──転生してから700年。
この世界へと来てから700年が経った今日。
生前より私が求めて止まなかった魔法がもうひとつ完成した。この魔法も《空間を拡張する魔法》同様に、魔導書へと書き写すつもりはない。
第一、この魔法は私の求める魔法の中である意味最も危険と言えるもの。もし
では私が求めた魔法は何か?それは──
──《生命を操る魔法》。
これこそが私が心から求めた魔法のひとつだ。
この魔法を作ったのは
だが《生命を操る魔法》と言っても、死者を
しかしこれでひとまず私から寿命による死と言う
「気分が良い。博士、祝杯でもあげるか?」
「にゃ〜!」
「そうか、雨が降っているのが少し残ね──」
──コンコン
「シャーッ!」
「なにそう警戒することはない。ひとまず落ち着くんだ博士」
私はそんな博士の頭を撫でひとまず落ち着かせる。
「ふむ…」
驚いたな。
この森は呪いの
一応私自身もこの700年間、
そもそも荒事は好きではないんだ。素材採取以外での戦闘は
取り敢えず扉の向こう側からの敵意は感じられない。魔物特有の気配も無い…開けてみる他ないか。
私はそう判断し、扉をゆっくりと開けた。
「…これは驚いた…まさか君のような子供が
扉を開けた先に立って居たのは、小柄な少女であった。身長は大体150と言った所か?雨の
「子供とは失礼だな。私はエルフだぞ?見た目で判断するな」
その言葉通り、彼女の耳は普通の人間よりも明らかに尖っていて長かった。
「エルフとは…生で見るのは初めてだな。取り敢えず上がるといい」
「良いのか?敵かもしれないぞ?」
そう言うエルフの少女の
「ふむ。確かに君の言う通りだが、もしそうであったのならば私に見る目が無かっただけだ。それ以上でもそれ以下でもないさ」
「そうか…ではお言葉に甘えさせてもらう」
「あぁ、そうしてくれたまえ。とその前に、風呂を沸かしてある。ゆっくり
「…何から何まで悪いな」
彼女が身体を洗いに行ったのを確認した私は、二階へと上がり全ての部屋の鍵を閉めに行く。
危険な素材が置かれている倉庫、数百冊の魔導書を保管してある蔵書室、未完成の魔導具や完成した魔導具のある部屋、最後に魔法や錬金術を使用する開発室。
これらは信用の出来ない者に見せる気は無い。
扉も鍵も私の開発した魔導具だ。魔法も掛けてある。この扉を開けられるのは私か博士のみ。
絶対に問題無い、という訳では無いがあった方が何かと良いだろう。
そうして全ての鍵を閉め終えた私は、一階へと戻り暖かい飲み物と軽く摘めるものを用意する。
エルフとは言えあの見た目、まだ子供なのだろう。そう思いココアとクッキーを用意していると、タイミングよくエルフの少女が浴室から出て来た。
なんと驚いた事に、エルフの少女は何も着ておらず裸のままであった。
「おや?衣服はどうした?」
「折角綺麗にしたんだ、あの服を着たらまた汚れるだろ?」
「はっはっはっ。それもそうか。少し待っていたまえ」
流石にこのままでは風邪を引いてしまう。私は二階へ行き倉庫へと入ると、布を数枚手に持ちそれを魔法によって衣服へと変える。
服の大きさは正直適当だ、この際着れれば何も問題は無いであろう。そうして私は即席の服を少女へと渡す。
そして衣服を着た少女はソファーへと腰を下ろした彼女に、ココアを手渡し私も同じようにソファーへと座る。
「外は寒かっただろう?ココアを飲むと身体が温まる」
「…お前には警戒心というものが無いのか?」
「警戒心はあるさ。先程も言っただろう?君からは敵意を感じない。だからこうして持て成している」
「いつか殺されるぞ」
少女は暗い瞳を私に向けながら、そう告げる。
その瞳を見るに、彼女は余程の事を何度も経験してきたのだろう。
「確かにその通りだ…しかし何時かは死ぬ時が来る。それが遅いか早いかだけさ」
「変わっているな。お前は」
「はっはっはっ。よく周りの者たちから言われたさ。それで、君は何故このような場所へ?特段珍しいものがある訳でもなかろうに」
「迷子、と言ったら信じるか?」
「本人がそう言うのであればそうなのだろう」
「お前は本当に…」
少女は呆れた様な表情で額へ手を当てる。
それに私とて警戒をしていないと言うより、ただ死に対しての恐怖がこの700年で無くなってしまったのだ。故に、これといった警戒心というものを持っていないだけだ。
失ってはいけない感情なのだろうが、どうにも時が経つに連れ感情が薄れていく。長生きにはこういった
「改めて聞くが君は何故ここへと来た?そもそもどうして此処へとたどり着けたのかな?」
「…迷っていたのは本当だ…私が此処に来たのは──」
そこから彼女は此処まで来た
だがそんなある日、角の生えた人型の化け物に襲われ、
だが村に戻ってみれば、そこに広がる光景は惨たるもの。
その日から彼女はフラフラと
しかし運良く直ぐにこの家を見つけ、駄目元で
村が魔物に襲われたのが100年ほど前との事だが、確かその頃は強力な魔物が暴れ始めた時期と被る。
となれば主犯格はソレで間違いない。此処に来なければ良いのだが、そうもいかないか。
しかしこの少女の状況は把握出来た。
「…
「思ってもいないことを言うな」
「おや?これは酷い。思っていない事を口にしないよ私は…多少なりとも
「哀れんでか…お前、名前は?」
「名前…?」
考えて見れば、私は自身の名前を覚えていない。ぼんやりと浮かんでは来るものの、はっきりと思い出すことは出来ない。大して興味が無かったのだろう。
それに名前は無くとも不便はしない。生前も余り人と関わる事が無かった気がするが、今世に至っては彼女が初めて会った
それまで誰かに名前を呼ばれる事も無ければ、魔導書や魔導具に名を
今更名を得た所で使う機会など無いのだが、こういった時は少々不便か?まぁそれはいずれ考えれば良いか。
「申し訳ない、私に名前は無いんだ。だから好きに呼んでくれたまえ。今のままお前でも構わない」
「不便だな」
「そうか…」
矢張り不便だと言われてしまうか。全くどうしたものか。適当に
それとも何か偉人の名でも名乗るか……いや、もう面倒くさいな、適当に名乗るとしよう。
「では、“エトワール”とでも呼んでくれたまえ」
「エトワールか。分かった」
「それで?君の名前はなんと言うかね?」
「あぁ。私は“ゼーリエ”。こんな
どうやら予想通りエルフは外見では判断が付かない。だが年下か、エルフにとって200年という差がどれ程なのかは分からないが、特に気にする様なことでは無いだろう。
少女…ゼーリエの口調を聞いている限りでは、それなりに長生きしている部類なのだろうか?これは調べるのも面白そうだ。
「それで。君はどうする?この森を今すぐ出たいのならば出せるが?」
「そうだな。
「ふむ…」
言われるのではないかと思っていが、はてさてどうしたものか。現状空いている部屋は無い。新しく部屋を作ることは出来るが、非常に手間がかかる。
だが天候も悪く辛い日々を送って来た少女を放って置く訳にもいかないか…手間が掛かると言って数分程度で片付く。次いでに家自体を大きくするのも良いだろうか。
「であれば好きなだけ居る良い。あぁけれど、一つだけ約束して欲しい。二階にある鍵の掛かった部屋には無理矢理入らない事。それさえ守ってくれればあとは自由にしてくれて構わない」
「分かった。約束しよう」
「ではようこそ、ゼーリエ」
「私の方こそ世話になるぞ。エトワール」
こうして私とゼーリエの生活が始まった。
この後直ぐさま家を改良し部屋を四部屋ほど増設した。最初の一室は以前から素材用倉庫と一緒にしていた食料を置く場所とし、残りの三部屋はぜーリエが自由に使える部屋にした。
開発室、蔵書室、魔導具倉庫には鍵をかけておいた。素材用倉庫にある物は自由に使って良いと言う事にした。
素材に関しては好きなだけ複製ができる。中には危険な代物もあるが、私の命を脅かす様な物は無い。好きにさせても大丈夫であろう。
この先どうなるかは分からないが、楽しくはなりそうだ。多少の期待はしておこう。