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私の身体から寿命と言う概念が無くなった時から今に至るまで、時の流れを早く感じるようになった。だが話の合う相手がいるとそれは、余計に早く感じるものだ。
何故ならば彼女…ゼーリエが此処へ来てから既に10年と言う年月が経過している。驚いた事に、博士と二人だけだった頃よりも日々を楽しく感じるようになった。
とは言えゼーリエと私では求める魔法の方向性が
私が求める魔法は面白く馬鹿げた魔法や生活に役立つと言ったもの。
対してゼーリエが求める魔法は戦闘に特化したものが大半…その訳を考えるに、過去にあった魔物による村の消滅が原因だろう。
だが残念な事にゼーリエ本人は魔法を作ることが苦手らしい。覚え学習し行使するまでは一瞬と言ってもいいだろう。魔力の量も申し分無い…こればかりは慣れる他ない。
余談だがこれは錬金術も同様だ。
彼女に錬金術に関する書物を数冊ばかり渡しては見たが、数日後には自分に合うものでは無いと返されてしまった。
錬金術が好きな私からしたら少し残念ではあったが、これもまた向き不向きというものだ。
それから私の方が年上だと伝えたら、『ジジイだな』とはっきり言われてしまった。エルフにとって700歳は若いだろう?と言えば『お前は人間だろ?』と真顔で返され反論する事が出来なかった。
だが改めて考えてみれば当然のように、私は人間の
「エトワール。お腹がすいた」
昼時。
ソファーで
「
「博士も腹がすいたと言っているぞ?」
「んにゃ〜」
ゼーリエに抱きかかえられた博士が、それに同意するように鳴いた。
博士を抱えている姿を見てみれば、ゼーリエはただの子供に見える。まぁ博士が以前よりも少し太ったのもそう見える理由だろう。
食事の量が多すぎたのだろうか?それともオヤツの上げすぎ…いや動かないだけか。毎日のようにゴロゴロ寝ていればあんな体型にもなるというものだ。
「博士はそろそろダイエットの時期のようだ」
「んにゃッ?!」
「ゼーリエは料理の練習だろうか?」
「私が料理だと?」
「この十年間君は一度も料理をしていないだろう?なに、美味しく作れという訳では無いんだ。このままではいざひとりになった時に飢え死にしかねないのでな」
事実。
彼女がひとり旅を始めたとして、例えば野生動物を仕留めいざ調理して食べようとなった際、何も出来ないのでは死に逝くだけだ。木の実や果実では痩せ細り体力も落ちてしまうだろう。
それに
「お前は私の親か何かか?」
「親と言うよりかはおじいちゃんではないか?」
「ふ。お前も冗談を言うんだな」
「私は人間だ。冗談の一つや二つ言うさ。さて…博士」
「…んにゃ〜」
「可愛らしく鳴いても駄目な事は分かっているだろう?もし逃げたらオヤツは抜きとしようか」
「んにゃッ?!」
「はっはっはっ。では早速始めるとしようか」
何処か絶望した表情を見せる博士。面倒臭そうに
なんともまぁ一人増えただけだと言うのに、こうも賑やかになるのだな。これは生前にもなかった事だ。
ふむ。ゼーリエを迎え入れたのは正解だったか。博士も以前より少し楽しそうで何よりだ。
そんな訳で早速料理の練習を始めたのだが…なんと言葉に置き換えるべきか、包丁の握り方が非常に怖い。食材を切るだけだと言うのに、何故逆手持ちをするのだろうか。人でも殺すつもりなのだろうか?
「ゼーリエ。その持ち方は危険だ。このようにして持つんだ」
私は包丁の本来の持ち方をお手本としてゼーリエに見せる。するとゼーリエは、変な持ち方だなと言いながらもそれを真似する。
確かに、戦いばかりをして来た者にとって本来の包丁の持ち方では相手を傷付けられず変だと感じるのだろう。
「良いかい?食材を切る時は左手を猫の手だよ」
「猫の手…こうか?」
「そうだ」
「…博士、猫の手だ。にゃー」
「に…にゃ〜…」
「なんだ。歯切れが悪いな。食うぞ」
「にゃッ?!」
こう傍から見ていると、本当にゼーリエは子供のように見える……まずいな。この考えでは何時しか本当のおじいちゃんになってしまう。
「ゼーリエ。博士と
「分かっている」
気を取り直して再び練習を再開する。どうやらゼーリエは、思っていたよりも手先が良くないようだ。野菜一つ切るだけで手が傷だらけになってしまった。
これでは食べ物の皮を剥けるようになるまで時間がかかりそうだ。だが私たちは長命の者。何十年何百年掛かるかは知らないが、少しずつ慣れれば良い。
「さて、後は鍋に入れて煮込めば完成だ」
「私にかかればこんなもの余裕だ」
「そうか?私の《傷を治す魔法》が無ければ今頃君は出血多量で死んでいた」
「さあな。お前に傷を治してもらった記憶などない」
「そうかい?私の記憶違いだったかな?ではゼーリエ、私はテーブルに食器を並べてくる。鍋を見ていてくれ」
「分かった」
私は食事に使う為の食器をテーブルに並べながら、ゼーリエが鍋をしっかりと掻き混ぜているかを確認する。そしてそれと共に、
彼女がこの家に来てから10年…鳥と視覚を共有し彼女の証言と合致する存在を探してはいるが、未だ手掛かりすら見つかっていない。
だが角の生えた人型の魔物はちらほら居るようで、時折村や街を襲っている。
とは言え彼女の村があった場所へと足を運び、過去に残っている魔力の
しかし
生き死にの掛け合いをしている暇があるのであれば、私は錬金術や魔法の制作に手を向けたい。
第一この森から遠くへと離れるつもりは無いのだ。特段食料に困ることもなければ、情報を得られない訳でもない。
外界にしか存在しない素材には興味があるが、それも追々どうにかなるだろう。
「エトワール。出来たぞ」
「そうか。ではそれも運ぶとしよう」
ひとまず考える事を後に回し、私はスープの入った小さめの鍋をテーブルへと置く。
今回作ったのは野菜が多めのポトフだ。これはゼーリエの健康を考えた上でのものになっている。“賢者の石(仮)”を使用した私と違い、彼女は普通の身体を持っている。
健康面が
仮に病気になったとしても、魔法でどうにか対処する事は可能だ。だが魔法を
博士にも同様の食事を与えている。猫なのだから食せない物もあると考えるだろうが、博士は猫であって猫ではない存在だ。故に雑食で何でも食べる。
しかしその所為でこうも太ってしまえば困るものだ。
「では頂くとしようか」
「ああ」
「にゃ〜」
私たち三人(内一匹)は、料理を口へと運ぶ。反応は三者三様だが、悪い顔はしていない。実際に味は悪くない。少し塩味が強いが、これはコレでありだ。
野菜は小さいものや大きいものまでゴロゴロとしているが、味が良ければ全てよしと言うやつだな。多少茹できれていないのがあれだが、初めてにしては上々であろう。
博士も美味しそうに食べている。ゼーリエも満足そうな顔で何よりと言ったところだな。
「エトワール。上手く作れただろ?」
「あぁ、初めてにしては上出来だ。中々に美味い」
「そうか。態々作った
「では偶ににでも料理を手伝ってもらうとしようか。そうすればもう少し、料理が上手くなるだろう?」
その後も軽く会話をしながら食事を終えた。
次にやる事と言えば、博士のダイエットだ。現在の博士のフォルムはまん丸
今のところは健康上に問題が無いとは言え、私生活に支障をきたしている。
一つ、歩くのが亀の如く遅い。(逃げる時を除く)
二つ、階段の登り降りのが非常に遅い。時々転げ落ちる。
三つ、倒れたら自力で起き上がれない。特に階段からころがった時だ。
四つ、重すぎて運ぶのに苦労する。ゼーリエが運ぶ時は半ば
このままでは博士がより
これでは何時しか一歩も動かず太り続け、ブタになってしまうかもしれない。幾らなんでもそれは避けたい。故に私はダイエットメニューを考えた。
いきなりハードな運動は怪我をしてしまう可能性がある。最初は森での軽い散歩から始めるとしよう。それから途中で逃げ出さないように首輪もしておかなければ。
「博士、散歩と行こうか」
「…にゃ」
こうしてこの日から、ゼーリエの料理練習と、博士のダイエット生活が幕を開けた。
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今の季節は冬だ。
毎年という訳では無いが、雪はそれなりの
昨日から軽く降り始めたかと思えば、夕方には猛吹雪になっていた。これから博士のダイエット序でに散歩でもしようかと思ったのだが、タイミングが実に最悪だ。
それにしても、今年の冬は長くなりそうである。
半年以上は降り続くと言った所か?もしかしたら一年中降り続けるかもしれないな。
「にゃ〜」
「寒いのか博士?それとも今日からぐうたら出来るから嬉しいのか?」
「にッ…にゃ〜…」
「ははは。また太ってしまうな。博士、ゼーリエを起こしてきてくれないか?」
私が博士にその様に頼むと、博士は二階へと上がりゼーリエを呼びに行く。
その間に私は料理の準備を始める。こういった寒い日には何故だかシチューが食べたくなってしまう。
博士がゼーリエを起こしに行っている間、私は楽しげにシチューを作っていたのだが……どうやら今日は実に最悪な日らしい。
最近新たに改良した結界を張り直した。この森へと侵入した者を私へと
そしてその報せが今私の脳へと届いた。
姿までは見れないが、特殊な魔力の波長からして
どうやら彼女は察しが良いらしく、私が警戒しているのに気付いたようで声を掛けてくる。
「どうかしたのか?エトワール」
「角付きが森へと入ったようだ」
「場所は何処だ?」
「東だ。君も来るかい?私は角付きがどのような魔法を使うのか気になる」
「私も行くに決まってるだろ」
「では早々に行くとしようか」