たった一匹の…黒い角を生やした魔物に村を滅ぼされた。
復讐などと言うものの
そして私は、この場所へと辿り着いた。
何処までも黒く深い森。
そこには自然に生まれたであろう強力な呪いが常に
常人であれば数秒として生きる事が出来ないような森の中心に、木造の家がポツリとひとつ…その呪いを拒むようにして建っていた。
こんな場所に住む馬鹿が居るのか、私はそう思った。だがもし住む者が居るならそいつはきっと、私のような変わった奴だ。
一体どんな馬鹿がこんなところ住んでいるのか、心から気になった。気付けば私は、自然とその扉を叩いていた。
扉がゆっくりと開く。
敵の可能性もあった。
だが扉の向こうから出てきたのは警戒も何も無い、たった一人の人間だった。
強い魔力も感じなければ、今まで
そんな男の第一声はなんとも馬鹿らしいもので、『君のような子供が此処まで来るとは』などと言うものだった。
私がエルフだと言えば、嬉しそうな反応を見せた。とは言え一切
そのあとは見ず知らずの私に風呂を、衣服に暖かい飲み物と見たことの無い菓子を出してきた。
余りの警戒の無さに、私が敵ならばどうするつもりだったのかと聞けば『その時は私の見る目がなかっただけだ』と返された。
何故、私が此処へ踏み入ったのかと問われた。
私は素直に、気が付いたら迷い込んで居たと返した。普通であれば信じるべきではない言葉だ。だがその男は、何も聞き返すことなく受け入れた。
そして過去に何があったのかにも答えて…それも信じた。まあ『哀れんでいる』と言う言葉には全く感情が籠っていなかったがな。
それでもつくづく甘い人間だと思った。
「──お前、名前は?」
ふ と何故か気になった。
自分でもどうして名を尋ねたのよく分からなかった。だが男は少し悩んだ末に、名前は無いから好きに呼べと返してきた。
それでは不便だと返せば、男はまた悩み…『エトワール』そう名乗った。偽名なのは明らかだったが、それでも不思議と受け入れられた。
「それで?君の名前は?」
「……」
いつ以来か分からない…とても久しぶりに名前を聞かれた気がした。
それが嬉しかったのか、驚いたのか…理由はよく分からなかったが、自然と口元が緩んだ。そして自然と名前を口にしていた。
「ゼーリエ。こんな
その
争いと言う日々しか存在し得なかった私の時間に、日常と言うものが加わり始めたのは…それがとても心を落ち着かせてくれた。
こいつは阿呆で馬鹿で間抜けで愚物で…。
などと色々考えたが、結局この男はただの変わり者なんだ。
いきなり戸を叩いた奴を家に上げて、風呂を貸して服を用意して食事に部屋まで与える…これを変わり者という他ないと思った。
とんだ変わり者だが、こいつとの時間は退屈しない──それだけは解った。
▼△▼△▼△▼
エトワールは魔法に対する考えが変わっている。基本的に魔法を使う奴は、戦うためにそれを学ぶ。だがこいつの場合は違う。
こいつは戦うためでは無く、ただ面白おかしく楽しみたいと言う考えで魔法を作り学んでいる。
対して私は戦う為だけに生きてきた魔法使いだ。互いに方向性が違った。だからと言って衝突することはないがな。
寧ろあの馬鹿は興味深いとばかりに観察して、原理を聞いてくる。よく分からない奴だが、どうしようもなく魔法が好きなのは伝わって来る。
命を救う魔法。
命を奪う魔法。
周りを不幸にしたり幸せにしたり意味の分からないくだらない魔法だったり…その全てを、平等に好いている。
私も魔法は好きだ。
戦う為に独学で学ぶ中で、次第に魔法へと愛着が湧いていった。ただ逆なだけで、大した差はなかった。
それと何故かこいつは、魔力は偽装しているらしい。どうりで違和感があったとは思ったが、魔力は隠している方が生きやすいと考えているようだ。
私も真似をすることにした。
魔力を少なく見せれば、馬鹿な魔物共は獲物と勘違いして襲ってくる。そうすればより多くの魔物を殺すことができる。
「ゼーリエは料理の練習だろうか?」
「私が料理だと…?」
▼△▼△▼△▼
その日は
睡眠は長ければ長いほど気持ちがいいが…そんな時間も博士によって起こされる毎日だ。博士とはこの家のペット…猫だ。
だがただの猫ではなく魔物だ。だと言うのに攻撃性は一切ない。寧ろだらけ過ぎている
あいつと同じく賢者の石とやらを食ったらしいが、これ程に長生きなのは其れが原因なのだろう。
そうして博士と共に下へ降りる。
今日は何を食べるかなどと思っていたが、どうやら食事どころでは無いらしい。エトワールによれば、森の東に角付きが侵入して来たと言う。
私はエトワールと共に、魔導具を
侵入して来た角付きどんな奴なのか…と考えながら進む道中で、私は違和感を覚えた。
「……」
(魔力が上手く感じられない?)
近くに居るエトワールや
またこいつの仕業かと思えば、私の知らない間に結界を改良したらしい。とは言え私からしてみれば、大した
そうして私とエトワールは角付きのいる場所へと辿り着く。
敵の数は2匹…
だがこの馬鹿は何を考えたのか、大声で出て来いと叫んだ。結果、目の前に男と女の角付きが姿を見せる。
そんな角付き共と数回言葉を交わす。
エトワールが無意識に煽る様な言葉を言い放つと、男の方が魔法を使い分断される。
あの程度ならば私一人でどうにでもなるが…折角だ、あの馬鹿の実力も気になる。私が相手にするのは剣を持った女の角付き。
使う魔法は切断系統。代わり映えの無い詰まらない魔法だ。しかし殺傷能力は確かだ。確実に殺した方が良い。
決着はあっさりと着いた。動きを止め、攻撃魔法で頭を吹き飛ばす。どんな時代に置いても、防御・攻撃・阻害。この三つの魔法さえ有れば大抵負けることは無い。中には例外も居るが。
エトワールの方は私よりも早く終わった。あの馬鹿の事だ、生かすと思っていたがどうやらそんな事は無かったらしい。
▼△▼△▼△▼
──《
文字通り魔物を殺す魔法だ。
これはエトワールの作った魔法だが、あの馬鹿は攻撃系統の魔法に関してはそこまで
あいつらしいと言えばらしい魔法だ。何せこの森に居る限り、この魔法さえ有れば困る事は無いからな。戦闘面なら他の魔法も有しているだろう。
だが何時しか人間同士の争いが必ず起こる。
その時の為に、私はこの魔法を改良した。
──《
防御魔法には必ず組み込まなければいけない術式が存在する。その術式へと干渉し瞬時に乱し貫く。それを可能としたのがこの魔法だ。
だが魔法とは
だから私はエトワールの真似事をした。
一度《
時間は掛かったが、なんとか《
ただ
《
それを解決する為に、エトワールには少しばかり実験台になってもらうことにした。
「──何時でも構わない」
私の目の先にはエトワールが、普段のように防御魔法を展開する。何時も使う
だが同時に、正真正銘の化け物とも言えるこいつの防御魔法を一撃で貫通出来れば、大抵の防御魔法は貫通できる。
「《
ゼーリエはその細い腕をエトワールへ向けると、
一直線…銀色に輝く魔法の一撃がエトワールの防御魔法を
「!」
防御魔法が貫かれると共に、エトワールの腕が吹き飛ばされ激しく
「…」
驚きはしていたが…あれは腕が吹き飛んだことよりも、防御魔法が破られたことよりも、私の作った魔法に驚いていたんだろう。
なにせ腕が吹き飛んだあとの
「私も頑張らなくてはな──」
何を言い出したかと思えば、この馬鹿はいきなり仕返しのように魔法で私を殺しに掛かってきた。瞬時に上空に逃げはしたが…一歩遅れていれば間違いなく私は死んでいた程の威力はあった。
私はこいつのこいう言った部分が心底イラつくし嫌いだ。戦いが苦手と言っておきながらこれ程までの殺傷性を持った魔法を数百と持っている。
だから少し、本当に戦いが苦手なのか試したくなった。
「《
「《
エトワール、ゼーリエの両者が魔法を放つ。
展開された魔法門の数は互いに百門近く…それが絶え間なく魔法を放ち続ける。衝突し相殺され砕け散り、黄金と銀色の粒子が花火のように咲き誇り雨の如く降り注いだ。
「…」
なんだ。矢張り嘘じゃないか。
戦いが苦手?嘘を言ってくれる。こいつは戦いが苦手じゃない…ただ面倒だから言い訳をしているだけだ。
気に食わない。だから一発お見舞いしてやりたくなった。
魔力を極限まで圧縮する。密度が高ければ高い程制御は難しくなるが、威力も向上する。
圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮、圧縮……魔力が消滅しない限界まで、魔法式が乱れない限界まで圧縮そして──
──放つ。
「《
「《
今まで放ってきた数多の魔法よりも、何処までも美しく
淡くも強い輝きを放ち、世界を照らす程の黄金に輝く光。
──
しかし納得はできない。
最後の最後、この馬鹿は魔法の威力を弱めた。こいつの放った魔法は魔法に込められた効果そのものを分散する効果があった。
その気になれば相殺などではなく、私の魔法を無効化し勝敗を一手で終わらせる事も出来た。
全く嫌になる……こいつが私よりも遥か先を歩いていると言うことが、心底嫌になる。
「…最後。お前が手を抜かなければ私が負けていた」
「それはどうだろうか?私は戦いが苦手だ。本気を出しても負けていただろう」
「…そうか……」
何時になったらこの馬鹿は、己が化け物だと気付くのだろうか。私が与えた負傷も何も無かったのように治した。ついでとばかりに私の傷も、ボロボロになった森も同様に元へと戻す。
こいつの底は気持ち悪い程に…なにもみえない。