見た事あるけど、こんなすごいのは初めて見る。これなら何十回何百回と侵攻されても破られない訳だよ。
「さてと…星の剣を探すとしよっか!」
そんなこんなで都市のあちらこちらで何時間も聞き回った結果──。
「ぇえええ?!願い星の剣じゃないの?!」
とある鍛冶屋のドワーフから、星の剣についての情報を聞いていた。
「ああ。願い星の欠片なんてあったら、今頃大騒ぎだぞ」
「そ、それは確かにそうだけど…ぅぅ〜そんなぁ」
「まぁだが、星の鉱石を使ってるのは本当だ」
「…っ…ほんと?!」
項垂れていたフェルリーアはバッと顔を上げて、ドワーフに詰め寄った。ドワーフが言うには、確かに
それはなんと運のいい事に、二振りあるそうだ。そしてその剣は今、領主が所有しているらしい。
「…それ、私じゃ手に入らなくない?」
「いいや。そうでもない。最近領主がとある依頼を出してな?それを達成した者に欲する物を何でも与えてくれるんだ」
「依頼?どんな依頼?」
「なんでも古い金作りのペンダントだとよ。冒険者どもは躍起になって探してる」
領主が依頼したペンダント。
外見は太陽をモチーフにしたデザインで、中央には色鮮やかな宝石が埋め込まれているのだとか。そのペンダントがどのような意味を持つかは領主以外の誰も分からないが、一ヶ月程前に出されたその依頼はまだ終わっていなかった。
「なるほどね。ありがとうおじいちゃん!私探してみるよ!」
「おう。頑張れ」
それからフェルリーアは、星の剣を手に入れるためにペンダントを探し始めた。領主が当初開示していた情報によれば、シュレク山脈の何処かにあると言う。
シュレク山脈は全体的に標高がとても高く、酸素が薄い上に肌を刺すような寒さをしている。そして何よりも広大だ。そんな中からひとつのペンダントを見つけ出すのは不可能と言えた。
大体2週間後。
フェルリーアはシュレク山脈で深い大洞窟を見つけていた。見たところ人の気配ない…が、強力な魔物の気配が重たく漂っていた。
「この感じ、竜かな」
竜。
魔物の中でも取り分け頑強で強い攻撃性能を有する。特に竜の鱗は魔法耐性が非常に高く、魔法使いにとっては相性が悪いとされている。
「念のため剣新調しといてよかった」
フェルリーアはペンダントを探しに出る前に、武器屋で早々に武器を新調していた。細すぎず太すぎない刀身に、握りやすい太さの革製のグリップ。竜を討伐するには十分な耐久性もある。
「…やるか」
剣を抜いた瞬間、大洞窟の奥から灼熱の光線のような咆哮が放たれた。フェルリーアは瞬時に回避する。洞窟はドロドロに溶けて、地面も炭化していた。
「強い」
その時、大洞窟の有る山の一部を激しく破壊しながら巨大な竜が飛び出で来る。それと同時に前足を振りかぶり地面もろとも吹き飛ばす。
フェルリーアは前に駆け出してそれを回避すると、流れるように前足を深く斬りつける。竜は暴れるようにその場で身体を回転させるが、フェルリーアは竜の頭上に飛んで背に乗る。
そして竜の背を駆けて、首の根元に近付き強く剣先を突き刺した…だが硬い鱗と筋肉に妨げられ、深く刺さらずに致命傷には届かない。
竜はフェルリーアを振り落とすために翼を羽ばたかせて空に飛び立つ。そして空中で体を激しく振り回しフェルリーアを背から振り落とした。
「っ」
空中に振り落とされたフェルリーアは身動きが取れずに、自由落下していく。その隙を突くように、竜が灼熱の咆哮をフェルリーアに放つ。
「やばっ」
即座に剣をクロスさせて防ぐが、勢いは殺せずに地面に強く落下して叩きつけられる。フェルリーアはすぐさま体勢を整えて剣で周囲を覆う炎を振り払う。
「ふぅ…」
今まで戦ってきた竜の中でずば抜けて強い。見たことない種類の竜だし、確実とは言えないけど新種だよね。まぁでも倒せないことは無いかな。攻撃は通るし動きも見える。あの魔人に比べれば余裕。
「それじゃあここからは、本気だよ」
フェルリーアが駆け出す。
竜が翼を羽ばたかせて急降下し、その勢いのまま口を開き鋭い牙でフェルリーアを噛み殺そうとする。
そしてフェルリーアを口の中に捉えて強く閉じる…が、それと同時に翼の片翼が斬り飛ばされた。
『?!?!?!』
翼を切り落とされた状況に理解が追いつかず混乱した竜は、急降下した勢いのまま地面を抉るようにして墜落した。
そしてフェルリーアはその隙を逃さず、竜に向かって飛翔して頭上から剣を突き立てて落下する勢いで頭部を深々と貫いた。
例え竜と言えども、脳髄を剣で貫かれれば絶命する。竜は力なく崩れ落ちて、魔力の屑となって消えた。
「ふぅ…よし」
竜が消えたのを確認して剣を収める。
そうしてペンダント探しを再会しようとした時──チリンっ─と金属が落ちるような甲高い音がフェルリーアの耳に届いた。
なんの音かとフェルリーアが辺りを見渡すと、竜が消えた跡に何やらキラキラと光る物が落ちていた。
「なんだろ?」
フェルリーアはそれを手に取って、陽に照らしてまじまじと見る。それは黄金で作られ、宝石の埋め込まれた──ペンダントだった。
「っ〜〜やったぁああ!やっば運良すぎるでしょ私!」
果たしてこのペンダントが領主の求める物なのかは分からないが、フェルリーアはそのペンダントを落とさないように首から下げる。
「さてと、無事帰るまでが冒険だからね!」
そうしてフェルリーアは、意気揚々とした様子でイムフタールへの帰路へとついた。